会計事務所の離職率はなぜ高い?高くなる理由と対策について解説。

組織づくり

会計事務所の離職率はなぜ高い?高くなる理由と対策について解説。
会計事務所は一般企業より離職率が高いと言われます。離職率を下げることは、人手不足や人材流動化が激しい昨今において、事務所の大きな課題の一つです。そこで本記事では、会計事務所の離職率が高くなってしまう原因と、離職率を下げるための対策について解説していきます。

会計事務所の離職率は高い?

厚生労働省による令和2年雇用動向調査結果によると、一般企業の離職率は14.2%であり、入職率(新たに就業した労働者の割合)の13.9%と比べると「離職超過」の状態でした。
一般に離職率とは、その年における常用労働者に対する離職者の割合を言いますので、令和2年は平均して、職員100人のうち1年に14人が職場を離れたことになります。下記グラフで離職率の推移を見ると、5〜29人の小規模な企業の離職率は全体的に見て離職率が高くありません。

しかし小規模な事業所が多い会計事務所は平均的な離職率はより高いと予想されます。次項以降で離職率が高くなる根本的な理由を解説しますが、会計事務所特有の離職理由として、次の2つがあります。

1. 離職者には自ら税理士となり、独立開業を目指す人が多いこと

試験に合格して、開業税理士となるケースがあります。また、税理士試験には年間を通じて勉強時間の確保が必要であり、残業の多い事務所では試験合格に結びつかないため離職するというケースは多いです。

2. 同業への転職が容易であること

離職前と同様の小規模な会計事務所であれば、都市部においては転職は容易です。特に税理士試験の科目合格者ともなると、転職へのハードルは低いと言えます。

会計事務所の離職率が高くなる理由

会計事務所の離職率が高くなる理由について、3つの視点から考えてみます。
会計事務所の離職率が高くなる理由

会計事務所内の人間関係

令和3年3月時点で登録税理士に占める開業税理士の割合は約71%であり、会計事務所の規模としては個人事務所が圧倒的に多く、また、開業税理士の年齢で一番多いのは60代という報告もあります。

ベテラン所長の考え方が事務所運営に強く反映され、相性が合わずに離職に至るケースが多く見られます。経営者として実績がある分トップダウン経営になりやすく、やる気のある若手職員ほど、モチベーションの維持が難しくなります。所長と信頼できる人間関係が築けない事務所では、業務継続が難しくなるでしょう。

繫忙期の業務量の増加

会計事務所は、業務の繁閑の差が大きい業界です。
得意先の状況や委託状況によって差はありますが、

    • 法人の年末調整
    • 個人の確定申告
    • 3月決算の多い法人の決算処理及び申告

などと、月次決算や四半期決算以外の年次処理が11月から翌年5月にかけてやってきます。繁忙期を税制改正やシステム対応をこなしながら、従前と同じ体制で乗り越えることは、事前にしっかりとした準備が必要となります。

そのため、繁忙期には残業時間が増えてしまう事務所が多く、残業の多さに苦痛を感じた職員が辞めてしまうことがあります。

業界の将来への不安

近い将来、AIやRPA(Robotic Process Automation)にとって代わると言われている仕事があるなかで、会計事務所の業務、税理士業務もそのうちの一つとされています。税理士試験の受験者数の減少は、将来の会計事務所へのニーズがなくなるのではという不安の表れかもしれません。若い世代ほど、会計事務所の職員を続けていくことに不安を持つこともあるでしょう。
確かにAIが業務の流れを自動的に学習し、業務をこなし、RPAが業務の効率性を格段に上げる未来は徐々に始まっています。AIやRPAに仕事を与え、行った仕事の評価、判断をするのは人間の仕事です。仕事量が多ければ、「どの部分を減らすのか」を考えるのも、ムダな残業が多ければ「どこをどのように効率化するのか」を検討するのも、人間の仕事です。

事務所内外とのコミュニケーションを取りながら業務の流れを見直したり、新たな見地から業務を改廃したりすることもAIやRPAにはできません。最終的には事務所にとっても自己にとっても有利となるようにAIやRPAを位置づけられれば良く、AIやRPAは敵ではなく支援者として迎えましょう。

離職率が低い会計事務所の特徴

会計事務所においても、離職率が低く働きやすいとされる事務所はあります。そのような事務所は何が違うのかを見ていきましょう。

労働環境が整っている

最も重要な業務面において、次のような整備がなされている事務所は離職率が低いと言えます。
労働環境が整っている税理士事務所

業務が計画的に実施されている
ミーティングを頻繁に行い、職員間で仕事の繁閑について共通認識を持ちましょう。
予定の立つ繁忙期については業務量を見積り、特定の人に過度な残業がないよう「残業管理」がなされていることも重要です。
スキルアップにつながる仕事ができる
単調な入力作業だけでなく、専門知識の研修を推奨し、文章力やコミュニケーション能力などを培える機会を職員に平等に与えることで、職員自身の持てる力を引き出します。
労力に見合った給料が支払われている
対価なくしては、モチベーションは保てません。どの職員に対しても業務の成果を正しく評価した給与や賞与が支払われているのは必須条件です。

