税理士が料金表を準備すべき理由とは?設定方法や案内のポイントも解説。

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税理士が料金表を準備すべき理由とは?設定方法や案内のポイントも解説。

税理士事務所を開業する場合、サービス内容及び料金を設定する必要があります。料金表を用意しておくことで、お客さまへの案内もスムーズに行うことができます。本記事では、料金表の必要性や顧問料の設定方法、案内のポイントについて解説していきます。

料金表はなぜ必要なのか

開業税理士のうち、明瞭な料金表を用意している事務所は決して多くありません。

専門性の高い税理士業界については一般的に馴染みが薄いうえ、クライアントの事業内容や組織体制、経理レベル、経営者のマインドなどのさまざまな要素によって、税理士としての業務量も大きく左右されます。そのため、自分自身の業務量を的確に反映し、なおかつクライアントにとってもわかりやすい料金体系を追求することは困難といえるでしょう。

そのような背景から、多くの事務所では料金表自体を設けないか、あるいは「顧問料〇万円〜」のように目安となる金額を掲載し、具体的な金額は初回面談などを通じて個別に見積りを行うケースが一般的です。

このように税理士にとって料金表を用意することは容易ではないものの、料金表を作成することにより、下図のようにさまざまな効果やメリットが期待できます。

料金表を作成するメリット

新規顧客を獲得するときだけでなく、既存顧客に対するサービス内容や業務量に変化が生じた際にもスムーズな価格交渉が可能となるため、料金表の導入を積極的に検討しましょう。

条件のミスマッチを未然に防ぐ

見込み顧客が新たに税理士を探す場合、サービス内容や料金体系を比較検討するケースが少なくありません。
特に近年ではインターネット上で税理士を検索する機会も増加しているため、初回面談の前にあらかじめ候補先となる税理士事務所をいくつか選定するケースが一般的です。

そのため、料金表を作成し自らのホームページなどへ掲載することは、見込み顧客が複数の税理士事務所の料金体系を比較する際の手助けとなります。もし見込み顧客にとって、税理士の顧問料やサービス内容などが自らの希望条件に合わない場合には、問い合わせ前の段階で候補から除外されます。

間口を広げる方が新規顧客獲得のチャンスが拡大するという考えもありますが、時間などのリソースは有限であるため、条件のミスマッチを未然に防ぎ、成約に至る可能性の高い案件に注力することは税理士とクライアントの双方にとって有益といえるでしょう。

新規顧客への説明資料

料金表やサービス内容をメニュー化することは、初回面談などで新規顧客に対して説明を行う際にも役立ちます。見込み顧客の多くは、税理士報酬の価格設定だけでなく、それに見合ったサービスが受けられるかどうかを重視します。そのため、税理士は自らの料金体系や提供する業務内容に関し、あらかじめ説明資料として用意することで、税理士報酬とサービス内容のバランスが適切であることを的確に発信することが大切です。

また、税理士事務所を開業した直後においては、料金表を作成することによって、自らの強みの棚卸しや、自分自身のサービス内容を客観視することにもつながり、売上あるいは資金繰り計画の策定やビジネスプランの構築を行う際にも有益です。自らのリソースやキャパシティを踏まえて売上や利益目標を設定し、それらを達成するために必要な料金体系やサービス内容、ターゲットとなる顧客層を検証しましょう。

適正料金への値上げ交渉もスムーズに

中小企業や個人事業主と顧問契約を締結する場合、時間の経過とともに顧問先の事業内容や売上規模が変化し、それに伴って税理士としての業務範囲や業務量が増減するケースも多いです。そのようなケースでは顧問料変更の交渉が必要となる場面もありますが、料金表などの基準がなければ価格交渉が思うように進展しないこともあります。税理士事務所としてあらかじめ料金表を作成し、事業規模が拡大して仕訳件数やチェック工数が増加した場合や、自計化から記帳代行へ切り替わった場合などには、料金表にしたがってスムーズに値上げ交渉を行えるように仕組みを整えましょう。

また、料金表の作成に加え、通常の顧問料に含まれる業務内容を明文化することをおすすめします。
税理士業務についてはサービス内容に対するクライアント側の認知度が低く、税理士としての業務範囲も十分に理解されていないケースが多いため、「顧問料に含まれる業務」と「別料金となる業務」が不明確な場合にはトラブルへ発展しやすくなります。業務範囲に対する認識誤りによって信頼関係にヒビが入ってしまわないように、顧客目線に立って、料金表や業務メニューをわかりやすく作成することを心掛けましょう。

料金の設定事例

「モノ」としての商品を持たない税理士業務の場合、実際の業務負荷や作業工数を適切に料金表へ反映することは容易ではありません。他の税理士事務所における料金表の事例を参考に、自分自身の料金体系の構築や見直しを行い、事務所としての収益力や効率性の向上に取り組みましょう。

売上規模・仕訳件数に応じた設定

税理士事務所が作成する料金表では、顧問先の売上規模や仕訳件数、あるいはそれらを組み合わせた形式によって顧問料などを設定するケースが少なくありません。

たとえば、税理士事務所側で記帳代行業務を請け負う場合には、1仕訳あたり50~100円程度で料金設定する事例もあります。ただし、売上規模や仕訳件数に関しては、事業年度ごとに変動する可能性があるため、顧問料を改定する頻度についてもあらかじめ検討し、クライアントとの間で認識の食い違いがないようにきちんと共有してください。

