現在、監査法人などで勤務している公認会計士の方のなかには、将来独立を考えている方も多くいらっしゃると思います。その際、気になるのはどこで独立するかではないでしょうか。本記事では、公認会計士の地方での独立に注目して、地方での主な業務内容やメリット、デメリット、成功させるポイントなどについて詳しく解説していきます。
目次
公認会計士は首都圏に集中している
公認会計士として地方での独立を考える際にまず考慮しなければならないのは、公認会計士は首都圏に集中していることです。
日本公認会計士協会の『会員数等調』によれば、2022年5月31日現在の全国の公認会計士数33,195人のうち、東京・神奈川・千葉・さいたまの首都圏の地域会に所属する人は22,756人。全体の約7割を占める、圧倒的な一極集中となっています。
顧客の獲得に注力すること、提供サービスの差別化を図ることがポイントとなるでしょう。その要因として考えられるのは、まず公認会計士による監査が必要な、上場企業・大企業が首都圏に集中していることです。中小企業庁の『都道府県・大都市別企業数、常用雇用者数、従業者数』(2016年)によれば、全国の「大企業」11,157社のうち、首都圏にあるのは5,668社。約5割が首都圏に集中しています。
それにともない、同『会員数等調』によれば、監査法人も全国276法人のうち、首都圏にあるのは185法人。やはり約7割が首都圏に集中しています。
このように、監査を必要とする企業が首都圏に集中しているため、監査を行う監査法人・公認会計士も首都圏に集中していると考えられるのです。
参考:会員数等調(2022年5月31日現在)|日本公認会計士協会
参考:都道府県・大都市別企業数、常用雇用者数、従業者数(2016年)|中小企業庁
公認会計士が地方で独立する際の業務内容
上記のように監査を必要とする企業が首都圏に集中しているため、監査業務は地方ではあまり必要とされません。そのため、公認会計士が地方で独立した場合の主な業務は、中小企業を対象とした会計・税務、およびコンサルティングとなるでしょう。
会計・税務
公認会計士は税理士試験を受けることなく、税理士登録ができます。税理士として行う会計・税務業務は、具体的には以下のものです。
- 税務代理(申告、不服申立て、税務官庁との交渉)
- 各種税務書類の作成
- 企業再編にともなう税務処理・財務処理
- グループ法人税制や連結納税制度についての相談・助言
- 海外現地法人・合弁会社設立などを含む国際税務支援
コンサルティング
コンサルティングの内容は、中小企業の創業支援、成長支援、新たな取組への飛躍の支援、企業の再生・廃業支援が主なものとなるでしょう。
- 創業支援
- 事業計画や資金調達支援、個人保証のない融資の応援、内部統制の構築支援など
- 成長支援
- 事業計画策定支援、税務戦略、海外展開支援、金融機関の要請などによる監査など
- 企業の再生・廃業支援
- 金融機関対応支援、廃業支援、保証債務の整理など
以上のように、会計・税務業務、コンサルティング業務とも、地元の中小企業を担当することになります。中小企業の創業や成長などを支援・応援することになるため、公認会計士の地方での独立は、地域貢献につながるともいえます。
公認会計士が地方で独立するメリット
公認会計士が地方で独立するメリットとして、生活環境の良さが挙げられます。首都圏と比べて地方は物価や家賃も安く、首都圏にいるときと同じ家賃ではるかに広い家に住むことができます。自然環境も豊かで、地方都市でも都市部と海や山は近接しています。
子供の教育を考えて地方への移住を考える人もいるのではないでしょうか。都会よりも自然が身近にある地方暮らしなら、子供をのびのびと育てられます。通勤も、地方ならはるかに楽です。満員電車に1時間以上も揺られての通勤は、地方ではありません。
次に、仕事環境も首都圏と地方では大きく異なります。数百人のスタッフが在籍し、案件ごとにチームを組んで仕事をする大手監査法人などと比較して、地方で数十人単位の顧客や関係者と仕事をすれば、人間関係をじっくりと育めます。
地元の経営者との交流を深めながら、地域経済や街づくりに関わっていくことは、人との関わりが好きな人にとっては魅力的な仕事環境といえるのではないでしょうか。
