税理士の多様な働き方とは。女性税理士やコロナ禍で変化した働き方も紹介。

組織づくり

税理士の多様な働き方とは。開業税理士や女性税理士などの働き方の特徴も紹介。
「働き方」は社会からの関心が高い話題の1つで、最近は「ワークライフバランス」や「働き方改革」といった言葉も広まり、より一層関心が高まっています。そんな中、税理士にも多様な働き方があり、自身でどのような働き方を選ぶのかを選択する必要があります。そこで本記事では、開業税理士や女性税理士などの働き方の紹介から、働き方の変化によって起こる年収の変化など、税理士の働き方をさまざまな観点から解説していきます。

税理士としての働き方

税理士として働くといってもさまざまな働き方があります。近年は税理士の資格を1つのキャリアとみなし、税理士試験に合格しても税理士登録をしない人も増えています。税理士登録をする場合にも、開業だけでなくさまざまな選択肢があります。ここでは3つのパターンを見てみましょう。
 

 

開業税理士として働く

税理士として独立開業、いわゆる「開業税理士」として働くという選択肢があります。独立開業の大きなメリットとしては、働き方を自由に決めることができるという裁量の大きさが挙げられます。税理士業務に集中し、事業規模の拡大を目指したり、ワークライフバランスを重視してプライベートを充実させたりもできます。特に独立開業によって年収に変化が生じるケースも多く、新規顧客開拓も自分自身で行い、獲得した顧問料はそのまま自分の収入へと直結することから、モチベーションアップにも効果的です。

またフリーランスとして好きな場所や好きな時間にのみ働くなど、働き方を自分自身で自由に設計できます。専門性の高い税理士業務ゆえ、数多い税法の中から自分の得意とする分野に絞った方向性を見定めることも開業税理士には可能です。働き方の自由度が上がることで、既存の税理士業務にとらわれず、本の執筆や寄稿、セミナーや講演会への登壇など、通常業務以外にも業務を拡大し、自らの収入を増やすことが可能です。

自由が大きい反面、経営者としての側面にも留意が必要で、業務量のコントロールやリスクマネジメントが求められます。また、顧客への応答や書類の授受など、ビジネスのルールやマナーをわきまえた自律した税理士像が求められます。

社員税理士、所属税理士として働く

税理士法人において、社員税理士や所属税理士として働くという選択肢があります。社員税理士とは、開業税理士などが「法人成り」をして、税理士法人を設立し、「社員」(一般の会社でいうところの役員)として働く税理士を指します。所属税理士とは、税理士法人において「社員」としてではなく、雇用されて働く税理士のことです。所属税理士は、自分の顧問先を見つけても、勤務先である税理士法人の承諾が必要となります。

社員税理士や所属税理士が開業税理士と異なるのは、顧客に対して「組織」として対応する点です。開業税理士のように小回りは利かないことはあっても、解決に時間がかかる案件や複雑な依頼なども組織的な対応が可能となり、業務の幅が広がります。

業務内容としては、記帳代行から月次訪問、法人・個人の確定申告の代理などに留まらず、国際税務など多岐に渡ることがあります。所属税理士として税理士法人に勤務する場合、税理士としての自身のキャリアプランに合わせた働き先を選択することで、後の独立開業へのアプローチとなることもあります。

また「年収の安定性」においても、開業税理士に比べ、社員税理士や所属税理士の方が優れているケースが少なくありません。特に開業税理士のようにゼロから新規顧客の開拓を行う必要がなく、事務所がこれまで獲得してきた顧客基盤やリソースを活かして働けるため、社員税理士や所属税理士の方が年収や業務量の安定性を実現しやすいと考えられます。

企業内税理士として働く

企業内税理士として一般企業で働くという選択肢もあります。主として、その企業の財務及び税務書類の作成や申告手続き、経営陣への会計・税務観点からの助言などが求められます。子会社や兄弟会社のある企業の場合、連結会計など大手の税理士法人などが手掛ける業務に携わることが可能です。

