税理士に義務付けられている研修の内容とは?受けないとどうなる?

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税理士に義務付けられている研修の内容とは?受けないとどうなる?
2015年の税理士会の会則変更により、税理士会に所属する税理士は研修を受けることが義務化されました。では、研修の内容や研修を受けなかった税理士への対応はどのようなものなのでしょうか。本記事で詳しく解説していきます。

税理士の研修とは

税理士法第39条の2において、「税理士は、所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け、その資質の向上を図るように努めなければならない。」と定められています。(引用:税理士法)
各税理士には、毎年4月から翌年3月までの間に36時間以上の研修が義務付けられています。研修が義務化されるまでは、研修の受講努力義務が規定されるにとどまっていました。しかし、2015年に日本税理士連合会及び各税理士会は会則を変更し、納税者の税理士に対する信頼を確保する観点から、税理士自らを律するために研修受講を義務化しました。

研修の対象となる税理士は、日本税理士連合会と全国に15ある各税理士会の会員です。

 

 

研修の科目は、税理士法や租税法、会計に関するもの以外に次のようなものがあります。

  • 公益的業務に関するもの
    成年後見制度、地方公共団体監査制度、公益社団法人等制度など
  • 情報処理に関するもの
    税務業務に必要となるコンピュータ、インターネット及び電子情報技術に関する内容
  • 法律、経済、経営その他税理士の業務の改善や進歩に役立つと認められるもの

税務だけでなく、周辺の知識について顧客に説明する立場である税理士は、常に知識をブラッシュアップする必要がありますので、研修は業務上必須とも言えます。特に、昨今は情報処理に関する知識なしでは税理士を続けることが難しくなってきました。

日本税理士連合会や各税理士会などによる研修には、「全国統一研修会」「登録時研修会」「公開研究討論会」「その他研修」などがあり、会場での受講のほか、マルチメディア方式で受講するものがあります。

研修受講の記録は、会場研修の場合には基本的に主催者側が出席者を管理しているため、各自の申請は不要です。マルチメディア方式による研修を受講した場合には、各自で受講管理システムに登録します。「研修受講管理システム」で、受講本人であればいつでも過去の研修受講履歴を見ることが可能です。

全国統一研修会

全国統一研修会は、すべての税理士を対象に毎年実施される研修会です。日本税理士会連合会が定める全国統一の実施要領に基づき実施されるもので、税法一般、法人税、資産税、消費税、相続税など個々の税法における実例を交えた講義を視聴します。全国統一研修会は研修の中でも比較的ボリュームのあるもので、1回の研修が約5時間程度あり、前半と後半に分けられている研修がほとんどです。

公開研究討論会

公開研究討論会は、日本税理士連合会が各税理士会との共催で毎年実施しています。討論会は、15の全税理士会を7つのグループに分け、税制、税務行政や税理士業務に関するテーマ及び研究発表者を各税理士会が選定します。それぞれの討論会は、各税理士会が選定した発表者の研究結果の発表と質疑応答から構成されます。

資料の形式は凝ったプレゼンテーション資料であったり、ほとんど学術論文に近いものであったりとさまざまですが、他の研修資料とは一線を画しています。直近では、給与の源泉徴収制度と年末調整、技術革新と税理士の将来像などのテーマで討論会が催されました。討論会での研修では、1つのテーマに沿って深く考える良い機会が得られます。

登録時研修

登録時研修の対象者は、税理士登録を受けてから1年以内の税理士です。

登録時研修における研修科目は次の4つです。

  • 税理士制度 (税理士法、職業倫理、会則等 )
  • 関連法規 (憲法、民法、商法、会社法等 )
  • 租税法概論 (租税争訟に関する知識等 )
  • 業務に関する知識 (具体的な業務知識等 )

 

登録時研修は研修の中でも特に強制力が強く、未受講者は翌年に受講しなければなりません。これまでは税理士登録をした税理士は、会場受講にて3日間の集中受講が必要でしたが、令和3年10月よりマルチメディアでの受講が可能となり場所的、時間的な拘束はなくなりました。

マルチメディア研修

もともと認定研修などは、会場参加方式に限られていましたが、令和2年度は新型コロナウィルスの影響で、多くの研修がマルチメディア方式 (インターネット配信やDVDの視聴 )に切り替えられました。令和3年度以降も引き続き、マルチメディアで受講した時間を研修受講時間にできます。現在は、「全国統一研修会」「公開研究討論会」「登録時研修」もマルチメディアでの研修が可能です.

