税理士業は「専門性の高いサービス業」と言われています。専門的な知識やスキルを武器に、顧客にサービスを提供するためですが、顧客が経営層ということもあり、高いスキルが求められます。この記事では税理士業界の経験に応じたスキルについて説明します。
- 未経験者が税理士業界で働くために必要なスキル
- 税理士キャリアで身につくスキル
- 独立を視野に入れて身につけるべきスキル
業界でのスキルアップの参考になれば幸いです。
目次
未経験者が税理士業界で働くために必要なスキル
未経験者が新たに税理士業界で勤務しはじめる場合には、主に下図のようなスキルを有していることで就職後のスタートダッシュが可能となり、業務習熟のスピードが増すものと考えられます。
入社前にこれらすべてのスキルを満たす必要はありませんが、ひとつでも多くの知識を身につけることで就職活動を有利に進めることができるでしょう。
会計・税務スキル
税理士事務所では顧問先の会計処理や決算書および申告書の作成を日々行うため、会計や税務に関する一定の知識やスキルが求められます。
特に仕訳などに関する最低限の知識は必要不可欠であるため、パートやアルバイトとして勤務する場合でも、日商簿記検定のような会計スキルの有無は重視されるでしょう。
ただし税理士試験受験生などの場合には、税理士事務所での勤務と並行しながら知識を拡充するケースも多く、また実務経験を通じて新たなノウハウを習得する機会も多いです。年齢が若いほど今後のキャリアの伸びしろが大きいため、就職時の税務スキルが乏しい場合でも、将来性を見込んで採用に至る可能性が高まる傾向にあります。
エクセルスキル
税理士業務では会計ソフトや税務ソフトに加え、ワードやエクセルを使用する機会も非常に多いです。さまざまな会計数値の検証や各種シミュレーション、顧問先への報告の際に使用するだけでなく、現金出納帳や売掛金・買掛金管理表などの帳簿書類として活用する事例もあるでしょう。
一般的な税理士事務所では会計ソフトと並んで必須スキルのひとつであるため、なかには採用時にエクセルスキルのテストを実施する事務所もあります。
ただし税理士業務で必要とされるエクセルスキルは決して高度なレベルではなく、簡単な表作成や四則演算の入力、SUM関数やAVERAGE関数などの基本的な関数が扱える程度で十分なケースが大半です。
会計ソフトスキル
会計ソフトはほぼすべての税理士事務所で利用しており、顧問先に対して税務会計サービスを提供するためには必需品とも言える存在です。
税理士業界未経験の場合には会計ソフトの利用経験がゼロの場合も多いですが、会計に特化した専門学校では会計ソフトスキルやエクセルスキルなど、会計業界での実務で役立つ知識やノウハウを体系的に学習することも可能です。
その一方で事務所によって利用する会計ソフトが異なることに加え、会計スキルさえあれば実務を通じてソフトに対する習熟度は自ずと高まるため、採用時には会計ソフトスキルの有無よりも日商簿記検定などの資格面が重視される傾向にあります。
ただし税理士業界で勤務する前に一般事業会社の経理部門などで勤務経験がある場合には、会計ソフトの利用経験をアピールすることで転職活動を有利に進められるケースもあるでしょう。
税理士キャリアで身につくスキル
税理士事務所での実務経験を積むことにより、勉学ではなかなか習得できないさまざまな専門的スキルを獲得できます。
これらのスキルは税理士事務所での勤務だけでなく、将来の独立開業時においても自らのサービスの基盤となる重要なノウハウであるため、すべてのスキルを習得できるように取り組みましょう。
税務申告スキル
顧問先の決算や確定申告業務を通じて、法人税や所得税などの税務申告書作成スキルが向上します。
特に税理士業界でのキャリアを重ねるにつれて税法への理解が深まり、より高度な税務申告への対応が可能となるでしょう。また資産税業務に携わる機会も確保できれば税理士としての業務経験が拡大し、専門家としての価値がより一層高まります。
法令スキル
税理士業務においては杓子定規に適否を判断できない事例が非常に多く、その都度根拠となる税法を調べ、制度の概要や立法趣旨を読み解く必要があります。
それでも結論が導き出せない場合には過去の判例などと照らし合わせるケースもあり、それらの工程を経て専門家としての結論を構築することとなるのです。またこのような法令スキルについては、税務調査において調査官の指摘や主張に対し、説得力のある反論を行うためにも重要な能力と言えます。
したがって実務経験を積み重ねることによって専門家としての知識が蓄えられるだけでなく、自らの意見の妥当性を理論づける訓練にもつながるため、それらを活かして税理士としての活躍の場を広げることも可能でしょう。
コミュニケーションスキル
