税理士事務所の生産性とは?会計業務を改善・効率化するためのポイントをわかりやすく解説

業務効率化

税理士事務所の生産性とは?会計業務を改善・効率化するためのポイントをわかりやすく解説
みなさんは、事業を進めていく中で生産性について意識したことはありますか。生産性の向上を意識して業務内容を改善・効率化していくだけで、より大きな成果を上げることができます。さらに従業員への還元を増やし、業務時間を削減することが可能です。そこで本記事では、会計事務所における生産性について、生産性を向上させるべき重要なポイントをピックアップし、わかりやすく解説していきます。

税理士事務所の生産性について

製造業や小売業など、どの業種でも「生産性」は重要な論点であり、企業は生産性向上のための取り組みに日々精進しています。「モノ」としての商品が存在しない税理士業界においても例外ではなく、事務所全体の労働生産性を高めることは事務所としての成長戦略に必要不可欠です。

ただし闇雲に結果を追求しても十分な成果は得られないため、まずは税理士業界の置かれている現状を把握し、生産性向上のためにボトルネックとなっている問題点を精査しましょう。

そもそも生産性とは

生産性とは「生産諸要素の有効利用の度合い」を表し、ビジネスにおいて投入された労働や設備、材料などの投入量に対する生産物の比率を指します。
引用:生産性とは | 生産性運動について | 公益財団法人日本生産性本部
つまり「投入したヒト・モノ・カネ・時間がどれくらい効率的に使用されているか」を表す客観的な数値であり、限られた経営資源を有効活用するための重要な指標です。

生産性については以下の算式で計算されます。

  • 生産性=産出量/投入量

投下した資本(インプット)に対して大きな成果(アウトプット)が得られるビジネスモデルほど生産性は高まり、効率的な経営が可能になります。

また、大多数のビジネスにおいて労働は必要不可欠であることから、生産性の中でも特に労働面に焦点を当てたものが「労働生産性」であり、商品を持たない税理士業界においても「労働生産性」については重要視されています。

労働生産性とは「労働投入量1単位あたりの産出量・産出額」を指し、労働者1人あるいは労働1時間あたりの成果を示す指標です。税理士事務所における労働生産性については、一般的に以下の算式で求められます。

  • 1人あたり労働生産性=付加価値額または売上高/職員数
  • 1時間あたり労働生産性=付加価値額または売上高/総労働時間数

なお「付加価値額」は事業において生み出された価値を指し、原価を差し引いた粗利益とほぼ同義ですが、労働生産性を検証する際には「付加価値額」の代わりに「売上高」を分子とする場合も多いです。

つまり業務改善の最終的なゴールとして設定されることの多い「労働生産性の向上」とは、同じ従業員数や労働時間で生産量を増やす場合や、同じ生産物をより少ない従業員数や労働時間で生産する方法などで達成されます。

税理士事務所の人時生産性はどのくらいか

「労働生産性」と類似する指標として「人時生産性」が挙げられます。人時生産性とは「従業員1人が1時間あたりに獲得する粗利益」を表しており、組織全体の労働効率を検証する労働生産性に比べ、さらに個々の従業員の生産性に焦点を当てた概念です。

総務省統計局による「サービス産業動向調査」では、公認会計士事務所・税理士事務所における「1事業従事者あたり年間売上高」は9,011千円と公表されています。
参考:サービス産業動向調査 2013年1月から 拡大調査(年次調査) 確報|政府統計の総合窓口
たとえば職員1人あたりの年間就労時間を2,000時間と仮定した場合、税理士事務所における人時生産性は以下のとおりです。

  • 人時生産性:9,011千円÷2,000時間=4505.5円

一般的な税理士事務所では、職員1人が1時間あたりに稼ぐ売上高は約4,500円であることを表します。ただし、実際の年間就労時間が2,000時間を超えるケースも多いと考えられるため、繁忙期の残業時間増加などの影響によって労働時間が増えるほど、その職員の人時生産性はさらに低下することとなります。

一方で中小企業庁が公表する「中小企業白書」では、業種および企業規模別の人時生産性について推計されており、具体的な集計結果は下図のとおりです。

引用:2018年版「中小企業白書」全文|第3章:中小企業の労働生産性|中小企業庁
このうち税理士業を含む「学術研究、専門・技術サービス業」については、大企業の場合の人時生産性は6,565円であり、一般的な税理士事務所の生産性よりも高い水準であることが伺えます。

