国際税務に強い税理士になるには?仕事内容やキャリアプランを解説

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国際税務に強い税理士になるには?仕事内容やキャリアプランを解説

税理士が提供できるサービスの中で、大きな強みになるものの一つに国際税務があります。国際税務とは、日本と海外の複数国間で事業活動や取引を行う法人や個人に関して、各国の税制に則って適切な会計処理や税務手続きを行う業務のことです。

近年のグローバル化の加速により、大企業だけでなく中小企業についても海外展開を行うケースが増加しています。また、海外に進出する日本企業や、新たに日本市場に参入する外国企業も増加しており、グローバル企業の「税務顧問」を行う税理士へのニーズも次第に高まっています。

そこで、この記事では国際税務に興味を持った方へ向けて、具体的な仕事内容やキャリアを形成していくための参考情報を紹介していきます。

国際税務の需要はどれくらいあるか

はじめに、国際税務の需要について分析をします。結論から言うと、近年は輸出・輸入額ともに高水準で推移しており、国際税務の必要性は高まっていると言えます。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大など、世界経済に大きな変化が起きた際の影響は考慮する必要があります。

今後の国際税務に対するニーズに関しても、新型コロナウイルスによる影響やアメリカ大統領選など国際情勢の影響を受ける可能性は十分に考えられます。現状を正しく理解し、今後の税理士としてのキャリアを考察するうえでの判断材料として活用しましょう。

輸出入の推移

財務省が公表する「貿易統計」によると、2010年以降の輸出額および輸入額はいずれも60兆円超を維持し続けており、海外取引が高い水準で推移していることが伺えます。

なおコロナ禍の影響により、2020年度は輸出額が約68.4兆円、輸入額が約68.0兆円となっており、2019年度と比較すると前者は約11.1%、後者については約13.5%下落しました。

しかしコロナ禍による影響が次第に落ち着き、世界経済が活性化した2021年度については、輸出額が約83.1兆円、輸入額は約84.8兆円まで急拡大し、2020年度と比べてそれぞれ20%以上も増加しています。

今後も新型コロナウイルスの感染拡大の状況によって影響を受ける可能性はあるものの、海外取引については高水準を維持しており、国際税務に対するニーズもさらに拡大する可能性は十分にあると考えられます。

海外進出の数

外務省によって公表されている調査結果によると、2019年から2021年にかけて海外進出した「日系企業の拠点数」は以下のように推移しています。

  • 2019年:74,072件
  • 2020年:80,373件
  • 2021年:77,551件

出典:海外進出日系企業拠点数調査|外務省

2021年の調査結果によると、拠点数77,551件のうち、業種としては製造業が約28.3%と最多であり、地域別ではアジア圏が約68.9%を占めています。全体的な拠点数としては2021年では減少傾向にあるものの、コロナ禍においても多くの海外拠点が残されているため、今後も継続的な海外取引が見込まれます。さらに、アフターコロナによって世界経済がより一層活性化すれば、日系企業の海外拠点数が増加に転じる可能性も高まります。

国際税務の仕事内容

国際税務とは、日本と海外の複数国間で事業活動や取引を行う法人や個人に関して、各国の税制に則って適切な会計処理や税務手続きを行う業務を指します。

税理士が国際税務として提供するサービス内容は、大きく3つのジャンルに分かれています。それぞれの税理士事務所によって取り扱う業務領域にも違いがあるため、国際税務を扱う際には具体的にどのような業務に焦点を当てるのか十分に検討しましょう。

税務顧問

一つ目は「税務顧問」です。

近年のグローバル化の加速により、大企業だけでなく中小企業についても海外展開を行うケースが増加しています。海外に進出する日本企業や、新たに日本市場に参入する外国企業も増加しており、グローバル企業の「税務顧問」を行う税理士へのニーズも次第に高まっています。

「税務顧問」を行う場合には、顧問先の税務申告書類の作成に加え、二国間での二重課税を防止するための「外国税額控除制度」の適用や、租税上のリスク回避などが主な業務内容となります。特に、日本と諸外国の間では、二重課税の排除や脱税の防止を目的とした「租税条約」が結ばれているケースも多く、税理士が国際税務に携わる場合には日本と相手国との間で締結された「租税条約」の内容を正確に理解しなければなりません。

世界各国の税制や日本との租税条約の内容を完全に網羅することは現実的ではないため、東アジアやアメリカ、欧州などの特定のエリアに絞って国際税務業務を展開する税理士事務所も多くなっています。

