「税理士として独立したいが、失敗して後悔するのが怖い」
「AIに仕事を奪われる、食えないという噂は本当か?」
税理士資格を取得し、次のステップとして独立開業を考える際、このような不安を抱く方は少なくありません。かつては「資格さえあれば安泰」と言われた税理士業界ですが、現在は「厳しい」と言われることも増えています。
しかし、「厳しい」と言われる背景を正しく理解し、適切な戦略を立てれば、現在でも独立して成功することは十分に可能です。この記事では、なぜ税理士の独立が厳しいと言われるのか、失敗して後悔する人の共通点、そして厳しい環境下でも勝ち残るための具体的な戦略を解説します。
目次
税理士の独立が厳しいと言われる理由
まずは、なぜ昨今「税理士の独立は厳しい」などと囁かれているのか、その構造的な要因を見ていきましょう。
AI・クラウド会計の台頭による業務の自動化
最大の要因は技術の進歩です。クラウド会計ソフトやAIの進化により、これまで税理士の主要業務であった「記帳代行」や「申告書作成」が自動化されつつあります。
これにより、以下の現象が起きています。
- テクノロジー活用で低価格を実現する税理士の台頭で、従来の報酬水準を維持することが難しくなっている。
- 「計算・集計」といった業務だけでは、顧客に付加価値を感じてもらえなくなっている。
税理士業界内の競争激化
税理士の登録者数は増加傾向にあり、国内には令和7年10月末日時点で、82,114名の税理士が登録されています。
一方で、顧問先となる中小企業の数は、廃業や少子高齢化により減少傾向にあります。
つまり、「減りゆく顧客を、多くの税理士で奪い合う」という構図になっており、単に看板を掲げているだけでは顧客獲得が極めて難しい状況です。そのため、以前のような「黙っていても紹介が来る」といった時代とは言い辛くなっています。
参考:税理士登録者数|日本税理士会連合会 , 2025年版 中小企業白書 第8節 開業、倒産・休廃業|中小企業庁
「経営スキル」が求められる
勤務税理士は「税務処理」スキルのプロであることを評価されましたが、独立すればあなた自身が「経営者」になるため求められるスキルの幅も広がります。
- 資金繰り
- マーケティング(集客)
- 人材採用・育成
- 顧客対応
これら全てを自分で判断し、実行していく必要があります。「税務は完璧だが、営業が全くできない」「ITに疎く効率化できない」という場合、事務所の維持自体が困難になるケースが増えるでしょう。
税理士の独立で失敗・後悔する人の共通点
独立後に「こんなはずじゃなかった」と後悔し、最悪の場合、廃業に追い込まれてしまう人にはいくつかの共通点があります。

明確な強み・専門性が打ち出せていない
「なんでもやります」「誰でも歓迎です」というスタンスは一見親切に見えますが、競争の激しい現在では「誰からも選ばれない」原因になります。
顧客からすれば、「ITに強い」「医療業界に特化している」「相続専門」といった明確なメリットがある事務所を選びたくなるのが自然です。強みがないまま価格競争に巻き込まれると、低単価で長時間労働というスパイラルに陥る可能性が高まります。
営業・集客活動が後回しになっている
税理士事務所を経営していくためには、営業・集客活動をして新規顧客を獲得しなければなりません。そのため、独立直後は実務以上に「営業」が重要な場面が多いです。
この意識が薄いと思い描いていたような案件がこなせず、資金繰りが難しくなる可能性が高まります。
時代の変化(IT化)への対応が不十分
顧客である経営者の世代交代が進み、若手経営者を中心に「チャットでの連絡」「クラウド会計の導入」「Zoom面談」などを希望する声が増えています。
これに対し、「紙の資料しか受け付けない」「対面重視で訪問必須」といったスタイルに固執すると、顧客満足度が下がるだけでなく、自身の業務効率も悪化し、利益率が低下してしまいます。
厳しい環境でも独立に成功する税理士の戦略
厳しいと言われる中でも、年収を上げ、時間的自由を手に入れている税理士の方々が実践されている戦略について解説します。
なお、以下の記事では、独立に失敗しないための方法をステップごとに解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
明確な専門分野・ターゲットを絞り込む
成功の鍵は「差別化」です。特定の業種や税目に特化することで、高単価でも選ばれる存在になります。
- 業種特化: 飲食、建設、医療、美容室、ITスタートアップ、YouTuberなど
- 税目・業務特化: 相続税、国際税務、組織再編、事業承継、融資支援など
ターゲットを絞ることで、その分野のノウハウが蓄積され、より質の高いサービスを効率よく提供できるようになります。
AI・クラウドを「味方」につける
AIやクラウド会計は「敵」ではなく、業務を効率化するための強力な「武器」です。
- 記帳などの単純作業はITツールで自動化・効率化する。
- 浮いた時間を、顧客との対話や経営コンサルティング、資金繰り相談などに充てる。
このように、「作業代行」から「経営パートナー」へと役割をシフトできる税理士は、AI時代でも決して淘汰されません。
情報発信による「集客の仕組み化」
足を使った営業も大切ですが、成功している税理士はWebを活用した「インバウンド(待ち)の営業」を確立しています。
- ターゲットに向けたブログやSNSでの情報発信
- YouTubeでの税務解説
- 分かりやすく、強みが伝わるホームページの作成
これらを通じて専門性や人柄を発信し、「先生にお願いしたい」と指名される仕組みを作ることが、安定経営への近道です。
独立開業の厳しさを乗り越えるための準備
独立後に「後悔」しないためには、勤務時代からの入念な準備が不可欠です。
徹底した自己分析と事業計画の策定
勢いで独立をする前に、以下の点を明確にし、事業計画をしっかり練るようにしましょう。
- なぜ独立するのか?(年収アップ? 自由な時間? 特定の業務がしたい?)
- 自分の強みは何か?(誰の、どんな悩みを解決できるか?)
- 資金計画は十分か?(売上がゼロでも半年〜1年は暮らせる生活防衛資金はあるか?)
これらを言語化した「事業計画書」を作成することで、漠然とした不安が具体的な行動目標に変わります。
勤務時代に「独立後」を意識して経験を積む
今の事務所での業務を、単なる「作業」としてこなすのではなく、「独立後のシミュレーション」として取り組みましょう。
- 事務所の運営方法や集客方法を観察する。
- 担当顧客との信頼関係構築を深め、紹介を引き出すトークを練習する。
- 触れたことのないクラウド会計ソフトを積極的に試す。
独立前から「集客」をスタートする
可能であれば、独立前から人脈作りや情報発信を始めましょう。
- 異業種交流会への参加
- SNSアカウントの運用開始
- 知人・友人への独立予定の告知
開業初月から顧客ゼロを避けるために、「見込み客」との接点を持っておくことが、精神的な安定にも繋がります。
経験や得意分野の棚卸しから始めよう
「税理士の独立は厳しい」というのは、あくまで「旧来のやり方のままでは厳しい」という意味です。
- 自動化・AIを恐れず活用し、コンサルティング型へシフトする
- 専門分野を絞り、自分の価値を高く売る
- 営業・マーケティングのスキルを磨く
これらの戦略を持って挑めば、税理士の独立は現在でも大きなチャンスがあります。リスクを正しく恐れ、十分な準備を行うことが、後悔しない独立への第一歩です。
まずはご自身の経験や得意分野を棚卸しし、どのようなお客様の役に立ちたいか、書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
