税理士は残業が多く、労働時間が長いというイメージを持つ方も多いようです。
実際は、税理士業務には忙しい時期とそうでない時期があり、労働時間は時期によって変動しています。
では、税理士の時期ごとの労働時間はどれくらいなのでしょうか。本記事では、税理士の労働時間から残業が多くなってしまう事務所の特徴、残業時間を減らす方法まで解説いたします。
目次
税理士の労働時間
税理士の勤務時間は、一般的な企業とさほど違いはありません。1日8時間勤務で、土日休みをベースとしている税理士事務所が大半でしょう。ただし相続専門税理士のように、土日休みの顧客への対応が必要な事務所については、土日営業を行うケースもあります。
実際の労働時間については、税理士事務所ごとの業務量や人員構成にもよりますが、十分に人手が足りている事務所であれば、繁忙期以外はさほど残業時間も多くはないでしょう。それに対し、繁忙期には業務負荷が増大し、残業時間が大きく増加する事務所も少なくありません。
下図は、全国の税理士事務所を対象に実施したアンケート調査結果です。繫忙期以外の「通常期」における1ヶ月あたりの残業時間は、20時間未満が過半数であることが読み取れます。
繁忙期にあたる2~3月の「確定申告期」では、約4割の税理士事務所が残業時間を45時間以上と回答しており、「通常期」の2倍以上の残業時間となる事務所も珍しくないことがわかります。「確定申告期」においては、平日の残業ではカバーし切れず、休日出勤が必要となる事務所もあると言えます。
税理士の繁忙期とは
税理士事務所の繁忙期は、業務内容や顧客層によって、一般的には以下のように区分されます。
- 個人事業主の顧客が多い事務所
- 規模の大きな法人顧客が多い事務所
- 相続業務をメインに取り扱う事務所
一般的に小規模~中堅の税理士事務所では、顧問先に占める個人事業主の割合も大きい傾向にあるため、所得税の確定申告手続きを行う2~3月頃が繁忙期となります。また個人事業主や、小~中規模法人の顧問先の場合、年末調整や法定調書作成、償却資産税申告などの手続きについても、税理士事務所へ委託するケースが少なくありません。そのような場合には、年末調整業務が始まる11月頃から、確定申告手続きが完了する翌年3月まで、繫忙期が継続することになります。
一方で、大規模な法人顧客を中心とする税理士事務所の場合には、個人事業主の顧問先数が少ないケースもあります。そのような事務所では、自ずと確定申告件数が少なくなるため、2~3月の確定申告時期がさほど繁忙期とならないこともあります。また、3月決算の顧問先企業が重なる場合には、決算申告月である5月頃に繫忙期を迎えるケースが一般的です。
相続専門の税理士事務所の場合、相続税の申告期限は案件ごとに異なるため、年度ごとに繁忙期が変わるケースもあります。ただし贈与税申告が必要な場合には、所得税の確定申告と同じく3月15日が申告期限となるため、2~3月頃に申告手続きが重なりやすくなります。
担当している企業によって繁忙期がずれることもある
個人事業主や法人業務を中心に請け負う税理士事務所では、事務所の職員ごとに担当を割り振り、それぞれの担当者に顧問先の対応を任せるケースが一般的です。事務所の職員に対して担当を割り振る場合、担当先企業の決算月が偏ることで、業務負荷が過大となってしまうケースも珍しくありません。
担当先企業の決算手続きに関しては、担当者以外の職員に任せることで、担当者へ過度な負担が掛からないように調整する事務所もあります。決算資料の回収や担当先企業との決算打ち合わせについては、担当者自らが行うケースが大半であるため、担当先企業の決算月が偏ることで、担当者である職員の負担が増加することとなります。職員に担当先を割り振る場合には、できる限り決算月が偏らないように調整しましょう。
税理士の閑散期とは
相続専門の税理士事務所を除き、法人や個人事業主を顧客とする一般的な事務所の場合には、11月頃から年末調整業務の準備が始まるため、6~10月頃が閑散期に該当します。税理士事務所の職員は、この閑散期を利用し、有給休暇の消化や自分自身のスキルアップに取り組むことが多いです。
毎年8月頃に税理士試験が実施されますが、この試験日程も税理士業務の閑散期を加味したスケジュールと考えられます。受験生は8月の試験当日に向け、閑散期となる6月頃から、試験勉強の追い込みをかける段階へ突入していきます。閑散期に税理士試験が実施されることにより、事務所側も受験する職員をバックアップしやすくなり、独自の「試験休暇制度」を設けている事務所も少なくありません。