税理士としてクライアントからの信頼を獲得するためには、コミュニケーションスキルは欠かせません。
この場合のコミュニケーションスキルとは単純に話術に長けているかどうかではなく、顧問先の抱える経営課題や問題点を聞き出し、それに対して最適な解決方法を提案することを意味します。
また税法では難解な制度も多いため、顧問先の経営者から質問を受けるケースも多いでしょう。税理士自身が税法を理解することはもちろん、クライアントが持つ情報量に応じて自らの知識を咀嚼し、常に相手にとって分かりやすい説明を行うことが重要です。
税理士という専門性の高い業界において、経営者や富裕層のニーズに的確に対応するためには、相応の「ヒアリング能力」や「説明力」「提案力」が求められます。
税理士業界での勤務経験によってこれらのコミュニケーションスキルが総合的に鍛えられ、難易度の高い業務内容にも適切に取り組むことのできる対応力が身につくのです。
分析スキル
税理士事務所にて勤務することで、毎日のように顧問先の試算表や決算書を目にすることとなります。
会計上の数字の裏側にあるさまざまな情報を読み取ることによって、クライアントの課題や環境の変化をいち早く察知し、それらを早期に経営者と共有することで顧客満足度を高めることにもつながるでしょう。
また経営コンサルティング業務などでは同業他社比較を行うケースも多く、会計数値に基づいたクライアントの強みや弱みを把握するなど、さまざまな税理士業務を通じて「数字を読む力」としての分析能力の向上が期待されます。
税理士が独立に向けて身につけるべきスキル
税理士として自らの事務所を開業する場合には、一般的には職員として勤務する場合に比べてさらに多くのスキルが求められることとなります。
税理士としての専門性を高めるだけでなく、自分自身で顧客を獲得し、健全な事務所経営を行うことで独立開業を成功へと導かなくてはなりません。
専門特化スキル
日本国内の中小企業や個人事業主の数が減少する一方で、税理士登録者数は増加し続けています。
そのような税理士業界の現状を鑑みると、熾烈な価格競争に巻き込まれずに集客活動を行うためには、自らの専門性を高め、他の事務所との差別化を図ることが必要不可欠です。
特に以下のような専門分野に特化したスキルを向上させることも効果的でしょう。
国際税務
インターネット環境をはじめとするテクノロジーの進歩により、近年では大企業だけでなく中小企業でもグローバル化の波が加速しています。
日本企業の海外進出や海外企業の日本参入、海外取引の増加など、税理士事務所の顧問先についても海外との接点が生じるケースは今後ますます増えていくと考えられます。
そのため税理士としても海外の税務への対応力が求められる可能性は高まっており、国際税務の知見やノウハウがあれば、グローバル展開を行う顧客のニーズを汲み取りやすくなるでしょう。
資産税
資産税業務では相続税の知識だけでなく、所得税や法人税などの複数の税目にまたがった幅広い知見やノウハウが必要とされるため、税理士業務の中でも特に高い専門性が求められる業務のひとつに挙げられます。
少子高齢化が加速する日本においては、相続税申告案件の増加に加え、富裕層に対する相続税対策や資産運用に関する相談対応が増加することが想定されます。資産税に特化したスキルを獲得することで、日本国内の現状に適合した業務展開が可能となり、独立開業後の事務所経営を成功させるための大きな強みとなるでしょう。
組織再編成
企業経営にも少子高齢化の影響は着実に及んでいます。
国内の中小企業経営者の平均年齢は60歳を超えていると言われており、組織内での代替わりが必要とされるなか、さまざまな原因によってスムーズな世代交代が行えないケースも少なくありません。また後継者不在という問題を抱えている事業者も多く、中小企業においても自らが保有する経営権や事業の売却を希望する事例が年々増加しています。
そのような市場環境の変化に伴い、税理士としても単なる申告書作成業務だけでなく、事業承継やM&Aコンサルティングによる経営のスムーズな移行をサポートすることが求められています。
これらの組織再編成業務への対応力を身につけることによって事業承継やM&A関連の需要を獲得でき、専門家としての価値をより一層高めるための経験が蓄積されるでしょう。
営業スキル
税理士が自らの事務所を開業した場合には、顧客獲得のための営業スキルを身につけなければなりません。
この場合の営業スキルとは、単に話術やコミュニケーション能力の高さを表すものではなく、見込み客の問題点をヒアリングし、課題解決のための最適な提案を行うことを指します。また自らの業務内容やその価値を正しく訴求し、「サービスに対する対価としての妥当性」を理解してもらうための説明力も重要です。
