税理士事務所における人手不足の問題とその原因とは?解決策も解説。

組織づくり

税理士事務所における人手不足の問題とその原因とは?解決策も解説。
日本では少子高齢化、人口減少が進み、あらゆる業界や業種で人手不足が深刻化しており、税理士業界も他人事ではありません。事業を成長させるためには「人の存在」が欠かせず、人手不足は大きな問題となっています。そこで本記事では、税理士事務所が人手不足に陥ってしまう理由と解決策などを解説していきます。

税理士業界が人手不足の理由

税理士事務所、会計事務所などで働く人たちが減ってきています。税理士事務所の置かれている環境について4つの視点から見ていきます。

税理士試験受験者の減少

税理士を目指し、税理士試験を受験しようとする人が減ってきています。国税庁の統計によると、税理士試験の受験者数は平成17年度が56,314人でしたが、令和2年度はその半分以下の26,673人に激減しています。

この大幅な減少は、税理士試験という難関試験に長期間を費やすことへの「不安」が影響しています。

税理士試験への挑戦は、並行して他のスキルを修得しながらできるほど易しいものではありません。複業化、多様化と呼ばれる今の時代において、一つのスキルだけに頼ることに大きな不安を持つのはむしろ当然と言えるかもしれません。

クラウド会計システムの発達で、仕訳の自動化が可能になったことで、記帳代行業務は税理士事務所に依頼しないケースが増えてきたことも、税理士試験受験者には不安要素の一つと言えます。結果として、税理士だけを夢見て5年~10年間の時間や労力を費やし、試験に挑戦し続け、その後、税理士として働こうと考える人は少なくなってきたようです。

税理士事務所の増加

一方、税理士事務所数は増えています。税理士登録者数の推移を見ると平成前半に加速的に税理士登録数が増えていることがわかり、令和になっても減っていません。

税理士には、開業税理士、社員税理士、所属税理士などの種類があり、どれかを選択して税理士が誕生するわけですが、中には事務所を持たない税理士もいます。令和3年度は、税理士登録者全体の約71%が開業税理士であることから、税理士本人だけで開業している税理士事務所も含め、登録者の多くは開業し事務所を構えていることになります。

この登録者数をグラフにすると、次のようになります。

現在の税理士の平均年齢は60歳代であり、平成期に増えた税理士事務所が相当数、今でも存続されていると予想されます。税理士事務所の数が増えている理由としては、税理士登録者が増えたことと、開業された事務所の存続年数が長いことが挙げられます。

業務量の増加

次に、税理士事務所の業務について考えてみます。

働き方改革や仕事と生活のバランスを考えるワークライフバランスなどの影響で、副業や複業として、組織から独立して個人で活動する人が増えてきました。フリーランスや個人事業主として、自らの仕事をこなしながら、自分らしい働き方をする人が増えています。そのため、確定申告が必要な方が増えてきています。

会計ソフトや申告ソフトはあるものの、業態や複雑な取引の申告を仕事を始めたばかりの個人事業主が片付けるには難しいケースも多々あるため、その場合は税理士に依頼することになります。

しかし、税理士事務所に依頼するのは確定申告が迫ってきてからというケースが多く、確定申告時期などの繁忙期には業務量が極端に増えてしまいます。繁忙期において各税理士事務所では、経験者の取り合いとなります。小規模の税理士事務所では採用が難しく、人を増やすことができず、現状の職員で業務を捌くこととなります。税理士事務所の期間的な人の需要に対応しきれず、職員一人当たりの業務量を減らすのが難しいという現実があります。

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スタッフの給与水準が低い

税理士事務所における一般職員の給与水準にも問題があります。

以下の表は、会計事務における令和2年度の残業手当等を除いた所定内給与(男女計)の統計ですが、会計事務スタッフの給与は他と比べても高いとは言えません。良い人材を求めるのであれば、それなりの待遇を考えなければなりませんが、業界自体の給与水準は高いとは言い難いのが現状です。

このように閉塞感が漂う環境の中、税理士事務所内部では人手不足が深刻な問題となっています。

事務所の人手不足によって生じる問題

税理士事務所のスタッフ不足によって生じる問題として、業務過多や新たな挑戦への阻害について考えてみます。

職員が業務過多になってしまう

いくらベテランの職員であっても、来客や電話の対応から納品に至るまで事務所内で発生するすべての業務をこなすとなると、オーバーワークに陥ります。同じような待遇であったとしても、個人の能力により業務の処理能力も異なります。速くできる人に作業依頼が集中し、その結果残業時間が増えるという構図はどこの業界にもあります。

作業が集中する職員には大きなストレスになります。そのストレスを常態化させないように所長がマネジメントできているかどうかは大きな課題であり、職員が少ないと人の定着も難しいという悪循環に陥ります。

新しい取り組みに着手しづらい

処理能力が優れ、経験値も多い職員が常に多忙であれば、能力のある職員を新しい取り組みに積極的に参加させることができません。ICT化、DX化などの新たな試みに割ける人的資源の確保ができなければ、現状打破が難しいと言わざるを得ません。結果、顧客からのニーズに十分応えられず、売上高に貢献できないことになります。

変化に合わせる力量が問われる時代において、変化できないのは大きな機会損失と言えます。

人手不足を解消することの重要性

業務に直接影響を与えるわけではないため、人手不足のまま業務を進めてしまうケースも見受けられます。対応が後回しにされがちな人手不足ですが、実は次のように影響度は大きく非常に重要性の高い課題です。