次に、福利厚生面において大切なのは、女性職員や高齢者の雇用継続を確保し、ワークライフバランスの実現に向かい合っているかどうかです。環境の変化に対応しテレワークなどを積極的に導入する柔軟さも必要です。

子育て支援、介護支援
女性職員に限らず保育園の送迎への配慮や介護のための休暇制度など、家族の事情がその職員の大きなハンディにならないような対策がなされていることは、離職率に大きく影響します。

支援制度については、試行錯誤を繰り返し少しでも仕事をしやすい環境を整え、従業員の満足度を上げていく地道な努力が定着率を上げることにつながります。

事務所の方針が固まっている

小規模な会計事務所においては、所長個人の方針や考え方が業務全体に反映される傾向が強いです。所長は日々の研鑽や多くの経験値から事業に対する理念や経営方針、将来へのビジョンを画策します。これらの理念や方針を迷うことなくしっかり固めておくと、正しい意思決定が容易になります。

所長の判断が理念や方針とブレていないことが、職員との意見の一致につながりやすくなります。最終的には、職員が「この事務所で働きたい」「この所長のもとで働きたい」と心底思えるような雰囲気作りができるのが理想です。これは日々の努力の積み重ねで達成されるものでしょう。

会計事務所の離職率を下げる「予防人事的アプローチ」について

会計事務所の離職率を下げるため、「人」や「組織」の問題の発生を予防する考え方として「予防人事的アプローチ」を紹介します。予防医学が病気になりにくい身体を作り、健康を維持することを考えるように、会社における人や組織の問題を予防する人事を考え、維持しようという発想です。

理念/カルチャー浸透

所長の理念や理想とするカルチャーが職員をはじめ事務所全体に浸透しない理由としては、次のようなものがあります。

  • そもそも理念や方針がない
  • このような事務所でありたいというカルチャーがない
  • 経営陣が理念やカルチャーの発信源になっていない
  • 理念やカルチャーの理解度にバラつきがある

これらの課題に対し、理念やカルチャー浸透のために次のような対応策が挙げられます。所長の思いを言葉で明らかにした後、職員に伝えるまでに「共通理解の醸成」、「浸透機会の検討」を経ることにより、理念やカルチャーをゆるぎないものにしていきます。

理念、カルチャーの言語化
そもそも理念やカルチャーがない場合には作成、ある場合も確認し見直す。理念やカルチャーの言語化プロジェクトのアサインメンバーや開示範囲なども設計
経営陣の共通理解の醸成
言語化された理念やカルチャーを経営者やリーダーなどが自分の言葉で話せるようにする
理念、カルチャーの浸透機会を検討
事業所内への浸透するための機会を検討する

問題の予測と対応

会社の事業が継続し、成長する過程には、人間の成長痛と同じようにその成長に伴う「痛み」が生じるものです。

たとえば、組織の成長過程においては、次のような問題が予測されます。

  • リーダーや少人数での経営の限界
  • 属人的な経営の限界
  • 行き過ぎたルール化による効率の低下
  • 環境変化への適応力の低下

【組織ステージ例】

予防人事的アプローチではこれらの問題を可視化し、現在の状況を正しく認識して現在のリソースの中で最大限の対応がとれるように考えていきます。
これら対応策など「予防人事的アプローチ」の資料は、下記からお申し込みいただけます。

適切な対応で会計事務所の離職率を下げる

会計事務所に限ったことではありませんが、事務所の離職率を下げ安定的に業務継続をするには、「労働環境の整備」と「事務所の方針の明示」が不可欠です。

「労働環境の整備」については、いきなり業務面・福利厚生面の両サイドから改革するのが難しければ、まずは残業管理、研修制度、業務評価など、できる部分から着手しましょう。事務所にとって大切な職員が何を一番求めているか聞いてみるのもよいでしょう。

また、「事務所の方針の明示」については所長の理想論に走ることなく、発生するであろう問題を予測し、その対策を検討する「予防人事的アプローチ」の考え方などを取り入れ、計画的に進めることが重要です。

よくある質問

会計事務所の離職率が高くなる理由とは?

事務所内の人間関係の難しさ、繁忙期の業務量の多さ、形式的作業の多さ、業界の将来への不安などが挙げられます。

離職率の低い会計事務所の特徴とは?

業務面においても、福利厚生面においても労働環境が整っていること、事務所の方針が固まっていることなどが挙げられます。

「予防人事的アプローチ」とはなんですか?

予防医学が病気になりにくい身体を作り健康を維持することを考えるように、会社における人や組織の問題を予防する人事を考え、維持しようという「人」や「組織」の問題の発生を予防する考え方です。

【監修】税理士・CFP 岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。 システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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