税理士登録をしないという選択もあり?登録をしていない人の理由とは。

税理士登録

税理士登録をしないという選択もあり?登録をしていない人の理由とは。
税理士試験に合格しても、税理士登録をしないで活動している方もいます。その人たちはなぜ、税理士登録をしないという選択をしたのでしょうか。本記事では、税理士登録をしていない人の理由や税理士登録をしないことで就職、転職で不利に働くのかなどについて詳しく解説していきます。

税理士登録をしない人の理由とは

税理士試験に合格し、登録に必要な実務経験期間を満たした場合でも、ただちに税理士登録を行うとは限りません。登録するメリットや必要性を慎重に検討した結果、税理士登録をせずに一旦保留とする場合もあるでしょう。

具体的には下図のような背景から、税理士登録をしないケースが考えられます。
 

 

独立する人が減少している

近年では、税理士登録をしてすぐに独立するケースが減少傾向にあります。

昨今は不安定な日本経済に対する懸念から安定志向が高まり、大手企業での勤務を希望する社会人が増加しています。その一方で、起業や会社設立に対するモチベーションは低下し、国内の個人事業主や中小企業の数は年々減少しています。

それに対して、税理士登録者数は過去60年にわたって増加し続けていることから、将来の見通しが立てづらい税理士業界の現状を鑑みて、独立開業を躊躇するケースが増えつつあると考えられます。

また、税理士登録者だけでなく税理士法人の数も増加傾向にあり、全国各地に支店を開設するなど、一般事業会社に引けを取らない事業規模を有する税理士法人も増えています。まとまった規模の税理士法人で勤務することで、社内での出世の道を目指すこともでき、独立開業後では従事できないような大規模なクライアントや案件に携わることも可能です。

このような背景から税理士法人の職員として勤務することのメリットが拡大しており、独立開業以外の選択肢が広がることも影響していると考えられます。

なお税理士業界で働く場合には、税理士登録の有無に関わらず、スキルや経験を重視して役職を与える税理士事務所や税理士法人も多いため、そのような勤務先では税理士登録自体が必須条件とはならないケースもあります。

さらに社会全体で資格取得を「キャリア形成の一環」として捉える傾向も相まって、必ずしも税理士資格が「一国一城の主」を夢見て目指す対象ではなくなったことも要因として挙げられます。これらのいくつかの要因によって税理士の独立開業に対するモチベーションは低下傾向にあり、特に税理士登録とともに独立開業するようなケースは減少していると予測されます。

税理士登録には費用がかかる

税理士登録を行うためには申請書類を用意するだけでなく、登録に必要な費用を負担しなければなりません。

具体的には税理士登録時に、以下の費用を支払う必要があります。

■全国共通

  • 登録免許税:6万円
  • 登録手数料:5万円

■税理士会

  • 入会金:4万円
  • 会館建設費:2万円
  • 税理士制度発展募金:1万円
    ※上記費用に関しては、各税理士会によって金額が異なる場合もあります。

■その他諸費用

  • 登録研修時テキスト代等:1万円程度
  • 各税理士協同組合連合会費用等:数千円
  • 名札代:実費

税理士登録のためには全体で20万円程度の費用の支払いが必要であり、勤務先が負担しない限りは登録者自らが支払わなければなりません。

また、登録時だけでなく、所属する税理士会やその支部に対する年会費も発生します。具体的な金額は各税理士会によって異なりますが、約10〜15万円程度で会費が設定されているケースが多く、税理士登録を行った場合にはランニングコストとして毎年支払うことになります。

税理士登録を行うタイミングは申請者の任意であるため、これらの「税理士登録に関連したコスト」が「登録するメリット」を上回る場合には、登録自体を保留する判断も合理的といえます。

税理士登録をしないとできないこと

税理士登録をしないという選択肢が用意されている一方で、下図のように税理士登録を行うことで開ける道も存在します。
 

 
税理士資格の持つ社会的信用に加え、税理士法によって日本税理士会連合会の税理士名簿への登録者のみに認められる「特権」があるため、それらを正しく理解したうえで税理士登録の要否や適切なタイミングを判断しましょう。

税理士の独占業務

税理士法では税理士のみが従事できる独占業務として「税務書類の作成」「税務代理」「税務相談」の3つを掲げています。

これらの独占業務については日本税理士会連合会にて登録された税理士のみ従事できるため、税理士試験合格者であっても未登録の場合には「非税理士」となり、従事することは認められません。

また「非税理士」の場合には名刺などに「税理士」の肩書きを記載できず、税理士を名乗って営業活動を行うことも認められないためご注意ください。

ただし登録を受けていない「非税理士」の場合でも、税理士事務所や税理士法人で勤務するケースでは、税理士業務の「補助者」として税理士登録者による適切な指示や監督の下、独占業務にも従事可能であると解釈されます。

そのため実務上は税理士試験合格者の職員だけでなく、税理士志望ではないパートやアルバイトであっても税務書類の作成などを行うケースが一般的です。

独立開業

言うまでもなく、登録を受けた税理士でなければ税理士事務所を開業できません。独立開業によって自らのサービス内容を構築し、自分の理想とするペースで働くことや、税理士として事務所経営を成功させ、自らの収入を何倍にも増やすためには税理士登録が前提条件となります。

税理士事務所などで勤務する税理士試験合格者が登録手続きを保留している場合には、遅くとも独立開業のタイミングで税理士登録を行わなければなりません。

官報合格など税理士となる資格自体に有効期限はないため、税理士登録の申請手続きはあくまで各人の任意のタイミングで行うことが可能です。将来において独立開業することを視野に入れている場合には、どの段階で税理士登録を行うべきかじっくりと検討し、自らのキャリアにとって最適な選択を行うように心掛けましょう。

税理士登録をしないと就職、転職は不利?

