税理士事務所を開業するかどうかを悩む要因として、顧客獲得・営業への不安が挙げられます。特に、顧客ゼロからのスタートで事務所経営が上手くいくのか不安、という方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、開業5ヶ月で150件の受注実績を持つ税理士法人アーリークロス様の事例をもとに、開業税理士の営業時のポイントや営業トークについて詳しく解説します。
目次
税理⼠業界の営業課題
税理士事務所を開業し、顧客を獲得していくためには、税理士業界における特有の営業課題を把握しておく必要があります。
顧客獲得が難しい理由と解決策
ここでは、税理士事務所の営業課題とその解決策を見ていきましょう。
税理士事務所の営業課題(顧客獲得が難しい理由)
税理⼠業界には、他の業種にはない特有の営業課題があります。それは、営業時の説明が長くなり伝わりにくいということです。個人事業主や企業の経営者、経理担当などであれば、ほとんどの人が税理士の仕事や提供するサービスについて知っているでしょう。税理士のサービス認知度が高いことは、営業時の大きなメリットになりますが、同時にデメリットにもつながります。なぜなら、サービスの差が理解されにくいからです。
顧客を獲得するには、競合事務所との違いが何かを理解してもらわなければなりません。 しかし、多くの人が「税理士事務所の仕事やサービスはどこも同じ」と考えているため、他の事務所との違いを理解してもらうには時間がかかります。したがって、営業時に説明が⻑くなり、顧客に話が分かりづらい・伝わらないという事象が発生してしまいます。これが、税理士業界の営業の難しさであり、税理士のリプレイスが難しい要因でもあります。
解決策
重要な解決策として「経営者に興味をもってもらい、耳を傾けてもらうこと」が挙げられます。
経営者は多忙なため、興味のない話に耳を傾ける時間は少ないでしょう。一方、「この税理士の話はおもしろい」「自社にとって得になる」と思ってもらえれば、しっかりと話を聞いてくれるはずです。面談などの短時間で、話に興味をもってもらう必要があるため、端的で分かりやすい説明が必要不可欠です。
また、サービスの差が理解されにくいという営業課題に対する解決策としても、端的で分かりやすい情報の提供は重要です。例えば「クラウド会計を使えば、試算表作成が今までの半分の時間でできますよ」という具体的な説明をすれば、顧客にとってどのようなサービスが提供され、どのようなメリットがあるのか、容易に理解してもらうことが可能です。
⽿を傾けてもらう・興味を持ってもらうために、端的に分かりやすい情報提供をすることが重要です。
顧客⾯談時のポイント
営業課題があるなかで顧客を獲得するために押さえておきたい、顧客⾯談時のポイントは次の2つです。
信頼関係の構築
顧客獲得のために重要なのは、顧客との信頼関係を築くことです。まずは顧客から何でも相談してもらえる存在になるために、信頼関係を構築します。信頼関係を構築するには、以下のことを意識して面談を行います。
1.相手に良い印象を与える
相手に良い印象を与えるために、次のようなことを心がけます。
ラポールを構築する
ラポールとは、顧客との相互の信頼関係や⼈間関係の⼟台となるものです。そのため、面接時には、顧客とラポールを構築することが必須です。ラポールを形成する⼿法として、相手のペースに合わせる「ペーシング」「バックトラッキング(オウム返し)」などがあります。
笑顔
税理士だけではありませんが、顧客と面談をする場合は笑顔が重要です。税理士との話ということで、緊張する顧客も少なからずいます。顧客の緊張をほぐし、好印象を与えるためにも、笑顔で接する必要があります。
相⼿を応援しているマインドを持つ
顧客に良い印象を与えるためには、相手を応援しているマインドを持つことが必要です。問題点を指摘するだけでなく「こうしたらもっと良くなる」「相談事を解決すると会社が成長する」といった、応援する気持ちを持って話をすれば、相手にも伝わり、良い関係を築くことができます。
相⼿に興味を持つ
顧客との面談では、相手の情報を少しでも引き出すことが重要です。そのため、相手に興味を持って接する必要があります。相手に興味を持って接すると、相手に良い印象を与えることができます。
