税理士として業務を行うためには、2年の実務経験を積んだ後、税理士登録をする必要があります。では、税理士試験合格後、どのような業務を経験することで実務経験を積めるのでしょうか。本記事では、実務経験に含まれる業務の解説から税理士になった後のキャリアまでご紹介します。
目次
実務経験なしから税理士になるには
税理士として活動するためには、日本税理士会連合会に備え付けられた税理士名簿に登録しなければなりません。
税理士登録を行うには、下図のように「税理士となる資格」の取得や「実務経験」などのステップをクリアする必要があり、それらを正しく理解したうえで自らのキャリアプランを立てることが重要です。
税理士になるための資格を得る
税理士登録を行うためには、まず「税理士となる資格」を得る必要があります。「税理士となる資格」を取得するためには、以下のいずれかに該当しなければなりません。
- 税理士試験に合格すること
- 税理士試験の試験科目の全部について免除を受けること
- 弁護士
- 公認会計士
税理士試験5科目合格によって「税理士となる資格」を得ることが一般的ですが、大学院に通学して税法や会計学に関連する学位を取得することで、一部科目について免除を受けることもできます。
また国税庁や税務署などに「国税専門官」として一定期間勤務した場合には、その勤務した年数に基づいて税理士試験科目の一部あるいは全部の免除を受けることも可能です。
なお上記のうち1.または2.に該当する場合には、通算2年以上の実務経験期間を満たさなければなりません。一方で3.や4.のように弁護士や公認会計士資格を有する場合には、実務経験期間がなくても「税理士となる資格」を得ることができます。
実務経験を積んだ後、税理士登録をする
税理士試験に合格または免除を受け「税理士となる資格」を得た場合には、通算2年以上の実務経験を積むことで、日本税理士会連合会に備え付けられた税理士名簿に登録できます。登録手続きが完了すると税理士証票や税理士バッジが交付され、税理士を名乗ってさまざまな活動を行うことが可能となります。
登録申請を行う場合には、登録申請書をはじめとする提出書類一式を用意し、所属予定の税理士会を通じて日本税理士会連合会へ提出しましょう。その後登録調査が実施され、書類の審査に加えて面接調査が行われます。
申請書類の提出から登録完了までは3ヶ月程度を要するケースが一般的です。スケジュールに余裕をもって申請手続きを進めましょう。
税理士の実務経験に含まれる業務とは
税理士登録のための要件とされる「実務経験」については、税理士法第3条第1項ただし書きに「租税に関する事務又は会計に関する事務」と規定されています。
さらに税理士法基本通達では実務経験の内容について、「税務官公署における事務のほか、その他の官公署及び会社等における税務又は会計に関する事務(特別の判断を要しない機械的事務を除く)」と明記しています。
引用:第2条《税理士業務》関係|国税庁
なお「特別の判断を要しない機械的事務」とは、簿記や会計の知識がなくともできる単純作業を指し、パソコンや電卓などで簡単に行える入出力業務などは実務経験に含まれないためご注意ください。
ただし以下の業務内容については「特別の判断を要しない機械的事務」には該当しないため、税理士登録に必要な実務経験に含めることが可能です。
(1) 簿記上の取引について、簿記の原則に従い取引仕訳を行う事務
(2) 仕訳帳等から各勘定への転記事務
(3) 元帳を整理し、日計表又は月計表を作成して、その記録の正否を判断する事務
(4) 決算手続に関する事務
(5) 財務諸表の作成に関する事務
(6) 帳簿組織を立案し、又は原始記録と帳簿記入の事項とを照合点検する事務
引用:第2条《税理士業務》関係|国税庁
実務経験については経験を積むべき勤務先に関する制約が存在しないため、税理士事務所や税理士法人に限らず、業務内容さえ当てはまれば一般事業会社などでの勤務期間も含めることができます。
税理士事務所にてクライアントの税務会計業務に従事する場合はもちろん、一般事業会社の経理部で自社の仕訳入力や債権管理、決算書あるいは税務申告書の作成を行っている場合にも実務経験に該当します。
複数の事務所で実務経験を積む場合
「通算2年以上の実務経験期間」に関しては、必ずしも1箇所の勤務先でクリアする必要はなく、複数の勤務先での実務経験期間を合計して2年に達すれば問題ありません。
