税理士の広告に関する規制とは?広告を出す際の注意点も解説。

税理士の広告に関する規制とは?広告を出す際の注意点も解説。

集客をするために、広告を出すことを考えている方も多いと思います。
しかし、税理士の広告には「税理士法」によって定められた規則があり、規則に抵触しないために広告規制について理解することが必要です。本記事では、税理士の広告規制や広告手法について解説していきます。

税理士の広告とは

現在の税理士業界においては「税理士会会員の業務の広告に関する細則(準則)」(以下「細則」という)や、細則についての基本的な考え方を記した「税理士会会員の業務の広告に関する運用指針」(以下「運用指針」という)によって広告のルールが整備されています。

「細則」の第2条第1項では「広告とは、納税者の利便に資するため、会員が自己又は自己の業務に関する情報を開示する行為をいう。」と定義されています。

従来の税理士業界では、さまざまな規制から税理士自らが積極的に広告を出せず、その代償として依頼者は情報不足に陥りってしまい、税理士選びが難しくなる傾向にありました。そのような背景から、広告の自由化を推進することで税理士が自らの業務内容を正しく依頼者へ伝え、情報の非対称性を解消するため、平成13年に税理士法が改正されました。

ただし税理士としての社会的信用や品位を損なうことのないよう、自由な広告を認める一方で、「禁止される広告」や「表示できない広告事項」などの規定を「細則」にて定め、一定の制限を設けています。

平成13年の税理士法改正前の広告規制

現在のように税理士が行う広告が自由化されたのは「平成13年 税理士法改正」が適用された後であり、改正前は下図のように厳しい広告規制が行われていました。

 

 

これらの規制により従来の税理士業界では自由競争が行われず、開業税理士だけでなく顧問先にとっても選択肢が狭まる結果となっていました。

他の税理士の顧問先には営業してはいけない

平成13年の税理士法改正が行われる前は、すでに他の税理士が顧問契約している中小企業や個人事業主に対しては営業をかけてはいけないという規制が存在しました。

このような営業規制は過当競争による税理士の品位低下を防ぐためのものであり、既存顧客を抱える税理士事務所の収入源は守られる一方で、新規開業する税理士の集客活動がより一層困難となる一因であったと考えられます。

広告掲載内容は基本情報のみ

税理士法によって明確に規制されていたものではありませんが、かつては税理士業界では暗黙の了解による自主規制も存在していました。

税理士が広告を行う際には自らの事務所の強みや業務内容などの詳細な情報は掲載しないというルールがあり、実質的に事務所名や住所、電話番号などの基本情報しか載せることができませんでした。現在の税理士業界で生き抜くために必要不可欠な「他の税理士事務所との差別化」が困難であり、営業規制と相まって税理士の顧客獲得が難航する一つの原因となっていました。

また平成13年の税理士法改正以前は、広告規制だけでなく「税理士報酬規定」によって報酬額にも制限が設けられており、法人・個人の事業形態や資本金、取引金額などの区分に応じて税理士報酬の上限が定められていました。そのため、「高品質かつ高価格」のサービス展開は行いにくく、広告にも料金は掲載できなかったことから、効果的な価格戦略を講じることが難しい時代だったことが伺えます。

事務所は1箇所しか設置できない

現在は税理士法人を設立し、各拠点に税理士を1名以上配置することで支店を展開することが可能ですが、平成13年に税理士法が改正されるまでは税理士法人の設立自体が認められていませんでした。開業税理士は個人事務所としての事業形態に限定され、事務所の設置も1箇所のみと定められていたことから、現在のように税理士法人化して支店を増設し、営業エリアを拡大するといった戦略を採用できませんでした.

