税理士の印鑑作成のポイントとは?作成方法や費用も解説。

独立・開業

税理士の印鑑作成のポイントとは?作成方法や費用も解説。
税理士として独立し、事務所の開業に備えて準備をしている方の中には、印鑑を作成しようと考えている方もいらっしゃると思います。実は、税理士は職印を作成しなくても良いのですが、書類の効力を証明するために職印を使用している税理士の方も多いのです。そこで本記事では、税理士の印鑑(職印)の作成ポイントや作成方法などについて詳しく解説していきます。

税理士の印鑑作成の義務について

職印(資格印)とは、弁護士や司法書士のような士業が、公的書類などに押す肩書名の入った印鑑のことです。職印を登録すると「職印証明書」が発行され、身分証明書代わりとして利用できる場合があります。

一方、税理士には職印の作成義務はなく、いわゆる「三文判」でも税理士業務は支障なくできますが、格式のある印鑑を作りたいというニーズも多くあるようです。

申告書には原則押印が不要

令和3年の税制改正により、令和3年4月1日からは申告書などの税務関係書類については一定の物を除き、納税者においても税理士においても押印が不要となりました。
押印不要となった書類の中には、「税務代理権限証書」などもあります。

押印廃止の例外とされた税務関係書類は、次のものとなります。

(1) 担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち、実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類
(2) 相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類
引用:税務署窓口における押印の取扱いについて|国税庁
 
これらが押印を求める理由としては、担保提供者や保証人、さらには遺産分割等の真意を確認するためであるとされます。

ワーク・ライフ・バランスの実現を目指した働き方改革の推進、そして新型コロナウイルス感染症などの影響で、多くの企業がテレワーク導入をすることとなりました。その際の問題点となったのが、社内の「ハンコ」ルールです。押印のためだけに出社しなければならないことが起こらないように、どの会社も「脱ハンコ」を考えざるを得なくなりました。

実際に国税だけでなく、行政手続きにおいても順次印鑑が廃止されていますし、銀行口座の開設にあたっても、印鑑レス口座が可能となっています。デジタル社会を目指すわが国においては、電子申告制度をはじめ、印鑑不要の流れが引き続きあります。

また、契約書への押印は特別な場合を除き必要要件とはされていないため、契約の効力は変わらないとされます。今後とも、ペーパーレス化の動きとともに、「脱ハンコ」はますます進んでいくでしょう。

ハンコ文化のメリット

しかしながら、商習慣としてのハンコ文化は、今後ともある程度は続いていくと思われます。なぜなら、顧客との顧問契約などにおいて、製本した紙の契約書に押印する慣習は依然として残っており、顧客側の抵抗が少ない従来の手順が好まれる場合も多々あるからです。そして、押印の効果というよりも押印に際して、顧客とのコミュニケーションが大事なケースもあります。

そして、収入印紙を貼付した契約書などを消印する場合、「印章又は署名」で行う必要があり、署名でも問題ないのですが、印鑑での消印が多いと言えます。

また、簡便な方法として印鑑を使って、重要な書類の偽造を防ぐこともできます。例えば、2つの書類にまたがるように押してその書類が同一であることを証明する「割印」、複数に及ぶ書類の改ざんを防止するための「契印」などは古くから行われています。割印や契印は、同じ位置、同じ角度、同じ強さで押印しない限り、押印結果を再現するのは難しく、押印時の内容と変わっていないことを証明する手段として利用されてきました。

いわゆる「ハンコ文化」のメリットには、次の効果があります。

  • 押印した者の意思が明確になる
  • 証拠として書類が残る

税理士と顧問先の書類のやり取りについて、日付を付して「押印すること」は取引にかかる双方への安心を与えてくれるツールとも言えます。

デジタル化が必ずしも浸透していない場合においては、押印によって確認し合う手段も残しておくべきでしょう。したがって、税理士として適切な印鑑を持っていない場合には、開業の準備物の1つとして印鑑を作成しておいたほうが良いと言えます。

税理士の印鑑作成のポイント

税理士としての印鑑を作るにあたってのポイントを順を追って見ていきましょう。作成した印鑑は、原則として施錠できるところに保管することをおすすめします。

形を選ぶ

印鑑には、印面の丸い丸印タイプと印面の四角い角印タイプの職印があります。一般には、重要な契約書や書類の捺印には丸印を、領収書など重要度の低い書類には角印を使用することが多いと言えます。

角印は、相手から見て、会社から発行された書類であると知らせるために押される認印の役割を果たすため、「社判」などとも言われます。社名などの右側あたりの文字に重ねて押印することが多い印鑑です。

一般には、士業の職印は丸印と角印の2種類を用意しますが、税理士の場合は職印は必須ではないため、どちらで作成しても問題ありませんし、丸印・角印のどちらか片方だけを作成するというケースもあるようです。