たとえば以下のような事例では、1)~3)の勤務期間の合計が「8ヶ月+1年3ヶ月+4ヶ月=2年3ヶ月」となり、通算2年以上の実務経験期間を満たすこととなります。
- A税理士事務所:8ヶ月
- B税理士法人:1年3ヶ月
- C社経理部:4ヶ月
なお実務経験期間については正規の雇用関係がある場合には暦に従ってカウントできますが、パートやアルバイト期間がある場合には、勤務日数や勤務時間などの実態に応じて「積上げ計算」によって算出しなければなりません。
また従事した業務に「実務経験に含まれる業務」と「それ以外の業務」が混在する場合にも、実務経験に該当する部分のみを抽出して「積上げ計算」を行います。
特に一般事業会社で勤務する場合には、「実務経験以外の業務」が混在する可能性も高まるためご注意ください。
このように暦では2年を超えている場合でも、勤務形態や業務内容によっては「積上げ計算」が必要となり、算出した期間が2年に満たないケースも十分に考えられます。
申請書類の提出後に「実務経験期間を満たしていない」と判定されるリスクもあるため、実務経験期間についてはできる限り余裕を持ってクリアするように心掛けましょう。
税理士の実務経験の証明方法
税理士の登録申請を行う際には、実務経験期間を満たすことを証する書類として下図の書類を作成し、提出しなければなりません。
申請者の属性によって提出すべき書類も異なるため、自らのケースに照らし合わせて必要な書類を用意しましょう。
在職証明書
「在職証明書」は実務経験を証する場合に必ず提出しなければならない書類であり、複数の勤務先で実務経験を満たす場合には勤務先ごとに作成する必要があります。
「在職証明書」には勤務先の代表者による署名や押印のほか、印鑑証明書や源泉徴収票などを添付しなければなりません。中には税理士登録に際して勤務先からの了承が得られず、「在職証明書」をスムーズに入手できないケースもあるため、スケジュールに余裕を持って準備を進めましょう。
なお「在職証明書」は定型のフォーマットで提出しなければならないため、日本税理士会連合会のホームページからダウンロードして作成しましょう。「在職証明書」には勤務先の代表者による署名や押印のほか、印鑑証明書や源泉徴収票などを添付しなければなりません。中には税理士登録に際して勤務先からの了承が得られず、「在職証明書」をスムーズに入手できないケースもあるため、スケジュールに余裕を持って準備を進めましょう。
なお「在職証明書」は定型のフォーマットで提出しなければならないため、日本税理士会連合会のホームページからダウンロードして作成しましょう。
勤務時間の積上げ計算書
実務経験期間のうち、パートやアルバイトなどの非正規雇用期間がある場合や、一般事業会社などで業務内容に実務経験以外の業務が混在する場合には、下図の「勤務時間の積上げ計算書」を提出しなければなりません。
「勤務時間の積上げ計算書」には勤務時間や勤務日数、職務内容、会計事務に従事した割合などの情報を記載する必要があります。また「在職証明書」と同様に勤務先の代表者の署名や押印が必須であり、勤務日数や勤務時間の根拠資料としてタイムカードや出勤簿の写しを添付しなければなりません。
「勤務時間の積上げ計算書」についても定型のフォーマットが用意されているため、日本税理士会連合会ホームページよりダウンロードして作成しましょう。
職務概要説明書
一般事業会社などで勤務するケースにおいて、実務経験に含まれる会計業務とそれ以外の業務を兼務する場合には、実務経験期間の判断のために「職務概要説明書」を作成する必要があります。
「職務概要説明書」には「従事する業務内容」や「業務全体に占める経理業務の割合」などを詳細に記載し、勤務先の代表者による署名や押印をもらってください。また「職務概要説明書」を提出する際には、会社の組織図も併せて提出しなければなりません。
なお日本税理士会連合会からは特にフォーマットの指定はなく、申請者の任意の書式によって作成が可能です。ただし提出後に記載内容の不備などが生じることがないように、作成の際には所属予定の税理士会に対し、記載すべき内容をあらかじめ問い合わせることをお勧めします。
税理士の実務経験を積む方法とメリット・デメリット
税理士登録に必要な実務経験を積むためには、下図のいずれかで勤務することが一般的です。
