ITを使って税理士業務を効率化!IT導入のポイントとは?

業務効率化

ITを使って税理士業務を効率化!IT導入のポイントとは?

クラウド会計ソフトの普及に代表されるように、税理士業界では業務へのIT導入が進んでいます。税理士の業務とITは相性が良く、うまく扱うことでさまざまな業務効率化を図ることが可能です。それにより税理士の専門性が最大限に発揮できる環境が整い、関与先への高付加価値業務に時間を割くことができます。本記事では、そのようなITのメリットからIT導入のポイントまで詳しく解説します。

ITを使った業務効率化

税理士事務所が活用できるITツールには、さまざまな種類があります。
これらのITを導入することで、よりスムーズな業務遂行が可能となり、事務所内部だけでなく、顧問先の事務負担軽減にもつながります。

税理士事務所のIT活用

クラウド会計ソフトの使用

従来の会計ソフトは、利用者がソフトを購入し、自らのパソコンにインストールして利用する「インストール型」が大半でした。しかし近年では、AIを活用した「クラウド会計」の普及が進んでおり、会計ソフト市場におけるシェアを年々拡大しています。

クラウド会計の最大の特長は、ネットバンキングやクレジットカードと自動連携が可能であり、それらの取引履歴をもとに、自動で仕訳が作成される点です。従来はすべて手作業で行っていた仕訳入力を自動化することにより、入力作業を大幅に削減することが期待できます。

クラウド会計の注意点として、インターネット環境が必須であることや、現金取引が多いビジネスの場合には、手作業による仕訳入力や領収書などの証憑をスキャンする手間がかかることが挙げられます。クラウド会計のメリットを存分に引き出すためには、現金取引が少なく、自動連携の効果が発揮しやすい事業者が最適と言えるでしょう。

会計ソフトに関しては、顧客の事業内容を加味せずに税理士側の都合で選ぶことは避けましょう。それぞれのソフトの特徴を正しく理解し、顧客に合ったものを提案することが好ましいです。税理士として扱えるツールの種類が多いほど、選択肢の幅が広がるため、顧客に寄り添った提案を行いやすくなります。

紙や書類をオンラインストレージで管理

従来の税理士業務においては、顧問先との資料のやり取りは紙媒体が基本であり、税理士事務所で記帳代行を行う場合には、仕訳入力に必要な証憑を郵送してもらう必要がありました。

しかしDropboxやGoogleドライブなどのオンラインストレージを活用することで、インターネット上にファイルを保存し、特定の顧問先とデータを共有することができます。資料の郵送作業を省略できるだけでなく、Excelなどのデータを保管すれば、顧問先との間で最新のデータがわからなくなるなどの問題を避けられるでしょう。

また、特定のパソコンの中ではなく、インターネット上にデータが存在するため、万が一経理のパソコンが故障した場合でも、データ自体が消失するリスクを避けることが可能です。

オンラインストレージについては、全文検索や絞り込み機能などが充実しており、検索性に優れているというメリットもあります。近年では、電子帳簿保存法が緩和傾向にあり、それらの要件を満たしたツールを利用して紙保存から電子保存への移行を促進することも可能です。

コミュニケーションツールの利用

ITの発展に伴い、顧客とのコミュニケーションツールにも変化が表れ始めています。

特にSlackやChatworkのような、ビジネスチャットツールを利用する事業者が急激に増加しています。これらのサービスを活用することにより、複数人と同時にメッセージの送受信やデータ共有ができるだけでなく、音声やビデオ通話も可能です。

ビジネスチャットツールを利用すれば、従来のパソコンメールに比べ、顧問先との円滑なコミュニケーションが可能となり、業務効率の向上を期待できます。また、顧問先とのやり取りだけでなく、事務所内部でのコミュニケーションやタスク管理ツールとしても活用できます。

Zoomに代表されるWebミーティングツールを利用すれば、顧客とオンライン上で打ち合わせを行うことも可能です。先述したクラウド会計やオンラインストレージ、コミュニケーションツールと併せて活用すれば、非対面で証憑回収から顧問先との打ち合わせまでの一連の業務を完結させることもできるでしょう。