印面のレイアウトを考える

印影のレイアウトとしては、丸印では縦書き3列で「資格名、氏名、印」と刻印するパターンが多いです。
 
【職印のサンプルイメージ】

 
また、角印の職印も縦書き3列で「資格名+(氏名)之印」などのパターンが多いと言えます。位置、文字の太さや大きさ、レイアウトなどは自由に変えることができるので、文字数に応じて、バランスが良くなるように整えましょう。

書体を選択する

職印の書体としてよく使われるものには、「篆書体」や「古印体」があり、その中にも種々の書体があります。他に使われる書体としては、印相体・隷書体・行書体・楷書体などがあります。上のサンプルイメージは篆書体の1つです。書体はそれぞれに多くのバリエーションがあり、さらに手彫りの印鑑には職人の持ち味も加わります。

篆書体
可読性が低く偽造しにくい書体です。日本最古の印鑑と言われる「金印」もこの書体で、現在の紙幣にも篆書体の印影が記されています。
古印体
可読性が高いのが特徴です。隷書体をベースに作られた、線が均一でなく、波打った太さの字体で、全体にやわらかい印象があります。馴染みのある書体で作成したい人向けです。

サイズを選択する

税理士の職印にサイズの決まりはないため、サイズは自由に設計できます。人気のあるサイズとしては、丸印の場合は直径16.5〜18mm、角印の場合は一辺18〜21mmなどです。丸印の場合は一般の認印(10〜13.5mm)より一回り大きなサイズになります。

同時に丸印と角印を押印する場合には、角印が丸印よりも大きなサイズになるのがバランスが良いと言えるため、作成時には両者のバランスに注意しましょう。

素材を決める

印鑑の素材を決めるポイントとしては、耐久性のあるものが良いでしょう。木材系の素材よりも、チタンなどの金属系、黒水牛などの角・牙系が耐久性、耐食性に優れていると言えます。太陽光や照明の下に長時間晒されるとヒビ割れを起こす素材もあるため注意が必要です。

しかしながら、一般に職印に使われる素材は基本的に耐久性が高いものが選ばれているため、好みで選んでも特に業務上の問題はないと言えます。

税理士の印鑑の作成方法

印鑑の作成方法としては、一般の実店舗やインターネット通販を利用するのが一般的です。

実店舗のメリットは、実物を手に取って見られることや相談しながら購入できること。素材や書体などについて好みのものがあるかどうか、納期はどうか等詳細に相談できます。実店舗のデメリットは、ネット通販よりも金額がやや高くなることや、店舗によって品揃えが限られてくることなどが挙げられます。

一方、インターネット通販のメリットとしては、素材や書体の種類が豊富なことや、実店舗よりも安く購入できること、納期が早いこと等が挙げられます。なお、インターネットでも手彫りの印鑑は作成できます。開業時に職印だけではなく、会社のゴム印や住所印なども必要な場合は、併せて注文しても良いでしょう。

ネット購入のデメリットとしては、印鑑についての情報を自分で調査し、実物に触れることなく発注しなくてはならないことです。

税理士の印鑑作成にかかる費用

印鑑作成にかかる費用は、サイズや素材によって変わりますが、おおよそ10,000円から30,000円が相場と言えます。実店舗でもインターネットでも、仕上げまでには印影の確認ができるタイミングがありますので、チェックすることをおすすめします。ネットのほうが安く購入できるため、ある程度実績のあるネット業者に依頼しても問題はないでしょう。

開業時には他にもいろいろな費用がかかります。印鑑費用までは想定していなかった場合の出費は痛いのですが、作成した印鑑は使い続けることを前提に作りましょう。

印鑑を作成して、書類の効力を高めよう

税理士には職印の作成義務はありませんが、職印を利用することで顧問先に「安心できる」印象を与えられたり、書類の信頼性を高めたりする効果があります。

現在、税理士業務においてもデジタル化が進み脱ハンコが促進されていますが、まだすべてが整っているわけではなく、当面はハンコ文化とデジタル化の共存が続くと思われます。所属する税理士会支部の連絡によっては、印鑑が必要になることもあります。

業務で利用する適切な印鑑がない場合には、1つは新たに準備しておくと良いでしょう。税理士は、デジタル化の必要性も理解した上で、実取引におけるハンコ文化も受け入れるほうが業務を進めやすいと言えます。

よくある質問

税理士には職印の義務はありますか?

税理士には職印(資格印)の作成義務はありませんが、顧客との顧問契約などにおいて、製本した紙の契約書に押印する慣習は依然として残っており、顧客側の抵抗が少ない従来の手順が好まれる場合もあります。

今から職印を作成するメリットは?

デジタル化が必ずしも浸透していない場合においては、押印によって確認し合うことが考えられます。税理士として適切な印鑑を持っていない場合には、印鑑を作成しておいたほうが良いと言えるでしょう。

職印の作成方法にはどんなものがある?

一般の実店舗でオーダー、またはインターネット通販で作成することが可能です。素材や印影について細かな相談をしたいときは実店舗でサンプルを手に取れるメリットもありますが、一般に後者のほうが安価に作成できます。

【監修】税理士・CFP 岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。 システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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