事業を成長させることができる

「人手不足であってもなんとか繁忙期を乗り切れた」と思うことは、よくあることかもしれません。しかし、「慢性的な人手不足」を自他ともに認めてしまうことは、実は事業存続にとって致命的なことです。

新たな資金を投入し、新たな事業戦略を考えても、それらはそれを「実行する人」がいて初めて成立します。その実行者が試行錯誤を繰り返しながら、生き残る道を見出して前進していかなければ、外部環境の変化が激しい時代において、事業を継続、発展させることはできません。外部環境への対応は、内部環境の充実から始まります。

税理士事務所の人手不足への対策

具体的に税理士事務所の人手不足にはどのような解決策があるでしょうか?
税理士事務所特有の解決策というわけではありませんが、極めて基本的な、しかしながら外せない要素を挙げてみましょう。

業務の効率化

例えば、能力のある職員が入力作業などに多くの時間を割いていたり、年配の職員に一度に多くの業務を分担させたり、新人職員に勝手がわかるまで研修だけを受けさせたりしているとします。しかし、ここで少し先が予想できれば、「ムリ」「ムダ」「ムラ」はいくらでも見つかるはずです。

小さなことであっても、排除すべきものや省略できるものはないか、別の方法でできるものはないかと軌道修正できるのは、その先に「未来」を予想できるからです。ほんの少し先でもいいので、未来を読む力が小さな「格差」を産み、他との差別化の基盤を作ります。そこから将来の事業の可能性が広がります。

このような「気づき」、「小さな発見」を積み重ね、結果として、自社経営の画策や顧問先への付加価値提供などを「コア業務」として重点的に実施し、その他の「ノンコア業務」をITツールや外部委託などに任せて業務を差別化していきます。これが効率化です。

効率化は、数字ではじき出すだけのものではありません。特に業務の質の問われる業界において、効率化は「人材」の動かし方の先にあります。

未経験者の採用と育成

中小経営が多い税理士事務所では即戦力を求めがちですが、未経験者の採用と育成を事務所の「スキル」として取り入れるべきでしょう。

未経験者を実力者に仕上げる体制があれば、人手不足解消の強い見方になるだけではなく、異なった業界から転職した未経験者が、新たな分野の即戦力ともなり得ます。

シニアの採用

経験豊富なシニアを積極的に採用することも、人手不足解消に大いに役立ちます。シニアの働きやすい無理のない環境の中で、培ってきたスキルを惜しみなく出せる仕組みづくりが必要です。

採用の際は、どのような人材が必要なのかを明確に伝えましょう。質を求めるのか、ある程度の量を求めるのか、それとも外部とのコネクションを求めるのかなど、採用してからでは言いにくいことも明らかにしておきましょう。

復職者の採用

結婚や出産で一旦会計事務所を退職した人が同じ事務所に復職する場合や、介護によりやむを得ず退職を選んだ方が復職する場合があります。
このような復職者の採用には、テレワークや時短勤務、時間単位の休暇のような生活者の視点を尊重したフレキシブルな働き方を導入し、育児や介護との両立がしやすい体制の構築が求められます。
これには、属人的な業務配分ではなく、積極的なITツールの活用などにより、作業方法の統一や業務引き継ぎが容易な仕組みが必要です。加えて、再教育制度などでのフォローがあるとよいでしょう。

人手不足な税理士事務所の採用強化のポイント

新たな組織に人を迎え入れるにあたっては、採用される側の立場に立つ配慮が必要です。人材採用強化のポイントとして、次の3つを挙げます。

求人情報を分かりやすくする

募集要項には、求める人材像を分かりやすく記載します。必要な資格だけではなく、どのような会計ソフトや申告ソフトを使うか、教育体制はあるかなど、未経験者やシニアが見ても分かりやすく記載することが大切です。

自社の魅力が伝わる面接を実施する

面接においては、事務所の持つ特徴や所長の方針・信念などを分かりやすく伝え、現在足りていない人物像を率直にお伝えしましょう。そして、応募者の自己アピールをよく聞き、面接というわずかな時間の中ですが、応募者の適性を観察します。

内定から勤務開始までフォローする

新卒者でも転職者でも、新しい職場は不安なものです。内定を出してから勤務開始まで期間のある場合は、なおさら不安になります。内定者には、メールや電話で連絡をとれる体制をつくり、フォローしてあげましょう。

人手不足を解消し、事務所を成長させる

業務効率化とは、ICTを導入するだけでは終わりません。そのシステムを動かし、組織を将来につなげるのは「人材」です。
今までと同じことを集約的に行い、短時間で終わらせるだけでは本当の効率化ではありません。
人が主体となって今までと違った方法を試みながら、最終的には今まで以上の結果を出すのが効率化ではないでしょうか?
中心に「人」がいる組織を作り効率化を図ることで、事務所を成長させていきましょう。

よくある質問

近年の税理士受験者の推移はどうなっていますか?

税理士試験の受験者数は平成17年度が56,314人でしたが、令和2年度はその半分以下である26,673人に激減しています。

税理士受験者が減っているのに、税理士事務所が増加している原因は何ですか?

税理士登録者が増えたことと、開設された事務所の存続年数が長いことが挙げられます

税理士事務所の人材不足解消のための策を挙げてください。

まずは生産性向上による業務の効率化です。未経験者やシニアの積極採用も効果的です。

【監修】税理士・CFP 岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。 システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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