税理士が抱えるストレスとその軽減方法を紹介。ポイントはITを使った業務の効率化

業務効率化

税理士が抱えるストレスとその軽減方法を紹介。ポイントはITを使った業務の効率化
「税理士」という職業は難関試験である税理士試験を突破しなければなれない職業です。そのため、税理士であるということは自信につながるといえる一方、抱えるストレスも少なからず存在します。そこで本記事では、税理士が抱えるストレスとその軽減方法、具体的な方法であるITを導入した業務の効率化について紹介します。

税理士が抱えているストレスの原因

どのような業種であっても多かれ少なかれさまざまな仕事上のストレスが発生しますが、税理士業界に関しても例外ではありません。

特に税理士のような国家資格に基づいて専門的なサービスを提供する職業については、単にクライアントのニーズに応えるだけでなく、専門家としての高度な知識に基づいた適正な手続きが必要不可欠です。開業税理士や勤務税理士を問わず、まずは税理士業界全体で発生しやすいストレスの主な原因についてチェックしましょう。
 

 

繁忙期の長時間労働

中小企業や個人事業主に対する税務顧問業務を、主たる業務として取り扱うような一般的な税理士事務所については、毎年の繁忙期と閑散期における業務量の偏りに頭を悩ませているケースが非常に多いです。

特に毎年12~1月には年末調整や法定調書作成、償却資産税申告業務が重なり、その後2~3月には確定申告業務、5月には3月決算法人の申告業務が集中するため、これらの繁忙期には事務所全体の業務量が大幅に増加します。

これらの繁忙期には残業や休日出勤などの時間外労働も発生しやすく、長時間労働によって疲労やストレスが蓄積し、ますます業務効率が悪化するという「負のスパイラル」に陥る可能性も高まります。

そのため職員を雇用する税理士事務所に関しては、繁忙期に対する業務量の偏りを軽減し、可能な限り労働時間を平準化させることで職員の職場満足度を高め、事務所内の人材定着率や労働生産性の向上に取り組むことが重要です。

税制改正による継続的な学習

税理士業界においては毎年税制改正が行われるため、常に最新の税制をキャッチアップできるように「インプット」が必須であるだけでなく、必要に応じてクライアントへわかりやすく発信する「アウトプット」も求められます。

税制改正による前年度からの計算方法変更などへの対応に加え、改正内容によっては業務量が増加するような改正が行われる場合もあるため、事務所内の業務フロー自体を見直さなければならないケースもあります。

税理士試験に向けた受験勉強に留まらず、税理士登録後も継続的な学習が避けられません。ときには業務時間外でもインプット作業が必要となる場合もあるため、ストレスを感じる可能性も自ずと高まります。

ミスができないため、プレッシャーを感じる

税理士業界に限らず、どの業種でも業務上のミスは避けなければなりませんが、中でも税務会計の専門家である税理士に関しては税法に則った正確な処理が義務付けられます。

特にクライアントの決算手続きや確定申告業務に関しては申告期限が定められており、税理士は期限までに適正な税務処理を完了できるよう、事務所内だけでなく顧問先ともスケジュールを調整し、円滑に業務を進めなければなりません。

万が一会計処理や税務手続きに誤りがあった場合には賠償請求に発展するリスクもあるため、税理士は「ミスができない」というプレッシャーと闘いながら業務を行わなければならず、必然的に業務上のストレスが蓄積しやすくなります。

顧問先の対応

税理士業務において適正な税務会計の手続きを徹底するためには、税理士事務所内部の対策だけでなく、クライアント側の協力も必要不可欠です。顧問先からの資料回収が遅れたり、不正確な資料が届いたりした場合には一連の業務フローの遅延につながってしまうため、期限に追われることによってミスの発生原因にもなり得ます。

また税務会計の専門家として税法を順守することに加え、「顧客」であるクライアントのニーズも同時に満たさなければなりません。

ときには税法上不適切な処理を要求されたり、顧問契約の範疇から外れるような専門外の業務を依頼されたりするケースもあります。そのようなイレギュラーな対応を強いられる場合には、体力面だけでなく精神的にも大きな負担が生じるため、業務にあたる税理士のストレスも増加しやすくなります。

