税理士を目指している方や、税理士として成長したい方にとって業界分析は欠かせません。日本国内では中小企業の数が減少し、さまざまな業界で高齢化が進んでいます。現在の税理士の登録者数や年齢層、市場規模はどれくらいなのでしょうか。本記事では、税理士の市場規模から業界の現状とこれからを詳しく解説いたします。
税理士の市場規模の推移
税理士業界全体の市場規模については、複数年にわたって拡大傾向が続いています。総務省統計局が公表している「サービス産業動向調査」によると、下図のとおり、2017年における業界全体の売上高は1兆6,500億円超となっています。また、2016年については減少したものの、全体的に見れば税理士業界の売上高は着実に増加していると言えます。
税理士法人数が急増している現状を加味すると、大規模な事業展開を行う税理士法人が業績を伸ばし、業界内におけるシェア拡大が進んでいるものと考えられます。昔ながらの小規模な個人事務所については、停滞あるいは衰退しているケースもよくみられます。
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税理士業界の現状
税理士業界にもさまざまな環境変化が起こっており、その変化に対して適切に対応しなければ税理士として長期にわたって活躍することは難しくなります。業界の現状を知ることで税理士が直面している課題を把握できれば、今後求められる「税理士像」についてもイメージを膨らませることができるでしょう。
税理士法人の増加
近年では、税理士試験の受験者数は減少しているものの税理士登録者数は60年以上にわたり増え続けています。日本税理士会連合会が公表する、令和3年9月末時点の税理士登録者数は79,805名であり、直近20年間で20%以上も増加しています。
税理士が増えるにつれ、税理士法人の数も年々増加傾向にあり、平成17年度に1,000社の大台を超えてから、令和3年9月末時点では4,447社にまで急増しています。このような傾向は今後も続くと予想され、地域密着型の小規模な税理士事務所は次第に減少し、税理士法人として大規模な事業展開を行う事務所が増えていくことでしょう。
顧客となる企業数の減少
税理士の顧客は主に中小企業や個人事業主ですが、下図のとおり、これらの事業者数は長年にわたって減少傾向にあり今後も税理士の顧客層は減っていくことでしょう。具体的には、2009年から2016年までの7年間のうちに大企業の数は再び増加する一方で、小規模企業は約17%、中小企業を含めた場合でも約15%の減少幅となっています。
税理士登録者数や税理士法人の数は増加傾向が続いているため、減少する顧客を奪い合う構図となり、現状の税理士業界は競争が激化しやすい環境と言えます。
このような競争を勝ち抜き、顧客を確保するためには、独自性や専門性の高いサービス内容を構築することが求められます。
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税理士の高齢化と後継者不足
税理士業界は高齢化が非常に顕著であり、開業税理士の平均年齢は60歳を超えていると言われています。開業税理士の場合には定年退職がなく、自らが健康である限りは生涯現役で働くことも可能です。さらに近年では、20~30歳代における税理士試験の受験者数が減少しているため、今後はより一層、高齢化が加速するものと予測されます。
また、若手税理士の割合が極めて少ないという現状から、AIやクラウドサービスの活用など、新たな技術の導入に消極的な事務所が多くなりやすい傾向にあります。税理士業界全体における技術革新の遅れの原因にもなっています。
昨今では、一般的な中小企業でも経営者の高齢化による後継者問題が顕在化していますが、税理士業界も同様の問題を抱えています。特に税理士事務所の場合には、開業税理士の親族が跡継ぎを希望しても、試験に合格して税理士登録できなければ後継者となることはできません。国家資格が必須となる士業特有の条件から、一般企業以上に後継者不足が懸念されています。
このような現状から、今後は跡継ぎのいない税理士事務所がM&Aにより事業譲渡するケースも増加していくことでしょう。
顧問料の価格低下
一般的な税理士事務所における売上の大部分を占める顧問料は、年々減少傾向にあると言われています。かつては税理士報酬規定が存在し、顧問先の資本金額や売上高に応じて、業界全体で一律の顧問料が設定されていました。しかし平成14年に規定が撤廃されたことで、顧問料の自由化が始まり、税理士事務所は各々の料金体系を設定することが可能になりました。
