公認会計士は、独立すれば顧客を開拓しなければなりません。顧客を獲得するには大きく分けて、見込客を呼び込む集客と、呼び込んだ見込客と契約する営業が必要です。効果的な集客を行なうためにはマーケティングの戦略が欠かせません。この記事では、独立する公認会計士が検討しておくべきマーケティングの戦略について解説します。誰を顧客とするか、どのようにアプローチするか、マーケティングの基礎を分かりやすく説明しますので、独立を考える公認会計士の方はぜひ参考にしてください。
目次
独立する公認会計士にマーケティング戦略が必要な理由
独立する公認会計士にマーケティング戦略が必要なのは、独立すれば、顧客の獲得をより真剣に考えなければならないからです。
監査法人での顧客は大企業が中心ですが、独立すれば顧客は中小・零細企業が中心となります。顧客に自分を選んでもらうためには、適切なアプローチを行なわなければなりません。顧客への適切なアプローチを見出すために有効なのが、後述するマーケティングの基本的な分析手法です。
マーケティングの分析とは、①誰に②どのような価値を③どのようにして提供するか、を考えていくこととなります。「①誰に」と「②どのような価値を」については、市場を細分化した上でターゲット層を絞り込み、競合に対して差別化する「STP分析」を行ないます。「③どのようにして提供するか」は、サービスと価格・流通・販売促進を検討する「4P分析」を行ないます。
公認会計士は、税理士資格も無試験で取得でき、国家資格保持者としてある程度の市場は守られてはいるものの、それでもライバルは数多く存在します。顧客にライバルではなく、自分を選んでもらうためには、マーケティング分析をしっかりと行ない、戦略を決定することが重要です。
公認会計士のターゲットを決める【STP分析】
独立開業して顧客を獲得するためには、はじめに誰を顧客とし、競合に対してどのように差別化するかを決めなければなりません。そのための分析手法がSTP分析です。
セグメンテーション
セグメンテーションとは、市場を細分化して、市場の動向を把握することです。細分化するための評価軸には、業種や業態、地域、売上規模などさまざまなものを用います。
まず大雑把に考えれば、公認会計士の顧問先となり得る企業は、大企業・中小企業・零細企業と分類することができるでしょう。そのなかで、独立する公認会計士の多くは中小企業や零細企業を顧問先として持つことになります。
さらに細分化を進めると、事業の継続年数や所在地、経営者の年齢、業種・業態などでも細分化が可能です。セグメンテーションでは、以上のように市場の細分化を行なうことで、次のターゲティングのための準備をします。
ターゲティング
ターゲティングとは、市場の細分化を終えたあと、細分化された市場(セグメント)のどれを自分が参入する対象(ターゲット)とするかを決めることです。ターゲットは、何も一つに限らず、複数を選んでもかまいません。ただし、開業したての会計事務所では、複数の分野へ人的資源や費用を投じるのが難しいため、特定の分野へ絞り込むことが多くなります。
ターゲティングにあたっては、市場のニーズを切実に感じられること、自分の強みを活かせること、および競合事務所に対して優位性を保てることなどを考慮することが重要です。例えば、IPO支援の経験がある公認会計士なら、中小企業のなかでも特に上場を視野に入れ数億円以上の年商があり、今後成長を見込める企業をターゲットにするなどの考え方ができるでしょう。
ポジショニング
ポジショニングとは、競合事務所との差別化を図り、顧客に強くアピールできるような提供価値を決めることです。それは例えば「羊羹はA社でなくちゃ」「お酒はB社で決まり」などのように、顧客の心のなかにはっきりとした位置を占めることだといえるでしょう。また、そのような位置が占められるよう、「顧客が自分に依頼する理由」を考えることだともいえます。
差別化には、サービス内容や価格などのほか、自身の人柄なども要素として入ってきます。例えば、上場を目指すベンチャー企業をターゲットとした場合には、「バックオフィス関連を丁寧にフォローする手厚さ」も、差別化要因の一つとなります。
ポジショニングを考える際には、自分の経歴や経験したこと、あるいは今までの仕事で顧客に喜ばれたことなどを棚卸ししてみるとよいでしょう。棚卸しについて詳しくは、以下のダウンロード資料で解説しています。
具体的なマーケティング戦略を考える【4P分析】
マーケティングにおいて自身の提供価値を「どのように届けるか」を分析し、具体的なマーケティング戦略を考えるのが4P分析です。4P分析においては、Product(商品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(販売促進)の4つの「P」を考えます。開業にあたってこれら4つのPを整理しておくと、集客や営業の方針がぶれずに済みます。
Product(商品)
4P分析においてまず考える必要があるのは、売上の源泉となる商品です。商品は、会計事務所の場合なら、税務顧問業務や会計コンサルティング(IPO支援)、社外役員業務などのサービス内容に相当します。
サービス内容を考える際には、単にサービスの名称を検討するだけでなく、「どんなサービスが顧客のニーズを満たすのか」「顧客に付加価値を提供できるサービスは何か」などの根本的な観点を忘れないようにするのが大切です。また、サービスをどの範囲まで行なうのかも併せて検討しておきましょう。
例えば、税務顧問業務であれば、仕訳入力は基本契約に含まれるのか、それともオプションか、あるいは訪問は毎月実施するのかなど、具体的なサービス内容を決めておく必要があります。
Price(価格)
次に、サービス内容それぞれの価格(会計事務所の場合は報酬)を決めます。報酬は、地域の会計事務所全体としての相場や、特に競合すると思われる事務所との比較、およびサービス内容とのバランスで決めていきます。可能であれば、顧客の売上規模に応じた料金体系をつくっておけば、問い合わせなどの際に案内しやすくなるでしょう。
相場や競合事務所と比べて報酬を低いレベルに抑えれば、顧客にとっては分かりやすい魅力となり、顧客獲得が容易になります。ただし、その場合には顧客数を増やす必要がでてくるため、顧客1社あたりに割ける時間が限られてしまいます。サービスの質の低下が懸念されるため、値下げには慎重な検討が必要です。
Place(流通)
Place(流通)とは、会計事務所ならサービスを提供する場所のことです。以前は会計事務所がサービスを提供する場所は、事務所の立地とほぼ一致していました。しかし、近年ではクラウド会計ソフトが普及したため、事務所の立地に関係なく、全国の企業に対してサービスが提供できるようにもなっています。
あくまでもオフラインでの面談を重視するのか、それともオンラインでのサービス提供を中心に据えるのか、ターゲットとする顧客に合わせて決めておく必要があるでしょう。
Promotion(販売促進)
Promotion(販売促進)とは、会計事務所の場合なら、事務所のサービス内容や魅力を見込客へ届け、事務所の認知を広げることです。ホームページやインターネット広告、SNSなどを媒体に行なうことが一般的です。また、顧問先企業やほかの士業などからの紹介も重要な方法です。
販売促進は、手法によりコストが異なります。予算の範囲で行なうことが重要なため、手法の取捨選択が必要となってきます。
販売促進について詳しくは、以下の記事でも詳しく解説していますので参照してください。
よくある質問
公認会計士にマーケティングが必要な理由は?
公認会計士は独立開業した場合、顧客の獲得を真剣に考えなければなりません。マーケティングは、顧客獲得をスムーズに行なうための方法です。
自分が顧客とするターゲットを決める方法は?
セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングを行なうSTP分析が有効です。
具体的なマーケティング戦略を考えるための方法は?
Product(商品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(販売促進)を考える4P分析があります。