税理士が国税庁から提出を求められる関与先名簿とは?提出する背景と提出方法をわかりやすく解説

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コロナ禍で評価を上げた税理士の特徴!今後求められることとは。
税理士には毎年、税務署から「関与先名簿の提出のお願い」が届きます。「関与先名簿」の提出については、税務署と行われる合同定例会においても締切までに提出をするよう言及されるのではないでしょうか。本記事では関与先名簿について、提出すべき背景と提出する方法をわかりやすく解説します。

所轄税務署から提出を求められる関与先名簿について

年に一度、税理士は事務所を管轄する税務署に対し、自らのクライアントや職員の情報をまとめた「関与先名簿」や「従業員名簿」の提出を行います。

「関与先名簿」や「従業員名簿」の提出は税理士業務の適正化を主たる目的としており、それぞれの税理士事務所は事務所内の情報を然るべきフォーマットに記載し、定められた期限までに提出することが求められます。
 

 
これらの書類に関しては、税理士業務を営むうえで毎年継続して作成する必要があるため、提出する背景や効率的な作成方法について正しく理解しましょう。

そもそも関与先名簿を提出する背景とは

「関与先名簿」とは、税理士が関与している顧問先に関する基本的な情報をまとめた書類をいいます。税理士は毎年、事務所所在地を管轄する税務署の求めに応じて提出を行います。また「関与先名簿」とともに「従業員名簿」の提出も求められ、税理士は自らの事務所で雇用する職員についての情報も、併せて税務署へ提出することが必要です。

税務署が税理士に対して「関与先名簿」や「従業員名簿」の提出を依頼することは、財務省設置法第19条を根拠法令としており、税理士業務における運営の健全性や適正性の担保が目的です。

財務省設置法第19条
国税庁は、内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現、酒類業の健全な発達及び税理士業務の適正な運営の確保を図ることを任務とする。

引用:財務省設置法 | e-Gov法令検索
 
関与先名簿の提出を求める背景は、税理士法で禁止されている「名義貸し」や脱税などを目的とした「事実に反する申告書」の作成、税理士登録を受けていないにもかかわらず税理士業務を行う「ニセ税理士」の存在が挙げられます。

それぞれの税理士事務所が関与する顧問先や雇用する職員の情報を収集することで、これらの税理士法違反行為の未然防止や、違反者によって行われる税理士業務の不適切な運営に対し、厳正な対応を講じることを目指しています。

関与先名簿の内容

税務署に提出する「関与先名簿」については、税理士自らのクライアントに関する下記の基本情報を記載する必要があります。

  • 関与先の氏名または名称
  • 納税地
  • 所轄税務署
  • 関与開始年月日
  • 備考

また「関与先名簿」と併せて提出する「従業員名簿」については、事務所で雇用する職員に関する下記の情報を記載しましょう。

  • 住所
  • 氏名
  • 性別
  • 生年月日
  • 税理士登録区分(社員税理士または所属税理士)
  • 税理士登録番号
  • 採用年月日
  • 業務の内容

なお従業員名簿については、事務所で雇用している職員がいない場合でも提出する必要があるため、開業税理士が単独で事務所運営を行っている場合でも忘れずに作成しましょう。

関与先名簿の様式とは

作成時に使用するフォーマットについては、「関与先名簿」および「従業員名簿」のどちらも国税庁ホームページよりダウンロードすることが可能です。

国税庁ホームページでは、Word形式とExcel形式の2種類のフォーマットが用意されています。
 

 
ただし記載要領さえ満たしていれば、国税庁ホームページに掲載されている正規のフォーマット以外にも、自らが作成した任意のフォーマットで提出することも認められます。

したがって以前から利用しているフォーマットが事務所内に存在する場合には、引き続きそちらの様式を用いて作成することが可能です。

税理士事務所によっては事務所内で管理する顧客情報や職員名簿を編集し、「関与先名簿」や「従業員名簿」を作成するケースもあるため、事務所の管理体制や作成コストを考慮し、自分自身にとって最適なフォーマットで作成しましょう。

関与先名簿を提出しないとどうなる

「関与先名簿」や「従業員名簿」を提出しなかった場合でも、原則として罰則を受けることはありません。

ただし「関与先名簿」や「従業員名簿」の提出の根拠について、以下の税理士法第55条第1項に基づくものとして捉える場合には、同法第62条第2項の規定によって罰金が科される可能性があると解釈されることもあります。

税理士法第55条第1項
国税庁長官は、税理士業務の適正な運営を確保するため必要があるときは、税理士又は税理士法人から報告を徴し、又は当該職員をして税理士又は税理士法人に質問し、若しくはその業務に関する帳簿書類を検査させることができる。
税理士法第62条
次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
第2項 第四十九条の十九第一項又は第五十五条第一項の規定による報告、質問又は検査について、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、質問に答弁せず、若しくは虚偽の答弁をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

引用:税理士法 | e-Gov法令検索

一方で「関与先名簿」や「従業員名簿」の提出に関しては、税務署から送付される「提出のお願い」の文中に「行政指導」であることが明記されています。

「行政指導」に該当する場合の取り扱いに関しては行政手続法にて明文化されており、同法第32条第2項によって、税務署からの依頼に反して関与先名簿や従業員名簿を提出しなかったとしても不利益は生じないと判断することが可能です。
 