さらに集客活動は必ずしも対面で行う必要はなく、ターゲット層へ情報発信を行うために最も効果的な媒体を選択することも営業スキルの一部と言えるでしょう。Web集客やSNS、ブログ運営などの広告媒体の特性を正しく理解し、自らの事務所にとって最適な媒体を検討してください。
経営スキル
税理士事務所を開業することで自分自身がひとりの経営者となり、健全な事務所経営を追求しなければなりません。特に税理士事務所の場合にはクライアントと顧問契約を締結するケースが大半であるため、事務所経営が傾くことで顧問先にも悪影響が及ぶ可能性もあります。
そのため売上獲得はもちろんのこと、きちんと利益が残る経営体質を構築する必要があり、安定した事務所運営を行うための経営スキルが求められるのです。
独立開業前に税理士事務所で実務経験を積む場合には、顧問先の経営者とコミュニケーションを取る機会も多いため、そのような機会を有効活用し、経営に対するマインドを学ぶことをお勧めします。
また比較的小規模な税理士事務所の場合には所長税理士との距離が近いケースも多いため、事務所経営のノウハウをひとつでも多く吸収することで、独立開業後のスタートダッシュを決めやすくなるでしょう。
税理士がスキルアップするための環境
税理士が独立開業前に実務経験を積む環境としては、一般的には税理士法人や税理士事務所の規模や業務内容によっていくつかの選択肢に分かれます。
それぞれの勤務先によって得られる知識や経験は異なるため、自分自身のその後のキャリアを想定し、自らにとって最適な職場環境を選択しましょう。
BIG4税理士法人
BIG4税理士法人とは、KPMG税理士法人およびPwC税理士法人、EY税理士法人、デロイトトーマツ税理士法人の4社を指し、それぞれグローバル展開を行う国際会計ファームを母体としています。これらのBIG4税理士法人では国内外の大手企業や富裕層を中心に税務サービスを提供しており、専門性が高く、大規模な案件を数多く手がけているのが特徴です。
税理士がBIG4税理士法人でキャリアを積むことにより、国際税務や組織再編成、コンサルティング業務に従事する機会に恵まれるため、自らの専門性を向上させることにもつながるでしょう。
大手税理士法人
従業員規模が100名を超えるような大手税理士法人では、法人営業や資産税などの業務領域によって部門や部署を分け、それぞれの業務内容に特化して経営を行うケースが一般的です。
そのため大手税理士法人で勤務する場合には、資産税や事業承継、M&Aなどの特定の業務領域の専門性を磨くことができ、その後の税理士としてのキャリアに必要な基盤を構築できるでしょう。
専門特化型税理士法人
税理士法人や税理士事務所の中には、資産税や国際税務、資金調達支援、起業家支援などの特定の業務に特化してサービス展開を行っているケースもあります。あるいは医療法人や飲食業など対象顧客の業種を絞ることでサービスの質を高め、顧客満足度の向上を目指す事務所も存在します。
税理士としてのキャリアプランを想定し、自らが強化したい分野が明確に定まっているのであれば、専門特化型の税理士法人に入社することも合理的な選択肢と言えるでしょう。
独立に向けて開業の事例をお手元に!
税理士業界でスキルアップを目指すためには、ベースとなる会計や税務、エクセルなどの基本的なスキルに加え、申告書作成や法令に関する専門的なスキルが欠かせません。また顧問先の経営者と話す機会も増えるため、ヒアリング能力や提案力などのコミュニケーションスキルを伸ばし、顧客獲得に必要な営業スキルの向上にも役立てたいものです。
将来的な独立開業を視野に入れる場合には、開業後のサービス内容や事務所経営を想定し、そのために必要なスキルを習得できる職場環境で実務経験を積むことも重要な判断基準となるでしょう。
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また、独立・開業を検討している方は、ぜひこちらの記事も参考にしてみてください。
よくある質問
未経験者が勤務するために必要なスキルは?
実務では仕訳処理などの知識が必要であるため、最低限の会計スキルは欠かせません。また資料作成などにおいてエクセルを使用する機会が多いため、表作成や四則演算、基本的な関数などのエクセルスキルも必要です。
税理士キャリアで習得可能なスキルは?
税理士業務を通じて法人税などの申告書作成スキルや、税法の条文解釈や立法趣旨を検証する法令スキルが身につきます。また顧問先経営者とのやりとりが増加し、コミュニケーションスキルの向上も期待できるでしょう。
独立開業に必要なスキルは?
他の税理士事務所との差別化を図るため、資産税や組織再編成など特定の業務領域に特化したスキルが必要です。また顧客獲得のための営業スキルや、事業主としての経営スキルについても必要不可欠と言えるでしょう。