大規模な制度改正が行われるなか、長年にわたり中小企業は減少し、一方で税理士の登録者数は年々増加しています。このような現状を加味すると、顧客を奪い合うため価格競争へと発展するケースは必然的に増加していくと予想されます。
人材難
税理士事務所の共通の課題に、「人材不足の解消」と「人材定着」が挙げられます。
業界の特徴として、税理士事務所に勤務する職員の多くは、税理士の有資格者や受験生で構成されています。税理士資格の取得や将来の独立開業を目指し、実務経験を積むために勤務する職員が大半です。税理士試験の受験者数が減少する現状においては、税理士事務所での勤務希望者も自ずと減っていく傾向にあるため、採用難に陥る事務所も少なくありません。
無事に採用ができたとしても、その人材を定着させることは容易ではないでしょう。有資格者についてはいずれ独立開業する可能性があり、受験生の場合には税理士試験合格を断念し、事務所自体を退職してしまうケースも多々あります。
一方で税理士事務所の労働環境が不十分であることにより、人材難に陥ってしまうケースも多いです。繁忙期の業務過多や残業の慢性化などが原因で、職員が「心身の疲弊」や「試験勉強の時間を確保できない」といった問題を抱えやすく、人材が定着しにくい事務所も珍しくありません。また雇用を維持するためには、福利厚生や教育体制の充実も不可欠です。特に小~中規模の事務所では、十分な教育体制が整っておらず、放任主義となってしまうことで職員が不満を持つケースも少なくありません。
税理士業界では人材不足の問題だけでなく、採用後における人材定着の難しさに直面する事務所も非常に多いと考えられるでしょう。
税理士業界の今後
AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のようなテクノロジーの普及により、会計ソフトへの仕訳入力や申告手続きが自動化され、税理士は「将来なくなる仕事」と表現されることもあります。
しかし税理士業務には、AIが得意とする単純作業だけではなく、税法の条文解釈や経営者へのコンサルティング業務など、専門的な知識を持った人間でないと担えない業務も数多く存在します。
単純な事務処理をAIに任せることで、税理士はより専門性の高い業務に注力することができるため、AIは税理士にとって「競合」ではなく、「分業」することで税理士としてのサービスの価値をより一層高めることができる存在と言えるでしょう。
税理士は「モノ」ではなく「知識」を売る仕事だからこそ、近年は多様化する媒体を活用し、さまざまな人のもとへサービスを届けることができます。かつての税理士業務は、顧問先のみを対象にサービスを提供していました。現在では動画や音声、文字などの媒体に変換すれば、国内外問わず、どこへでも情報を発信できる時代となっています。
今後の税理士業界においては、既存の税理士業務に囚われるのではなく、最新のテクノロジーを活用し、独自性や専門性の高いサービスを作り上げることが重要となるでしょう。
厳しい税理士業界を生き抜くために
国内における中小企業の減少に対し、税理士登録者や税理士法人の数は増加傾向にあるため、今後も業界内の競争が激しくなっていくことが予想されます。また慢性的な人材不足や人材定着など、さまざまな課題を抱えるなか、AIやRPAなどの技術革新の流れも押し寄せており、環境変化への対応力が求められていると言えます。
このような業界の現状により、税理士の在り方についても、かつての税務や会計分野にのみ精通した専門家ではなく、顧客をさまざまな側面からサポートする役割へと変容しつつあります。今後の税理士業界で活躍するために、業界の現状をしっかりと分析し、独自性や専門性を向上させることで、より付加価値の高いサービスを提供できる事務所づくりを行いましょう。
よくある質問
税理士業界の市場規模は?
長年にわたって、税理士の顧客層でなる中小企業数は減少しています。しかし税理士法人の急増も伴って、税理士業界の市場規模は増加傾向にあり、2017年時点では1兆6,500億円を超えています。
税理士の数は増えているの?
税理士試験の受験者数は減少しているものの、税理士登録者数は毎年増加しています。また税理士法人の数も急増しており、各地に支店を開設するなど、大規模な事業展開を行うケースも増加しているでしょう。
税理士は将来なくなる仕事?
AIやRPAの普及に伴い、仕訳入力などの単純作業は自動化されつつあります。しかし税理士にしかできない業務も多いため、単純作業はAIに任せ、税理士はより高度な業務に注力する分業体制が望ましいでしょう。