税理士事務所の人時生産性が低い理由

税理士事務所の人時生産性が低調な理由としては、主に以下のような要因が挙げられます。

  • 試算表や決算書を作成するための「付随業務」に多くの時間を割いている
  • 本来は報酬が発生する業務についても、「付帯業務」として無償でサービス提供を行う場合が多い

特に多くの税理士事務所の売上の基盤となる「顧問業務」が生産性に与える影響は大きく、月次巡回監査や決算手続きに多くの工数を要するほど事務所としての生産性は低下します。勘定科目の残高合わせや顧問先のミスの修正作業に多くの時間を費やしている場合には、事務所としての生産性を高めることは困難です。

また「顧問業務」としての業務範囲の定義づけが行われておらず、本来有償で行うべき業務を無償で受注している場合にも生産性を低下させる要因となってしまいます。

このような要因によって「付随業務」や「付帯業務」に追われることで、試算表や決算書をもとに経営に関するコンサルティングを行うなど、税理士としての専門性を活かす「主体業務」の割合が相対的に減少します。

税理士事務所にとっては職員が「主体業務」に注力できる環境を整えることで、業務の付加価値を向上させ、事務所全体の生産性を高めることが必要不可欠です。

ただし、必ずしも「生産性が低い=非効率」とは限りません。特に税理士業のように専門性が高い業種においては、事務所の戦力として育成するまでに一定の期間を要するため、人材採用に関しては先行投資の意味合いが大きいです。

生産性の数値だけで良し悪しを判断するのではなく、事務所としての実態をしっかりと見つめ直し、改善すべき点がないかどうか慎重に検証しましょう。

税理士事務所の生産性を向上させることのメリット

生産性を向上させる場合にはいくつかの手法が存在しますが、いずれにおいても生産性が高まることで下図のようにさまざまなメリットを享受できます。

たとえば事務所としての売上高を維持しながら労働時間を短縮した場合には、職員の業務負担が緩和され、ワークライフバランスの改善や離職率の軽減、モチベーションアップにもつながります。また税理士業界では人材不足に悩む事務所も多いため、既存のマンパワーを有効活用できれば人材不足解消への重要な一手となるはずです。

さらに生産性向上によって業務時間に余裕が生まれる場合には、その余ったマンパワーを活用してこれまで注力できなかった付加価値業務に着手することが可能となり、事務所の売上高や収益性向上にも役立てることができます。

あるいはこれまでと同等の労働時間でも、事務所としての売上高や粗利益を増加させることで生産性を向上させることも可能です。利益が拡大することで事務所としての成長基盤が強化されるだけでなく、職員への還元率を高めることによって人材定着率アップにも貢献します。

税理士事務所の生産性を向上させるには?

税理士事務所が生産性を向上させる場合、下表のとおり5つの方法があります。

生産性向上の方法売上高労働時間
労働時間を維持して、売上高を増やす
売上高を維持して、労働時間を減らす
労働時間を増やし、それ以上に売上高を増やす↑↑
売上高を減らすものの、それ以上に労働時間を減らす↓↓
売上高を増やし、さらに労働時間を減らす

生産性向上のための最適な方法については、それぞれの事務所が抱える問題点によって異なります。

生産性向上に取り組む場合には闇雲に対策案を講じるのではなく、上表のうち事務所として目指すべき方向性を明確にしたうえで、具体的に取り組む内容を検討してください。

「業務手順書」や「作業指示書」等を活用し、業務の見える化・標準化を行う

税理士事務所の生産性が低下する主たる要因のひとつとして、「業務の属人化」が挙げられます。特に税理士事務所においては担当する職員や顧問先によって業務フローが異なるケースも多く、担当者以外の職員によって決算書や税務申告書の作成を行うことが難しい場合も多いです。

「業務の属人化」が進んだ場合、担当者の不在時においても他の職員による代替が困難となるだけでなく、各職員の「業務負荷の把握」や「業務配分の適正化」が難しいことから、事務所全体の労働時間が増加する原因にもなります。

さらに退職に伴う業務の引き継ぎの際にも確認作業に多くの工数を要することに加え、業務品質の低下を招く可能性が高いため、担当者変更に伴って顧客満足度が下がるリスクも考えられます。

また「業務の属人化」によって職員ごとに業務フローがバラバラとなることで、組織全体で効率的な業務の進め方を見出すことが難しくなるため、税理士事務所としての生産性低下へとつながりかねません。

