税理士は安定した職業なの?現状や今後の需要についても解説。

独立・開業

税理士は安定した職業なの?現状や今後の需要についても解説。
税理士資格は、難関な国家試験の一つであり、安定した職業だと言われてきました。しかし、変化の激しい今の時代において、税理士業界に不安を感じている方もいるのではないでしょうか。税理士は、今後も安定した職業であり続けるのか。本記事では、税理士業界の現状から、今後の需要などについて詳しく解説していきます。

税理士の現状について

税理士業界の今後の展望を見据えるために、まずは業界内の現状を正しく理解することが必要不可欠です。
 

 
時代とともに税理士業界を取り巻く環境や税理士に対するニーズも変化するため、必ずしも先入観によってマイナスな要素と決めつけるのではなく、自分自身にとってのビジネスチャンスとなる可能性について客観的に検討するように心掛けましょう。

ベテラン税理士の割合が高い

税理士業界の大きな特徴として、税理士登録者の高年齢化が挙げられます。特に開業税理士の場合には定年退職という概念がないため、税理士自らが健康である限りは現役として長く活躍し続けることが可能です。

一方で、税理士試験の受験者数については近年回復傾向にあるものの、以前に比べて受験生が減少しています。このことから20〜30歳代の税理士登録者が少ない現状に拍車がかかり、定年が存在しないことと相まって業界全体の平均年齢を押し上げていると考えられます。

また税理士業務では「モノ」としての商品が存在せず、税理士は自らの専門的な知識やノウハウを武器として顧客獲得に取り組まなければなりません。営業活動を行ううえでは専門家としての信用が必要不可欠であるため、ベテラン税理士が持つ経験値によって顧客の信頼を得やすいといった特性も作用していることでしょう。

さらに、税理士業界に限らず中小企業経営者の高年齢化も加速しており、一般的に経営者は同年代の顧問税理士を選ぶ傾向にあることから、高年齢の中小企業経営者ほど若手税理士よりもベテラン税理士を好むケースが多いといえます。

ただし、税理士業界におけるこれらの現状については、「若手税理士にとって活躍する場がない」ということではありません。

既存の税理士業務にとらわれない柔軟性の高い働き方を追求できるだけでなく、ベテラン税理士が消極的になりやすいAIやITツールのような新しい技術の導入に取り組むことで、他の事務所との差別化を図る若手税理士が多いことも特徴です。

また20~30代の税理士が少ないことから、世代交代によって経営陣の若返りを行った中小企業や、新たに創業する若手起業家にとっては貴重な同年代の税理士となるケースも多く、若手税理士が少ない現状はかえってビジネスチャンスと捉えることもできます。

顧客となる企業数の減少

税理士業務においてはクライアントの大半が中小企業あるいは個人事業主ですが、日本国内におけるこれらの事業者の数に関しては、下図のとおり年々減少しています。
 

 
それぞれの税理士事務所にとっては顧客数が減少し続けている状況を表しており、現在の税理士業界に関しては顧客獲得競争が激化しやすい市場環境であることが伺えます。

その一方で税理士登録者数や税理士法人数は年々増加傾向にあり、中小企業や個人事業主の減少と相まって業界内の需給バランスは崩れ、次第に不均衡な状態へと変化していると考えられます。
 

 
このような市場環境においては価格競争が激化する傾向にあるため、低価格競争に巻き込まれて自らの利益が減少することのないよう、税理士は各々のスキルやノウハウを磨き、他の税理士事務所との差別化を図ることが重要です。

AIが税理士に与える影響

2013年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン教授が発表した論文により、「税理士の仕事は将来AIによって奪われるのではないか」という不安の声が高まっています。

しかし論文内においてAIで代替されるものとして挙げられている仕事は、「データ入力」や「税務申告書作成」などの業務であり、税理士業務そのものを「将来なくなる仕事」と捉えるのは拡大解釈といえます。

実際にAIやITツールはすでに税理士業界に浸透しつつあるものの、それらのテクノロジーによって代替される業務は単純作業や定型業務が中心です。税理士特有の税法解釈や過去の判例に基づく判断、クライアントの税務相談対応などの業務は税理士が行っています。

むしろAIやITツールを事務所内や顧問先に導入し、仕訳入力や請求事務などの業務について省人化に取り組むことにより、事務所内の業務効率化が促進され、税理士や職員のマンパワーの余剰を捻出することにもつながります。

税理士業界においてはAIと「敵対」するのではなく、AIと「共存」することでテクノロジーとの適切な分業体制を構築し、その結果として生み出された人的リソースをよりプロフェッショナルな業務へ投下することが重要です。

税理士の今後の需要

従来の税理士業務ではクライアントと顧問契約を締結し、日常的な経理代行や税務書類の作成を主たる業務として請け負ってきました。

ところが、近年はAIやITツールの発展によって仕訳入力や税務申告書の作成が自動化されつつあります。単純作業や定型業務をAIやITツールに任せ、税理士や職員はテクノロジーによって代替できない専門性の高い業務や、非定型業務に注力することが必要不可欠です。

また、このような税理士業界の変革に伴い、クライアント側のニーズも着実に変化しています。かつての単なる会計や税務手続きの代行だけでなく、経営者の最も身近な相談相手として、税理士に対する需要は経営相談や各種コンサルティングなどの税務会計以外の領域にまで拡大し始めています。

AIやITツールをはじめとするテクノロジーの発展は、今後も継続すると考えられます。税理士は既存の業務に固執するのではなく、市場環境の変化をいち早く察知し、それらに柔軟に対応することで自らの強みを醸成することが求められます。

税理士として安定するためには

税理士業務に限らず、ほとんどの仕事において絶対的かつ永続的な安定はありません。その中でも自らの生活基盤を構築するため、税理士もできる限り安定性を追求する必要があります。

