少子高齢化や人口減少に伴い、あらゆる業界で深刻化する「人手不足」。税理士業界も例外ではありません。それどころか、「税理士試験の受験者が約20年で半減」という極めて厳しい現実に直面しています。
「人手不足でも、なんとか繁忙期を乗り切れているから大丈夫」と対策を後回しにしていませんか? 結論から言うと、慢性的な人手不足の放置は、事務所の成長を止め、事業存続を危うくする致命的なリスクです。変化の激しい時代を生き抜くためには、内部環境の充実、つまり「人材の確保と育成」が最優先課題となります。
この記事では、税理士事務所が人手不足に陥る背景を浮き彫りにした上で、以下の解決策を分かりやすく解説します。
- 「ノンコア業務」のIT・外部委託化による徹底的な業務効率化
- 即戦力に頼らない「未経験者・シニア・復職者」の採用・育成ルートの確立
- 求職者の不安を解消し、自社の魅力を100%伝えるための採用戦略(面接・フォロー)
システムを動かし、事務所の未来を創るのは「人」です。人材不足を解消し、顧客から選ばれ続ける強い事務所への変革を始めましょう
目次
税理士業界が人手不足の理由
税理士事務所、会計事務所などで働く人たちが減ってきています。税理士事務所の置かれている環境について4つの視点から見ていきます。
税理士試験受験者の減少
税理士を目指し、税理士試験を受験しようとする人が減ってきています。国税庁の統計によると、税理士試験の受験者数は平成17年度が56,314人でしたが、令和2年度はその半分以下の26,673人に激減しています。
この大幅な減少は、税理士試験という難関試験に長期間を費やすことへの「不安」が影響しています。
税理士試験への挑戦は、並行して他のスキルを修得しながらできるほど易しいものではありません。複業化、多様化と呼ばれる今の時代において、一つのスキルだけに頼ることに大きな不安を持つのはむしろ当然と言えるかもしれません。
クラウド会計システムの発達で、仕訳の自動化が可能になったことで、記帳代行業務は税理士事務所に依頼しないケースが増えてきたことも、税理士試験受験者には不安要素の一つと言えます。結果として、税理士だけを夢見て5年~10年間の時間や労力を費やし、試験に挑戦し続け、その後、税理士として働こうと考える人は少なくなってきたようです。
税理士事務所の増加
一方、税理士事務所数は増えています。税理士登録者数の推移を見ると平成前半に加速的に税理士登録数が増えていることがわかり、令和になっても減っていません。
税理士には、開業税理士、社員税理士、所属税理士などの種類があり、どれかを選択して税理士が誕生するわけですが、中には事務所を持たない税理士もいます。令和3年度は、税理士登録者全体の約71%が開業税理士であることから、税理士本人だけで開業している税理士事務所も含め、登録者の多くは開業し事務所を構えていることになります。
この登録者数をグラフにすると、次のようになります。
現在の税理士の平均年齢は60歳代であり、平成期に増えた税理士事務所が相当数、今でも存続されていると予想されます。税理士事務所の数が増えている理由としては、税理士登録者が増えたことと、開業された事務所の存続年数が長いことが挙げられます。
業務量の増加
次に、税理士事務所の業務について考えてみます。
働き方改革や仕事と生活のバランスを考えるワークライフバランスなどの影響で、副業や複業として、組織から独立して個人で活動する人が増えてきました。フリーランスや個人事業主として、自らの仕事をこなしながら、自分らしい働き方をする人が増えています。そのため、確定申告が必要な方が増えてきています。
会計ソフトや申告ソフトはあるものの、業態や複雑な取引の申告を仕事を始めたばかりの個人事業主が片付けるには難しいケースも多々あるため、その場合は税理士に依頼することになります。
しかし、税理士事務所に依頼するのは確定申告が迫ってきてからというケースが多く、確定申告時期などの繁忙期には業務量が極端に増えてしまいます。繁忙期において各税理士事務所では、経験者の取り合いとなります。小規模の税理士事務所では採用が難しく、人を増やすことができず、現状の職員で業務を捌くこととなります。税理士事務所の期間的な人の需要に対応しきれず、職員一人当たりの業務量を減らすのが難しいという現実があります。
スタッフの給与水準が低い
税理士事務所における一般職員の給与水準にも問題があります。
以下の表は、会計事務における令和2年度の残業手当等を除いた所定内給与(男女計)の統計ですが、会計事務スタッフの給与は他と比べても高いとは言えません。良い人材を求めるのであれば、それなりの待遇を考えなければなりませんが、業界自体の給与水準は高いとは言い難いのが現状です。
このように閉塞感が漂う環境の中、税理士事務所内部では人手不足が深刻な問題となっています。
事務所の人手不足によって生じる問題
税理士事務所のスタッフ不足によって生じる問題として、業務過多や新たな挑戦への阻害について考えてみます。
職員が業務過多になってしまう
