フリーランス税理士のメリットやデメリットとは?成功のポイントも解説。

独立・開業

フリーランス税理士のメリットやデメリットとは?成功のポイントも解説。

税理士としての働き方はさまざまありますが、その中の1つにフリーランスとしての働き方があります。フリーランスには、自分のスキルを活かしながら、自由に働けるという印象をお持ちの方もいらっしゃると思います。

結論から言うと、勤務体系や参入市場などのメリットがある一方で、フリーランスになることで発生するリスクが存在することも事実です。そこで本記事では、フリーランス税理士のメリットやデメリット、成功させるポイントまで詳しく解説していきます。

フリーランスの税理士とは?

フリーランスは「勤務場所や勤務時間に拘束されない自由な働き方」を表す言葉として用いられるケースが一般的です。中小企業庁では以下のように記載されています。

フリーランス:
「特定の組織に属さず、常時従業員を雇用しておらず、消費者向けの店舗等を構えておらず、 事業者本人が技術や技能を提供することで成り立つ事業を営んでいる者」

引用:第2章:フリーランス・副業による起業|中小企業庁

そのため基本的には会社員のような「雇用契約」に基づく勤務形態ではなく、クライアントとの間で「委託契約」や「請負契約」を締結し、それらの契約に基づいて業務に従事する働き方を指します。

税理士の場合、所属税理士として事務所などに雇用される「従業員型」と、開業税理士として個人で独立して働く「独立型」に分かれますが、「フリーランス税理士」は後者に含まれます。ただし開業税理士のうち、職員を雇用して事務所経営を行う場合はフリーランスには該当しないため、基本的には開業税理士が職員を雇わずに単独で働くようなケースを表します。

なお、フリーランスは個人事業主と混同される場合も多いですが、フリーランスは働き方そのものを表す言葉であり、事業形態に制限はありません。そのため、法人を設立した場合でもフリーランスに該当するケースはありますが、税理士法人を設立するためには最低2名以上の社員税理士が必要となるため、フリーランス税理士は「個人事業主として単独で働く開業税理士」が大半です。

フリーランス税理士の仕事内容

フリーランスのように活動する税理士に関しても、下図のようにその業務内容については一般的な税理士事務所と比べて大幅に異なることはありません。

ただしフリーランス税理士の場合、大手の税理士事務所が選択しない経営戦略を採用することも可能であり、フットワークの軽さを活かして複数のサービスを展開することで自らの「強み」を醸成するケースも多いです。

個人を顧客にする場合

個人事業主を除いた個人顧客に対してサービスを展開する場合には、不動産あるいは株式などの譲渡所得をはじめとする確定申告手続きや、相続に関連した節税対策または遺産分割協議書作成、相続税申告手続きなどが挙げられます。

特に近年では、副業や株・FX(外国為替証拠金取引)・暗号資産(仮想通貨)取引などの投資を始める会社員が増加しています。その影響で、会社員が年末調整に加えて確定申告が必要となるケースも増えています。それらの顧客層に対して確定申告手続きを代行するだけでなく、日頃の記帳方法や税務会計に関する基本的なノウハウを伝えるようなスポットコンサルティング業務を提供することも有用です。

スキルアップに取り組む社会人向けにオンラインセミナーや動画・書籍販売を行うことも可能です。文字や音声、動画などさまざまな媒体を活用して、自らが持つ知識やノウハウを発信しましょう。

個人事業主や法人を顧客にする場合

個人事業主や法人に対してサービスを展開する場合には、一般的な税理士事務所と同様に税務顧問業務が基盤となるケースが多いです。顧問業務を請け負う場合には、月次巡回監査や決算または確定申告手続きの代行、節税や税務会計を含む経営活動全般に関するアドバイスなどを行います。

ただし法人の規模が大きくなるほど、顧問となる税理士事務所側も複数人で業務にあたるケースが多いため、必然的にフリーランス税理士の顧問先は小規模または中規模の個人事業主やベンチャー企業が中心となります。