職場の人間関係

一般企業と同様に、税理士事務所においても職場内の人間関係によってストレスが蓄積する事例は多いです。特に事務所内部で円滑なコミュニケーションがとれない場合や、職員間の価値観または考え方が合わない場合には、特定の職員が孤立したり、事務所内に派閥が形成されたりするリスクも高まります。

また税理士事務所や税理士法人の中には複数名でチームを組んで特定の業務にあたる場合も多いため、チーム内のコミュニケーション不足や、メンバー間の能力差による業務のしわ寄せが発生するケースもあります。

このように事務所内の人間関係が良好でない場合には、職員のストレスが蓄積し、離職率の増加が懸念されるだけでなく、コミュニケーションエラーによるミスの発生リスクが高まるなど、業務に支障をきたす可能性も考えられます。

ストレスの軽減方法

自分自身の専門的知識やノウハウをサービスとして提供する税理士業務において、税理士がストレスを抱えたまま働き続けることは、本人の健康面はもちろんのこと、業務品質の低下などによってクライアントが不利益を被る可能性もあります。

税理士はそれらのリスクヘッジのためにも自らのストレスを軽減する対策が必要不可欠であり、ストレスの原因と向き合って下図のように適切な対策を講じることが重要です。
 

 

ITを導入し、業務の効率化を推進する

繁忙期と閑散期で業務量の差が大きい税理士業務については、繁忙期の業務負担を軽減することで、事務所内の労働環境を改善をすることが業界全体の課題といえます。業務負担を軽減するためには、繁忙期に業務が偏らないように閑散期のうちに資料収集や仕訳入力を分散して行うことや、クライアントともスケジュールを共有して一連の業務を円滑に進捗できるように事前準備を行うなどの対策が欠かせません。

また、事務所内でAIやITツールの導入を進めることで、税理士や職員が行う業務の一部を省人化する取り組みも効果的です。

これらのテクノロジーによって職員一人ひとりが担う業務量が減少すれば、単に労働時間が削減されるだけでなく、税理士や職員はより高度な知識が必要とされる業務に注力できるため、事務所全体の高付加価値化にも貢献します。

なお、AIやITツールによる自動化に取り組む場合には、闇雲に業務の一部へ導入しても十分な成果が得られないケースも多いです。AIやITツールの導入自体を目的とするのではなく、まずは事務所内の一連の業務フローを見直し、削減すべき工程や単純化が可能な業務がないか精査したうえで、テクノロジーの導入効果を検証しましょう。

資料の回収を早めにする

税理士事務所としてミスを削減するためには、職員全体のレベルアップや事務所内外におけるミス事例の共有、業務フローの改善あるいはチェック体制の見直しなど、さまざまな方法が考えられます。

また、事務所内部の体制を整備すること以外にも、「業務負担の軽減」や「ミスの削減」を行うには無理のないスケジュールで業務を進めることも重要であり、そのためにはクライアント側の協力も欠かせません。

早い段階で余裕を持って資料回収を行うことにより、万が一中身に不備などがあった場合でも適切な対応を行いやすくなるため、クライアントには回収期限をきちんと伝え、資料回収の精度を高めるためにも必要書類をリストアップするように徹底してください。

なお、クライアントとの間に十分な協力体制を整備するためには、顧問先の担当者との信頼関係の構築が重要です。そのため日頃から積極的なコミュニケーションをとることで、クライアントと適切な関係性を維持できるように努力しましょう。

無理な要望を聞きすぎない

税理士は税務会計の専門家として税法に則った処理が義務付けられる一方で、顧客であるクライアントのニーズにも応えなければならず、ときには「適法性」と「顧客ニーズ」の間でジレンマに陥るケースもあります。