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それぞれの勤務先によってメリットやデメリットが存在するため、自らのキャリアプランにとって最適な職場環境を選択しましょう。
個人の税理士事務所・小~中規模税理士法人
税理士事務所や税理士法人の事業規模に関する明確な定義はありませんが、一般的には職員数が20名以下であれば小規模事務所、20名超100名以下であれば中規模または中堅事務所といえます。
事務所によって組織体制や業務管理の方法は異なりますが、一般的には組織規模が小さい方が部署間の隔たりが少なく、法人部門や資産税部門などの担当業務の区分も不明確な場合が多いです。
そのためそれらの勤務先で実務経験を積む場合には多種多様な業務に携わるチャンスが大きいことや、代表税理士との距離が近く、事務所経営のノウハウを吸収しやすいといったメリットが挙げられます。
一方で、教育体制やマニュアルなどが整備されていない場合も多く、業務が属人化しやすいことから、適切な業務フローが習得できずに自己流になりやすいというデメリットがあります。
また給与水準に関しては、Big4などの大手税理士法人と比較するとやや低い傾向にあります。
業務の割り振りについては業務内容にかかわらず担当者に一任するケースも多く、特定の業務や分野に特化する機会が少ない場合も珍しくありません。
一般的には「スペシャリスト」よりも「ゼネラリスト」として成長する機会に富んだ職場環境といえます。
大規模税理士法人
税理士法人の中には全国各地に支店を展開し、職員数が100名を超えるような大規模組織も存在します。
職員数が多くなるほど業務内容ごとに部門が分かれ、社内の分業化が進みやすくなります。そのため得意とする業務領域に特化することで自らの専門性を高めることができ、「スペシャリスト」としての能力を伸ばすことが可能です。
特にBig4のような事業規模であればグローバル展開するクライアントも数多く存在するため、語学力や国際税務などの専門的知識を活かして働くこともできます。また専門性の高い業務が中心となるため、一般的に給与水準が高いことも特徴です。
一方で、担当業務以外の業務に携わる機会がほとんどない場合が多く、未経験の業務領域が生まれやすいといったデメリットもあります。さらにクライアントについても大規模法人が多いため、将来独立開業した場合の顧客層と一致せず、勤務時代の経験が十分に発揮されない可能性も考えられます。
一般事業会社
一般事業会社にて実務経験を積む場合には、経理部などで勤務するケースが大半です。
一般事業会社は税理士にとってはクライアントであるため、自社の経理や会社内部の詳細な業務フローを知ることで顧客目線に基づいた知見が深まり、将来の税理士業に活かすことができます。
その一方で自社以外の会計や税務業務に携わる機会はほとんどないため、独立開業に必要な幅広い経験や専門的なスキルの習得が難しいというデメリットがあります。独立開業する場合には、一般事業会社だけでなく税理士業界での勤務経験を経たうえで実行するケースが一般的です。
実務経験をしっかり積んで、税理士としてのキャリアを歩もう
税理士登録を行うためには、税理士試験の合格と並行して通算2年以上の実務経験を積む方法が最も一般的です。税理士登録を果たすことで独占業務への従事や独立開業の道が開け、キャリアの幅が広がります。
また税理士登録に必要な実務経験を積む場合には、勤務先の選定によって将来の税理士像にも大きな影響を及ぼしかねません。税理士としての自らのキャリアプランを構築し、税理士登録後の具体的なキャリアを想定したうえで、必要となる経験やスキルについて検討しましょう。
よくある質問
実務経験なしから税理士になるには?
まずは税理士試験合格や免除などによって「税理士となる資格」を取得しなければなりません。併せて登録に必要な通算2年以上の実務経験期間を満たすため、会計や税務業務に従事できる勤務先にて経験を積みましょう。
実務経験期間の証明方法は?
登録申請の際は、勤務先の代表者が署名や押印した「在職証明書」を提出しなければなりません。また非正規雇用や実務経験以外の業務が混在する場合には、「勤務時間の積上げ計算書」や「職務概要説明書」が必要です。
登録に必要な実務経験を積む方法は?
税理士業界で勤務するケースが一般的です。事務所の規模によって業務の幅や専門領域、顧客規模などが異なるため、最適な環境を選びましょう。また一般事業会社の場合、顧客目線での業務経験を積むことができます。