税理士の開業が失敗する4つの原因と、成功するための具体的対策

独立開業

税理士試験に合格し、長年の夢であった「独立開業」を目前にしたとき、ふと頭をよぎるのは「もし失敗したらどうしよう」という不安ではないでしょうか。実際、独立開業した税理士が廃業するケースも存在するのは事実です。税務のプロであっても「経営のプロ」ではないため、集客や資金繰りに苦戦し、志半ばで事務所をたたんでしまう税理士は一定数存在します。

さらに、税理士登録者数が増加傾向にある一方で、顧問先となる中小企業の数は廃業等により減少傾向にあり、「待っていれば紹介が来る」という時代は終わりつつあります。しかし、失敗するケースには共通する原因があり、それを事前に知っておくことで回避することは十分に可能です。

本記事では、税理士の独立開業において失敗しやすい4つの原因と具体的な対策、さらに成功している先輩税理士の「リアルな失敗体験」、そして開業後の年収シミュレーションまで解説します。独立開業を検討している方はぜひ最後までご覧ください。

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税理士の独立開業が失敗してしまう原因

独立開業した税理士が事務所経営に失敗してしまうケースでは、下図のとおりいくつかの原因が考えられます。
税理士の独立開業が失敗してしまう原因
経営者が抑えておくべき一般的な注意点だけでなく、税理士業界特有の内容も存在するため、税理士が独立開業に失敗しやすいポイントをしっかりと理解し、健全な事務所経営を目指しましょう。

営業がうまくいかない

どのような業種であってもまずは収入源となる売上を確保しなければ、いずれ事業資金が枯渇してしまいます。税理士も同様に、顧客を獲得できなければ事務所経営が軌道に乗らず、次第に資金繰りも圧迫されることとなるでしょう。独立開業後にはまず顧客を獲得するための営業活動を行う必要があります。

しかし開業前に十分な営業経験を積んでいない場合、営業スキルやノウハウが備わっておらず、効果的な集客が行えないケースも多いです。そのような状況で手当たり次第に営業活動を行えば広告宣伝費や交際費がかさみ、ますます資金繰りが悪化する原因となります。

また税理士事務所は税務顧問契約によって毎月の顧問料を得る「ストック型ビジネス」ですが、中小企業や個人事業主にとって顧問税理士の変更は一定の負担を伴うため、頻繁に変更するわけではありません。税理士変更によって新たな顧問先を獲得することは容易ではなく、独立開業した税理士の営業活動がより一層困難である大きな要因となっています。

営業力を強化するためには、単に「トーク力」を鍛えるだけでなく、相手のニーズを引き出す「ヒアリング力」や、それを適切に解決する「提案力」を磨くことが重要です。対面営業に加え、ホームページやSNSを活用したWeb集客も有効な手段です。

十分に市場調査ができていない

インターネットが普及し、オンライン化が進む現代においても、税理士業界では近場の税理士事務所へ業務を依頼するケースが多いのが現状です。独立開業にあたっては開業場所が重要な要素となり、開業予定地の選定の際に十分な市場調査を行っていないと、その後の事務所経営にも支障をきたす場合があります。

具体的には開業予定地の周辺エリアに関し、ターゲットとなる顧客層について以下の分析を行いましょう。

  • 事業形態(個人、法人)、年商規模、経営者の年齢層
  • 業種の分布(製造業、飲食店が多いなど)
  • 見込み客のニーズ(創業支援、事業承継など)

独立開業時の市場調査は、統計資料や数字を分析するだけでなく、実際に足を運んで自分の目で直接確認するようにしましょう。

顧客層の分析だけでなく、競合となる他の税理士事務所の調査も必須です。特に自分と同様のコンセプトやターゲット層、サービス内容を掲げる他の事務所が周辺に存在する場合、それらの事務所が比較対象として挙がることになります。

顧客層が重複しない地域を開業場所として選ぶことが理想ですが、事業者が多いエリアほど競合となる事務所が存在する可能性も高まります。開業前の競合分析は必ず行い、「選ばれる税理士」となるために必要な差別化の方法を検討しましょう。

顧問料の設定が適切でない

独立開業に対する最大の不安は、「安定的な収入を確保できるかどうか」という点に尽きます。そのような背景から開業当初は顧問料を値下げしてでも顧客獲得を目指す税理士が増え、意図せず「薄利多売」の経営状況に陥ってしまうケースも多いです。

