税理士の独立開業に大事な人脈。人脈の作り方やポイントとは?

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税理士の独立開業に大事な人脈。人脈の作り方やポイントとは?
仕事をする上で、人とのつながりはとても重要です。税理士においても、独立開業後の事務所運営を成功させるために人脈は重要な要素の1つといえるかもしれません。そこで、本記事では人脈の重要性やつくり方、その際のポイントなどを詳しく解説していきます。

税理士の独立開業に有効な人脈

税理士が独立開業するにあたって人脈づくりに取り組む場合、闇雲に交友関係を拡大するのではなく、下図のようにまずは人脈を広げる目的を明確にすることをお勧めします。

人脈を拡大することで「紹介ルートの整備」や「協業体制の構築」などさまざまなメリットが考えられるため、自らの目的に照らし合わせてどのような属性の人々と接点を持つべきか検討しましょう。

紹介で案件が獲得できる

知人やクライアント、金融機関、他士業などとの関係構築によって紹介ルートを整備できれば、自分で営業活動をしなくても周囲の口コミで比較的スムーズに案件獲得へつながる可能性があります。紹介を受けることは紹介元からの評価の表れであり、紹介案件を丁寧にこなすことでさらなる信頼獲得にも貢献します。

特に独立開業して間もない時期については集客方法が定まっておらず、顧客獲得に苦労することが多いため、紹介ルートを確立するために種をまくことは有効な戦略です。知人やクライアントから紹介を受ける場合、自らの希望する業務内容や顧客層でないケースにおいても、紹介元との関係性悪化を懸念すると断りづらくなってしまうという側面もあります。
紹介ルートを整備する場合には、紹介元に対して自らの業務内容や強み、料金体系などを共有し、紹介案件とのギャップが生じないように工夫しましょう。

アドバイスを受けることができる

税理士事務所を独立開業する場合、税務や会計に関する知識は豊富でも、事務所経営に関する経験やノウハウは持ち合わせていないケースが多いです。特に開業当初は右も左もわからない状況が一般的ですが、他の開業税理士や経営者とのつながりを持つことにより、人脈を活かして経験者からの貴重なアドバイスを受けることができます。さらに独立開業前の段階で人脈を広げることができれば、開業に向けた心構えや準備すべき内容などを相談でき、開業後のスタートダッシュを切りやすくなります。

自らにとっての理想やお手本となる「メンター」のような存在を見つけることで、その後の事務所の経営戦略やビジョンに関してプラスに作用するケースもあります。

税理士や他士業などの同業種だけでなく、異業種の経営者などとつながりを持つことで自分では収集できない有用な情報を得られ、その後の事務所経営や顧客開拓のヒントとなる可能性もあります。

専門家同士で協業できる

クライアントにとって顧問税理士は最も身近な相談相手の1人であり、定期的に経営者とコミュニケーションをとる機会を有するため、税務や会計などの専門分野に限らずさまざまな業務の窓口となります。1件のクライアントから登記手続きや人事・労務に関する案件が発生するケースも多く、その際には司法書士や社会保険労務士などの他士業との連携が必要不可欠です。
開業税理士として業務の関連性が高い他士業とのパイプを確保することで、専門外の相談を受けた場合にもスムーズに専門家を紹介でき、顧客満足度の向上にもつながります。

反対に他士業のクライアントにて税理士業務が発生した場合には紹介を受ける場合もあるため、専門家同士で業務を紹介し合いながら協業関係を構築し、共存することが可能です。専門外の業務領域を補完し合う中で互いの業務に関する知見が深まり、自らのスキルやノウハウの向上も期待できます。

税理士の人脈のつくり方とは

税理士が人脈を広げる場合、具体的には下図のような方法を用いるケースが一般的です。

人脈づくりの目的によって最適な手段も異なるため、まずは人脈を広げる意図や対象となる人物の属性を明確にし、それらに合致した方法を選択するように心掛けましょう。

過去に仕事で関わった人と関係を維持する

ビジネスにおいて人脈づくりに取り組む場合、お互いの仕事ぶりがわからない状態では第三者に紹介することもはばかられるため、十分な信頼関係を築くことができません。ネットワークを構築する上では、過去に仕事で関わりのあった人と関係性を深めることが最も効率的といえます。
すでにお互いのことを認知しており、業務の関連性が深いほど相手のスキルやノウハウに対する信頼も生まれやすいため、関係性を長期にわたって継続しやすいというメリットも期待できます。