特に顧客となる中小企業および個人事業主の減少や、税理士登録者数の増加などの市場環境を踏まえると、税理士業界内での競争は今後より一層激しくなっていくと予想されます。税理士業界で安定性を追求するためには、自らの強みを醸成し、下図のようにそれらを発揮するための環境を整えることによって、業界内の競争を勝ち抜くことが重要です。
 

 

ITを活用する

税理士業界においてはAIやITツールを積極的に活用し、単純作業や定型業務に対する省人化を図ることで、人的リソースをより高付加価値な業務に投入することが今後のトレンドとなっていくものと予想されます。

具体的にはクラウド型会計ソフトやAI-OCR、RPA、オンラインストレージ、コミュニケーションツールなどのサービスの導入が中心です。経理業務や社内外でのデータ管理、情報共有などの場面で「自動化」や「効率化」の重要性がより一層高まります。

またAIやITツールをうまく導入できていない事務所もまだまだ多いため、それらのテクノロジーを効果的に活用することで、他の税理士との差別化要素にもつながります。さらにAIやITツールの活用については税理士事務所内部の労働生産性を高めるだけでなく、顧客満足度の向上においても重要です。

税理士業界に限らず、単純作業や定型業務に関してはどの業種においても業務効率化に取り組むべきポイントとなります。顧問先とのやり取りの効率化やバックオフィス業務の改善サポートを行うことで、クライアント側の生産性向上にも貢献できます。

中小企業や個人事業主が「税理士選び」を行う際も、クライアント側が利用するAIやITツールに不自由なく対応できる税理士や、テクノロジーに対する改善提案が可能な税理士を希望するケースも今後増加していくと考えられます。

コンサル的なスキルを身につける

AIやITツールの活用などによって単純作業や定型業務に対する工数を削減できれば、それによって捻出されたマンパワーをより高付加価値な業務に投入することが大切です。

具体的には顧問先の経営相談や各種コンサルティング業務など、クライアントが抱えるさまざまな課題や問題点に着目し、専門家の視点から効果的な解決策へと導くことが求められます。

そのためには税務会計に関する知識やノウハウだけでなく、経営者との対話の中で課題を把握する「ヒアリング能力」や、問題点を解決に導くための「論理的思考力」、それらを正しく経営者に伝える「プレゼンスキル」などが欠かせません。

税理士が携わるコンサルティング業務としては、「財務コンサルティング」や「経営コンサルティング」「M&Aコンサルティング」「DXコンサルティング」など多岐にわたっています。

これらの業務の専門性を高め、ノウハウを蓄積することで、顧問先以外のスポット案件についても受注可能性を高めることができ、顧問業務以外の事務所の収益の柱を育てることにもつながります。必要なスキルを習得し、コンサルティング業務への展開を検討する場合には、自らの強みや顧客ニーズを踏まえたうえで取り組むべき業務内容を慎重に選択しましょう。

勤務税理士として働く

税理士としての安定性を追求する場合には、必ずしも自らの税理士事務所を開業することが最善策とは限りません。場合によっては「勤務税理士」として税理士法人や一般事業会社で勤務し続けることが、安定した働き方の選択肢となるケースもあります。

勤務税理士を選択することで、開業税理士が抱えやすい集客活動や人材雇用などの悩みを回避でき、さらに収入が不安定になりがちな開業税理士に比べ、安定的な給与収入を得やすくなるという大きなメリットがあります。

また、勤務税理士に関しても自らの職務に対して大きな責任を持つものの、その責任の範囲は従業員が負うべき領域に限定されるため、開業税理士と比較すると勤務先という後ろ盾の存在は心理的にも大きなアドバンテージとなります。

さらに、税理士として国内外の大手企業に関連する案件や国際税務、富裕層の資産税業務などの大規模な業務への対応を希望する場合には、自らの事務所を開業するよりも大手税理士法人などで勤務する方が近道となる可能性も高いです。

あるいは、一般事業会社の経理部などで勤務することで、一つの会社の税務会計に組織内部からより深く携わることができるなど、税理士業界では体験できない業務経験を蓄積することも可能です。安定性という観点も踏まえて自らの税理士としてのキャリアをイメージし、「開業税理士」だけでなく「勤務税理士」に関しても一つの選択肢として十分に検討しましょう。

他の税理士との差別化を図って、安定を手に入れよう

税理士業界については顧客となる中小企業や個人事業主の減少に対し、税理士登録者数は年々増加を続けており、今後も業界内の競争は激化すると予想されます。

そのような税理士業界で安定的な収入を確保するためには、低価格競争に巻き込まれないよう、他の税理士事務所との差別化を図ることが必要不可欠です。まずは自分自身の強みを理解し、そのうえで税理士業界を取り巻く顧客ニーズを正しく分析することで、専門家としての自らの価値をクライアントへ届けることにフォーカスするよう心掛けましょう。

よくある質問

税理士業界の現状は?

開業税理士には定年がないため、税理士業界ではベテラン税理士が多いという特徴があります。また顧客となる中小企業数が減少する一方で、税理士登録者数は年々増加しているため、競争が激化しやすい環境といえます。

税理士業界の今後の展望は?

業界内ではAIやITツールの導入が進んでおり、単純作業や定型業務を省人化することで捻出した人的資源を高付加価値業務に投入することが重要です。具体的には経営相談や各種コンサルティングなどが挙げられます。

税理士として安定するためには?

今後競争激化が予想される税理士業界では、価格競争に巻き込まれないように他の事務所との差別化を図ることが重要です。そのためには税務会計だけでなく、コンサルスキルの習得など、強みを構築する必要があります。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

記事一覧ページへ

関連記事

事務所開業の手引き