税理士法人は、税理士が2人以上で共同して設立する、税理士業務を組織として行うための法人です。個人の税理士事務所ではできない支店の開設ができる一方、社員全員が無限連帯責任を負うなど、一般的な会社とは異なるルールがあります。
本記事では、開業税理士が法人化を検討するときに知っておきたい、税理士法人の設立要件、手続きの流れ、費用、メリット・デメリット、検討を始めるタイミングの目安を解説します。
この記事でわかること
● 税理士法人とは何か、個人の税理士事務所との違い
● 一人では設立できない理由(社員2人以上の要件)
● 設立の4つの要件と、定款作成から届出までの6ステップ
● 設立にかかる費用(令和9年4月の手数料改定に対応)
● 法人化を検討するタイミングの目安と税率の比較
経営・事業計画を実現する土台のノウハウ!
税理士法人とは
税理士法人は、税理士法に基づいて、税理士業務を組織的に行うことを目的に設立する法人です(税理士法第48条の2)。社員(出資者・経営者)になれるのは税理士だけで、他の士業や一般の方は社員になれません(同法第48条の4)。
仕組みは合名会社に近く、法人の財産で債務を完済できないときは、社員が連帯して弁済する責任を負います(同法第48条の21で会社法第580条を準用)。名称には必ず「税理士法人」の文字を使います(同法第48条の3)。
個人の税理士事務所との違い
| 比べる点 | 個人の税理士事務所 | 税理士法人 |
|---|---|---|
| 開設できる人 | 税理士1人から | 社員となる税理士2人以上 |
| 事務所の数 | 1か所のみ(税理士法第40条第3項) | 支店(従たる事務所)を設けられる。各事務所に社員税理士が1人以上常駐 |
| 顧問契約の主体 | 税理士個人 | 法人 |
| 責任 | 税理士個人 | 社員全員が無限連帯責任 |
| 事業の所得にかかる税 | 所得税(累進税率5〜45%) | 法人税など。社員は役員報酬として受け取る |
| 社会保険 | 常時5人以上の従業員がいれば強制適用 | 人数にかかわらず強制適用 |
個人の税理士は「事務所を2以上設けてはならない」と定められているため、拠点を増やして営業エリアを広げたい場合は、税理士法人にすることが前提になります。
一人で税理士法人はつくれる?
一人では税理士法人を設立できません。社員は2人以上必要で、設立後に社員が1人になり、その状態が6か月続いた場合は解散します(税理士法第48条の18第2項)。
そのため、社員の退任や死亡に備えて、後任の社員候補(勤務税理士など)を育てておくことが、税理士法人を続けるうえでの課題になります。一人で開業している税理士が節税を目的に法人化したい場合も、税理士法人にはできない点に注意しましょう。
税理士法人を設立するための要件
税理士法人を設立するには、主に次の4つを満たす必要があります。
税理士法人の設立に必要な4つの要件
1. 社員が税理士2人以上であること
税理士登録をしている税理士に限ります。税理士法に基づく業務停止の処分を受け、その期間中の税理士などは社員になれません(税理士法第48条の4)。
2. 名称に「税理士法人」を使うこと
他の士業の名称や官公庁と紛らわしい名称は使えません。同一・類似の名称を避けるため、日税連へ事前に照会することが求められています。
3. 各事務所に社員税理士が常駐すること
主たる事務所だけでなく支店にも、その地域の税理士会の会員である社員を1人以上常駐させます(税理士法第48条の12)。社員2人なら、拠点は最大2か所です。
4. 定款に業務の範囲を定めること
税理士業務は必ず記載します。付随する会計業務や後見人等の業務などは、定款に記載がないと行えません。
税理士法人の設立手続きの流れ
税理士法人は、設立の登記をした日に成立します(税理士法第48条の9)。一般的な流れは次のとおりです。
STEP 1 社員と方針を決める
社員となる税理士、出資額、代表社員、拠点、役割分担、報酬の配分を決めます。名称は日税連に事前照会します。
STEP 2 定款を作成し、公証人の認証を受ける
社員全員で定款を定めて署名(記名押印)し、公証人の認証を受けます(税理士法第48条の8)。
STEP 3 設立の登記をする
主たる事務所の所在地を管轄する法務局で登記します。登記をした日に法人が成立します(税理士法第48条の9)。
STEP 4 日税連に設立を届け出る
成立の日から2週間以内に、主たる事務所の所在地の税理士会を経由して日税連に届け出ます(税理士法第48条の10)。設立届出書に、定款の写しと登記事項証明書を添えます。