Excelの活用

個人事業主や小~中規模企業などの場合は、現金出納帳や売掛金または買掛金管理帳などの帳票をExcelで管理している事業者も多いです。

手書きで帳票を作成している事業者の場合は、Excelを導入し、簡単な計算式を組み込むだけでも集計ミスなどによる修正作業が不要となるため、業務効率の向上が期待できます。

 

ITを利用するメリット

税理士業務にITツールを導入することで、さまざまなメリットが期待されます。
以下で解説する効果を理解したうえで、導入すべきかどうか検討を行いましょう。

作業時間の削減

クラウド会計の自動仕訳や、検索機能に優れるオンラインストレージを活用すれば、手入力や資料を探す手間などの非効率な業務時間を削減できます。

特に毎月継続的に発生する作業ほど、業務効率化による効果も雪だるま式に高まっていくため、積極的にITツールの導入を検討しましょう。事務所内部の非効率化した業務を削減することで、事務所全体における労働生産性の向上を期待できます。

ミスの削減

手作業によって行う業務を削減することは、人為的なミスを減らすことにもつながります。

税理士業務では、顧問先が手作業で仕訳入力をしている場合、帳簿上の預金残高と通帳残高を一致させる作業からスタートするケースも珍しくありません。クラウド会計を導入すれば、ネットバンキングと自動連携でき、そのような突合作業を削減することが可能です。

ただしITツールの利用方法自体を誤ってしまえば、当然修正作業が必要となってしまうため、導入にあたっては、顧問先へ正しい使い方を丁寧に指導することが大事になります。

紙での管理が減る

税理士事務所では、書類の保管場所に頭を悩ませているケースも少なくありません。
特に顧問先からは契約書や請求書など、様々な資料のコピーを預かることとなり、それらはさかのぼって確認する機会もあるため、適切に保管する必要があります。顧問先が増えれば増えるほど、税理士事務所で保管する書類が増加するため、事務所の一室を保管庫として使用するケースも少なくありません。

そのような税理士事務所において、先述したオンラインストレージを活用すれば、顧問先から入手した資料をPDFなどのデータとしてインターネット上に保管でき、必要なときにいつでも閲覧できます。税理士事務所が締結する契約書や発行する請求書についても、電子化によって紙での管理を減らすことが可能です。

コストが削減できる

紙媒体での保管が不要となることで、事務所内の省スペース化を実現できます。書類の保管に必要な棚やキャビネットのような備品も含め、保管スペースが不要となり、事務所内の空間をより効率的に使用できます。ペーパーレス化が実現すれば、印刷コストの削減にもつながります。

紙で管理する場合には、資料を探すだけの時間が発生しやすく、余分な人件費がかかってしまいます。そのような生産性のない時間を削減することで無駄な人件費を削減し、労働生産性を高めることも期待できるでしょう。

より付加価値の高い業務に従事できる

ITツールの導入で、単純作業や修正作業のような本来時間を割くべきでない業務を削減できます。税理士は財務分析やコンサルティング業務など、より付加価値の高い業務に注力することが可能となるでしょう。

また、税理士事務所としてのサービスの質を高めることができ、顧客満足度の向上や売上アップも期待できます。ITツールを活用すれば、映像や音声、文字などの媒体を通じて情報発信ができるため、既存の税理士業務に囚われないサービスの提供方法も可能となるでしょう。

ITツールを導入するためのポイント

ITツールに関しては、ただ闇雲に知名度の高いものを導入すれば成果が表れるというものではありません。まずは自らの事務所の課題を分析し、それを解決するために最適なツールを選定する必要があります。
下図のように、IT導入に向けて順序立てて取り組むようにしてください。

ITツール導入フロー

日常業務の中の無駄を見つける

まずは自らの業務内容を見直すことで、余分な時間や非効率な業務がないかどうかチェックしましょう。
たとえば以下のような状況に該当する場合には、ITツールの導入によって業務改善を行うことも十分に可能であると考えられます。