一般企業において税理士資格を有する場合、管理部門の責任者やCFO(最高財務責任者)などへのキャリアアップが考えられます。税理士登録をする場合、研修の義務や税務支援事業などの必要性がある上、毎年税理士会費が必要になります。税理士登録の区分としては「開業税理士」「社員税理士」「所属税理士」3種類のみであり、企業内税理士として働く場合は、自宅などを事務所として「開業税理士」の区分で登録します。

また一般企業では、税理士登録までは求められない場合も少なくありません。このような場合には、作成した税務申告書について税理士署名欄には署名できませんが、形式にこだわらず、質の高い仕事をするのが企業内税理士の強みともいえます。なお収入面に関しては、企業内税理士の年収は勤務先の規模や給与規定に基づくため、給与収入としての安定性はある一方、金額の大小は就職先によって変化することとなります。

女性税理士の働き方

今の時代、わざわざ「女性税理士」などと、女性に特化して考えることはナンセンスかもしれません。しかし、実際の女性税理士の割合は現時点ではあまり高いとは言えません。

女性税理士の割合

日本税理士連合会の学生向けパンフレット「税理士って?一生の仕事を探すなら(平成31年3月改訂)」によると、平成30年における女性税理士の割合は14.8%であり、まだまだ少数派ですが、年々増えています。では、将来の税理士はどうでしょうか?税理士試験受験者を見てみましょう。令和43年度(第72回)税理士試験結果を見ると、次のようになっていました。
 

 
令和4年度は税理士試験受験者に占める女性の割合は26.9%であり、合格者数合計では30.1%が女性となっています。実に10人に3人が女性です。

このように将来の女性税理士の割合は確実に増えることが予想されます。税理士は知識量やスキルなどが重視されるため、基本的に性別の有利不利はありません。女性起業家の進出があちこちで話題になるように、税理士業界でも女性税理士の活躍は目立つようになってきました。

女性税理士は働きやすい

税理士試験は1科目ずつ取得できる「科目合格制」であり、有効期限もありません。ライフサイクルに合わせて、ゆっくり税理士資格を得ることも可能です。

また、税理士資格を保有していれば、出産や育児などでいっとき職場を離れたとしても、復職はそう難しくありません。夫の転勤についていくことになっても、税理士であれば資格を活かした就職が可能です。

開業税理士であれば、家事が忙しい期間においては顧客数を減らす、リモートにするなどで対応できます。筆者の場合も、一時期介護をしていましたが、訪問の代わりにビデオ通話で乗り切りました。そして開業税理士は、定年もないため自分の納得できるまで続けることができます。開業税理士といっても、孤立せずに地域の税理士の方などと時々連絡を取り合うことは大切です。新たな制度やセキュリティ対策など、さまざまな情報交換ができる税理士仲間を見つけることをおすすめします。

税理士登録をすると、全国に15ある各税理士会に所属することになります。その中には地域で分けたいくつかの支部があります。税理士登録により「各税理士会」と「各支部」に所属することになるため、それぞれの会合や研修などで気の合う仲間を見つけることができるでしょう。
 

 
「全国女性税理士連盟」という全国組織のコミュニティがあります。女性ならではの企画や研修会を実施している団体なので、得るところも多いのではないでしょうか。

コロナ禍で変わった税理士の働き方

コロナ禍により、税理士業界においてもテレワークが広まりました。テレワークは、通勤時間の削減や人材の確保がしやすくなったといわれています。税理士業界におけるテレワークについて考えてみましょう。

テレワークをする際の注意点

税理士事務所において、テレワークを実施する際に注意しておくべき点として、税理士法第40条第3項があります。条文には、「税理士は、税理士事務所を二以上設けてはならない。」と記されています。
引用:税理士法第40条第3項 | e-Gov法令検索
テレワークをすることが、この条文に抵触しないかが気になるところではありますが、日本税理士連合会は令和2年4月時点では次のように示されていました。テレワークの例として、次の2点を挙げ、これらの対応をした場合でも自宅が外部への表示の有無等の客観的事実によって、リモート先が「税理士事務所」と判断される状態でなければ2か所事務所の問題は生じないと考えられます。