2.理解しやすい話をする
顧客に話を分かってもらいやすくするために、次のことを心がけましょう。
過去・現在・未来と時間軸・事実と動機を意識する
顧客から何でも相談してもらえる存在になるために、信頼関係を構築することが必要です。そのためには、分かりやすく、しかも正確な回答を心がけなければいけません。相手に何が必要なのかを強く意識づけるためにも、時間軸や事実と動機を意識して相談を受けます。
抽象化・具体化して話す
抽象化・具体化して話すことも重要です。抽象化・具体化して話すことで、相談の答えを顧問先に理解してもらいやすくなり、より良い信頼関係を構築することができます。
5W3H(What、When、Who、Where、Why、How to、How many、How much)を意識する
5W3Hとは、ビジネスの面談で重要な次の8つの事項です。
- 「What 何を」(課題)
- 「Why なぜ」(動機)
- 「Who 誰に」(対象)
- 「When いつ」(時期、時間帯)
- 「Where どこで」(場所)
- 「How どのように」(手段)
- 「How Many どれくらい」(規模)
- 「How Much いくら」(価格)
5W3Hを意識して話すことで、相手が理解しやすくなります。
面談相手に応じたカスタマイズ
税理士が面談する相手として、大きく「⾒込顧客」「紹介元との面談・交流会」の2つがあります。面談相手によって話し方などをカスタマイズすることで、より効果的に顧客を獲得できます。
見込顧客
見込顧客との面談では、顧客側に経営や経理に対する明確な悩みがあります。まずは、顧客の話をしっかり聞くことが重要なので、こちらから話す分量は少なめにしましょう。課題解決の⽅法として端的な情報提供を⾏い、顧客の話す分量を多くします。
また、見込顧客との面談では、顧客の課題を見つけるための質問を行わなければなりません。顧客の課題とは、例えば「資金調達がうまくいかない」「経営状況の把握ができていない」「出口戦略をどうすればよいか」といったことです。顧客の課題が分かれば、融資支援やクラウド会計の導入、退職金の準備・M&Aなど、課題に対する解決策や税理士が協力できることを提示できます。
そのため、見込顧客に質問する際には、5W3Hを意識するのがポイントです。具体的な質問内容としては、次のようなものがあります。
- 事業内容
- 会社の歴史
- 会社の名前の由来
- どうしてその事業を⾏ったのか?
- 事業の強み
- 営業⽅法など
紹介元との面談や交流会
紹介元との面談や交流会などは、自分(税理士事務所)の魅力をアピールする場です。そのため、こちらの話す分量を多くし、情報提供やセールストークなどを行います。紹介元との面談や交流会でアピールが成功すれば、見込顧客からの相談増加につながります。
受注率アップに向けた取り組み
税理士が営業活動で受注アップを成功させるには、以下のような取り組みを行う必要があります。
失注理由に多い「4つの不」への対策
顧客との⾯談がすべて受注に結びつけば良いですが、当然、受注に結びつかないケースも出てきます。そのような場合は、失注した理由を分析・分類することで改善につなげなければなりません。顧客が税理士事務所などへの依頼検討を⽌める理由は、大きく「不信」「不要」「不適」「不急」の4つあるといわれています。これを「4つの不」といいます。
営業上の壁を4分類(4つの不)で整理し、それぞれに対策を⽤意することで対策の網羅性が⾼まり、顧客の検討中⽌を避けやすくなります。4つの不とそれに対する一般的な対策として、以下のものがあります。
不信の壁
不信の壁とは、簡単にいうと「あなたは信⽤できない」という壁のことです。
税理士事務所の場合、基本的に不信になることはありません。ただし、面談での話の中で、顧客に興味を持ってもらえないことはあります。対策としては、具体的に端的に情報提供を行うことで、顧客に興味を持ってもらえるようにします。
不要の壁
不要の壁とは、簡単にいうと「それは私には必要ない」という壁のことです。