特に税理士業務においては商品仕入れのような直接的な原価がないため、顧問料の値下げに対する抵抗感が薄れてしまいがちです。しかし根拠のない値下げで獲得した顧問先で自らのキャパシティが埋まってしまえば、報酬に見合わない業務に追われ、本来行うべき営業活動ができなくなってしまいます。

税理士事務所としての「リソースの限界」が「売上の上限」となります。たとえば年間の総売上高として1,000万円を目標とする場合、顧問先1件あたりの年間売上高を100万円と想定すれば「100万円×10件」の顧問契約が必要ですが、顧問料を50万円に下げると「50万円×20件」が必要になります。値下げをするほど消費するリソースが倍増し、売上目標への到達はますます遠のいてしまうのです。

損害賠償が発生した

税理士業務は、税務代理や税務署類の作成、税務相談といった独占業務をはじめ、経営に関するコンサルティング業務や創業支援など多岐にわたります。しかしそれらの業務を通じて顧客に対して損害が発生した場合には、税理士が損害賠償請求を受ける可能性もあります。

税理士事務所が顧客との間で締結する税務顧問契約は委任契約に該当します。損害賠償には、委任契約の受任者としての義務に違反した場合に「債務不履行に基づく損害賠償」が発生するケースと、税理士としての善管注意義務に違反した場合に「不法行為に基づく損害賠償」が発生するケースの2通りが存在します。

営業活動によって顧問契約を獲得できたとしても、自らのミスや漏れによって顧問先に損害が生じた場合には、その損害額が大きいほど多額の賠償請求が発生するリスクがあります。

予期せぬ損害賠償の負担により、事務所の経営状況が急激に悪化するケースも存在します。特に顧問料の値下げによって顧問先数が増加した場合、1件あたりにかけられる工数が減少し、ミスや漏れが発生しやすくなるという悪循環に陥ります。

リスク軽減のために「税理士職業賠償責任保険」(株式会社日税連保険サービス提供)への加入を検討するとともに、ミスが発生しない業務体制の構築を優先しましょう。

独立開業した税理士が失敗したと思うこと

独立開業後に事務所経営を軌道に乗せた税理士でも、開業時を振り返ると反省すべき点や失敗したと感じることは少なからず存在します。

以下では実際に税理士事務所を開業し、活躍を続けている経営者の事例を2つ紹介します。
独立開業して失敗したと思うこと

石黒健太税理士事務所の事例

京都市で事業を営む石黒健太税理士事務所では、自らと年齢の近い若手経営者への創業支援を中心にサービスを展開し、開業当初から目標としていた「開業後5年で売上1億円」を達成しました。

はたから見れば順風満帆に見える経営状況ですが、自らの独立開業を振り返り、石黒税理士は以下の2点を反省点として挙げています。

  • 売上を追求するあまり、「利益」への意識が不足していた
  • 事務所名に自分の名前を入れない方が良かった

「開業時から5年で売上1億円」という目標は掲げていたものの、利益に関しては具体的な目標がなく、その結果として経費の管理が甘くなっていました。また屋号に自らの名前を入れたことで所有者感が出てしまい、理念共有型の組織を目指す事務所として相反するイメージをもたらしてしまいました。

石黒健太税理士事務所の事例を参考に、売上だけでなく利益にも焦点を当てた事務所経営を志し、事務所の将来像をイメージした意思決定を行うようにしましょう。

アーリークロス会計事務所(現:DIG税理士法人)の事例

アーリークロス会計事務所はクラウド会計の導入支援を積極的に行うことで急成長を遂げました。石黒健太税理士事務所と同様に新規創業者を中心にサービス展開を行い、現在の関与先数は約900件にも達しています。

アーリークロス会計事務所(現:DIG税理士法人)を開業された花城正也氏(現在は、株式会社アーリークロス 代表取締役)も、開業当初を振り返って以下の反省点を挙げています。

  • 職員ごとの成長管理が不十分だった
  • 事務所の人材に偏りが発生してしまった

職員ごとの売上や予算を管理し切れていないことで、事務所の成長と各職員の成長を混同しやすい環境となってしまいました。また開業当初に紹介経由のみで職員を採用したことで身内感が強まり、事務所内の人材のバランスが偏ってしまったため、「外部の求人サービスを利用すべきだった」と振り返っています。