当時のインターネット環境やIT技術も現代に比べれば大きく劣っていたため、それらのツールを活用して遠隔地の顧客に対してサービス展開することも容易ではありませんでした。
このような時代背景もあり、税理士法改正前は自らの事務所開業地の周辺エリアに絞って営業活動を展開せざるを得ない状況になっていました。

法改正後、広告規制は緩やかに

平成13年に税理士法が改正されたことで、それまでの広告や税理士報酬に関する制限が撤廃され、税理士業界では事実上自由に営業活動を行うことが可能となりました。

業務内容や料金、自らの強みなどを顧客に対して正しく訴求できるようになったことで、税理士事務所としての差別化の可能性が飛躍的に高まりました。

顧客にとっても税理士ごとのサービスや価格を容易に比較できるようになったため、自身に合った税理士を選びやすくなるというメリットも享受できました。

一方で広告や集客活動の自由度が増したことで、顧客の奪い合いや低価格競争が勃発する可能性も高まり、実際に顧問先の減少や利益率の低下など、不利益を被る税理士も少なからず存在しました。このような過当競争が激化すれば、次第に誇大広告や事実と異なる表示によって集客活動を行う税理士が増え、業界全体のイメージダウンへとつながりかねません。

そのようなリスクを避けるために、広告の自由化が適用された後においても税理士会では「禁止される広告」を定め、税理士業界全体の品位を保つための取り組みを講じています。
具体的にはそれぞれの税理士会では「綱紀監察部」が広告に関するルールを定め、会員である税理士に対して広告における禁止事項を設けることで過度な集客活動が行われないよう牽制しています。

税理士がやってはいけない広告表現とは

税理士法改正により広告規制が解除され、原則として自由な広告表現が認められることとなりました。しかし過当競争を誘発し、税理士としての品位を損なうような広告については禁止されており、「運用指針」では下図のように「禁止される広告」を列挙することで注意喚起を行っています。

 

 

なお上図に挙げた項目は禁止広告の一例であり、この他にもいくつかの規制が定められています。禁止広告を行った場合には税理士会から警告を受ける場合もあるため、特に外部の業者に広告を依頼する際には「運用指針」を確認し、禁止広告に抵触しないように必ず入念なチェックを行いましょう。

誇大広告や誤認リスクのある広告

顧客に対して誤った認識を持たせることや過度な期待を抱かせるような広告は禁止されており、具体的には以下のような表現が該当します。

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税務相談や顧問先に対する節税対策は税理士としての重要な業務ではありますが、誇大広告によって依頼者に過度な期待を抱かせるような過剰な表現は禁止広告となるため避けなければなりません。

また「税の抜け道、抜け穴教えます」「究極の節税テクニック」などの表現についても、税理士としての社会的信用や品位を損なう広告として禁止されているため注意しましょう。経歴詐称や実在しない団体名などの虚偽の表示によって自らの信用力を高めようとする行為についても、「事実に合致していない広告」として当然規制の対象となります。

特定の税理士事務所との比較

税理士事務所として料金やサービス内容によって差別化を図るケースは多々ありますが、以下のような特定の税理士や事務所との比較広告を掲載することは禁止されています。

  • 〇〇税理士事務所より安く提供します
  • ▲▲税理士法人よりも経験豊富なスタッフ
  • △△税理士事務所とは異なり、当事務所は◆◆で優れています

このような比較広告は一見客観的かつ信用性が高い印象を与えますが、実際には主観的で独善的なケースも多く、依頼者の判断を誤らせる恐れがあります。また比較対象となった税理士の評判を貶める結果にもつながりかねないため、品位に欠ける広告として禁止されています。

近年ではインターネットの普及により、ホームページ上で事務所の料金表を掲載する税理士も増えています。「安さ」を売りにしている税理士事務所では他の事務所との料金比較を載せるケースもありますが、比較対象とする事務所を実名で掲載することは禁止広告に該当するため、くれぐれもご注意ください。

税務行政庁在職時の具体的な役職名の掲載

税務署や国税庁のOBが税理士事務所を開業する場合には、「元〇〇税務署長」のように管轄地域名を冠した官公署名と役職名の併記は禁止されています。

これは特定の地域とともに具体的な役職を掲載することで、一部の納税者に対して「所轄の税務署に対して顔が利くかもしれない」といった邪な期待を抱かせてしまう可能性があると考えられているためです。