個人事業主や法人には、税務申告が必要です。特に法人の場合、自社で申告書を作成することは難しいため、税理士が不要ということはありません。ただし、すでに税理士がついている場合は、不要の壁にぶつかることがあります。
対策としては、「顧問契約をすれば会社が成⻑できる」と思ってもらえる情報提供を行うことです。例えば、個別具体的な課題に対する情報提供や、企業型DCのように、少し難しいが⼀般的な誰でも当てはまり、得をする情報の提供を⾏います。
不適の壁
不適の壁とは、簡単にいうと「それは私には適切ではない」という壁のことです。
税理士事務所の場合、ここでいう「適切ではない」とは、価格面のことが多いです。予算をオーバーしていたり、今の税理士よりも顧問料が高かったりするなど、価格面の理由で顧問契約が流れてしまうことがあります。また、サービス面においても、自社にはオーバースペックのものと判断されることもあります。
対策としては、効果を明確にすることです。価値が⾼いサービスを受けたほうが、会社の成長につながることに気づいてもらうなど、顧客の視点を変え、効果に注目してもらうようにします。
不急の壁
不急の壁とは、簡単にいうと「今すぐ買う必要がない」という壁のことです。
税理士事務所の場合は、顧客に「今すぐに顧問契約しなくても、影響はないだろう」と思われ、顧問契約されないことを指します。例えば、個人事業主の場合は、自分で確定申告できるので、今すぐには顧問契約が必要ないと考えます。また、法人の場合は、決算のタイミングで顧問契約したい、決算が終わってから税理士を切り替えたいと考えることが多いです。
対策としては、できるだけ早く顧問契約をしたほうが、会社にとってプラスになることを伝えることです。「決算後ではなく、今決算において決算書を作るところから当税理士事務所のアドバイスを受けたほうが、経営にプラスになる」ということをしっかりと伝えます。
顧客と面談をしている際は、4つの不のどれかに当てはまらないように注意していくことが重要になります。
営業トークの事前準備
顧客との面談では、4つの不に該当しないことが重要です。そこで、あらかじめ顧客のことを調査し、営業トークを準備しておく必要があります。「今、最もその顧客に刺さりやすいセールストークは何か?」を考え、 顧客に興味を持ってもらうことが重要です。さらに、そのトークに納得してもらわなければなりません。
例えば、クラウド会計(会計ソフト)を導入していない顧客の場合、次のような営業トークになります。
「クラウド会計を使えば、試算表作成が今までの半分の時間でできますよ」
また、現在多くの事業者が興味を持っていることといえば、電⼦帳簿保存法とインボイス制度への対応です。電⼦帳簿保存法とインボイス制度への対応が必要な場合であれば、「クラウド会計やDXが必要」というロジックで営業トークをすることが可能です。
クラウド会計やDXでの営業トークでは、過去と現在、未来を比較して「いつやらないといけないのか(結論として今やらないといけない)」に重点を置いてトークする必要があります。
税理士の営業トークでは、クローズドな質問が重要です。例えば、DXなら「今までのやり⽅に⼯数を増やして対応する」もしくは 「DXして⼯数を削減して対応する」の2択を示し、どちらを選ぶのかを決めてもらいます。また、過去の歴史をもとに「いつやるのか?」という質問を問いかけます。このことで、顧客の危機感が高まり、説得力も増します。
このように、顧客に合わせた営業トークを事前準備することで、受注率アップにつながります。
営業のポイントを抑え、顧問先へ価値提供を
営業とは顧客に対して「課題解決」を行うことです。税理士にとって、課題解決の対価が料金(顧問料など)であるため、価値を感じてもらえるような案内やサービスを顧客に提供する必要があります。
顧客にしっかりとした課題解決策を提示するためにも、まずは顧客の事業についてしっかりヒアリングをして、共感をします。そのうえで、どんな課題を解決すれば顧客の事業を前に進めていけるかを考えます。最後に、その課題のソリューションをしっかりと顧客に伝えることが重要です。
このような意識で顧客との面談に臨んでみてはいかがでしょうか?
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