STEP 5 社員税理士の登録を変更する
開業税理士から社員税理士への変更申請は、原則として設立届出と同時に提出します(税理士法第20条)。
STEP 6 税務署・自治体・年金事務所に届け出る
法人設立届出書(設立から2か月以内)、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書、社会保険の新規適用届などを提出します。
税理士業務を法人として行えるのは、法人の成立後です。個人事務所の顧問先との契約は、法人を契約の相手として結び直す必要があるため、顧問先への案内も早めに準備しましょう。
税理士法人の設立にかかる費用
設立時の費用は、司法書士への報酬を含めれば30万〜40万円程度を見込んでおくと安心です。日税連の手数料は令和9年4月1日に改定されるため、設立時期に合わせて確認しましょう。
| 費用 | 金額の目安 | 支払先・備考 |
|---|---|---|
| 定款認証・設立登記(司法書士報酬を含む) | 10万〜20万円程度 | 公証役場・法務局・司法書士。公証人手数料と登録免許税を含む |
| 設立の手数料(登載手数料) | 10,000円 (令和9年4月1日以後は12,000円) |
日税連 |
| 社員税理士への登録事項の変更 | 1人2,500円 (同3,000円) |
日税連 |
| 証明書の発行 | 1通1,200円 (同3,000円) |
日税連 |
| 税理士会の入会金 | 4万円程度 | 所属する税理士会。金額は税理士会により異なる |
| 税理士会の年会費 | 税理士会により異なる | 法人としての会費が、社員個人の会費とは別にかかる |
| 看板・名刺・ホームページの変更 | 実費 | 名称が変わるため必要になる |
※日税連の手数料は、日税連「登録等手数料・登載等手数料の改定について」(2026年10月26日)による。令和9年4月1日以後に収納される分から新しい金額が適用される。
税理士が法人化するメリット
支店を出して営業エリアを広げられる
法人化する最大の理由は、支店(従たる事務所)を設けられることです。個人の税理士は事務所を1か所しか持てないため、別の地域の顧問先を増やしたい、他の事務所を引き継いで拠点にしたいといった場合は、税理士法人にする必要があります。支店には社員税理士を1人以上常駐させるため、拠点の数だけ社員が必要です。
複数拠点での事務所運営については、資料「税理士法改正から見る複数拠点の可能性」で詳しく解説しています。
事務所を組織として続けやすくなる
個人の事務所では、顧問契約は税理士個人と結ばれています。税理士法人では契約の相手が法人になるため、社員が交代しても事務所と顧問契約を継続しやすくなります。将来の事業承継やM&Aを考えている場合にも、法人の形にしておくと進めやすくなります。
関連記事:会計事務所のM&A/税理士事務所の事業承継
税負担を調整しやすくなる
個人の事業所得には、所得税(5〜45%の累進税率)、住民税、個人事業税がかかります。法人にすると、法人の所得には法人税などがかかり、社員は法人から役員報酬を受け取ります。役員報酬には給与所得控除が使えるため、所得が大きいほど、法人と個人に所得を分けて税負担を抑えられる余地が生まれます。
税率の比較は「法人化を検討するタイミング」の表を参照してください。
退職金を支給できる
税理士法人では、社員が退任するときに退職金を支給できます。退職所得は退職所得控除があり、他の所得と分けて課税されるため、個人事務所のまま引退するより税負担を抑えやすくなります。
欠損金を長く繰り越せる
赤字を翌年以降の黒字と相殺できる期間は、個人の青色申告では3年ですが、法人では10年です(平成30年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金)。拠点の開設や採用で一時的に赤字になる場合に役立ちます。
決算月を選べる
個人は1月〜12月で所得を計算しますが、法人は決算月を自由に決められます。確定申告や顧問先の3月決算と重ならない月を決算月にすれば、自社の決算作業を繁忙期からずらせます。
税理士が法人化するデメリット
社員全員が無限連帯責任を負う
税理士法人の社員は、法人の財産で債務を完済できない場合、個人の財産で連帯して弁済する責任を負います。自分が担当していない案件でも、他の社員の申告ミスによる損害賠償などが対象になります。新たに加入した社員も、加入前に生じた債務について責任を負います。税理士職業賠償責任保険などで備えておきましょう。