  • 臨時的に仕事を自宅に持ち帰って税理士業務をすること
  • 自宅への来訪者に対し一時的に税務相談に応じることなど

この点について、令和4年度税制改正により、税理士事務所に該当するかどうかがより明確になりました。税理士事務所以外の場所で税理士業務を行っていても、外部に対する表示の事実がなく、「税理士事務所」と判定される状態でない場合には税理士事務所を2か所以上設けていることに該当しないことが税理士法基本通達に新設されました。
参考:「税理士法基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)
別に事務所を構えながらテレワークによって自宅で執務をする場合であっても、自宅に「税理士事務所」などと表示をしなければ問題はありません。税理士業のテレワークには顧客との書類の授受などは残りますので、完全なテレワークは難しいと言えます。テレワークへの切替においては顧客にも説明が必要ですし、無理のないところから着手するのが良いです。比較的簡単に始められるテレワークの方法としては、以下が挙げられます。

  • 顧客との面談をZoomなどのビデオ通話で行う
  • 原資料の授受を郵送で行う
  • リモートアクセスツールを使う
  • クラウドを利用し、どこからでも資料の参照ができるようにする

 

 
事務所の規模や顧客の特性などを考慮し、仕事に合わせた形で徐々にテレワークを導入することをおすすめします。反面、テレワークで問題になるのがセキュリティ対策です。税理士の扱うデータには顧客の個人情報など重要なデータが多数あるため、テレワークの途中でウイルスの感染などにより情報漏えいなどが起こった場合、影響は計り知れません。セキュリティ対策については、しっかり予算取りをし、必要な場合には専門家の意見も参考に万全の体制で臨みましょう。

なお、テレワークではタイムスケジュールを立て、仕事とプライベートのメリハリを意識すべきなのは言うまでもありません。

自分に合った税理士としての働き方を選ぼう

税理士業といっても、いろいろな働き方があります。脱サラして税理士になったり、家事を優先しながら税理士資格を取得したりと、自分自身のキャリアプランに合わせて比較的柔軟な働き方ができる業種と言えます。

令和4年4月1日の税理士法改正で税理士制度が見直されました。税理士業務でのデジタル化やICT化推進による利便性向上の方針が明確化されるとともに、税理士試験の受験資格の見直しもされました。令和5年からは税理士試験科目のうち、会計学(簿記論、財務諸表論)についての受験資格が不要となるので、より幅広い層からのチャレンジが可能となります。

これから税理士を目指す方は、受験勉強に取り組むだけでなく、自分のキャリア人生の中で税理士をどのように位置づけるのかを考え、受験されることをおすすめします。税理士業務は、自分の考え方1つで選択肢も広がり、また年齢に左右されにくい仕事なので、長く勤めるのに適した業種とも言えるでしょう。

よくある質問

税理士としての働き方にはどのようなものがありますか?

自らが経営者となる「開業税理士」、組織の役員となる「社員税理士」、社員税理士の元で勤務し、かつ、顧客も取れる「所属税理士」、一般企業で働く「企業内税理士」などがあります。

女性税理士の働き方とはどのようなものですか?

税理士業務においては男性も女性も同じです。ただ、ライフスタイルに応じて働き方を変えていきたい女性の場合は、開業税理士として仕事を自由にコントロールしながら続けることができます。

税理士業務においてテレワークをする際の注意点はなんですか?

最も大切なことはセキュリティ対策です。税理士の扱うデータには顧客の個人情報など重要なデータが多数あるため、情報漏えいなどが起こった場合、影響は計り知れません。十分な対策が必要です。

【監修】税理士・CFP 岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。 システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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