ただし「元税務署長」や「元国税職員」のように、管轄地域名を付さずに役職名のみを広告として表示することは認められています。

有価物等の供与

「顧問契約いただいたお客様には商品券〇万円を贈呈します」というように、「顧客をモノで釣る」ような広告も禁止されています。これは広告を発信する相手に対して社会的儀礼の範囲を超えた有価物を供与することは、税理士の社会的信用や品位を失墜させるものと考えられているためです。

ただし事務所名の入ったカレンダーをお歳暮として配布するなどの行為は、社会的儀礼の範囲内と判断されるため禁止広告には該当しません。

税理士の広告手法

従来の税理士業界では既存の顧問先や金融機関、他士業などの紹介から顧客獲得を行うケースが大半でした。これらの紹介ルートは現在も有効な集客方法の一つではありますが、インターネット環境が大幅に普及した現代においては、下図のとおり税理士の広告活動も着実に変化しています。

 

 

広告活動には一定の資金や労力を要するため、手当たり次第に実行するのではなく自らの業務内容やターゲットとなる顧客層を具体的にイメージし、最適な広告媒体を選択しましょう。

ホームページ

近年では多くの税理士事務所や税理士法人が自らのホームページを開設しており、業務内容や料金体系、自身の強みなどを潜在顧客に対して訴求しています。自分でホームページを作成すれば、費用をかけずに新規顧客を獲得することも可能です。

ただし単にホームページを開設するだけではアクセス数も伸びず、十分な広告宣伝効果は得られないことから、ホームページからの集客を目指す場合には定期的な更新作業が必須となります。

Web広告

インターネット上で展開するWeb広告には「リスティング広告」や「バナー広告」などさまざまな種類がありますが、いずれも細かいターゲット層の設定が可能であることや効果測定がしやすいといったメリットが挙げられます。少ない費用で始めることもできるため、予算に合った広告活動を行いやすいといった特徴もあります。

一方でターゲット層が定まらない中でWeb広告を展開しても十分な費用対効果が発揮されないため、まずは自らの業務内容に基づいた顧客層をイメージし、効果的なWeb広告の方法を検討しましょう。

SNS

若手税理士を中心に、TwitterやインスタグラムなどのSNSやYouTubeのような動画配信サービスを活用する事例も少しずつ増加しています。しかし他の業界に比べればまだまだ利用者は少ないため、これらのツールを活用した広告活動を展開することで他の事務所との差別化を図りやすくなります。

ただしSNSについては非常に流動性の高い媒体であるため、更新頻度が低い場合や発信する情報に一貫性がない場合には宣伝効果は薄れてしまいます。SNSで集客を行う場合においてもターゲット像を具体的にイメージし、潜在顧客が欲している情報を発信するように心掛けてください。

規制を守って、有効な広告を打とう

平成13年の税理士法改正で業界内の広告の自由化が進みましたが、現在においても税理士会によって定められた規制事項が存在し、会員としてそれらのルールを遵守しなければなりません。

顧客の不安を煽るような広告や過度な期待を抱かせる内容を避けるだけでなく、税理士としての社会的信用や品位を損なうことのないよう、ルールに基づいた適切な集客活動を行いましょう。

よくある質問

税理士の広告に関する規制とは?

現在の税理士業界では原則として広告の自由化が認められている一方で、過当競争による過度な広告が横行しないように税理士会が「禁止される広告」を定めており、広告自由化の例外として一定の規制を行っています。

税理士法が改正される前の広告規制は?

平成13年に税理士法が改正される前は他の税理士の顧問先への営業が禁止されていました。また広告には事務所名や住所などの基本情報しか掲載できなかったため、新規開業する税理士にとって非常に厳しい環境でした。

法改正後の広告に関する禁止事項は?

税理士法改正後も税理士の品位を保つための広告規制が存在します。虚偽広告だけでなく、誇大広告や特定の税理士との比較広告、「元〇〇税務署長」のように税務行政庁在職時の具体的役職名の掲載も禁止されています。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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