移転価格税制

二つ目は「移転価格税制」です。

企業が海外の関連企業と取引を行う場合など、複数国間にまたがって取引する場合には、国によって適用される税率が異なる場合があります。

このような各国の税率差に着目し、一般的な市場価格とは異なる取引価格を設定することで一方の利益を他方に移転でき、税率の低い国でより多くの利益が発生するように調整することが可能となってしまいます。特に海外子会社などを含めたグループ企業間の取引では自由に取引価格を調整できるため、租税回避や利益操作に利用されるリスクも高まります。

これらの不適切な取引価格による租税回避行為を防ぐため、各国では「移転価格税制」を設けており、実際の取引価格が「通常の取引価格(独立企業間価格)」とは異なる場合には、「独立企業間価格」によって所得の再計算が行われます。

「移転価格税制」による取引価格の是正があった場合には、多額の追徴税額が発生するケースもあります。クライアントが税務リスクを負うことがないよう、税理士として適切な移転価格の策定をフォローしなければなりません。

第三者間取引での価格水準を示す「独立企業間価格」については、いくつかの算定方法が設けられています。クライアントの取引内容や取引フローと照らし合わせ、実際の移転価格の算定プロセスやその根拠資料、リスク分析などの準備が必要不可欠です。

海外資産・外国人投資家の所得税申告

三つ目は「海外資産・外国人投資家の所得税申告」です。

日本人が投資目的などによって海外に不動産を所有するケースも増えており、日本の所得税に加え、現地での税務申告が必要となる場合もあります。また、企業のグローバル化によって社員の海外転勤が必要となる事例も増加し、税理士として各社員の税務手続きや申告相談などの対応が求められる場面も増えています。

場合によっては日本国内と現地の双方で課税されるケースもあり、その際には「外国税額控除制度」を適用しないと二重課税になってしまうため、税理士が税務申告を代行し、適切な税額計算を行うケースが一般的です。

さらに外国人が日本国内の不動産を保有するケースもあり、源泉徴収や所得税申告が必要となる事例もあります。特に、海外に住む非居住者が国内不動産のオーナーとなる場合には、源泉徴収事務や納税管理人の選定などの手続きが必要となるため注意しなければなりません。

このように国外財産から発生する所得に対する税務手続きに関しては、二国間の租税条約への理解や現地の言語への対応が必要不可欠です。これらのサービスを取り扱う税理士に関しても、専門的な知識が求められます。

国際税務に必要な語学力や資格

税理士が国際税務に携わる場合には、基本的なスキルとして語学力が必要となるケースが多いでしょう。特に、現地法人の設立や移転価格税制に関するコンサルティング業務など、外国語でコミュニケーションをとる機会が多い業務ほど語学力は欠かせません。

国際税務を扱う職場への転職や部署異動の際には、語学力が前提条件となる場合もあります。たとえば英語であれば「TOEIC700点以上」などの水準を、ビジネスレベルの語学力として評価する場合もあります。

また、税理士業務として国際税務を取り扱う場合には、単に円滑なコミュニケーションをとれるだけでなく、専門家としての適切な指導やアドバイスが求められます。そのため語学力に加え、租税条約や現地の税制などに関する専門的な知識や経験がより一層重視される職場も少なくないです。

さらに勤務先によっては、海外赴任者や国際税務に携わる社員を対象に語学や現地の税制に関する研修プログラムを設け、社員のスキルやノウハウの底上げに取り組む企業もあります。

なお、国際税務に関連する資格としては「EA(米国税理士)」が挙げられます。EAの資格があればアメリカで税務業務を行えるだけではなく、国際税務や経営コンサルティングに関するスキルとして一定の評価を受けることも可能です。ただし、アメリカにおいて税務申告の代行は独占業務ではなく、類似資格として「USCPA(米国公認会計士)」があるため、現地業務における競争率は日本以上に高い場合もあります。

また、国際税務を行う場合にはEAの資格は必須ではなく、転職や異動時の必須条件として掲げられるケースはさほど多くありません。EAの資格については、就職や転職などにおいて国際税務業務の未経験者などが、自らの知識やスキルをアピールする際に有効な手段となります。

 

国際税務のキャリアを歩む方法

未経験者が国際税務のキャリアをスタートするためには、自らの知識量の拡大に注力するだけでなく、下図のように国際税務に関する実践的なノウハウを積まなければなりません。