税理士事務所の職員として勤務していた頃の同僚や他士業の専門家、金融機関の担当者などの仕事仲間との関係を継続することで、独立開業後においても早い段階でネットワークを構築することが可能です。

交流会に参加する

人脈を広げるために社会人向けの交流会や懇親会が全国各地で開催されており、士業交流会や異業種交流会のように業種や業界、年齢層などの属性によってさまざまな「人脈づくりの場」が提供されています。士業交流会の場合には司法書士や社会保険労務士、弁護士などの他士業との人脈を広げることで協業体制を築き、それらのネットワークを通じて仕事を依頼されるケースも増加するでしょう。
また税理士業務以外の案件が発生した場合には、それらの人脈を駆使して他士業の専門家へ仕事を依頼することも可能です。

異業種交流会の場合には、士業に限らずさまざまな業種や業界の人々と知り合う機会となり、税理士を探している人や顧客を紹介してくれる人と出会う可能性もあるでしょう。ただし異業種交流会については営業目的の参加者が大半であり、「自らを売り込みたい」という売り手ばかりが集う会になってしまうケースも多いです。
そのような「買い手不在の交流会」に参加すると空振りに終わってしまうケースも多いため、成果を上げるためには参加する会を慎重に選びましょう。

交流会以外にも、経営者が集まる勉強会などに参加する方法もあります。
経営に関して共に学ぶなかで交流を深め、互いに切磋琢磨するだけでなく、仕事を紹介し合う関係性に発展する場合も多いです。

ただし勉強会に参加する目的を明確に設定しなければ、交流会などと同様に、投下した費用や時間に見合った成果が得られないケースもあるためご注意ください。

SNSを活用する

TwitterやFacebookなどのSNSが普及したことで、税理士業界でもSNSを活用する事例が増加しています。SNSを活用すれば直接会うことが難しい相手ともつながる機会が得られ、自らのパーソナリティや事務所としての経営戦略を共有できる相手を探し出し、DMなどで交流を深めることも可能です。

目標とする税理士や経営者など、自分自身にとってベンチマークとなる人物との交流を通じ、事務所経営に役立つ知識やノウハウを獲得することで、税理士としてのさらなるレベルアップへと役立てることができます。さらに近年では、ビジネスの世界においてさまざまなジャンルの「オンラインサロン」が展開されています。

オンラインサロンとはWebサービスやSNSを活用し、サロン主宰者の目的や考えに共感したメンバーがオンライン上に集まる「会員制コミュニティ」を指します。「スクール型・スキルアップ型」や「交流型」などのサロンを通して共通の目的を持った他の参加者と交流でき、オンライン上のネットワークを拡大することも可能です。税理士自らがオンラインサロンの主宰者となって、参加者を集めて交流するケースも増えつつあります。

このようにSNSやオンラインサロンを有効に活用することで、開業場所にとらわれない「オンライン上での人脈づくり」が可能となり、オフラインでは困難な「広域でのネットワーク構築」も可能となります。

税理士の人脈づくりのポイント

人脈づくりへの意欲が高いほど相手に対して自らを「押し売り」する傾向が高まり、結果的に信頼関係の構築が難しくなってしまいます。自らのネットワークを広げるためには順序立てて人間関係を構築することが重要であり、具体的には下図のようなポイントを意識しましょう。

 

関係構築に専念する

交流会や懇親会はあくまでも人との出会いや交流を目的とした場であり、当日のうちに十分な信頼関係を築くことは現実的ではありません。知り合った直後に、顧問契約を締結することや仕事を紹介し合う間柄に発展することは困難であり、初対面のうちに営業色を前面に押し出せば、むしろ相手に対して抵抗感を与えてしまいます。

人脈づくりにおいてはいきなり営業トークを展開するのではなく、まず相手との関係構築に専念することをお勧めします。
長く良好な関係性を継続するためには信頼関係が必要不可欠であり、そのためにはお互いの考え方や将来のビジョン、仕事ぶり、人間性などさまざまな要素を理解し合い、共感することが重要です。

