税理士事務所の残業時間は?残業が増える理由と減らすポイントを解説。

組織づくり

税理士事務所の残業時間は?残業が増える理由と減らすポイントを解説。

「働き方改革」や「ワークライフバランス」という言葉が世の中に広まり、仕事と私生活のバランスを適度に保った働き方ができる環境になってきました。そんな中、税理士業界は残業が多いと言われていますが、実際のところはどうなのでしょうか。本記事では、税理士事務所の残業時間から残業の多い事務所の特徴、残業を減らすポイントまで解説していきます。

税理士の残業時間の平均とは

税理士事務所では1年のうちに繁忙期と閑散期が明確に分かれている場合が多く、特に確定申告時期である2~3月頃に繁忙期のピークを迎える傾向にあります。

以下のグラフは全国の税理士事務所に対して実施したアンケート調査結果です。
確定申告期以外の「通常期」に関しては、ひと月あたりの残業時間が5時間未満の事務所が最も多く、20時間未満の事務所が過半数を占める結果となっています。

 

 

一方、繁忙期である「確定申告期」は、60~80時間未満の事務所が最多であり、約4割の事務所において45時間以上の残業が発生していることが伺えます。税理士事務所においては繁忙期と閑散期では業務量に大きな差があり、繁忙期の残業時間が閑散期の2倍以上となる事務所もあります。

残業が発生する理由

税理士事務所での残業時間が増加する原因はひとつではなく、複数の要因が重なって引き起こされています。それらの中でも、特に下図のに掲げる3つの要因のいずれかに該当するケースが一般的でしょう。

 

 

繁忙期の業務量の増加

確定申告期に代表される税理士業界の繁忙期においては、閑散期に比べて自ずと業務量が増えるため、残業時間も増加しやすくなります。一般的に税理士事務所の繁忙期は、2~3月の確定申告時期だけではありません。年末調整業務がスタートする12月頃から始まり、確定申告時期を超え、3月決算法人の申告手続きを行う翌年5月頃まで続きます。
税理士事務所の業務内容や顧客層によっても繁忙期のピークは異なります。個人事業主の顧客が多い場合は確定申告時期である2~3月頃、中堅企業など規模の大きな法人顧客が多い場合には、3月決算法人の申告手続きを行う5月に山場を迎えやすくなります。

業務の性質上、スポット案件が発生する

税理士業界においては、予期せぬ突発的な業務が発生するケースも珍しくありません。

たとえば、顧問先の税務調査対応や融資を行う際の金融機関対応や、代表者などが死亡した場合には相続税申告業務、顧問先の経理担当者の退職やシステム変更に伴う引き継ぎ業務が発生することもあります。新規の顧問先が増加した場合には、顧問先への初期指導など、業務フローを軌道に乗せるために顧問税理士としてまとまった時間を要します。

このようなスポットの案件が発生することで追加業務が生じ、通常業務と並行して行うことで残業時間が増える傾向にあります。特に確定申告時期のような繁忙期においてさらにスポット案件も重なる場合には、より一層残業時間が増加する可能性が高まります。

事務所の人手不足

税理士事務所で勤務する職員の業務負担が過大になりやすい要因のひとつとして、税理士業界の慢性的な人手不足が挙げられます。

特に正社員として働く職員は税理士志望者が大半ですが、税理士試験の受験者数は年々減少傾向にあり、それに比例して税理士事務所での勤務希望者も減少しています。また、税理士試験の難易度が高く、合格までの期間が長期化しやすいことから、道半ばで合格を諦めてしまい、そのまま勤務先の税理士事務所を退職するケースもあります。このような理由から税理士事務所では十分な人手を確保することが困難であり、その結果としてすでに在籍している職員に業務負担が集中しやすくなります。

残業の多い税理士事務所の特徴

残業時間が増えやすい税理士業界ですが、すべての税理士事務所においてまとまった残業が発生しているとは限りません。下図のように、残業の多い事務所が抱える慢性的な問題点から、より一層残業が生まれやすい職場環境に陥ってしまうケースもあります。

 

 

IT導入などの効率化に関心がない

クラウド会計をはじめ、オンラインストレージやチャットツール、表計算ソフトなど、税理士業界でもさまざまなITツールの導入が進んでいます。

ITツールに関しては闇雲に導入すれば成果が上がるものではなく、自社の課題を把握し、その解消に役立つツールを取り入れ、丁寧な運用を行うことではじめて効果を発揮するものです。しかしながら、ITツールの導入などによる業務効率化に一切目を向けず、昔ながらの方法に固執してしまうと非効率な業務から脱却できなくなってしまいます。

従来の税理士業界では、顧問先とのやりとりに郵送やFAXを使用するなど、手作業が数多く存在し、余分なタイムラグや無駄な修正作業など非効率な業務に多くの時間を割いていました。そのような古い業務体制を継続することで余分な作業に時間を取られ、残業時間が増加するという悪循環に陥りやすくなります。

報酬とサービス内容が見合っていない

税理士事務所としての必要な人材の雇用や業務効率化に向けた投資を行うためには、第一に利益を確保しなければなりません。しかし、自身の労働量に見合った適切な対価を設定せず、安価な顧問料でたくさんの案件を受注してしまうと、業務量の割に十分な利益を残すことができなくなります。

薄利多売の経営状況が続くことで、本来行うべき人材確保や設備投資、広告宣伝活動の費用を捻出することが難しくなります。業務過多による疲労の蓄積やモチベーション低下も相まって、職員の労働生産性は落ち、より一層残業時間も増加してしまいます。