DIG税理士法人の事例のように、独立開業によって自らの事務所を開業する場合には、「経営者」だけでなく「雇用主」としての役割を果たさなければなりません。職員を雇用して組織として発展するためには、職員の目標設定やスキルアップ、モチベーション管理などの方法についても日々模索していく必要があるでしょう。

税理士の独立開業を失敗させない対策

税理士が独立開業を失敗させないためには、事務所経営を軌道に乗せるための戦略が必要となります。
具体的には下図のポイントを重視して、独立開業の成功確率を高めましょう。
税理士の独立開業を失敗させない対策

対策① 営業・集客の戦略を明確に立てる 

税理士事務所の開業にあたっては、闇雲にコストを費やして営業活動を行うのではなく、限られた事業資金で効率的な集客を実践する必要があります。

そのためには自己分析を行い、自らの強みや弱みを把握することが重要です。十分な自己分析を行わずに開業すると、自らの「売り」がわからず、見込み客に対して効果的な情報発信ができなくなってしまいます。開業前に培った専門的な知識や経験を整理することで自分の強みを知り、競合する他の税理士事務所との差別化を図りましょう。

効果的な営業活動を行うためには、自己分析だけでなく、自分が提供するサービスを必要とするターゲット像を具体的にイメージすることも重要です。ターゲットとなる顧客層が抱える課題やニーズを分析し、それらの見込み客に対して自らのサービスの価値を訴求しなければなりません。

顧客層や提供するサービス内容によって、Web広告やチラシ営業など、集客に効果的な媒体も異なります。営業活動における費用対効果を最大化するためにも、さまざまな観点から営業戦略を構築し、PDCAサイクルを回して営業スキルに磨きをかけましょう。

主な集客手段と特徴

手段 特徴 向いているケース
ホームページ・ブログ SEO効果で継続的な集客が可能。広告費を抑えやすい 長期的な集客基盤を作りたい
SNS(X・Instagram等) 人柄や専門性を発信しやすく、採用にも有効 若手・個人事業主層へのアプローチ
税理士マッチングサイト 税理士を求めるユーザーと直接接触できる 開業直後の早期顧客獲得
紹介・人脈 信頼性が高く成約率が高い 勤務時代の人脈がある場合

対策② リソースに合った顧問料の設定

商品の販売ではなくサービスの提供を行う税理士業界においては、税理士事務所としての「リソースの限界」が「売上の上限」となります。割安な顧問料によって自らのリソースを消費することで、本来受注すべき案件が受けられなくなってしまう可能性もあるためご注意ください。 

また、顧問料を値下げした場合、まとまった収入を確保するためにより多くの顧問先を抱える必要があります。顧問先が増えるほど1件あたりにかけられる工数は減少し、顧客満足度の低下→ミスの増加→損害賠償リスクの上昇という悪循環に陥る危険があります。 

独立開業する際には、あらかじめ自分のリソースを加味した売上計画を作成することが重要です。根拠のない値下げを行うのではなく、きちんと売上計画を策定し、自らのリソースに照らし合わせて適正な顧問料を算定しましょう。

【年収シミュレーション】独立後の手取りはいくら?

最後に、独立後の目標の一つとされる「年間売上1,000万円」を達成した場合、手元にはいくら残るのかシミュレーションをしてみましょう。今回は、自宅兼事務所やシェアオフィスを活用し、事務員を雇わず一人で運営するモデルで試算してみます。

項目 金額(概算) 備考
① 売上高 1,000万円 顧問料、決算料、スポット報酬の合計
② 必要経費 ▲250万円
(内訳:地代家賃) (120万円) シェアオフィスや自宅按分など
(内訳:システム・通信費) (30万円) 会計ソフト、PC、通信費など
(内訳:会費・旅費・交際費) (100万円) 税理士会費、営業交通費、打ち合わせ等
③ 事業所得(利益) 750万円 ① - ②
④ 税金・社会保険料 ▲200万円 所得税、住民税、個人事業税、国保・年金等
⑤ 手取り(可処分所得) 約550万円 ③ - ④

※上記は簡易シミュレーションであり、扶養家族の有無や所得控除、消費税の納税義務(インボイス経過措置等)によって変動します。

 