いくらベテランの職員であっても、来客や電話の対応から納品に至るまで事務所内で発生するすべての業務をこなすとなると、オーバーワークに陥ります。同じような待遇であったとしても、個人の能力により業務の処理能力も異なります。速くできる人に作業依頼が集中し、その結果残業時間が増えるという構図はどこの業界にもあります。
作業が集中する職員には大きなストレスになります。そのストレスを常態化させないように所長がマネジメントできているかどうかは大きな課題であり、職員が少ないと人の定着も難しいという悪循環に陥ります。
新しい取り組みに着手しづらい
処理能力が優れ、経験値も多い職員が常に多忙であれば、能力のある職員を新しい取り組みに積極的に参加させることができません。ICT化、DX化などの新たな試みに割ける人的資源の確保ができなければ、現状打破が難しいと言わざるを得ません。結果、顧客からのニーズに十分応えられず、売上高に貢献できないことになります。
変化に合わせる力量が問われる時代において、変化できないのは大きな機会損失と言えます。
人手不足を解消することの重要性
業務に直接影響を与えるわけではないため、人手不足のまま業務を進めてしまうケースも見受けられます。対応が後回しにされがちな人手不足ですが、実は次のように影響度は大きく非常に重要性の高い課題です。
事業を成長させることができる
「人手不足であってもなんとか繁忙期を乗り切れた」と思うことは、よくあることかもしれません。しかし、「慢性的な人手不足」を自他ともに認めてしまうことは、実は事業存続にとって致命的なことです。
新たな資金を投入し、新たな事業戦略を考えても、それらはそれを「実行する人」がいて初めて成立します。その実行者が試行錯誤を繰り返しながら、生き残る道を見出して前進していかなければ、外部環境の変化が激しい時代において、事業を継続、発展させることはできません。外部環境への対応は、内部環境の充実から始まります。人手不足を解消することで、税理士事務所は顧客へのサービスを向上させることができます。サービスが充実し、スピーディーな対応が可能になると、顧客からの信頼が得られ、リピート顧客が増えるでしょう。また、新しい顧客を獲得するためのマーケティング活動にも、時間とリソースを割く余裕が生まれます。このようにして、既存顧客の維持と新規顧客の獲得が同時に実現できるのです。
次に、人材を育成することによって、事務所全体の生産性向上につながります。新たにスタッフを採用する際には、その人の成長を促すための研修プログラムを設けることで、専門知識や技術を確実に高めることができます。これは長期的に見ても事務所の強みとなり、業務の質を向上させるだけでなく、スタッフの定着にも寄与します。
このように、税理士事務所が人手不足を解消することは、事業成長へとつながる多くの可能性を秘めています。人材の確保と育成、業務の効率化、そして働きやすい環境の整備は、いずれも税理士事務所の未来を明るくする重要な要素です。
税理士事務所の人手不足への対策
具体的に税理士事務所の人手不足にはどのような解決策があるでしょうか?
税理士事務所特有の解決策というわけではありませんが、極めて基本的な、しかしながら外せない要素を挙げてみましょう。
業務の効率化
例えば、能力のある職員が入力作業などに多くの時間を割いていたり、年配の職員に一度に多くの業務を分担させたり、新人職員に勝手がわかるまで研修だけを受けさせたりしているとします。しかし、ここで少し先が予想できれば、「ムリ」「ムダ」「ムラ」はいくらでも見つかるはずです。
小さなことであっても、排除すべきものや省略できるものはないか、別の方法でできるものはないかと軌道修正できるのは、その先に「未来」を予想できるからです。ほんの少し先でもいいので、未来を読む力が小さな「格差」を産み、他との差別化の基盤を作ります。そこから将来の事業の可能性が広がります。
このような「気づき」、「小さな発見」を積み重ね、結果として、自社経営の画策や顧問先への付加価値提供などを「コア業務」として重点的に実施し、その他の「ノンコア業務」をITツールや外部委託などに任せて業務を差別化していきます。これが効率化です。
効率化は、数字ではじき出すだけのものではありません。特に業務の質の問われる業界において、効率化は「人材」の動かし方の先にあります。
未経験者の採用と育成
中小経営が多い税理士事務所では即戦力を求めがちですが、未経験者の採用と育成を事務所の「スキル」として取り入れるべきでしょう。
未経験者を実力者に仕上げる体制があれば、人手不足解消の強い見方になるだけではなく、異なった業界から転職した未経験者が、新たな分野の即戦力ともなり得ます。
シニアの採用
経験豊富なシニアを積極的に採用することも、人手不足解消に大いに役立ちます。シニアの働きやすい無理のない環境の中で、培ってきたスキルを惜しみなく出せる仕組みづくりが必要です。