行政手続法第32条第2項
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

引用:行政手続法| e-Gov法令検索

 
このことから「関与先名簿」や「従業員名簿」の提出をしなかった場合でも、その税理士に対して罰金や懲戒処分などの罰則を与えることはできないとする考え方が主流であり、所轄税務署からの提出の依頼に応じない税理士もいます。

また「提出しなかったことによる不利益が生じない」ということは、裏を返せば「提出した場合の利益も存在しない」ことを意味します。「関与先名簿」や「従業員名簿」を提出したからといって直接的なメリットを期待することはできないと解釈されます。

ただし実務上は関与先名簿や従業員名簿の提出によって、間接的なメリットが及ぶ可能性も十分に考えられます。

たとえば管轄の税務署によって各事務所に対して不定期に実施される「税理士業務実態調査」では、「関与先名簿」や「従業員名簿」の情報を参考に調査が進行することがあります。そのため、毎年これらの書類をきちんと提出することで、調査時間の短縮につながるケースもあるでしょう。

対照的に、長期間にわたって「関与先名簿」や「従業員名簿」の提出が行われていない場合には、税務署側で事務所の経営実態を正確に把握することが困難となるため、「税理士業務実態調査」による調査対象に選ばれやすくなる可能性もあります。

また、書類が提出されるまで所轄の税務署から提出を催促されるケースもあるため、それらの手間や負担を考慮し、やむを得ず毎年提出を行っている税理士事務所も多いのが実情です。

一方で「法的な提出義務や罰則規定が存在しないのであれば、自らのクライアントや職員の情報を積極的に開示する必要はない」と考えて書類の提出を行わない事務所もあり、税理士の間でも「関与先名簿」や「従業員名簿」に対するスタンスは二極化傾向にあります。「関与先名簿」や「従業員名簿」を作成する背景や法的根拠、提出の必要性を総合的に勘案し、税理士事務所としてどのように立ち回るべきか慎重に検討しましょう。

関与先名簿を提出する方法

関与先名簿や従業員名簿に関しては、所轄の税務署から送付される「提出のお願い」などの依頼文書に基づいて作成および提出を行います。

あらかじめ作成した「関与先名簿」や「従業員名簿」を紙媒体で出力し、税務署から届く封筒内に同封された返信用封筒を用いて郵送で提出してください。なお「関与先名簿」や「従業員名簿」については、以前よりe-Taxなどの電子システムを用いることができないため、必ず書面で提出しなければなりません。

また「関与先名簿」や「従業員名簿」の提出期限や対象期間については、地域ごとに異なる場合があります。所轄の税務署から送付される依頼文書をしっかりと確認し、記載内容に誤りのないように作成しましょう。

事業規模が大きい税理士事務所の場合には顧問先の件数や職員の人数も多いため、「関与先名簿」や「従業員名簿」の作成工数についても決して軽視できません。場合によっては確定申告時期や3月決算法人の申告時期のような繁忙期と重なるケースもあるため、「関与先名簿」や「従業員名簿」の作成工数については最低限に抑えることが望ましいです。

特にこれらの書類に関しては毎年税務署へ提出することとなるため、手書きではなくデータ上で作成することをおすすめします。

作成の際には、国税庁のホームページからダウンロードできるWordやExcel形式のフォーマットにクライアントや職員の情報を直接入力し、作成済みのデータを事務所内で保管しておくことで、次年度からの作成工数を大幅に短縮することが可能です。

さらに「関与先名簿」や「従業員名簿」を事務所内の情報管理ツールとして活用することで、事務所の情報を一元管理することにもつながります。提出書類の作成だけでなく、事務所内の情報管理という面も考慮し、効率的な運用方法を検討しましょう。

関与先名簿の背景を正しく理解し、効率的に作成しましょう

年に一度、管轄の税務署から提出を依頼される「関与先名簿」や「従業員名簿」については、税理士業務の運営に関する健全化を目的として行われる「行政指導」です。

これらの書類を提出することによる直接的なメリットはなく、提出しなかった場合の罰則規定も存在しませんが、制度の背景や目的を踏まえ、毎年提出に協力する税理士事務所は少なくありません。

「関与先名簿」や「従業員名簿」は電子申請に対応しておらず、紙媒体での提出が必要です。毎年の作成業務にかかる工数を削減するためにも国税庁のホームページで用意されているフォーマットを活用し、Excelデータなどで保管することをおすすめします。

また「関与先名簿」や「従業員名簿」を事務所内の情報管理ツールとして活用することも可能であるため、書類を作成する場合には効率的な運用方法についても併せて検討しましょう。

よくある質問

関与先名簿や従業員名簿を提出する目的は?

関与先名簿や従業員名簿の提出を依頼する目的としては、税理士業務の健全化が挙げられます。具体的には各事務所の顧問先や職員の情報を収集し、名義貸しやにせ税理士などの税理士法違反行為の防止に役立てています。

提出しなかった場合にはどうなる?

行政手続法では関与先名簿の提出などの行政指導に従わない場合でも、罰則を与えることはできないと明記されています。ただし提出によって税理士業務実態調査が円滑に進むなど、間接的な効果が生じる場合もあります。

関与先名簿や従業員名簿の提出方法は?

国税庁ホームページからそれぞれの様式をダウンロードできます。Excelなどで作成したデータを印刷し、紙で提出してください。また毎年作成が必要となるため、作成データを保存し、次年度以降も活用しましょう。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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