税理士の独立開業における立地選定の考え方を詳しく解説!

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税理士の独立開業における立地選定の考え方を詳しく解説!

税理士の独立開業を成功させるために、事務所の立地も重要な要素です。
税理士事務所の開業を検討している方の中には、どの場所で開業するかお悩みの方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、立地選定の重要性から開業場所を検討する上でのポイントまで詳しく解説していきます。

税理士の独立開業における立地選定の重要性

税理士が独立開業する場合、「開業場所の選定」は重大な意思決定の一つです。

事務所を置くことで自らの活動拠点を構築できるというメリットがある一方で、一度事務所を構えると移転する際に追加のコストがかかるため、慎重な判断が求められます。事務所の立地条件によっては集客面でプラスの効果が期待できますが、反対に事務所のコンセプトにそぐわない場所を選んでしまうと悪影響となる可能性もあります。特に開業直後は、事務所経営が軌道に乗るまで資金繰りに余裕がないケースが一般的であるため、立地選定で失敗しないようにより一層注意しなければなりません。

開業場所に関しては、都市部のような「人口が多い地域」を選択することが必ずしも正解とは限りません。そのようなエリアでは中小企業や個人事業主が集まるだけでなく、競合する他の税理士事務所も数多く存在します。
それらの競合相手に対して十分な差別化ができなければ、毎月の固定費として負担する家賃に見合った集客を行えず、費用対効果は低下します。また、多くの事業者が集まるエリアを選んだとしても、自らがターゲットとする顧客層が存在しなければ立地による十分な恩恵を受けることは難しくなります。開業場所に関しては安易な理由で選ぶのではなく、「資金繰り」や「事務所のコンセプト」「ターゲット層」などをしっかりと検証し、自分自身の事務所にとっての好立地を追求しましょう。

開業エリアの検討

開業場所の選定においては、具体的な物件探しを行う前に、大まかな開業エリアの絞り込みを行うことをお勧めします。

開業エリアを検討する場合には、下図のとおりそのエリアの市場規模や顧客属性を把握することに加え、自らの事務所としてのコンセプトや経営戦略、ターゲット層を明確化し、事務所の方向性に適したエリアを探しましょう。

 

 

高層ビルが建ち並ぶような都市部では事業規模の大きな企業も数多く存在する一方、すでに大手や中堅規模の税理士法人が顧問となっているケースも多いです。そのような競争の激しい市場環境で「選ばれる税理士」となるためには、競合相手にはない自らの強みを顧客へ訴求し、差別化に取り組まなければなりません。

また、事務所の業務内容として「飲食業」や「クリニック」などのように専門分野に特化する場合には、それらの顧客層が集まりやすいエリアを開業地として選ぶことも効果的です。あるいは「資産税」に特化してサービスを展開する場合には、地主などの資産家が多いエリアを開業地として選ぶことも合理的でしょう。ターゲットとなる顧客層の業種や事業規模、経営者の年齢層などの詳細な情報を具体的にイメージすることで、開業エリアも絞りやすくなります。自らの強みをしっかりと分析し、税理士事務所として展開する業務内容やターゲット像を具体化することが極めて重要です。

開業エリアを検討する際には、競合分析として近隣にある税理士事務所について必ず調査を行いましょう。事務所の業務内容や強み、ターゲット層が重複しないことが理想ですが、コンセプトや戦略が重複する場合には競合する事務所との差別化を図り、顧客に対して効果的に訴求しなければなりません。税理士としての強みや事務所の経営戦略に基づく「内部分析」に加え、「外部分析」として特定のエリアにおける顧客分析や競合分析を行うことで、自分自身に合った開業エリアの絞り込みを行いましょう。

開業後の事務所形態を決める

税理士事務所を開業する場合には「賃貸オフィス」や「自宅兼事務所」「レンタルオフィス」などの事務所形態が選択肢として挙げられます。これら事務所形態の選択に関しては、下図のとおり開業後における経営方針を「来所型」「訪問型」のどちらに重点を置くかによって判断が大きく異なります。

 

 