採用の際は、どのような人材が必要なのかを明確に伝えましょう。質を求めるのか、ある程度の量を求めるのか、それとも外部とのコネクションを求めるのかなど、採用してからでは言いにくいことも明らかにしておきましょう。
復職者の採用
結婚や出産で一旦会計事務所を退職した人が同じ事務所に復職する場合や、介護によりやむを得ず退職を選んだ方が復職する場合があります。
このような復職者の採用には、テレワークや時短勤務、時間単位の休暇のような生活者の視点を尊重したフレキシブルな働き方を導入し、育児や介護との両立がしやすい体制の構築が求められます。
これには、属人的な業務配分ではなく、積極的なITツールの活用などにより、作業方法の統一や業務引き継ぎが容易な仕組みが必要です。加えて、再教育制度などでのフォローがあるとよいでしょう。
人手不足な税理士事務所の採用強化のポイント
新たな組織に人を迎え入れるにあたっては、採用される側の立場に立つ配慮が必要です。人材採用強化のポイントとして、次の3つを挙げます。
求人情報を分かりやすくする
募集要項には、求める人材像を分かりやすく記載します。必要な資格だけではなく、どのような会計ソフトや申告ソフトを使うか、教育体制はあるかなど、未経験者やシニアが見ても分かりやすく記載することが大切です。
自社の魅力が伝わる面接を実施する
面接においては、事務所の持つ特徴や所長の方針・信念などを分かりやすく伝え、現在足りていない人物像を率直にお伝えしましょう。そして、応募者の自己アピールをよく聞き、面接というわずかな時間の中ですが、応募者の適性を観察します。
内定から勤務開始までフォローする
新卒者でも転職者でも、新しい職場は不安なものです。内定を出してから勤務開始まで期間のある場合は、なおさら不安になります。内定者には、メールや電話で連絡をとれる体制をつくり、フォローしてあげましょう。
人手不足を解消し、事務所を成長させる
業務効率化とは、ICTを導入するだけでは終わりません。そのシステムを動かし、組織を将来につなげるのは「人材」です。
今までと同じことを集約的に行い、短時間で終わらせるだけでは本当の効率化ではありません。
人が主体となって今までと違った方法を試みながら、最終的には今まで以上の結果を出すのが効率化ではないでしょうか?
中心に「人」がいる組織を作り効率化を図ることで、事務所を成長させていきましょう。
よくある質問
税理士試験の受験者がここまで激減している(半分以下)のはなぜですか?
長期にわたる試験勉強への不安や、AI・クラウド化による「税理士の将来性」への懸念が影響しています。かつて(平成17年度)は5.6万人を超えていた受験者が、近年では2.6万人規模にまで激減しました。
1つの資格取得に5年〜10年という多大な時間と労力を投資することへのリスク感に加え、クラウド会計の発達によって「記帳代行業務が縮小するのではないか」という不安が若者の間で広がっていることが主な原因です。
結果として、受験者が減る一方で、既存の高齢な事務所は存続し続けているため、深刻な「採用ミスマッチ(事務所過多・人材不足)」が起きています。
人手不足が招く、目に見えない「最大の機会損失」とは何ですか?
優秀なスタッフが日々の作業に追われ、DX化や新規顧客開拓などの「未来への投資」に時間を使えなくなることです。
人手が足りないと、処理能力の高い優秀なベテラン職員にばかり来客・電話対応や入力作業が集中し、オーバーワークを招きます。
その結果、事務所を劇的に変えるための「ICT化・DX化の推進」や「高度なコンサルティング業務への挑戦」といった新しい取り組みに人員を割く余裕がゼロになります。時代の変化に対応できず、競合に遅れをとることこそが、人手不足がもたらす最大の機会損失です。
即戦力の採用が難しい今、どのような採用戦略に切り替えるべきですか?
「未経験者」「シニア」「復職者(育児・介護)」をターゲットに据え、それぞれの事情に合わせた柔軟な受け入れ態勢を整えると良いでしょう。
ターゲット別に、以下のような仕組みづくりとアプローチが有効です。
未経験者:業界のスキルを持った人材を、事務所独自のプログラムで育成。(段階的な研修制度の確立)
シニア:経験豊富なスキルを、無理のない業務量・範囲で発揮してもらう。(求める役割の明確化)
復職者:結婚・出産・介護で離職した経験者を呼び戻す。(テレワーク、時短勤務、業務の標準化)
人手不足を解消するための「正しい業務効率化」とは、具体的に何をすることですか?
記帳などの作業(ノンコア業務)をITや外注に任せ、スタッフを「コア業務」へ集中させることです。
単に「今までと同じ作業を短時間で終わらせる」のは本当の効率化ではありません。
クラウド記帳サービス(STREAMEDなど)やITツールを積極的に導入して入力作業の手間を削減し、生まれた時間を「自社の経営戦略の策定」や「顧問先への付加価値(コンサルティングなど)の提供」というコア業務に充てること。このように「人が主体となって、より高い成果を出すための仕組み」を作ることこそが、真の業務効率化であり、人手不足の根本解決につながります。