公認会計士が地方で独立するデメリット
公認会計士の地方での独立は、上記のように生活環境・仕事環境上のメリットがありますが、その一方デメリットもあります。地方で独立するデメリットとはまず、首都圏と比べて地方は市場規模が小さいことです。企業の絶対数が少ないため、新規顧客の獲得が難しくなることが考えられます。
次に、人材の絶対数も首都圏に比べれば少ないです。事務所を拡大し、人材を採用したいと考える場合にも、新規人材の獲得が難しいことがありえます。
公認会計士の地方での独立を成功させるには
公認会計士の地方での独立を成功させるためには、どうすればよいかをみていきましょう。
顧客の獲得
上述した通り、地方は市場規模が首都圏と比べれば小さいです。そのため、地方での独立を成功させるためには、新規顧客の獲得に注力する必要があります。
公認会計士事務所の事業拡大パターンは、まず税務業務での顧問契約を獲得し、次に顧客との信頼関係を深めながら、適切なタイミング・内容の提案を行うことにより、コンサルティング業務へのアップセル・クロスセルを狙っていくのが基本です。
この最初の顧問契約獲得が、企業の絶対数が少ない地方では難しくなるケースがあるため、営業活動に力を入れる必要があるのです。人間関係が密な地方では、営業方法は紹介営業が基本となるでしょう。ある顧客を獲得したら、その顧客に税理士・公認会計士を探している知り合いの企業を紹介してもらい、その企業に営業をかけるパターンです。
地方では、首都圏と比べて税理士の顧問料も安いことが一般的です。紹介営業を繰り返し、最低でも30社以上の顧問契約を獲得する必要があるでしょう。
ただし、近年では新型コロナウイルス感染症による働き方の変化やクラウド会計の普及などにより、税理士がZoomやチャットワークなどのコミュニケーションツールを使用して顧客の対応に当たるケースも増えています。そのため、もししっかりとブランディングできれば、地方在住でも全国の顧客を獲得できる可能性があります。
提供するサービス
地方での独立を成功させるためには、提供するサービスも十分に検討する必要があります。公認会計士事務所の提供サービスの第一は、税務業務です。しかし、税務業務は競合が多く、報酬を高くしにくいため、収入を増やすためにはより高い報酬を設定できるコンサルティング業務の受注がポイントになります。
コンサルティング業務の受注を順調に行うためには、コンサルティングの内容をよく検討し、競合との差別化を図らなくてはなりません。
上述した公認会計士のコンサルティング業務内容のうち、例えばM&Aのニーズは地方ではあまり多くありません。その一方、事業再生、事業承継などのニーズはありますが、ニーズが多ければ競合も多い可能性が考えられます。そのため、例えば資金調達や補助金支援のスペシャリストとして打ち出すなど、何らかの特徴を持った事務所のブランディングが必要です。
ただし、ひと口で「地方」といっても、その特性は地域によってさまざまです。どのようなブランディングをして差別化を図るかは、地域の経営者などと人間関係をつくって地域のニーズを探りながら、時間をかけて見つけていく必要があるでしょう。
公認会計士は地方での独立も選択肢のひとつ
公認会計士にとって地方での独立も選択肢のひとつです。顧客の獲得に注力し、提供サービスを差別化していけば、公認会計士事務所の地方での運営は十分でき、数千万円の年収を得られる可能性もあります。
地方での独立には、メリットもデメリットもありますが、地方ならではの働き方ができることは確かです。自身のキャリアややりたいことと合致するなら、地方での独立にぜひトライしてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
公認会計士が地方で独立するメリットは?
物価が安い・自然が豊か・満員電車に乗らなくて良いなど生活環境が良いこと、人間関係をじっくり育みながら仕事ができることなどがあります。
公認会計士が地方で独立するデメリットは?
市場規模が小さいため新規顧客が難しくなること、人材も少ないため採用が難しくなることなどがあります。
公認会計士の地方での独立を成功させるポイントは?
顧客の獲得に注力すること、提供サービスの差別化を図ることがポイントとなるでしょう。