マルチメディア形式で行われる個別論点講座は、1回の研修が2.5時間から3時間程度で、テーマが絞られるため、受講しやすいものの一つです。また、シリーズ講座として準備された法人税、所得税などの実務講座も弱点補強や知識確認のために適した研修と言えます。配信方法も録画配信だけでなく、各税理士会の支部で人数を制限して会場研修し、それ以外の会員にはWeb会議システムを使ったライブ配信もあります。この場合には会場研修として記録されます。

なお、マルチメディア研修で同一の研修会動画を複数回視聴しても受講記録の登録はできないようになっています。

税理士会以外の研修について

税理士会以外が実施する認定研修やその他の研修などもあります。税務のことだけでなく、AI、DX、電子帳簿保存法その他税理士が業務上、関係する事項についてより専門的で具体的な情報を入手することができます。実施団体によっては会員のみが参加できるものや、研修料を支払うことで参加できるものなどがあります。

認定研修

認定研修とは、主催者が税理士連合会等ではなく、税理士会によって事前に認定された研修を言います。認定研修は、広報その他であらかじめ税理士会の会員に周知することになっています。

次に挙げる研修等が認定研修に該当します。

  • 大学、公的機関などが実施する研修
  • 大学等以外の民間の団体が実施する研修
  • 民間団体のうち一定の「認定団体」が実施する研修

その他の研修

その他の研修とは、研修後に認定の可否を決める研修で、会員からの事後申請方式となっています。その他の研修には、次に挙げる研修等があります。

  • 大学や民間団体による研修で事前に認定を受けていないもの
    (受講対象が主として税理士会の会員である研修に限られます)
  • 日本弁護士連合会、日本公認会計士協会など士業団体が実施する研修
    (研修内容が税理士業務に関するものに限られます)

 

受講した会員は、研修後の自己申請が求められます。申請後、認定研修審査会により審査され、2ヶ月以内に可否が分かります。認定時間の可否については、申請された研修内容、講師、受講人数などで判断されます。

「全国統一研修会」「登録時研修」「公開研究急討論会」「認定研修」で講師を務めた税理士は、その講師となった研修の3倍の時間を「その他の研修」の受講時間として認定されます。税理士会の会員は、その他の研修により時間数の認定を受けるのは、年間18時間までとなっています。(講師となった場合も同様。)

研修を受けない税理士はどうなる?

研修時間が年間36時間に満たなくても、現在のところ罰則は特になく、たとえ36時間の研修を達成しなくとも、違反となり業務に支障が出るわけではありません。しかしながら、税理士会の規則から見ると遵守義務違反と言わざるを得ません。

2019年10月より、税理士情報検索サイト(日本税理士会連合会)において研修の実績が公表され、各税理士が研修の義務を果たしているかどうか誰でも知ることができるようになりました。

筆者の場合は、以下のように表示されていました。

研修が免除される条件とは

疾病などのやむを得ない理由で研修受講が達成できない場合は、申請により受講の免除を受けることができます。各税理士会は会員からの申請について審査・承認の後、研修免除の可否を申請書受付から2ヶ月以内に会員に可否通知することになっています。
主な免除理由は次のとおりです。

(1)病気やケガによる療養
(2)震災、風水害、火災などの災害
(3)税理士法第43条後段に規定する報酬のある公職に就いていること
(4)国会議員又は地方公共団体の議会の議員であること
(5)出産、育児、介護その他これらに関するもの

税理士法第43条の後段の規定とは、税理士が報酬のある公職に就いている場合を言います。
報酬のある公職とは、たとえば、国会、裁判所、国、都道府県及び市町村等の公的機関の職員のことです。

オンラインで研修を受けることもできる

研修の必要性は熟知するも、日々の業務で多忙を極める中、年間36時間以上の研修義務のハードルは低くはありません。これまでは、会場での研修がメインであったため、時間と場所の制約を受けることが多かったことも事実ですが、令和2年度の新型コロナウィルス対策としてマルチメディア研修が積極的に取り入れられてからは、事務所のパソコンなどで研修を受ける形が主流となっています。

税理士会の会員は所属する各税理士会のホームページにログインし、公開されている研修を「研修受講管理システム」から受講可能です。研修資料は動画と共にアップロードされていますので、各自ダウンロードして動画に合わせて活用できます。

研修は税理士の責務として積極的に受講しよう

時代の変化のスピードに合わせた、研修の受講環境ができつつあります。税理士会は毎年、少なくない年会費を支払っているため、無料や安価で受講できる研修は上手く活用するに限ります。

研修では単に受講者への知識の充足だけではなく、研修の講師となる方の経験に裏付けされた、その方ならではの深い知見や洞察に触れることができる良い機会になります。個々の研修資料だけを見ても、市販の図書よりもよくまとまっているものもあります。特に、判例の多い資料などには学ぶべき箇所が多く、残しておくにあたってもデータなので場所をとりません。

税理士としての社会的役割を鑑み、業務の中に研修をうまく取り入れましょう。

よくある質問

税理士の研修とはどのようなものですか?

税理士には年間36時間の研修が義務付けられています。研修内容は税理士法や租税法、会計に関するもの、公益的業務に関するもの、情報処理に関するものなど多岐にわたります。

税理士の研修にはどのような種類がありますか?

税理士研修の種類には、税理士会が実施する全国統一研修会、登録時研修、公開研修討論会などの他、大学や認定団体などが事前認定を受けた「認定研修」、事後に認定申請をする「その他研修」などがあります。

研修を受けない税理士はどうなりますか?

現在のところ罰則はありませんが、税理士情報検索サイトにて受講時間や達成率が公表されます。

【監修】税理士・CFP 岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。 システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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