そのようなケースにおいても適法性の確保は最優先事項であるため、場合によっては税法に則った処理を行うために時間をかけてクライアントを説得することも必要です。ただし適切なアプローチを経てもなおクライアント側の理解が得られない場合には、税理士は自らのリスクを回避するために一定の基準を設けて線引きを行うことも重要です。

自らの基準に照らし合わせたうえで、「顧客ニーズに応えることが適切ではない」と判断した場合には、顧問契約の解除なども含め、毅然とした対応に踏み切ることも検討しなければなりません。

また、適法性は満たしている場合でも、クライアントから困難な要求を押し付けられるケースもあります。業務内容としては対応可能だとしても条件面で引き受けることが困難な場合には、無下に断るのではなく、納期や料金などの条件を交渉したうえで結論を出すことで、その後の関係性を維持しやすくなります。

人間関係によるストレスの少ない環境を構築する

税理士事務所内部の人間関係を改善するためには、職場でのコミュニケーション機会を増やすことが効果的です。

特に税理士業務では担当制を採用している職場が多く、事務所内が「個人事業主の集まり」と形容されるようにそれぞれの職員が自らの業務ばかりに集中し、内部のコミュニケーション機会に乏しいケースがあります。そのような職場環境を継続することで、次第に他の職員の価値観や業務内容に対する関心が薄れ、良好な人間関係を築くことが難しくなります。

事務所内のコミュニケーション機会を増やすためには、コミュニケーションが不足している部分を検証し、「タテ(経営陣と職員間)」「ヨコ(職員間)」「ナナメ(他部署間)」の人間関係を活性化させるように取り組みましょう。

たとえば「タテ」のコミュニケーションの場合には上司と職員間での1on1ミーティングの実施、「ヨコ」のコミュニケーションでは職員同士が称賛し合うサンクスメッセージ制度の導入が効果的です。また「ナナメ」のコミュニケーションに関しては、事務所全体でのレクリエーションの実施などが挙げられます。

なお、事務所内の制度だけでなく、気軽にコミュニケーションをとれるようなスペースを設置することや、ミーティングルームの照明や内装をリラックス効果の高いものへ変更するなど、職場環境の整備についても人間関係によるストレスを軽減する効果が期待されます。

ITを導入した具体的なストレス軽減方法

税理士業務においてAIやITツールを導入する場合には、会計処理や資料の回収および保存、クライアントとのコミュニケーションなどさまざまな局面で活用できます。
 

 
テクノロジーの導入にあたっては、まず事務所内の業務フローを精査し、その中でボトルネックとなっている工程の洗い出しからスタートすることをおすすめします。

生産性低下の原因となっている工程をチェックし、それらをAIやITツールを活用することで自動化できるかどうか慎重に検証しましょう。

クラウド会計ソフトの使用

クラウド会計ソフトでは、ネットバンキングやクレジットカードと自動連携でき、それらの取引履歴を読み込むことで自動的に仕訳を生成することが可能です。

従来は記帳代行業務として手作業ですべて行っていた仕訳入力を自動化することで、税理士事務所職員の入力業務を大幅に削減でき、ストレスの原因の一つである「繁忙期における長時間労働」の解消にも貢献します。

また、クラウド会計ソフトの導入による仕訳入力の自動化は、職員の業務負担軽減だけでなく、税理士事務所として「サービスの高付加価値化」に取り組む場合にも効果的です。

具体的には毎月発生する仕訳入力を省人化することで、捻出されたマンパワーをより専門的知識が求められる業務に投入でき、その結果として事務所の売上拡大や職員のやりがいを底上げする効果も期待できます。

税理士や事務所の職員が単純作業や定型業務ではなく、より専門性の高い業務に従事できる環境を整備することで、職員の職場満足度を引き上げ、事務所としての離職率抑制にも有用です。

あるいは自計化しているクライアントにクラウド会計ソフトを導入する場合には、クライアント側の経理業務が短縮されて労働生産性の向上にも貢献するため、顧客満足度の向上にもつながります。

