大手監査法人に勤務する公認会計士は、その責任の重さもあり、業務量が多いといわれています。そのため、公認会計士の中にはワークライフバランスを見直すために転職を考えている方もいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、ワークライフバランスを重視する公認会計士へ向け、転職の際に知っておきたいことや検討しておくと良いことをまとめました。
目次
そもそもワークライフバランスとは
最初に、ワークライフバランスとは何かを考えてみましょう。内閣府の「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」において、ワークライフバランスについて以下の提言がされています。
「誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない」
出典:仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章| 内閣府
すなわち、ワークライフバランスとは、仕事とプライベートの双方、どちらかを犠牲にすることなく両立させ、プライベートにおける自己啓発が仕事にも良い影響をもたらすなど、仕事とプライベートのあいだの好循環を目指すものといえます。
また、公認会計士は転職が比較的容易な職業です。公認会計士にとってのワークライフバランスとは、長期にわたってのキャリアプランを決めてしまうことではなく、数年先くらいまでの働き方を考えることを意味するでしょう。
ワークライフバランスを求める公認会計士の背景
ワークライフバランス実現のため転職を考える場合には、自分がなぜ転職したいと思っているかを整理し、今後のキャリア形成や転職先のイメージを明確にしておくことが必要です。ワークライフバランスを求める公認会計士の背景として、一般に以下のようなものが挙げられます。
大手監査法人での業務時間が長すぎると感じる
ワークライフバランスを求める公認会計士の背景としてまず多いのが、大手監査法人の業務時間が長すぎると感じることです。多くの場合、公認会計士のファーストキャリアは監査法人です。監査法人は、監査という仕事の責任の重さ、あるいは大手監査法人の手続きの厳格さなどを理由に、業務時間がどうしても長くなる傾向があります。そのため、健康面への配慮やプライベートの時間確保を目的に転職を考える人がいます。
育児・介護などをする必要がある
育児や介護をする必要があることも、ワークライフバランスを求める背景として挙げられます。育児や介護は、保育園の送り迎えや、訪問ヘルパーが介護してくれない時間帯の対応など、決まった時間での対応が必要となるケースがほとんどです。そのため、単に時間的な余裕が必要というだけではなく、一日のうち決まった時間帯は業務ができなくなることがあります。
別のキャリアの準備をしたい
別のキャリアの準備をしたい、ということがワークライフバランスを求める背景となることもあります。大手監査法人で仕事中心の生活を送ってしまうと、別のキャリア準備のための自己研鑽や副業の時間確保が難しくなってしまいます。監査法人以外のキャリアを考える公認会計士にとっては、自己研鑽・副業などを通じてほかの経験を得たい、自己実現をしたいと考える場合もあるでしょう。副業の具体例としては、たとえば企業経理の業務を受託するなどの業務経験を積むことが挙げられます。
ワークライフバランスが取れている職場の条件
ワークライフバランスが取れている職場には、どのような条件があるのかを見てみましょう。
業務の進め方がある程度決まっている
ワークライフバランスが取れている職場の条件として、まず業務の進め方がある程度決まっていることが挙げられます。業務の進め方が決まっていれば、イレギュラーが少ないことから、業務時間の見通しが立てやすくなるためです。反対に、新規事業を扱う部署など業務の進め方が定まっていない環境では、見通しが立たずワークライフバランスが実現しにくくなるでしょう。
勤務時間の調整がしやすい
勤務時間の調整がしやすいことも、ワークライフバランスが取れていることの条件といえるでしょう。
フレックス制や時短勤務の制度があれば、勤務時間の調整が必要な人にとっては働きやすくなります。また、育児休暇や介護休暇など、必要に応じて取得できる休暇の制度もワークライフバランスの改善に役立ちます。これらの制度は、特に育児や介護などで一定の時間帯の勤務が困難になる人にとっては重要なポイントだといえます。
テレワークできる環境がある
テレワークできる環境は、ワークライフバランスの取れている条件として重要です。内閣府「仕事と生活の調和推進のための行動指針」においても、企業が取り組むべき内容として以下の記述があります。
「育児・介護休業、短時間勤務、短時間正社員制度、テレワーク、在宅就業など個人の置かれた状況に応じた柔軟な働き方を支える制度の整備、それらを利用しやすい職場風土づくりを進める」
出典:仕事と生活の調和推進のための行動指針| 内閣府
たとえば会計業務なら、転職の面接時にクラウド会計導入などのテレワーク環境整備ができているかを聞いてみるのもよいでしょう。
おすすめの転職先とその特徴
ワークライフバランスの実現が比較的容易な公認会計士にとって、おすすめといえる転職先とその特徴を解説します。
事業会社の経理財務
公認会計士の資格が大いに活かせる事業会社の経理財務職は、ワークライフバランスを実現しやすい転職先としてまずおすすめです。決算期や四半期決算期は忙しくなることもありますが、日常の業務については仕組み化がうまくできれば、残業もそれほど多くなりません。
中小の監査法人
現在、大手監査法人に勤務しているなら、中小監査法人への転職も考えられます。中小監査法人は、大手監査法人と比較すると社内で作成しなければならない文書が少ないなど、業務量が少ないと感じるでしょう。また、中小監査法人では、大手監査法人では禁止されている副業が認められることもあり、柔軟な働き方の実現がしやすいです。監査業務を引き続き行えるため、あえて新しいことを始める必要がない人にとってもメリットがあります。
中小の税理士法人
公認会計士が転職可能な税理士法人は、大手は業務時間が長いことが多いものの、中小は比較的穏やかなところもあります。税理士業務はある程度ルーティンワークにできるため、業務に慣れれば繁忙期となる2月~5月以外はワークライフバランスを取りやすいです。ただし、中小税理士法人でも業務時間が長いところはあり、ワークライフバランスの取りやすさは法人や事務所によって異なるのが実情です。職場の状況やフレックス制の有無などの制度面を確認しながら見極めていく必要があります。
独立開業
転職とは異なりますが、独立開業もワークライフバランス実現のための選択肢となり得ます。独立開業すれば仕事の件数や内容などを、自身で自由に調整ができます。非常勤の監査業務を受託するなど、公認会計士の資格を活かした独立のあり方も検討できます。
ワークライフバランス重視で転職した際の年収の変化
ワークライフバランス重視で転職した場合、年収はどのように変化するのか。たとえば、30代後半の公認会計士なら、転職先の年収相場は以下のようになるでしょう。
転職時にはキャリアプランも検討しておく
ワークライフバランス実現のために転職する際には、中長期的なキャリアについても考慮しておく必要があります。転職先の組織で出世していくのか、あるいは将来は独立開業も見据えるのかなど、なりたい自分をイメージしておきましょう。また、転職活動の面接にワークライフバランスのみを求める姿勢で臨んでしまうと、「仕事に主体的に取り組んでくれないのでは」と疑われる可能性もあります。転職先との適切なマッチングを図るためにも、自分がやりたいことなどをある程度整理しておく必要があるでしょう。