なお、マネーフォワード クラウドでは、税理士事務所における料金表の必要性や、具体的な設定方法についてご紹介しています。料金表のサンプルデータについても提供しておりますので、ぜひ以下のリンクよりご参照ください。

顧問先との業務分担を明確に

税理士事務所が作成する料金表においては、税理士自身が提供するサービスの範囲や業務量に応じ、報酬額を細かく変動させるケースもあります。さまざまな業務フローを想定した料金体系を設定することで、業務量に見合った報酬を得やすくなるだけでなく、税理士が行う業務とクライアントが行う業務の線引きが可能となり、役割分担の明確化にもつながります。
たとえば、自計化しているクライアントに比べ、記帳代行業務を請け負う場合には顧問料を増額するなど、税理士としての業務負荷と報酬額が釣り合うように料金表を作成しましょう。このほかにも、面談頻度によって月額顧問料を変動させるケースや、従業員規模に応じて年末調整業務などの報酬を変動させる事例も少なくありません。

適切な料金体系を導入することは、税理士事務所としての業務量に見合った報酬を得ることだけでなく、税理士自身が希望するメニューへと顧客を誘導する「導線」としての役割も期待できます。たとえば、記帳代行と自計化における価格差に限らず、面談頻度や面談形式(訪問型あるいは来社型、オンライン対応など)によって料金が異なれば、よりお値打ちに感じられるものが選ばれやすくなるはずです。クライアントに選択してほしい内容を料金表に反映することで、顧客満足度も高めつつ、税理士自身も希望する条件によって顧客を獲得できるチャンスが広がります。

このように、的確な料金体系の導入は効果的な導線を整備することにも直結するため、税理士として顧客に提供したいサービスの内容や具体的なターゲット像をイメージし、自分自身の事務所に合った料金表を追求しましょう。

見込み顧客への案内のポイント

税理士が見込み顧客との面談を行う際には、事務所としての料金体系を説明するだけでなく、下図のようなポイントを意識することが重要です。

見込み顧客への案内のポイント

報酬額の妥当性に加え、自らが提供するサービスの発信や信頼関係の醸成に役立てられるよう、丁寧なコミュニケーションを心掛けましょう。

お客さまに契約価値を感じていただく

税理士業務全般に対する認知度は低く、頻繁に顧問税理士を変更する事業者もさほど多くないことから、見込み顧客が税理士を比較検討する際には、具体的なサービス内容よりもコスト面が重視される傾向にあります。

ただし、実際には税理士事務所によってサービス内容やセールスポイントは異なるため、税理士は低価格競争に身を置くよりも、自らの価値や強みをクライアントに対して丁寧に訴求することで「コストに見合った料金である」と実感してもらうことが重要です。初回面談時から見込み顧客のニーズについてしっかりとヒアリングを行い、税務会計の専門家としてどのようにサポートが可能なのかわかりやすく伝えましょう。

また、初回面談にたどり着くためには、ホームページなどの媒体を通じて事務所情報を発信する際にもさまざまな工夫が欠かせません。単に料金表を通じて顧問料を提示するだけでなく、税理士としての強みも合わせて発信し、価格以外での魅力についても適切に訴求できるように設計することをおすすめします。

成約を勝ち取るためには、料金表によって税理士報酬の金額や内訳を明確にすることに加え、専門家としてコストに見合ったサービスの提供が可能であることを丁寧に伝えることで、見込み顧客からの信頼や納得感を獲得しましょう。

面談後のフォロー

見込み顧客と初回面談を行った場合には、面談後のフォローについても十分に行うように心掛けましょう。面談終了後においては、税理士報酬の見積りに加えて個別の提案資料を送付するなど、個々のクライアントに寄り添う姿勢を示すことも効果的です。

また、見込み顧客の都合などで検討期間として日数が空く場合や、残念ながら成約に至らなかった場合でも、何らかの形で接触機会を設ける方法も有効です。そのような場合には、面談時に話題に上がったトピックや関連性の高い内容を取り上げ、ニュースレターなどの形式で情報を提供する方法が考えられます。直ちに成約に至らない場合でも、接触機会を確保することによって親密さが増し、いざ税理士が必要になったタイミングで問い合わせにつながる可能性を高めることができます。

面談の最中だけでなく、面談後のアフターフォローについても徹底し、顧客獲得のチャンスを拡大できるように努力しましょう。

お互いの認識を揃えることで、継続的な取引が可能に

税理士が自らの料金表やメニュー表を作成することで、事務所としての報酬体系をわかりやすく発信できるため、新規契約時はもちろん、契約更新を行う際にも契約内容や報酬の見直しを定期的に行いやすくなります。

また、料金表に基づいて事業計画を策定すれば、税理士事務所としての中長期的な事業成長にも役立てることが可能です。明瞭でわかりやすい料金表や業務メニューを用意し、クライアントから「選ばれる税理士」を目指しましょう。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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