顧問契約だけでなく、クライアントの従業員向けにiDeCoや確定拠出年金、副業に関するセミナーを開催することも可能です。あるいは自らの高いスキルを活かして、AIやITツールの導入支援、経営や財務、事業承継またはM&Aなどの専門分野においてコンサルティング業務に従事するケースもあります。

フリーランスで税理士をやるメリット

税理士がフリーランスのような働き方を選ぶことで、主に下図のようなメリットが考えられます。

いずれも一般的な税理士事務所では享受することが難しい利点であり、フリーランス税理士は税理士業界の固定概念にとらわれず、これらのメリットを存分に活かした「柔軟な戦略」を採用することが望ましいです。

柔軟な働き方ができる

職員を雇用する一般的な税理士事務所の場合には「仕事場」としての空間を用意する必要があり、事務所内での管理体制の構築や秩序の維持を徹底するためにも勤務場所や勤務時間には一定の制約を設けることとなります。それに対して開業税理士がフリーランスとして単独で働く場合には、場所や時間に関する制約が大幅に減少し、自分自身が希望する働き方を追求しやすいです。

フリーランスとして働くことでワークライフバランスの実現にも効果的であり、育児や介護との両立が必要なケースにおいても、スキマ時間で働くことやそれぞれの生活環境に合った仕事量にコントロールすることも可能です。

「自分らしい働き方」を追求できることがフリーランスとして働くことの最大のメリットであり、自分自身の生活リズムや考え方の変化に応じてその働き方自体も臨機応変に変更できる点がフリーランスの魅力といえます。

開業地や拠点選びが自由

一般的な税理士事務所では求人面でのメリットを考慮し、事務所のアクセスや周辺地域の環境を踏まえた開業地選びを行う必要があります。しかしフリーランス税理士であればそのようなポイントの重要性は低下するため、あくまで自分自身にとって働きやすい環境を開業地として選ぶことが可能です。さらに事業形態としてクライアントを招き入れる「来所型」ではなく、自らが顧客のもとを訪ねる「訪問型」や「オンライン」でのサービス展開を行う場合には、より一層自由な拠点選びができます。

事務所の規模が大きくなるほど職員数も増加するため、事務所の改装や移転の決断は一筋縄ではいきません。しかしフリーランス税理士であれば「フットワークの軽さ」を武器に拠点変更も容易となり、自宅開業以外にもコワーキングスペースの活用やワーケーションのような働き方も決して絵空事ではありません。ただし責任のある税理士の立場として、クライアントに関する情報漏えいなどが発生しないように職場環境には細心の注意を払いましょう。

ニッチな戦略が可能

事業規模や職員数の大きな税理士事務所ほど、利益体質を維持するためにはまとまった売上が必要となり、そのためにはある程度規模の大きな市場に参入しなければなりません。それに対し、フリーランス税理士の場合には自分ひとりの生活に必要な売上を確保すれば十分であるため、一般的な事務所が見向きもしないようなニッチな市場に参入することも選択肢です。

近年におけるAIやITツールなどの急速な普及により、インターネット環境を活用すれば周辺地域に限らず日本全国や海外に対しても自らのサービスを届けることが可能です。ニッチな戦略でも広い視野で見ればまとまった収入源となるケースもあるため、専門性の高い税理士業にとってはフリーランスとして活動する活路を見出しやすくなります。

一般的な税理士事務所であれば、開業後は顧問先を増やして事務所の規模を拡大することが定番の流れですが、フリーランス税理士の場合にはその流れに追随する必要はありません。既存の税理士業務や税理士事務所として定石の経営戦略にとらわれることなく、フリーランス税理士だからこそ選択できる大胆かつ柔軟な戦略にも目を向けるように意識しましょう。

フリーランスで税理士をやるデメリット

ここまでフリーランスで税理士をやるメリットについて説明してきましたが、税理士のように専門性が高くリスクの大きい業務を単独で行うことに関しては、メリットだけでなくデメリットも存在します。