具体的には、顧客を自らの事務所に迎え入れる「来所型」の方がより事務所としての体裁を整える必要性が高まるでしょう。

賃貸オフィス

自宅とは別に物件を賃貸し、独立した事務所スペースを確保することで対外的な信用力を得やすくなるというメリットが期待できます。

特に「来所型」をメインで考える場合には、顧客にとっての「アクセスの良さ」や「事務所としての体裁」を確保しなければなりません。現在のインターネット社会においてはホームページなどを通じて事前に事務所所在地を確認できるため、遠方や交通の便が悪い場所に開業した場合は、その時点で選択肢から外れてしまう可能性があります。また、税理士業務は信用力が極めて重要であるため、来所した際に事務所としての体裁が十分に整っていなければ顧客に不安を与えてしまい、失注となるリスクも高まります。

そのような観点から、「来所型」の事務所形態の場合には「賃貸オフィス」を契約することによって事務所を構えるケースが一般的です。また、税理士にとっても自宅のようなプライベート空間とは切り離した労働環境を整えることにより、公私のメリハリをつけやすくなるといったメリットもあるでしょう。ただし、賃貸オフィスの場合には、固定費として毎月の賃料負担が生じるというデメリットがあります。開業直後の売上の目途が立たない状況下においては、賃貸オフィスを借りるという意思決定が困難なケースも少なくありません。

一方で、事務所の経営方針として「訪問型」を選択し、税理士自らが顧問先のもとを訪ねるビジネスモデルを採用する場合には、顧客目線による「アクセスの良さ」や「事務所としての体裁」を確保する必要性は弱まるでしょう。「訪問型」の場合にはまとまった固定費負担が生じる賃貸オフィスではなく、自宅兼事務所やレンタルオフィスを選択するケースが一般的です。

自宅兼事務所

新たに税理士事務所を開業する際には、開業直後の経済的負担を減らすために自宅兼事務所を選択する事例が非常に多いです。費用面でのメリットだけでなく、自宅を仕事場とすることで通勤時間の大幅な削減も可能となります。ただし、自宅内に独立した仕事スペースを確保できない場合、小さな子供がいる家庭などでは仕事に集中する環境を整えることが難しくなります。

また、自宅兼事務所の場合には応接スペースを確保できないことに加え、一般的に事務所としての体裁を整備することが困難なことから、顧客からの信用を損ないやすいというデメリットがあります。自宅兼事務所での開業については、「来所型」よりも「訪問型」に適した事務所形態といえます。自宅兼事務所として開業し、事務所内に応接スペースを用意できない場合には、必要に応じて貸し会議室やレンタルオフィスの利用も検討しましょう。

レンタルオフィス

レンタルオフィスとは、仕事場を複数人の契約者で共有して利用するオフィスを指します。
契約者はあらかじめ事務机やオフィス家具、Wi-Fi環境などが整備された専用の個室スペースを占有でき、コピー機やスキャナー、貸し会議室などの設備についても他の契約者と共同で使用可能です。レンタルオフィスは「来所型」の税理士事務所だけでなく、自宅では十分な仕事スペースを確保できない「訪問型」の事務所でも積極的に活用されています。

レンタルオフィスのメリットとしては、備え付けられた事務用品や設備を利用できるため初期費用を抑えられる点や、数ヵ月単位の短期間での契約が可能である点が挙げられます。このようなメリットを活かし、税理士などの士業に限らず、個人事業主やフリーランス、スタートアップ企業などが自身の事業を軌道に乗せるまでの期間をレンタルオフィスで過ごすケースもあります。

税理士業界においては自分自身の「信用力」が集客のポイントとなるため、開業当初の実績が乏しい段階では見込み客からの十分な信用を獲得することは容易ではありません。そのような駆け出しの税理士にとって「開業場所」という情報は、一定の信用を得るために顧客に対して開示できる重要な要素となります。このような側面から若手士業が独立開業するケースでは、都市部のレンタルオフィスを契約することで「見栄えの良い事務所所在地」を取得し、自らの集客活動に役立てる営業戦略も増加しています。

レンタルオフィスのデメリットは、受付サービスなどのオプションを付加することで料金が高騰する可能性があることや、内装を自由に変更できない点が挙げられます。また、士業特有の課題として「守秘義務の遵守」があります。個室からの音漏れやミーティングスペースなどの共用施設での会話が守秘義務違反となってしまうリスクも考えられます。レンタルオフィスの契約を締結する前に、守秘義務を遵守できる環境であるかどうか必ずチェックしましょう。