売上1,000万円の場合、事業所得(利益)は750万円程度、そこから税金等を引いた手取りは約550万円になることが多いです。一見、勤務時代の年収と変わらないように見えるかもしれません。しかし、家賃の一部や通信費、書籍代、打ち合わせの飲食代などを「経費」として計上できるため、生活の実質的な豊かさは、同額の給与所得者よりも高くなるケースが大半です。

注意すべき「キャッシュフロー」の罠

ただし、独立直後に注意すべきなのが「キャッシュフロー(現金の流れ)」です。

会計上は「売上」が立っていても、実際に口座に入金されるのは翌月や翌々月になることがあります。一方で、家賃やシステム利用料などの経費は毎月出ていきます。特に開業1年目は、黒字なのに手元の現金が足りなくなるリスクがあります。

だからこそ、開業資金(運転資金)の準備が、事務所経営の存続のためには不可欠なのです。

【必要費用】税理士の独立開業前の準備

税理士事務所を開業する場合、開業資金としては200万円程度を用意することが好ましいです。事務所の賃料や税理士登録費用はもちろん、ランニングコストを含めて用意をしておくことが無難でしょう。

しかし、事務所の形態によって、必要な資金は大きく変動します。例えば、自宅兼事務所の形態を取ったり、レンタルオフィスを利用したりすることで、初期コストを抑えることも可能です。

以下の記事では、開業にかかる費用をステップごとに詳しく試算・解説しているのでぜひ参考にしてみてください。

開業税理士が失敗しやすいポイントを知って成功につなげる

税理士は自らが健康である限り生涯現役で活躍することができ、顧問先に寄り添って成長や発展をサポートできる魅力ある職業です。しかしすべての税理士が独立開業を成功させられるわけではなく、事務所経営が軌道に乗らずに廃業してしまうケースも少なからず存在します。

本記事で解説した4つの失敗原因と対策をまとめると、以下の通りです。

失敗原因 主な対策
① 営業がうまくいかない 自己分析・ターゲット設定・Web集客の活用
② 市場調査不足 開業予定地の顧客・競合分析を徹底実施
③ 顧問料の設定ミス リソースに基づいた売上計画と適正価格の算定
④ 損害賠償の発生 ミス防止体制の構築・職業賠償責任保険への加入

 

そして、今の時代に独立を成功させるためには、AIやクラウドツールを「武器」として使いこなし、サービスの内容を「作業」から「支援」へとシフトしていくことが重要です。失敗事例から注意すべきポイントをしっかりと把握したうえで、自分自身に合った事業計画や経営戦略を策定し、事務所経営を成功へと導きましょう。

よくある質問

開業当初は、顧問料を安くしてでも契約を取るべきですか?

安易な値下げは推奨されません。「薄利多売」による経営悪化のリスクが高いためです。 実績を作るために値下げをしたくなる気持ちは分かりますが、税理士業務は自身の時間を切り売りする側面があります。安価な報酬で手一杯になってしまうと、本来注力すべき「高単価案件の獲得」や「営業活動」に割く時間がなくなってしまいます。ご自身のリソース(稼働可能時間)と売上目標を照らし合わせ、適正な価格設定を行うことが重要です。

独立開業で失敗する一番の要因は何ですか?

「営業・集客力不足」と「市場調査の甘さ」が多く挙げられます。 どれほど税務知識が豊富でも、顧客がいなければ事務所は維持できません。また、競合が多いエリアやニーズの合わない場所で開業してしまうことも失敗の一因です。開業前から「誰に(ターゲット)」「何を(強み)」「どうやって(集客手段)」提供するかを明確にする必要があります。

成功している税理士でも、開業時の失敗談はあるのでしょうか?

はい、多くの税理士が「もっとこうすれば良かった」という反省点を持っています。 例えば、売上目標は達成したものの「利益管理が甘かった」というケースや、事務所名に個人の名前を入れたことで「組織化(採用)が難しくなった」、知人紹介だけで採用して「組織バランスが崩れた」といった事例があります。先人の失敗事例を知ることは、同じ轍を踏まないための有効な対策となります。

税理士が損害賠償請求を受けるリスクはありますか?

はい、ミスや漏れによる損害賠償リスクは常に存在します。 申告ミスや期限徒過などにより顧問先に損害を与えた場合、多額の賠償請求が発生し、経営を圧迫する可能性があります。ダブルチェック体制の構築はもちろんですが、万が一に備えて「税理士職業賠償責任保険」へ加入するなど、リスクマネジメントを行っておくことが必須です。

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【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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