税理士の経営コンサルタント業務とは?高付加価値を関与先に提供!

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税理士の経営コンサルタント業務とは?高付加価値を関与先に提供!

税理士の主な業務として、税理士法に定められている独占業務や会計業務が挙げられます。
しかし、ITツールの普及や税理士の増加により競争が激化し、税理士の業務は起業や経営、M&Aなどに関するコンサルティング業務に広がりをみせつつあります。今回は付加価値が高い税理士になるために、経営についてアドバイスを行うコンサルタント業務について解説していきます。

 

経営コンサルタントとは

経営コンサルタントは、さまざまな領域や専門分野において経営者に対する助言やサポートを行う仕事を指します。世間的には売上アップのための戦略アドバイザーのような役割をイメージされがちですが、実際には下図のように細分化されており、その中のいずれかの分野に携わることが一般的です。

税理士が行う経営コンサルティングについては、税理士業務との相乗効果の観点から、上図のうち「MASコンサルティング」「事業再生コンサルティング」「事業承継コンサルティング」「経理コンサルティング」のいずれかに該当するケースが大半です。

MASコンサルティング
MASコンサルティングとは「マネージメント・アドバイザリー・サービス」の略であり、経営者とともに今後3~5年間の中期経営計画書の策定とその目標達成管理を行います。売上を増やすための戦略的なコンサルティングではなく、経営者の目標を売上高や売上原価、固定費、キャッシュフローなどへ数値化し、目標達成が可能な経営体制に導くサービスを指します。税理士が行う経営コンサルティングの実態としては、MASのような経営計画書の策定である場合も珍しくありません。

 

事業再生コンサルティング
事業再生コンサルティングでは、経営状況が著しく悪化した企業を対象とし、原価管理体制の見直しやキャッシュフローの改善など、緊急性の高い案件を中心に取り扱います。

 

事業承継コンサルティング
事業承継コンサルティングでは、親族内承継や親族外承継、M&Aなどのスキームごとに、自社株や相続税対策、経営承継計画の策定、M&A支援などが一般的なサービス内容となります

 

経理コンサルティング
経理コンサルティングでは、企業の経理や請求業務を中心とするバックオフィス業務の効率化を支援するケースが一般的です。バックオフィスとは、人事や経理、総務、ITなどの顧客に直接対応しない部門の総称を意味します。税理士業界でもIT化が進み、顧客に対するIT導入支援も今後ますます加速していくことでしょう。

上記以外にも資金調達やスタートアップ支援、飲食業など特定の業界に絞ったコンサルティングもあり、税理士が携わるコンサルタント業も多様化しています。

税理士と経営コンサルタントの違い

国家資格である税理士には、「税務の代理」「税務署類の作成」「税務相談」の3つの独占業務が与えられています。基本的には顧問契約を締結した事業者に対してこれらの業務を提供しますが、近年では顧問先以外にもコンサルティングを含めたスポット業務を行う税理士事務所も増加しています。

それに対して経営コンサルタントには特定の資格は必要とされておらず、誰でも自由にコンサルタントを名乗ることが可能です。「経営」には、企業戦略や商品開発、マーケティング、人事、財務など非常に多くの要素が含まれているため、専門分野によって経営コンサルタントとしての業務内容も大きく異なります。いずれの分野においても、顧客企業の状況を調査分析し、市場競争を勝ち抜くことができるよう、経営戦略や企業基盤の強化を目的とする点は共通しています。

税理士がコンサルティング業務を行う場合には、「数字のプロ」として財務や税務、資金調達などに関連する領域を扱うことが一般的です。

経営コンサルタントに求められる資質

税理士が行うコンサルティング業務については、基本的には設定した目標の達成をサポートするプロジェクト型の案件が大半です。プロジェクト型の場合には、まずは顧客企業の課題の抽出から始まり、それに対する解決策を構築し、計画の実行支援を行うことになります。

経営コンサルタントとしては、各プロセスにおいて、下図のような資質が重要です。

顧客の企業が抱える経営上の課題を適切に察知しなければなりません。顧客から適切な情報を聞き出す「ヒアリング能力」や「質問力」が必須であり、さらに限られた情報から可能性の高い結論を導く「仮説思考」も必要になります。

そのうえで課題解消のための具体的な解決策を決定するためには、対象分野に関する「知識や経験」だけでなく、解決方法を構築する「論理的思考力」や、顧客を納得させるための「提案力」が欠かせません。
策定した計画を実行する段階においては、顧客に寄り添うだけでなく、ときにはリードしなければならないため、「共感力」や「リーダーシップ」が求められます。

税理士が経営コンサルタントとして活躍するために必要な知識とは

経営コンサルタントは税理士のように資格が必要な業務ではないことから、参入障壁は低く、玉石混淆になりやすい業界といえます。そのような業界において、税理士が経営コンサルタントとして活躍するためには、専門的な知識と実績が欠かせません。

税理士が行うコンサルティング業務においては、経営計画書の策定や株式公開準備、M&Aを含む事業承継、海外進出支援、バックオフィスの効率化など、税理士業務に関連する分野において経営者へアドバイスを行うことが一般的です。ただし、これらすべてに精通する必要はなく、自らがコンサルタントとして携わる領域での知見を優先的に深めるようにしましょう。

 

経営コンサルタントという付加価値を関与先に提供する

従来の税理士業界の基盤は顧問業務であり、顧問先に対して3つの独占業務を中心にサービスを提供することが大半でした。しかし、近年では顧問先に対しコンサルティング業務など、単発でのサービスも提供する税理士事務所が増加しています。