例えば、職員を雇用する税理士事務所では「作業者」と「チェック者」を分けることで事務所内のチェック体制を強化できますが、フリーランス税理士の場合には基本的に他者からのチェックを受けることができません。自らのミスに気づかないまま業務が進行してしまう危険性が高いため、リスクマネジメントのためには単に細心の注意を払うだけでなく、外部のチェックリストを活用するなど俯瞰的な視点を入れるための努力も必要です。

また、安定した収入が期待できる税理士とはいえ、フリーランスである以上は収入や業務量が不安定になりやすい点もデメリットです。特にスポット業務の比率が高い場合には、税理士事務所の職員として勤務する所属税理士だけでなく、顧問業務をメインに扱う一般的な開業税理士と比較しても安定性に劣る傾向にあります。業務内容によっては「フリーランス税理士であること」が顧客から選ばれにくい要因となり、結果として仕事探しに困窮するケースもあります。税理士事務所としての事業規模がクライアントに安心感を与える場合も多く、単独で活動するフリーランス税理士では十分な信用を得られない可能性もあるでしょう。

そのため、大手税理士法人や中堅事務所と同じような顧客層をターゲットとすることや、類似したサービス内容を展開することは得策ではありません。一般的な税理士事務所が手の届かない、フリーランス税理士の強みを活かしたサービスがあれば、差別化へとつながる可能性も高まります。

フリーランス税理士の良い面だけでなくリスクやデメリットについても正しく理解し、それらを総合的に勘案することで自らにとって望ましい事務所形態を検討しましょう。

フリーランス税理士を成功させるポイント

フリーランスか否かにかかわらず、開業税理士であれば自らの力で契約を獲得しなければなりません。自分自身の強みを醸成することで他の税理士事務所との差別化を図り、自らのターゲット層に対して効果的な手法や媒体を用いて営業活動を行う必要があります。

フリーランス税理士の場合には自らのキャパシティの範囲内で売上を最大化しなければならないため、低価格の業務で自分の業務容量を消費してしまえば、本来受けるべき業務を受注する余裕がなくなってしまいます。適切な料金設定に基づく業務受注を徹底し、安易な値下げによって貴重なキャパシティを消費しないように注意しましょう。さらにフリーランス税理士については、勤務できない状況に陥った際に業務をカバーしてくれる存在がいない場合が大半です。病気やケガなどで働けなくなった場合には、その期間中は無収入となってしまうだけでなく、顧客離れを引き起こす可能性もあります。

自らの体が資本であることを自覚して体調管理を徹底するとともに、万が一働けない状況に陥った場合に備えて保険制度の活用などもご検討ください。

フリーランスの税理士として活躍しよう

近年ではインターネット環境の整備やAI・ITツールの普及など、職員を雇用しなくても税理士単独で働きやすい時代を迎えています。

フリーランス税理士として活動することで理想とする働き方が追求しやすくなる一方で、チェック体制の整備が難しく、一般的な税理士事務所とは異なる戦略が必要となるなど、いくつかのデメリットも存在します。

開業税理士として事務所形態を検討する際には、フリーランス税理士のメリットとデメリットの双方を正しく理解し、成功するためのポイントも意識した上で方向性を決めるようにしましょう。

よくある質問

フリーランス税理士のメリットは?

自由度の高い働き方が最大のメリットです。勤務場所や時間の制約が大幅に減少するため、理想とする働き方を追求できます。自らが業務量を調整できるため、ワークライフバランスを実現しやすくなります。

フリーランス税理士のデメリットは?

税理士が単独で働くため、十分なチェック体制を整備することが困難です。また事業規模の大きな事務所と比べて信用度が劣る場合も多く、一般的な税理士事務所とは異なる事業戦略やサービス展開が重要です。

フリーランス税理士の成功の秘訣は?

フリーランス税理士としての強みを醸成し、他の事務所との差別化を図ることが重要です。受注できる業務量は限られているため、安易な値下げによる低価格業務でキャパシティを消費しないように注意しましょう。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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