国際税務業務を取り扱う職場での勤務が必須であり、場合によっては転職や部署異動で自らのキャリアプランを実現させる必要があるでしょう。

国際税務を取り扱う税理士法人

税理士が国際税務の実践的なノウハウを習得するためには、国際税務を取り扱う税理士法人に就職して実務経験を積むケースが一般的です。特に、以下のような事業規模の大きな税理士法人を選択することで、外資系企業や大手のグローバル企業などの案件に携わる機会も増加します。

Big4税理士法人KPMG税理士法人、PwC税理士法人、EY税理士法人、デロイトトーマツ税理士法人
大手税理士法人辻・本郷税理士法人、税理士法人山田&パートナーズなど
中堅税理士法人アクタス税理士法人、信成国際税理士法人など

国際税務をサービスとして取り扱う税理士法人で実務経験を積むことで、税理士としての専門性を高めながら、国際税務に必要となる実践的な語学力や税務スキルを習得できます。また、実務を通じてさまざまなクライアントの事例に携わることができるため、幅広い知識やノウハウを蓄積しやすく、将来独立開業を行う場合の重要な基盤となります。

海外拠点のある日系企業または外資系企業の経理

税理士法人以外にも、海外拠点を持つ日系企業や外資系企業で勤務することも効果的です。

グローバル展開を行う一般事業会社に勤務することで、「企業内税理士」として自社における移転価格の検証やIFRS(国際会計基準)への対応などの国際税務業務により深く従事できます。

ただし、企業規模や配属される部署によっては国際税務に関する業務の比率が低いケースもあります。自らの希望する仕事内容とミスマッチがないよう、事前にしっかりと情報収集を行いましょう。

また、一般事業会社で実務経験を積む場合には、自らの会社として深く携わることができる一方で、習得できる知識やノウハウの幅は限定的になってしまうケースもあります。将来的に独立開業を検討する場合には、一般事業会社に加えて税理士法人での勤務も経験するなど、必要に応じて実務経験の幅を広げる工夫を講じましょう。

その後国際税務に強い税理士として開業

国際税務業務に関する十分な実務経験を積むことで、「国際税務を強みとする税理士」として開業するための基盤を構築できます。

国際税務では語学力に加えて現地税制や租税条約、移転価格税制などの専門的な知識が求められるため、税理士の中でも国際税務を専門に取り扱う事務所は少なく、事務所のブランディングや差別化戦略として効果的です。

また、国内企業が海外進出する場合だけでなく、新たに日本市場に参入する海外企業についてもクライアントとなり得るため、一般的な税理士事務所とは異なる「独自の顧客層」をターゲットとすることも可能です。

税理士登録者数が年々増加する税理士業界において、国際税務によって他の事務所との差別化が促進されれば、低価格競争に巻き込まれないための事業戦略を実践しやすくなるというメリットも期待できます。

国際税務に強い税理士となって差別化に取り組もう

近年では大企業だけではなく中小企業においてもグローバル化が加速しており、それに伴って国際税務に関するニーズも次第に高まっています。

税理士が国際税務を取り扱うためには、語学力に加えて現地の税制や租税条約、移転価格税制などの専門的な知識が欠かせません。また、国際税務に関するスキルや経験を習得することによって他の税理士との差別化が図れ、健全な事務所経営を行うための重要な基盤を構築できます。

国際税務の経験を積むことができる勤務先を選択するなど、税理士としてのキャリアプランを十分に検討したうえで実践的なスキルの習得に努めましょう。

よくある質問

国際税務の業務内容とは?

税理士が取り扱う国際税務は、海外進出する国内企業または日本に参入する海外企業に対する税務顧問業務や、移転価格税制に関するコンサルティング業務、海外資産を保有する個人の所得税申告などが挙げられます。

コロナ禍での国際税務のニーズは?

コロナ禍の影響によって日本国内における輸出入は一時的に縮小したものの、直近では大幅に回復傾向にあります。アフターコロナに向けて海外取引の拡大が見込まれ、国際税務へのニーズの高まりも期待できます。

国際税務の実務経験を積む方法は?

国際税務を専門に扱う税理士法人や、グローバル展開を行う一般事業会社で勤務する方法が挙げられます。国際税務に関する経験を強みとして自らの事務所を開業することで、他の税理士との差別化が可能となります。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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