残業が多くなってしまう事務所の特徴
一般的な税理士事務所の場合、年末調整が始まる11月頃から翌年3月までの約5ヶ月間にわたって、繫忙期が続きます。特に確定申告時期に残業時間が増加するケースが多いですが、アンケート調査によると非効率な業務遂行が原因となっている場合も少なくありません。
上図のとおり、顧客からの証憑回収に時間がかかることを課題として挙げる事務所が4割を超え、最多となっています。それ以外にも証憑回収後の前裁きや入力作業の属人化、繁忙期の人手不足など、事務所内部の環境整備にも課題があることが伺えます。
この調査結果からもわかるように、効率的に業務を回すためには、顧客からの資料収集を改善するだけでなく、事務所内部の仕組みづくりにも注力しなければなりません。
残業時間を減らすには
税理士事務所の繁忙期において、残業時間を減らすためには、以下のように複数の側面から対策を講じる必要があるでしょう。
証憑回収の時期や方法の見直し
まずは多くの税理士事務所が課題として挙げている、「顧客からの証憑回収」について改善しなければなりません。その際には、改善策を検討する前に現状を分析し、問題点を探るところから始めてください。顧客へのアナウンスが遅い場合や、必要書類がリスト化されておらず、回収漏れが多発することで余分な時間を要する場合など、事務所によって非効率化の原因は異なるはずです。
現状を分析したうえで、顧客へ依頼するスケジュールの調整や必要書類リストの作成または見直しを行うようにしてください。また、事務所内の業務フローによっては、確定申告時期以外にも、複数回に分けて証憑回収を行うなどの対策を講じましょう。
事務所内の業務フローの整備
証憑回収の効率化が実現できたとしても、事務所内にそれを受け入れる環境が整っていなければ、十分な効果は発揮できません。特に証憑の前裁きや仕訳入力作業については、属人化しやすい業務であるうえに、残業が難しいパート職員が担当する事務所も多いです。そのため、一連の業務フローのボトルネックとなってしまうケースも少なくないでしょう。
入力作業などの業務負荷を軽減するためには、顧客からの証憑回収を早めることや、閑散期を活用して一部の入力作業を前倒しで進めるなどの対策が必要となります。あるいはクラウドサービスを活用し、ネットバンキングとの連携や、証憑のスキャンによって仕訳を自動で作成し、手作業による仕訳入力を削減することも効果的です。事務所内の業務フローを効率化することにより、確定申告手続きをよりスムーズに進めるための体制づくりを行いましょう。
後手後手の対応によって悪循環へ陥らないことが重要
税理士事務所の繁忙期は、年末調整手続きが始まる11月頃から開始するケースが多いです。年末調整の動き出しが遅れ、スケジュールが圧迫されれば、確定申告時期に負担がしわ寄せされるケースもあるでしょう。繁忙期に対する初動が遅れることで、悪循環に陥り、繁忙期全体の残業時間が増大しやすくなります。
先手先手で動き始めることができれば、無理のないスケジュールで効率的な働き方を実現でき、そのような好循環によって繫忙期全体の労働時間を削減することも可能です。繁忙期の一部分にのみ着目するのではなく、繁忙期全体を通して業務効率化を図ることが必要となります。
税理士の労働時間は全体的に減らすことができる
一般的な事務所の場合、時期により繁忙期と閑散期が分かれており、確定申告時期のような繁忙期には、残業時間も大きく増加する傾向にあります。
証憑回収方法や事務所内の業務フローの改善を通じ、業務効率化を図ることで、繁忙期の業務負荷を軽減することは十分に可能です。
現状を分析し、必要な対策を講じることによって、効率的な労働環境を実現しましょう。
よくある質問
税理士事務所の繁忙期はいつ?
税理士事務所の業務内容や顧客層によっても異なりますが、一般的な事務所の場合には、年末調整業務が始まる11月頃から、確定申告手続きが完了する翌年3月までの約5ヶ月間が繫忙期となります。
繁忙期の残業時間はどれくらい?
繁忙期の中でも、業務負荷の大きい確定申告時期の場合、4割近くの税理士事務所が1ヶ月あたりの残業時間を45時間以上と回答しています。したがって、繁忙期における残業時間の削減が税理士事務所の課題です。
残業時間を減らすための方法は?
顧客からの証憑回収の見直しや、事務所内の業務フロー改善が必要です。後者については、仕訳入力作業がボトルネックとなるケースも多く、クラウドサービスによる仕訳処理の自動化も検討の余地があるでしょう。