具体的な開業場所の検討

大まかな開業エリアや開業後の事務所形態が定まったら、具体的な開業場所を選定しましょう。

顧客と税理士の双方にとって適切な立地を選ぶことは非常に重要です。税理士として集客面でのメリットが期待できるだけでなく、アクセスしやすい環境を整えることで顧客満足度の向上にも寄与するため、その後の税理士事務所の発展にも貢献します。開業場所に関しては、「来所型」のビジネスモデルを採用する場合、下図のとおり顧客の移動手段を考慮して選定しなければなりません。

 

 

都市部では顧客の主要な移動手段が電車となるため、できる限り駅に近くてアクセスしやすい場所が好ましいです。ただし都市部の場合においても顧客が車で来所するケースに備え、近隣のコインパーキングの有無についても確認することをお勧めします。一方で、地方の場合には移動手段が車となることが多いため、駐車スペースの確保や車で来所する際にわかりやすい立地を重視すると良いでしょう。

「訪問型」の場合には開業後に営業エリアを巡回することを想定し、自らの移動手段も踏まえて最適な開業場所を検討する必要があります。

また「来所型」や「訪問型」にかかわらず、自宅以外に事務所を設置する場合には自分自身が通いやすい立地条件であることも重視してください。開業場所の選定に際しては、周辺の環境にも気を配ることで開業後の事務所経営にメリットをもたらす可能性があります。たとえば近くに金融機関があれば、その支店長と関係性を深めることで顧問先を紹介してもらえるという副次的なメリットが生じるケースもあります。

また、将来的に人材を雇用する場合には、税理士試験のための専門学校に通いやすいエリアを開業場所として選ぶことで職員の採用がしやすくなるでしょう。このように、目先のメリットやデメリットだけでなく、将来の事務所経営をイメージして開業場所の選定を行うように心掛けましょう。

条件に合う立地が見つからない場合

独立開業に伴う開業場所の選定において、必ずしも自らが希望する物件が見つかるとは限りません。物件自体に空きがない場合や予算の都合上、契約を断念せざるを得ないケースもあるでしょう。

妥協案として別の場所に事務所を構えて必要な設備や備品等を揃えてしまうと、事務所の移転が必要となった場合には余分なコストや労力が生じてしまいます。理想的な開業場所が見つからない場合には、開業時期を遅らせることや自宅開業という選択も視野に入れることをお勧めします。あるいはレンタルオフィスを短期間で契約すれば、開業後も物件探しを継続できます。

また、Web広告やSNS、チラシ営業など、自身のターゲット層に合った広告媒体を活用し見込み客へ効果的な情報発信を行えば、立地面での不利をカバーすることも可能です。「対面」でのサービス提供に限定するのではなく、ITツールを活用した「オンライン化」に取り組むことで立地の重要性を抑制することも選択肢となります。希望する条件に合致した立地や物件が見つからない場合には、満足のいく開業場所を手に入れるまでの開業計画を再考するだけでなく、経営方針を見直す重要な機会と捉え、経営者として最適な意思決定を行いましょう。

立地をしっかり検討して、独立開業を成功につなげよう

「顧問税理士は身近な事務所へ依頼したい」というニーズがまだまだ根強い税理士業界では、事務所の立地が与える影響は非常に大きく、開業場所の選択で独立開業の成否が分かれるといっても過言ではありません。また、事務所の移転コストとしてもまとまった金額を要するケースが多いため、開業当初から自分にとって最適な開業場所を選択することが望ましいです。無計画に開業地を決定するのではなく、税理士自らの考えや戦略に基づいた立地選定が重要となります。

新規で税理士事務所を開業する場合には、開業後の事務所形態や経営戦略を具体的にイメージし、自分自身に合った開業場所を慎重に検討しましょう。

よくある質問

事務所の開業場所選びのポイントは?

事務所の戦略やターゲット層を検証し、「来所型」または「訪問型」の方向性を定めましょう。アクセスのしやすさや事務所としての体裁など、事務所として必要な機能を整理し、適切な立地を選定します。

事務所形態にはどんな種類がある?

賃貸オフィスや自宅兼事務所が一般的です。「来所型」であれば賃貸オフィス、「訪問型」であれば自宅開業が多いですが、レンタルオフィスで事務所所在地として見栄えの良い物件を選ぶケースも増加しています。

条件に合った立地がない場合は?

開業時期を遅らせることや、自宅兼事務所または短期のレンタルオフィス契約での開業も選択肢となります。あるいはWeb広告やSNSなどの広告媒体を活用することで、立地条件の不利を補うことも可能でしょう。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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