紙や書類をオンラインストレージで管理

契約書や請求書などの証憑類のように、税理士業務においては顧問先から預かる資料が多く、それらを保管・管理する際にも一定の作業工数が伴います。特に紙媒体による管理体制では、郵送作業や「必要な資料を探すための時間」のように生産性のない工数が生じやすく、さらにクライアントからの資料収集にもタイムラグが発生するため、職員の労働時間増加などのデメリットに発展しやすくなります。

一方で、オンラインストレージの場合には、データ化した資料をインターネット上にファイルとして保存することで、特定のクライアントとリアルタイムでデータを共有できます。お互いに郵送作業の手間が省けるだけでなく、事務所内のペーパーレス化を推進できるため、紙媒体による保管コスト削減にも貢献します。また、WordやExcelデータをオンラインストレージ内で管理することで、最新のデータがわからなくなるなどのリスクを避けることも可能です。

紙媒体による管理体制で生じやすい郵送作業や資料収集のタイムラグを削減し、業務時間の短縮や早期の資料回収が可能となることで、事務所内部のストレス軽減も期待できます。

さらにオンラインストレージ内で管理することにより、万が一事務所のパソコンが故障した場合でも代わりのパソコンからいつでも必要なデータにアクセスできるため、事務所全体のリスクヘッジという観点においても導入の効果が期待できます。

コミュニケーションツールの利用

ビジネスチャットツールを利用することで、従来のパソコンメールに比べてメッセージ履歴の確認や迅速なデータ共有が容易となり、クライアントとの円滑なコミュニケーションが可能となります。

そのうえビジネスチャットツールではグループチャット機能も利用もできるため、一対一のコミュニケーションに加え、複数名で同時にやりとりを行う際にも重宝します。また、クライアントとのやりとりだけでなく、事務所内部でのコミュニケーションツールとしても活用できるため、職員間のコミュニケーション不足解消にも役立てることが可能です。

さらに、タスク管理としての機能も搭載されているため、ビジネスチャットツールを活用することで「業務効率化」や、業務の見える化に伴う「業務配分の最適化」を追求し、職員の業務負担軽減を目指しましょう。

業務の進め方を見直してストレスのないサービス提供を

税理士が抱えているストレスの主な原因としては、「繁忙期の長時間労働」や「税制改正による継続的な学習」「ミスに対するプレッシャー」「顧問先対応」「職場の人間関係」などが挙げられます。

これらのストレスを軽減するためには、ストレスの根本的な原因を正確に把握し、「IT導入による業務効率化の推進」や「資料回収の早期化」「スケジュール管理の徹底」「無理な要求に対する適切な対応」「コミュニケーション機会の増加」などの対策を講じましょう。

税理士業界でのストレス軽減に関しては、AIやITツール導入による効果が非常に大きくなります。クラウド会計ソフトやオンラインストレージの導入、Excelの活用などによって業務効率化や資料回収の早期化を実現できるだけでなく、コミュニケーションツールを利用することで事務所内外のコミュニケーションの質や量を改善することにもつながります。

ストレスの原因とその対処方法について十分に検討し、税理士として最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、最適な労働環境を整備しましょう。

よくある質問

税理士が抱えるストレスの原因は?

ストレスの原因としては「繁忙期の長時間労働」や「継続的な学習」「ミスに対するプレッシャー」「顧問先対応」「職場の人間関係」などが挙げられます。特に繁忙期の労働時間削減は業界全体の課題といえるでしょう。

ストレス軽減のための方法は?

ITによる業務効率化の推進や資料回収の早期化、コミュニケーション機会の増加などが挙げられます。特にITツール導入によって複合的なメリットを享受できるため、業務フローを踏まえて導入効果を検証しましょう。

IT導入によるストレス軽減効果とは?

AIやITツールを導入することで「定型業務の自動化」や「迅速なデータ共有」が可能となり、労働時間の短縮に貢献します。さらに事務所内のコミュニケーションの質や量が向上し、人間関係の改善にもつながります。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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