このような「業務の属人化」を解消するためには、業務手順書や作業指示書などを活用し、「業務の見える化」や「標準化」に取り組むことが重要です。

業務マニュアルやチェックリストを整備することにより、作業漏れなどのミスを防ぎながら職員が迷うことなく作業を進めることができ、事務所全体の労働時間短縮に貢献します。さらに各職員の業務量を可視化できれば適切な業務配分を実現できるため、労働効率の向上も追求することが可能です。

また「標準化」を実現することにより、担当者不在時や引き継ぎの際にも業務の受け渡しをスムーズに行うことができ、余分な工数の削減や人材の早期育成にもつながります。

社内のIT化を進める

事務所全体の生産性を向上させるためには、IT化を推進することも効果的です。税理士業務においては、「コミュニケーションツール」や「データ共有」「定型フォーマットの作成」などの場面でITツールを活用するケースが一般的です。

「コミュニケーションツール」としてITを導入することにより、従来は実際にクライアントと会って行う必要があった業務をWeb会議やオンラインチャットで代替できます。移動時間の削減など、柔軟な時間の使い方が可能となり、労働効率の向上も期待できます。

また、クライアントとの「データ共有」に関しても、ITツールを活用することで大幅な効率化が見込めます。具体的にはオンラインストレージなどのクラウドサービスを導入することにより、社内外にかかわらず自由にデータへアクセスすることが可能となり、場所や時間に縛られることなくデータの共有をスムーズに行うことができます。

さらに現金出納帳や売掛金管理表などの「定型フォーマットの作成」を行う際にも、エクセルなどのITツールが欠かせません。定型フォーマットを作成し、事務所内やクライアントと共有することによって、担当者ごとの能力差による品質のバラつきを防止し、成果物のクオリティを担保することが可能です。

このように税理士業務において効果的にITツールを導入することで、単に業務時間が短縮されるだけでなく、ミスや漏れが発生するリスクを削減することにもつながります。

顧問先への付加価値業務の提供に注力する

生産性向上に取り組む場合には、「労働時間の短縮」に加えて「売上高の増加」にも目を向ける必要があります。特に税理士業務の基盤である「顧問業務」に関しては、試算表や決算書の作成に追われることで、その先にある「提案業務」にまで時間が割けていないケースも多いです。

昨今ではクラウド型会計ソフトのように、ネットバンキングおよびクレジットカードなどの自動連携や、AIによる自動仕訳機能を活用することによって単純作業を軽減できるようになりました。仕訳入力や修正作業などに費やされていた時間を削減し、余ったマンパワーを他の業務に投入することも可能です。

たとえば時間効率の改善を通じて顧問先とのコミュニケーションを増やすことで、経営者の抱える課題や問題点をヒアリングする機会も増加すると考えられます。

顧問先との間で経営課題を共有することで、試算表や決算書に基づいた経営コンサルティングなどの他のサービスを提案するきっかけとなり、高付加価値業務への導線設計にもつながります。

付加価値の高い業務に注力できる職場環境を整えることで、事務所の収益性を高めることは、組織全体の生産性を向上させるための有効な手段となります。

税理士事務所の生産性を向上させて、会計業務を改善・効率化しよう

人材不足に悩む中小企業が増加する中で、労働効率を上げて生産性を高めることは必要不可欠です。生産性の向上によって事務所の利益率が拡大し、将来に向けた成長戦略の基盤となるだけでなく、職員へ還元することによって人材定着率の改善も期待できます。税理士事務所として生産性を向上させるためには、「業務の標準化」や「ITツールの活用」などを通じて労働効率の改善を図り、余ったマンパワーを付加価値業務へ投入するなどの対策が重要です。

生産性向上のためのボトルネックは事務所によって異なるため、自らの経営課題をしっかりと精査し、改善するための有効な対応策を実行しましょう。

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よくある質問

税理士事務所の人時生産性はどれくらい?

総務省の「サービス産業動向調査」に基づき、年間就労時間を2,000時間と仮定した場合、人時生産性は約4,500円となります。ただし実際の労働時間の方が大きい場合には、人時生産性はさらに低下します。

生産性を向上させるメリットは?

事務所全体の生産性を高めることで、人材不足の解消や離職率の軽減につながるだけでなく、事務所としての利益率向上にも貢献するでしょう。また余ったマンパワーを活用し、付加価値業務へ注力することも可能です。

生産性を向上させる方法は?

「業務標準化」や「ITツールの活用」などによって、労働効率を高める方法が一般的です。またクラウド型会計ソフトなどのAIを活用することで単純作業を軽減し、収益性の高い業務に着手することも効果的でしょう。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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