パートナーとの関係が経営を左右する
業務量の偏り、報酬の配分、経営方針の違いなどで、社員の関係がこじれることがあります。社員が抜けて社員が1人になれば、6か月以内に新たな社員を迎えないと法人は解散します。定款で報酬や脱退時のルールを決めておき、「仲がいいから」ではなく、経営方針を共有できるかでパートナーを選びましょう。
社会保険の加入が義務になる
法人の事業所は、人数にかかわらず健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になり、社員税理士自身も加入します。ただし、令和4年10月からは、税理士などの士業の個人事業所も、常時5人以上の従業員がいれば強制適用になっています。職員が5人以上いる事務所では、法人化による負担の増加は主に社員自身の保険料です。
登記・届出・会費などの負担が増える
名称や事務所の所在地、社員に変更があれば、登記と日税連への届出が必要です。法人としての税理士会費や、赤字でもかかる法人住民税の均等割も発生します。法人の決算・申告、社会保険の手続きなど、事務所内の作業も増えるため、クラウド会計・給与ソフトで自社の管理業務を省力化しておくと安心です。
法人化を検討するタイミング
法人化を検討するのは、「個人事務所のままでは実現できない目標があるとき」です。節税だけを理由にすると、無限連帯責任やパートナーとの関係といった負担に見合わないことがあります。
当てはまるものが多いほど、法人化を検討する価値があります
✓ 別の地域に拠点を出したい、他の事務所を引き継ぎたい
✓ 経営方針を共有でき、社員になってもらえる税理士がいる(前提条件)
✓ 事業の課税所得が900万円を超え、所得税率が33%以上の帯に入っている
✓ 職員が5人以上いて、すでに社会保険に加入している
✓ 将来、事務所を後継者に引き継ぎたい
所得税と法人税の税率
| 課税される所得 | 所得税の税率(個人) | 法人税の税率(資本金・出資金1億円以下の普通法人) |
|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 15%(年800万円以下の部分) |
| 195万〜330万円未満 | 10% | 15% |
| 330万〜695万円未満 | 20% | 15% |
| 695万〜900万円未満 | 23% | 800万円まで15%、超えた部分は23.2% |
| 900万〜1,800万円未満 | 33% | 23.2%(年800万円超の部分) |
| 1,800万〜4,000万円未満 | 40% | 23.2% |
| 4,000万円以上 | 45% | 23.2% |
※所得税は国税庁「No.2260 所得税の税率」、法人税は「No.5759 法人税の税率」(いずれも令和8年4月1日現在法令等)による。所得税には別に復興特別所得税、住民税(10%)、個人事業税が、法人税には別に地方法人税、法人住民税、法人事業税がかかる。法人税の15%は、所得が年10億円を超える事業年度は17%。
個人の所得税率が法人税の税率(23.2%)を上回るのは、課税所得900万円以上の33%の帯からです。ただし、実際の税負担は役員報酬の額、社会保険料、社員の人数で大きく変わるため、自社の数字で試算してから判断しましょう。
まとめ:拠点を増やす、組織で続けるための法人化
税理士法人は、税理士2人以上で設立する法人です。支店の開設、組織としての継続、税負担の調整といったメリットがある一方、社員全員の無限連帯責任やパートナーとの関係といった負担もあります。節税だけでなく、事務所をどう大きくし、どう引き継ぐかという方針に合わせて判断しましょう。
開業から事務所の拡大までの全体像は、税理士の独立開業ガイドもあわせてご覧ください。
よくある質問
一人で税理士法人を設立できますか?
できません。社員は税理士2人以上が必要です。設立後に社員が1人になり、その状態が6か月続くと解散します(税理士法第48条の18第2項)。
設立にかかる費用はいくらですか?
司法書士への報酬、日税連の手数料、税理士会の入会金などを合わせて、30万〜40万円程度が目安です。
なお、日税連の手数料は令和9年4月1日から引き上げられます。
個人事務所の顧問先との契約はどうなりますか?
契約の相手が税理士個人から法人に変わるため、法人との顧問契約を結び直します。設立の前に、名称・担当者・振込先の変更を顧問先に案内しておきましょう。