「独立すれば年収は上がるのか」は、開業を考える税理士にとって最も気になる点の一つです。ただ、開業税理士の年収を直接示す公的な統計はなく、ネット上の「平均2,000〜3,000万円」といった数字には根拠が示されていないものもあります。
本記事では、公的統計で分かる勤務税理士の年収と、開業税理士の年収が決まる仕組みを、顧問先数別の試算とマネーフォワードが開業税理士120名に行った調査で解説します。
この記事でわかること
●勤務税理士の平均年収(令和7年の公的統計)
●開業・社員・所属の3つの働き方と、収入の決まり方の違い
●開業税理士の年収が決まる式と、顧問先数別の試算
●開業税理士120名の調査からわかること
●開業1〜3年目の収入の考え方と、年収を上げる4つの準備
勤務税理士の年収は平均810.8万円
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、税理士の賃金(年収)は810.8万円です。令和7年の「賃金構造基本統計調査」をもとにした数字で、事務所や会社に雇われて働く人の賃金を表します。
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 賃金(年収) | 810.8万円 | 令和7年賃金構造基本統計調査を加工 |
| 平均年齢 | 42.2歳 | 同上 |
| 月の労働時間 | 150時間 | 同上 |
| 税理士の就業者数 | 63,850人 | 令和2年国勢調査を加工 |
※出典:厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)税理士」。job tagの統計データは、統計上の職業分類の都合で必ずしも税理士だけを表すものではない。
この数字は雇用されている人の賃金なので、開業税理士の事業収入は含まれません。勤務税理士が独立を考えるときは、「開業後にこの水準を何年目で超えられるか」が一つの目安になります。
開業・社員・所属:税理士の3つの働き方
税理士登録には、働き方に応じた3つの区分があります。年収の決まり方も区分ごとに異なります。
| 区分 | 働き方 | 収入の決まり方 |
|---|---|---|
| 開業税理士 | 自分の事務所を開いている | 事業の売上から経費を引いた所得。上限も下限もない |
| 社員税理士 | 税理士法人の社員(経営者) | 法人からの役員報酬。法人の業績と配分のルールで決まる |
| 所属税理士 | 他の税理士事務所や税理士法人に勤務 | 給与。経験年数、担当業務、事務所の規模で決まる |
税理士法人の社員になる道については、税理士法人の設立と法人化のメリットで解説しています。
開業税理士の年収は「顧問先数×単価−経費」で決まる
開業税理士の年収(事業所得)は、顧問料・決算申告料・スポット業務の報酬を合わせた売上から、家賃、人件費、ソフト代、税理士会費などの経費を引いた金額です。そのため、同じ開業税理士でも、顧問先の数と単価、職員を雇うかどうかで年収は大きく変わります。「開業税理士の平均年収」が情報源によって大きく違うのはこのためです。
年収(事業所得)=顧問先数×単価−経費
単価には顧問料・決算申告料・スポット業務の報酬を、経費には家賃・人件費・ソフト代・税理士会費などを含みます。
顧問先数別の年収の試算
次の前提で、顧問先数ごとの年収を試算しました。
試算の前提
顧問先の単価
法人の顧問先、1社あたり月額顧問料3万円、決算申告料15万円(年間の報酬51万円)
経費
一人で回せる20社までは売上の約30%。それを超えると職員を雇う前提で人件費を加える
| 顧問先数 | 売上 | 経費(前提) | 年収(事業所得) |
|---|---|---|---|
| 10社 | 510万円 | 150万円 | 360万円 |
| 20社 | 1,020万円 | 300万円 | 720万円 |
| 30社 | 1,530万円 | 600万円(職員1名を含む) | 930万円 |
| 40社 | 2,040万円 | 900万円(職員2名を含む) | 1,140万円 |
※編集部による試算。年収は税金・社会保険料を引く前の金額。実際の顧問料は顧問先の規模や業務範囲で大きく異なる。
この前提では、勤務税理士の平均年収(810.8万円)を超えるには、20社強の顧問先が必要です。さらに顧問先を増やすと職員を雇う必要があり、売上ほどには年収が伸びません。年収を上げるには、顧問先の数だけでなく単価と効率も上げる必要があることが分かります。
開業税理士120名の調査で分かったこと