業務が属人化している

顧問先によって記帳方法や会計処理が異なるなど、税理士業界では業務の標準化が進んでおらず、属人的な業務体制となっている事務所も非常に多いです。そのような職場環境で退職者が発生すると事務所内に指導できる人材がいなくなり、マニュアルなどの教育体制が整っていなければ、手探りで業務を引き継がなくてはなりません。それによってサービスの質は低下し、前任者と同等の習熟度に達するまでには長い期間を要するケースも多いため、事務所全体の業務効率が悪化するリスクも高まります。

事務所内の生産性が低下することで他の職員のモチベーションが下がり、退職者の連鎖へとつながってしまう場合もあります。退職者が相次ぐことで、残された職員の業務負担は雪だるま式に増大し、さらに顧問先へ提供するサービスの質が悪化すれば、最終的には顧客離れへと発展する可能性も十分に考えられます。

残業を減らすためのポイント

税理士事務所での残業時間を減らすために、第一に繁忙期の業務負荷を軽減する必要があります。自身の事務所における業務フローを見つめ直すことで、下図のようにボトルネックを発見し、その改善活動に取り組みましょう。

 

 

ボトルネックを把握する

一般的な税理士事務所の場合、年末調整から確定申告業務、3月決算法人の申告手続きまでの長期間にわたって繁忙期が継続することとなります。繁忙期における残業時間を削減するためには、可能な限り事務所内の業務効率を高めることが必要です。

いずれの業務においても「顧問先からの証憑回収」「仕訳入力などの下準備」「申告書作成、税額計算」「社内チェック」「申告手続き」といった作業工程を辿るケースが大半です。これら一連の業務フローのうち、すべての工程において非効率な状態に陥っているケースは少ないため、業務の停滞や遅延が発生している工程(ボトルネック)を分析する必要があります。

業務効率化においては、第一に作業工程におけるボトルネックを把握し、次にボトルネックを解消するための具体的な改善策を講じることが重要です。

証憑の回収を効率化する

確定申告業務に限らず、税理士業務の大半は顧問先からの証憑回収で業務が開始するため、スムーズな資料回収は必要不可欠です。回収した証憑に関する修正依頼や不足資料の請求が頻発することは、事務所全体の生産性が低下する原因となるため、可能な限り削減するように心掛けましょう。

証憑回収においては、「データ回収」と「原証憑の回収」の2通りが想定されます。データ回収においては、ネットバンキングやクレジットカード明細などをクラウド会計と自動連携し、領収書や請求書などの紙証憑類に関してはスキャンを行い、顧問先とオンラインストレージ上でやりとりするケースが一般的です。

データ回収以外の場合には、郵送などで原証憑を回収する必要があります。
回収漏れや証憑の整理等による余分な手間が発生しないよう、必要な証憑やファイリング方法などに関し、顧問先に対して丁寧な指導を行いましょう。その際には顧問先の担当者が簿記の知識を有していない場合でも理解できるように、インデックスなどを活用し、わかりやすいファイリング方法を用いるようにしましょう。

証憑のデータ化が可能な顧問先に関してはデータ回収に切り替え、それ以外の顧問先についてはファイリング方法などを工夫し、事務所全体における証憑の回収効率を高めるようにしましょう。

分業や自動化ツールの活用

確定申告時期など繁忙期の業務体制に関しては、分業化を実践する税理士事務所もあります。たとえば、医療費控除の集計や証憑のスキャン、会計データへの入力作業はパートまたはアルバイトが担当し、譲渡所得の申告は資産税部門が行うなどの業務分担が一般的です。ただし、分業を行う場合には、各工程がボトルネックにならないよう、業務負荷と人員のバランス調整に注意してください。

繁忙期の負荷を軽減するためには、自動化ツールを活用することも有用でしょう。クラウド会計による自動連携や紙証憑の自動記帳サービスなどを活用することで、下図のとおり品質が均一化され、業務の属人化を防ぐことも可能です。

 

 

また単純作業を自動化することで教育コストが削減され、余ったマンパワーを他の工程に投入することができるため、事務所全体の生産性向上も期待できます。繁忙期において残業時間の大幅な増加が見込まれる場合には、事務所内の業務フローの見直し、分業制の導入や自動化ツールの活用など、業務効率化に向けて改善策を検討することをお勧めします。

残業の少ない税理士事務所を目指そう

税理士業界の特性上、繁忙期と閑散期の差が顕著に表れやすく、繁忙期にはまとまった残業時間が生じるケースもあります。

残業時間が増加することで事務所全体の生産性が低下し、ミスが発生しやすくなります。職員のモチベーションも低下し、職場への不満も蓄積しやすいことから、離職率が高まるリスクも考えられます。そのような悪循環から抜け出すためには、繁忙期の業務フローを見直し、ボトルネックとなる工程の改善活動が急務となります。

業務体制の再構築を図り、残業時間を削減することで、職員満足度の高い職場環境の実現に努めましょう。

よくある質問

税理士事務所の残業時間は?

繁忙期と閑散期で異なりますが、閑散期については1ヵ月あたり20時間未満の事務所が過半数を占めており、中でも5時間未満が最多です。一方で確定申告期には約4割の事務所で45時間以上の残業が生じています。

残業が発生する理由は?

繁忙期による業務量の増加だけでなく、顧問先の税務調査対応や相続などによるスポット案件の発生、さらには税理士業界特有の人手不足で職員の業務負荷が増え、より一層残業時間が増加しやすい傾向にあります。

残業を減らすためにすべきことは?

まずは業務フローを見直し、ボトルネックとなっている工程を把握してください。証憑回収が遅延する場合にはデータ回収に切り替え、事務所内の生産性が低下する場合には分業や自動化ツールの導入も検討しましょう。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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