強固な信頼関係を一朝一夕で構築することはできないため、手間や時間をかけてじっくりと関係性を深めていくように心掛けましょう。

後につなげられるようにする

人脈づくりの場においてはただちに仕事へ発展するケースは稀であり、多くの場合にはあちこちに種をまき、その中のいくつかが実を結ぶことでより深い関係性へと発展することが多いでしょう。種をまく段階では相手の記憶に残ることや、税理士が必要となった場合に気軽に連絡が取れることが重要です。特に交流会のような不特定多数の人々と出会う場においては、たくさんの人と会話をするうちにお互いの存在も名刺の山に埋もれてしまいます。

そのような事態に陥らないためにも、自分の名刺を手当たり次第に配ることや定型的な挨拶を繰り返すことを避け、相手に関心を持った上で「お互いに貢献し合える関係になれるかどうか」を見極めることが大切です。 またその場限りの交流で終わるのではなく、その後も関係性が継続できるよう、名刺にホームページのURLやQRコード、SNSのアカウントを掲載することも効果的です。

初対面のときに相手の記憶に残るような工夫を講じ、その後の関係性にもつながるような「導線」を整備することで効率的な人脈づくりに取り組んでください。

税理士の人脈づくりの注意点

人脈を広げる場合には、闇雲に行動してもなかなか期待するような成果は得られません。特に集客活動のために人脈づくりに取り組む場合には即座に結果を求める傾向にあり、より一層成果が遠のく原因となってしまう場合も多いです。

人脈づくりにおいては、下図のようなポイントに注意して取り組むことをお勧めします。

 

上辺だけの付き合いをしない

人脈はお互いの信頼関係があってこそ成立するものであるため、コツコツと時間をかけて信頼を積み重ねることが結果的に一番の近道となるケースも多いです。

短期的な成果を追求し過ぎることで、自分の都合の良いように相手を利用するような印象を与えるリスクもあり、人脈づくりが難航してしまう原因にもなりかねません。目先の利益ばかりに執着するのではなく、ときには利害関係を度外視して細く長く付き合える関係も大切であり、必要に応じて関係性を深めるなどの微調整を臨機応変に行うことが求められます。

短期的な視点で上辺だけでの付き合いをするよりも、お互いの人間性やマインドについて深く掘り下げ、「相手の考えに共感できるかどうか」や「長く関係性を継続したいと思えるかどうか」という観点を重視しましょう。

相手にも喜んでもらえることを意識する

健全な人間関係を維持するためには、どちらか一方が常に利益を「与える側」あるいは「もらう側」に固定されることは望ましくありません。相手とのつながりを維持することで、お互いが利益を享受できるような「Win-Winの関係」となることが最も理想的といえます。

そのためには人脈づくりに取り組む上で「相手からどんな利益を得られるか」だけでなく、「相手に対して何を提供できるか」という観点についても並行して考えなければなりません。どちらか一方のみが得をするのではなく、お互いにとってプラスとなるような関係構築のために、自分自身の役割や相手に貢献する方法を検討するようにしましょう。

上手く人脈を築いて、独立開業を成功させよう

税理士事務所の経営において人とのつながりは極めて重要であり、クライアントだけでなく他士業や金融機関、経営者仲間、友人などさまざまなネットワークが存在します。効果的に人脈を拡大することで「紹介ルートの整備」や「協業体制の構築」などのメリットを享受でき、事務所経営を行ううえでの大きな強みとなっていきます。

人脈づくりにおいてはそれらの一つ一つのつながりを大切にしつつ、お互いにとって有益かつ良好な関係性を構築していくことが望ましいです。短期的な成果に固執するのではなく、長期的な視点に立ってじっくりと信頼関係を構築するように心掛けましょう。

よくある質問

税理士が人脈づくりを行うメリットは?

人脈を広げることで紹介ルートが整備できれば、集客活動で大きなアドバンテージとなります。また司法書士や社会保険労務士などの専門家と協業体制を構築することで、顧客満足度の向上も期待できます。

人脈を広げるための具体的な方法は?

人脈づくりの目的によって最適な方法は異なりますが、過去の仕事仲間との関係性を深めることや交流会に参加する方法が一般的です。またSNSを活用すれば、オンライン上でネットワークを構築できます。

人脈づくりを行ううえでの注意点は?

短期的な成果を追い求めるのではなく、相手との信頼関係を構築するように心掛けてください。そのためには自らの利益に固執せず、「相手に対して何を提供できるか」を検証し、Win-Winの関係を目指しましょう。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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