マネーフォワードが開業税理士120名に行ったアンケート(「開業税理士の実態調査」)では、次のような結果が出ています。
開業税理士120名に聞いた開業の実態
7割超
開業を決めたときに目指した事務所像は「自由なライフスタイル」。「拡大志向」を大きく上回った
約8割
開業準備中の不安は「顧問先の獲得・営業活動」が最も多い
最多は紹介
開業後の顧問先の獲得方法は「知人からの紹介」が最多。次いで「税理士紹介サービス経由」
出典:マネーフォワード クラウド「開業税理士の実態調査」
開業税理士の多くは、年収を最大にすることより、働き方を自分で決めることを重視して独立しています。一方で、収入の土台になる顧問先の獲得には多くの人が不安を感じており、開業前から獲得の経路を用意しておくことが年収を左右します。
調査の全体は、資料「開業税理士の実態調査」で無料でご覧いただけます。
開業税理士の年収を左右する4つの要素
試算の式「顧問先数×単価−経費」のそれぞれを動かすのが、次の4つです。
| 要素 | 年収への効き方 | 主な打ち手 |
|---|---|---|
| 顧問先の数 | 売上の土台。開業直後はここが最大の課題 | 紹介の経路づくり、税理士紹介サービス、Web集客 |
| 単価と業務の範囲 | 同じ件数でも売上が大きく変わる | 料金表の設計、相続・資金繰り支援など単価の高い業務 |
| 経費と人件費 | 一人で回せる件数を超えると人件費が加わる | クラウド会計・証憑のデータ化で処理量を減らす |
| 地域と顧問先の業種 | 顧問料の水準や競合の数が変わる | 業種を絞った専門性、地域の金融機関や商工団体との関係 |
集客の方法は税理士の集客方法、料金表の作り方は税理士の顧問料の料金表、単価の高い業務は税理士の財務コンサルティングで解説しています。
開業1〜3年目の収入の考え方
開業直後は、前職からの引き継ぎや知人の紹介を除けば、顧問先がほとんどない状態から始まることが多くあります。決算申告料は顧問先の決算月まで入らないため、契約が取れても売上が入るまでには時間差があります。
1年目顧問先を獲得する期間
個人の確定申告などのスポット業務も受けながら、生活費と事務所の運転資金を自己資金や創業融資でまかなう
2年目年間の売上が見えてくる
1年目の顧問先の決算申告料が入る。紹介が紹介を呼ぶ流れをつくれるかが分かれ目
3年目体制を決める時期
一人で回せる件数に近づき、職員を雇うか、単価を上げて件数を絞るかを決める
開業資金と融資については、税理士の独立開業時の融資で解説しています。
開業後に年収を上げるための4つの準備
STEP 1開業前に顧問先の当てをつくる
知人・金融機関・同業者など、紹介を受けられる経路を開業前から洗い出しておく
STEP 2料金表を先に決める
最初の顧問先で単価を下げると、後から上げるのは難しい。業務の範囲と料金を開業前に決めておく
STEP 3一人で回せる件数を増やす
クラウド会計や証憑のデータ化で記帳の処理量を減らすと、職員を雇う前に担当できる顧問先が増え、試算表の経費を下げられる
STEP 4単価の高い業務を持つ
相続、資金繰り・融資支援、経営計画の作成など、申告以外の業務で単価を上げる
開業の手順全体は税理士の独立開業ガイド、独立のリスクは税理士が独立するメリットとリスクもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q.開業税理士の年収の中央値はいくらですか?
A.開業税理士の年収の中央値を示す公的な統計はありません。開業税理士の年収は顧問先数と単価で大きく変わるため、平均よりも、自分の目標とする顧問先数で試算する方が役に立ちます。
Q.開業すると勤務時代より年収は上がりますか?
A.上がるかどうかは、顧問先を何社、どの単価で獲得できるかで決まります。本記事の試算では、勤務税理士の平均年収(810.8万円)を超えるには、20社強の法人顧問先が必要でした。
Q.税理士は独立すると食えないのですか?
A.必ずしもそうではありませんが、顧問先が増えるまでの期間の資金の備えは必要です。詳しくは税理士は独立しても食えない?で解説しています。
まとめ:開業税理士の年収は、顧問先数と単価の設計で決まる
勤務税理士の平均年収は810.8万円(令和7年)です。開業税理士の年収には上限も下限もなく、「顧問先数×単価−経費」で決まります。開業前に顧問先の獲得経路と料金表を用意し、一人で回せる件数を増やす仕組みをつくっておくことが、独立後の年収を左右します。
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