税理士は経営者との打ち合わせ頻度も多いことから、顧問先との信頼関係を築きやすいだけでなく、経営課題の把握や解決方法を話し合う機会も自ずと増える傾向にあります。それ以外の外的要因としては、「顧問料の自由化」「ITによる業務効率化」による市場環境の変化による影響が挙げられます。

2002年において税理士報酬規程が撤廃され、それまで全国一律で定められていた税理士報酬を各事務所が自由に設定できるようになりました。しかし、税理士登録者数は年々増加する一方で、国内の中小企業や個人事業主は減少しているため、激しい価格競争によって顧問料の相場は低下しています。従来の税理士業務だけでなく、さらに付加価値の高いサービスを提供することで同業者との差別化を図る税理士事務所が増加しています。

ITによる業務効率化の効果も非常に大きいでしょう。クラウド会計のように単純作業が自動化されることで税理士は仕訳入力や修正作業等に費やされていた時間を削減し、余力を付加価値の高い業務に充てることも可能となりました。

このような環境変化によって、コンサルティング業務など、顧問先へ提供する付加価値の最大化に取り組む税理士事務所が増加していると考えられます。

 

経営コンサルタントができる税理士になるには

経営コンサルタントとして業務を行うためには、下図のように専門的な知識の習得だけでなく、実務経験や実績を積む必要があります。

具体的には、以下の方法でによって知識や経験を獲得するケースが一般的です。

会社を経営した経験がある

税理士が会社や税理士事務所を自ら経営することで得られる経験は多いです。自分自身が経営者として成果を挙げることができれば、自らの会社や事務所が広告塔となり、顧客に対してもサービスの価値を訴求しやすくなります。

経営コンサルタントとして提案するサービスを自分自身が活用することも重要です。顧客に対しては経営計画書の重要性を訴えているにもかかわらず、「実は自分の事務所では一度も作ったことがない」というケースも珍しくありません。そのような状態では説得力が著しく損なわれてしまうため、できる限り自らが利用し、ひとりのユーザーとしてその価値を伝えられるようにしましょう。

会計系コンサルティングファームで働く

コンサルティングファームは、企業が抱える課題解決に取り組むコンサルティング専門の会社を指します。

戦略系やIT系などの専門分野に特化している場合も多く、税理士の場合には財務や会計系のコンサルティングファームで勤務することが一般的です。そのような会社での勤務経験を通じ、バックオフィス改善や資金調達、投資戦略、M&Aなどの実務経験を積むことで、経営コンサルタントとして実践的なスキルや経験を習得できます。

経営コンサルタントに関する資格

経営コンサルタントとなるために特定の資格は必要ありませんが、コンサルティングスキルを身につけるために中小企業診断士資格やMBAを取得するケースは少なくありません。

中小企業診断士とは、経営コンサルタントとして唯一の国家資格と言われており、独占業務はないものの、コンサルタント志望者の多くが合格を目指す資格です。受験科目としては、企業経営理論や経済学・経済政策、財務・会計など合計7科目あり、さまざまな分野の基礎的な知識を学ぶことができます。働きながら受験する場合には合格まで3~5年程度要するケースもありますが、税理士の場合には一部科目免除が受けられるため、多少なりとも負担を減らすことができます。

MBAとは「経営学修士」を指し、経営学の大学院修士課程を修了した人に与えられる称号です。MBAのカリキュラムでは、マーケティングや経済学、人材マネジメント、財務会計など、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」に関して網羅的な学習を行います。MBAの取得を通じて、経営に必要な知識を体系的に学ぶことが可能です。

中小企業診断士やMBAについてはあくまで基礎的な知識の習得であるため、実務の世界でしっかりと実績を積むことが必須となります。中小企業診断士資格やMBAを活かしコンサルティングファームや公的機関などで実務経験を積むことも検討すると良いでしょう。

税理士が経営コンサルタントという付加価値業務に取り組むために

税理士が付加価値業務に注力するためには、本業である税理士業務を効率的に回転させるための仕組みづくりが必要となります。日常業務に潜む無駄の削減やITツールの導入による自動化、事務所内の製販分離体制を整備することで業務効率化など、余力を生むような事務所運営が必要不可欠です。内部体制の強化により、税理士としての付加価値業務へ積極的に着手できる環境を整備しましょう。

このような一連の取組みが事務所内の生産性向上へとつながるだけでなく、試行錯誤を繰り返す経験そのものが貴重な実体験となり、コンサルタントとしての説得力へとつながっていくことでしょう。

経営コンサルタントもできる税理士になって頼られる存在に

税理士業界の環境変化もあり、従来の税理士業務だけでなく、より付加価値の高いサービスが求められる傾向にあります。そのような背景から、MASや事業承継、バックオフィス改善などのコンサルティング業務を行う税理士も増加しています。

税理士は経営者にとって身近な相談相手です。税理士業務だけでなく、経営コンサルタントとして顧客の課題を解決することで、顧問先との信頼関係はより強固なものへとなっていきます。

よくある質問

税理士が行うコンサルティングとは?

経営コンサルタントはさまざまな領域に分かれています。税理士の場合にはMASや事業再生、事業承継、経理コンサルティングなど、「数字のプロ」として税理士の知識が応用できるサービス内容が一般的です。

経営コンサルタントになるには?

経営コンサルタントには特定の資格は不要です。しかし自らが会社を経営した経験やコンサルティングファームなどの勤務経験、中小企業診断士やMBA取得による知識などで差別化を図ることが望ましいです。

経営コンサルタントに必要な資質は?

最終目標の達成のために、課題の抽出から解決策の構築、計画の実行といった複数のプロセスが必要です。そのためにはヒアリング能力や論理的思考力、提案力、リーダーシップのような資質が求められます。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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