マネーフォワード クラウド

広がるマンガコンテンツとこれからの「著作権」のあり方。今クリエイターが知っておきたい権利の運用の話とは。

株式会社コルク代表取締役会長兼社長CEO 佐渡島庸平さん

日本の世界に誇れる文化でありコンテンツである「マンガ」の業界に、今、地殻変動が起き始めています。
以前は、マンガ家として認められるには出版社を通してマンガ雑誌へ掲載されることが必須でした。しかし、デジタル化が進む昨今、投げ銭をもらうことのできるウェブプラットフォームなども出てきており、いわゆるプロでなくても作品を公開し、収益が得られるようになっています。SNSでマンガ家がいろいろな場所で作品を発表できるようになるのは、読者にとっても喜ばしいことでしょう。

一方で、ネット上で作品が勝手にシェアされたり、無断使用されたりするという事態も起こっています。クリエイターにとって切っても切り離せない「著作権」のあり方は、デジタル時代の今、岐路を迎えようとしています。

日本初の、マンガ家をはじめとしたクリエイターのためのエージェント業を行う、株式会社コルクの佐渡島さんは、「著作権は守ることよりも運用を考えるべき」といいます。電子契約サービスであるマネーフォワード クラウド契約をリリースしたマネーフォワードが、これからの著作権のあり方や、クリエイターが契約上注意すべき点についてお話を伺いました。

株式会社コルク代表取締役会長兼社長CEO 佐渡島庸平さん
<プロフィール>
株式会社コルク代表取締役会長兼社長CEO 佐渡島庸平さん
2002年に講談社に入社し、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集担当。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。

日本初、クリエイターのためのエージェント業って何?

コルクのホームページを拝見すると、「物語の力で、一人一人の世界を変える」をミッションにしたクリエイターエージェンシーです。と書かれています。何をやっている会社ですか?

クリエイターのためのエージェント業務、つまりクリエイターにとって本当にいい環境やパートナーを選ぶためのお手伝いをしています。たとえば、クリエイターから委託を受けて、契約など法律的な手続きや、さまざまな取引を本人に代わって行っています。その他では、「コルクラボ専科」というマンガ家育成のための講座を行っています。

株式会社コルク代表取締役会長兼社長CEO 佐渡島庸平さん

エージェント業務とは、具体的にどんなことをされているんですか?

簡単に言えば、クリエイターが安心して創作活動に取り組み、活躍できる環境を整えることです。

今までマンガ家や作家は出版社を通してでしか読者とつながれなかったんですが、ここ数年で、SNSによって「読者と直につながる方がいいんじゃない?」と考える人が増えています。

出版社を通せば、自分で契約周りのことなどに対応する必要はなかったんですが、SNSなどでマンガ家が自由に作品を投稿できるようになると、多数の人とマッチングする機会が増えます。チャンスが増える反面、さまざまなルールに対応しなければならなくなる、ということでもあります。クリエイターが十分に力を発揮するために、面倒な作業を我々が請け負って、彼らにとってより良い環境を作りたいという想いからコルクを立ち上げました。

スクリーンショット: 株式会社コルクのWebサイト

今までにない事業ですね!著作権という切り口ではどのようなサービスを行っているんですか?

分かりやすく会計ソフトに例えてみましょうか。以前は会計ソフトもパッケージソフトのライセンスを1回売って終わり、という形態が主流でした。しかし、新しく出てきたクラウド会計ソフトのサービスはSaaS(Software as a Service)として、売り切り型ではなく継続的なサービスとして提供されています。これを著作権で考えてみると、出版社のマンガ雑誌や単行本の売り方は売り切りタイプです。一方、私たちは著作権をクラウド会計ソフトのようにSaaS的な形でサービス提供することを軸としています。

なるほど!著作権のSaaSとは初めて聞きました。

これまで、著作権がサービスとして多面的に運用されているのは限られた一部の巨大ブランドだけでした。しかしこれからクリエイターがSNSを使って個人で活躍できる時代になると、そうした著作権の運用が、もっと小さい経済圏で行われる時代が来ると感じています。

著作権をSaaS的に提供していけばサブスクリプション型の課金が可能です。クリエイターに月数十万の収入が担保されればどうでしょう。常にお金のことを心配しながら創作活動をするのと、ある程度経済的な余裕を持ちながらチャレンジできるのとでは、メンタル面でも大きい差ですよね。創作のあり方も変わるのではないかと思います。

クリエイターはどうしても収入が不安定になりがちなので、自分の作品から定期的・継続的な収入が得られると、精神的な余裕が生れそうですね。

著作権をSaaS的に運用するって、どういうこと?

著作権の「運用」って、一般の人はあまりイメージがわかないと思うのですが、具体的にどんなことをされていますか?

SNSで濃いファンを集めて、マンガ家と読者が「共感」し合える濃いコミュニティを提供しています。読者にとっては、マンガ家がマンガを創作する過程が見れたり、直で話せたりといった、ただ作品やグッズを買うだけでは得られない体験ができます。

ただグッズを販売するのは、単なるグッズのロイヤルティビジネスです。しかし、これがファンコミュニティを作って、コミュニケーションと一緒にグッズを投げ込むとどうでしょう。グッズは一回買って終わりの「物」にとどまらず、「マンガ家を応援しながらここでしかできない体験ができる」という付加価値のあるサービスに変わります。

コルクも出版社も、「著作権を扱う」点では同じです。私たちは、著作権を売買ではなくサービスの形態に変えて運用していくとどうなるのかな?と思っていろんなことに挑戦しているんです。

スクリーンショット: コミチのWebサイト
マンガ家の「作る・広げる・稼ぐ」を支えるウェブプラットフォーム「コミチ」

自分が好きなクリエイターとコミュニケーションがとれるのは、ファンにとってはとても嬉しいサービスですね!コミュニティを作るには、マンガ家さんがSNSなどでフォロワー数を増やしていくことが重要だったりしますか?