  • 顧問先でネットバンキングの導入やキャッシュレス化が進んでいるにも関わらず、税理士事務所では紙媒体の資料で溢れており、手作業やアナログな管理のままである
  • ネットバンキングやクレジットカードの取引履歴についても、顧問先がExcelに手入力し、そのExcelをもとに税理士事務所の職員が会計ソフトへ入力している
  • 証憑類のチェックや取引内容のヒアリング、勘定科目の残高を合わせる作業に多くの時間を費やしている

このように事務所の業務フローを再確認し、日常業務に潜む無駄を見つけたうえで、ITツールの導入によってどのように効率化が可能か検証を行いましょう。

改善の優先順位づけ

ITの導入にあたっては、一度に多くのツールを導入し、業務フロー全体を刷新することには一定のリスクがあります。事務所内部だけでなく、顧問先に混乱を与えることは絶対に避けなければなりません。

そのようなリスクが懸念される場合には、IT導入によって期待される効果や緊急性などの要件から、優先事項のランク付けを行ってください。そして優先順位の高いものから順に、段階的に導入作業を進めましょう。その際には、事務所内部や顧問先に対し、導入に向けたスケジュールを共有するだけでなく、導入による効果についてもきちんと伝えるようにしましょう。

現場志向を意識する

ITツール導入に際して、事務所内部だけでなく顧問先にも影響が及ぶ場合には、特に慎重に導入作業を進める必要があります。そのような場合には、顧問先の経営者の了承を得るだけでなく、実際にツールを使用する顧問先の経理担当者や、事務所の職員にも必ず意見を聞くようにしてください。

導入後についても、ITツールの活用が軌道に乗り、導入の効果がしっかりと発揮されるまでは丁寧なフォローアップが必要です。現場との十分なコミュニケーションを取り、疑問点などはできるだけ早めに解消するように心掛けましょう。

セキュリティ対策をしっかりする

税理士事務所が扱う情報は、顧問先の財務諸表や預金残高、従業員の個人情報など、極めて重要性の高い内容ばかりです。いくら業務効率が高まるといっても、重要な顧客情報が漏洩し、顧問先からの信用を失っていては本末転倒でしょう。

導入するITツールを検証する際には、導入による効果の大小だけでなく、大前提としてセキュリティ対策が整っているものを選ぶようにしてください。ツール自体のセキュリティ機能に加え、ネットワーク環境や機器類のセキュリティや、事務所や顧問先内部からの情報漏洩リスクについても考慮しなくてはなりません。データのバックアップ機能や細かなアクセス権限の設定など、さまざまなリスクや実際の使用環境を考慮し、十分なセキュリティ環境を整備しましょう。

 

ITによる効率化でより高付加価値な業務を

ITの導入によって、余分な作業の削減や情報共有の効率化など、さまざまなメリットを享受することができます。特に税理士業務については、専門的な業務内容ばかりではなく、仕訳入力などの単純作業に充てる時間も少なくありません。ITツール導入により、単純作業を効率化し、付加価値の高い業務に注力できる環境を整えることで、事務所経営もより健全で強固なものとなっていくことでしょう。

ITツールの活用によって改善できる業務がないか、ぜひ一度ご検討ください。

よくある質問

税理士が使うべきITツールは?

税理士業務とITは相性が良く、クラウド会計ソフトやオンラインストレージ、コミュニケーションツールの導入が一般的です。ITの活用によって税理士だけでなく、顧問先にもメリットが及ぶことでしょう。

ITツール導入のメリットは?

IT活用により、人間が手作業で行う単純作業を削減することで、作業時間の短縮や人為的ミスの減少に繋がります。また紙媒体からデータ管理に移行すれば、省スペース化にも貢献することでしょう。

ITツール導入の際のポイントは?

まずは日常業務の中から、無駄な作業や非効率な業務を見つけてください。そしてそれらを改善するためのITツールを検証し、実際に使用する現場の意見も確認したうえで、導入するかどうか決定しましょう。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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