一般的には税理士登録を行うことで独占業務に従事することが可能となり、就職や転職のチャンスが拡大すると考えられます。

しかし近年の求人では「税理士(未登録可)」と設定されているケースも増えており、就職活動や転職活動時に税理士登録の有無が必ずしも優劣につながるとは限りません。

未登録であっても税理士試験に合格していれば知識や能力に対する一定の評価が獲得でき、税理士登録に関して自らの考えをきちんと伝えれば、就職先からの理解を得られるケースもあります。

特に税理士事務所や税理士法人で勤務する場合には、適切な監督下にあれば未登録の「非税理士」でも税理士業務を行うことが可能であるため、登録の有無については問われないケースも多いでしょう。

ただし、税理士事務所によっては所内の税理士の数を増やすことでクライアントからの信用を高め、他の事務所との差別化を図るケースもあるため、税理士登録者を優先的に採用する場合もあります。対照的に税理士登録済みの人材に対し、人件費の増加や独立開業による将来の離職リスクへの懸念から採用を敬遠する事務所もあります。

このように求める人材に関しては事務所によって希望条件が大きく異なるため、就職や転職活動の際には事務所の考え方や方向性についても確認してください。

一般事業会社の経理職などへ就職する場合には、自社の経理業務や税務手続きであれば税理士資格は必要ないため、税理士登録の有無を問われる可能性は低いです。

一方でコンサルティングファームなどへ就職するケースでは、クライアントに対して税務相談を行うなど、税理士としての独占業務に従事できる人材を求めている場合もあります。そのような職場へ就職を希望する場合には税理士登録が必要不可欠となるため、具体的な業務内容や必要な資格を確認したうえで応募しましょう。

なお、税理士登録済みの人材を優先的に採用するような職場においては、税理士登録時の費用や毎年の税理士会への年会費を勤務先が負担してくれる場合も珍しくありません。登録によるコストの増加が懸念される場合には、登録によって発生する費用の負担者についても事前に確認することをお勧めします。

今後、税理士登録をしない人は増えていく?

現在の税理士業界では高齢化が加速しており、AIやITツールの発展も相まって業界全体の将来性に対して不安視する声が高まっています。

しかしそのような現状は、若手税理士にとって大きなビジネスチャンスとして捉えることもできます。20〜40代の若手税理士が税理士登録を行うことで年齢面での差別化につながるだけでなく、AIやRPAなどの最新のテクノロジーを活用し、効率的な働き方を実現することで「業務の高付加価値化」に取り組むことも可能です。

また営業活動においても、TwitterやInstagramなどのSNSやYouTubeのような動画配信サービスを積極的に活用することで、競合相手の少ない環境で集客活動を展開でき、他の税理士とのすみ分けがしやすくなります。

高齢化が進む税理士業界の現状に関しては、若手税理士にとってはむしろポジティブな側面を持つため、今後税理士登録者が増加する可能性は高いと考えられます。

自身のキャリアプランに応じて、税理士登録を検討しよう

税理士試験に合格したとしても、ただちに税理士登録を行うことに対するメリットをさほど感じられないケースもあります。特に税理士登録によって発生する金銭的なコストを把握し、登録するメリットと天秤にかけなければならない場合もあるはずです。

官報合格を果たし、通算2年以上の実務経験期間を満たすことで得られる「税理士登録を行う資格」は生涯にわたって有効であるため、各人の任意のタイミングで登録手続きができます。

必ずしも税理士試験の合格と同時に登録手続きを行うのではなく、自らのキャリアプランや希望する勤務先、業務内容と照らし合わせ、税理士登録を行うタイミングを慎重に検討しましょう。

よくある質問

税理士登録を行わない理由は?

将来に対する不安から、独立開業に対するモチベーション低下に基因していると考えられます。また登録時に約20万円の支出が必要であり、毎年10〜15万円程度の年会費が発生することも影響しているでしょう。

税理士登録を行うメリットは?

税理士登録を行うことで、独占業務である「税務書類の作成」や「税務代理」「税務相談」に従事できます。また登録者以外は税理士事務所の開業が認められないため、税理士登録することで独立開業が可能となります。

就職や転職活動での影響は?

税理士登録の手続きはいつでも可能であるため、登録済みの税理士と比べて不利にならないケースも多いでしょう。ただし勤務先で税理士としての独占業務が求められる場合など、登録が前提の求人もあるためご注意ください。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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