フォロワーの数に意識が向きがちですが、それ以上に質が大事だと思っています。クリエイターには「フォロワーを増やすのではなく、いかに良いご縁を増やすかが大事」とアドバイスしています。

良いご縁を増やしていくには、自分が何者かをブレずに発信することが必要です。ファンは結婚相手ではありませんが、結婚相手を選ぶくらいの気持ちが大切かなと思います。

「著作権は守り過ぎてはいけない」の真意とは?

お聞きしたような環境変化が起こっている中で、著作権を守ることがますます大事になってきているかと思うのですが。

著作権を守ることはもちろん大切ですが、「過度に守る」のではなく、どう「運用」するかが大事だと思っています。なぜなら過度な保護は作品を流通させない方向に進む面があるからです。

「お金を払ってくれた人にしか絶対に使用を認めません」と「関係性を築くためだったら無料で見せます」というスタンスでは、どちらに拡散性があると思いますか?

間違いなく、後者ですね。

運用するというのは、たとえば、関係を築くためにある程度は無料で見せて、そこで繋がった人にサービスとして提供する、といったことです。

先ほどおっしゃったように、先にファン形成するということですね。

著作権が強固にありすぎると「何を作っていい、だめ」でクリエイターを縛り過ぎて、創作する土台を邪魔してしまいます。

エンターテイメントは心を潤すものです。僕たちはよく「魂の食い物」と表現しています。多くの人に読んでもらって多くの人の心を動かすためには、著作権を売り買いではなく運用の視点で考えることが大事で、その上で、どうやってクリエイターが儲かる形にしようかと常に考えています。著作権を守ることが大事というのは社会の一般論になっているかもしれませんが、社会のルールは刻々と変化しているので、現状に捉われないことも必要です。

そうですね。ですが、著作権が守られないとクリエイターが損をしませんか?

最初に創作したクリエイターに収入が戻ってくるような仕組みを作れば、損はしませんよ。
今後ブロックチェーンの技術が発達すれば、二次創作された作品が追いかけられるようになるでしょう。そこが精度高くチェックできれば、二次創作による収益の一部は元のクリエイターに還元される、ということも可能です。そうすれば元のクリエイターは自分の作品が真似されたとしても収入が入ってくる環境下で、のびのびと創作に打ち込めるんじゃないでしょうか。

作品が勝手に拡散されても元のクリエイターに収入が戻ってくれば、本人は「もっとみんなに見てほしい!」って純粋に思えますね。
発信できる環境が多様化しているからこそ、クリエイターを守るためには「著作権を守るべき」とおっしゃるかと思っていました。目から鱗です。

著作権が強固にありすぎると「何を作っていい、だめ」でクリエイターを縛り過ぎて、創作する土台を邪魔してしまいます。

「何でも著作権が!」って言われるとせっかくの楽しい瞬間に水を刺された気分になりますよね。

エンターテイメントは心を潤すものです。僕たちはよく「魂の食い物」と表現しています。多くの人に読んでもらって多くの人の心を動かすためには、著作権を売り買いではなく運用の視点で考えることが大事で、その上で、どうやってクリエイターが儲かる形にしようかと常に考えています。著作権を守ることが大事というのは社会の一般論になっているかもしれませんが、社会のルールは刻々と変化しているので、現状に捉われないことも必要です。

株式会社コルク代表取締役会長兼社長CEO 佐渡島庸平さん

デジタル時代にクリエイターが知っておくべき「権利を守る」こと

これからの時代、著作権などの知的財産をガチガチに守るよりもどう運用するか、ということが理解できました。そのうえで、具体的にクリエイターが自分の作品について契約を交わす必要がある際に、気をつけることを教えていただけますか。

契約締結上、著作権の扱いとしては、①「買い取らせてください」(買取)と言われる場合と、②「貸してください」(管理委託)と言われる場合の2つのパターンがあります。出版社との契約の場合、管理委託になることがほとんどですが、企業と契約する際に「買い取りしたい」と言われたら注意が必要です。最近「IP(知的財産)ビジネス」という言葉が盛んに叫ばれるようになりましたが、著作権がお金を稼ぐ手段になる時代へと突入しているからです。

「買い取りたい」と言われた場合、クリエイターにとってどういう影響があるのでしょうか。

自分が創った作品の著作権を買い取られると、お金を生み出す著作権を運用する権利も失ってしまいます。

平成30年12月30日施行された、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」において、著作権はクリエイターの死後70年運用できるようになりました。たとえば、現在20歳のクリエイターが80歳まで生きるとして、死後70年後も運用できるとしたら、130年間のお金を生み出す可能性の権利を持っているということです。

そんな重大な権利を何も考えずに渡してしまうと、自分の作品で稼ぐ権利も失うということですね。

そうです。なので「著作権のことはよく分からない」と言って思考停止してはいけません。

株式会社コルク代表取締役会長兼社長CEO 佐渡島庸平さん

やはり大切な権利ですね。著作権を守りつつうまく活用することが、ビジネスチャンスにもつながるということですね。

知的財産を幅広く網羅的に活用する仕組みを作ってビジネスで成功している企業もありますが、特別な工夫をしなくてもSaaS的な発想を取り入れれば、かなりいろんなことができるのではないかと思います。日本の著作権の法律は素晴らしいです。これほど個人が創り出すもので、守られている法律はないかもしれません。ぜひうまく活用できるよう、知識を身につけてください。