税理士事務所を開業後、集客を成功させるマーケティング戦略とは?

独立・開業

税理士事務所を開業後、経営を軌道に乗せるためには、着実に顧問先を獲得していくことが欠かせません。また、新規顧客を獲得したら、適切な顧問料を設定することも重要です。これらを成功させるには事前にマーケティング戦略をしっかり練っておくことが必要になります。本記事では、税理士のマーケティング戦略について詳しく解説します。

税理士事務所を開業後、集客を成功させるマーケティング戦略とは?

税理士のマーケティングとは

税理士が集客を行うためには、単に税務の知識や経験を持っているだけでは十分ではなく、マーケティング戦略を立案する必要があります。
マーケティングとは、売れる仕組みを構築することを指し、「誰に」「何を」「どうやって売るか」について追求することを意味します。

税理士がマーケティング戦略を組み立てる場合には、「ターゲット層をしっかりと定め、その顧客が価値を感じるサービスを届ける仕組みづくり」について分析しましょう。

税理士がとるべきマーケティング戦略

マーケティング戦略においては、「4P分析」と呼ばれる手法を用いることが効果的です。

4P分析では、自社商品やサービスに関して「Product(商品)」「Price(価格)」「Place(提供方法)」「Promotion(販売促進、集客)」の4つの領域から分析することにより、具体的なマーケティング戦略を練っていきます。

税理士がとるべきマーケティング戦略

Product:商品

商品やサービスを検討する場合には、まずはターゲットとなる顧客層が持つニーズを検証し、そのニーズを満たすものを提供しなければなりません。また需要面だけでなく、自分の強みを活かすという供給面での観点も必要であり、「自身の強みを活かした商品やサービスで顧客ニーズを満たす」という考えが基本となります。

その場合には、これまで培った税務の知識や実務経験に基づく強みを自己分析し、その価値を必要とする顧客層について検討しましょう。

また税理士の場合には「モノ」ではなく、形のない「サービス」を売る仕事であるため、その価値を顧客へ訴求しづらいという難点があります。

そのような場合には、クラウド会計導入や融資支援など複数のサービスをパッケージ化し、訴求しやすい「商品」として販売することも効果的です。

Price:価格

提供する商品やサービスが決まったら、次に価格を検討します。
価格は安ければよいというものではなく、「利益」「需要」「競合」の3つの観点から決定することが望ましいです。

価格決定の観点

まず「利益」についてです。税理士には仕入はありませんが、自らの労働時間や長年にわたって習得した専門的知識を提供している以上、原価はゼロではありません。

特に開業直後の場合、売上を確保するために利益度外視の低価格戦略で集客を行うケースも多いですが、低単価の業務で稼働時間の大半を消費してしまうと、疲弊する割に利益が残らないという悪循環に陥ってしまいます。
自分の原価をしっかりと考えた上で、利益が残る経営を心掛けましょう。

次に「需要」に関してですが、顧客に納得して対価を支払ってもらうためには、自身の提供するサービス内容に釣り合った価格設定が必要です。そのためには税理士として提供するサービスの価値を客観視し、価格の妥当性を検証しなければなりません。

最後に「競合」に関しては、同じ市場に属する競合他社の価格を参考にする方法があります。単に他の税理士事務所の料金体系をランダムに調査するのではなく、自分と同様のサービスを展開し、同じ顧客層をターゲットとしている事務所の顧問料などを参考にするとよいでしょう。

Place:提供方法

提供する商品や価格が決まれば、実際に顧客へ提供する方法を検討します。
税理士の場合、開業場所やそれに基づく営業エリアの選定を行います。税理士業務は対面でのサービス提供が基本となるため、事務所の立地を中心に営業エリアを決定するケースが多いです。

たとえば都市部の場合、事務所家賃が高くなりやすいという特徴だけでなく、ターゲットとなる企業数に比例して、競合する税理士事務所も増加する「激戦区」となるでしょう。そのような場合には、熾烈な競争を勝ち抜くための武器が必要となります。

あるいは「来所型」の業務形態を選ぶ場合には、顧客が車や公共交通機関を利用して来所しやすい環境を重視し、交通の便が良い立地を選びましょう。

また地域に根ざした経営だけでなく、支店を増やすことで広域での営業も可能となります。

なお近年では対面での活動だけでなく、オンラインでの税務相談やWebセミナーによって収益を獲得する税理士も増えており、サービス提供の場はますます拡大しています。特にリモート業務を行う税理士は、以下のようなメリットから、クラウドサービスやWeb会議ツールを活用するケースが大半です。

  • 経理書類の郵送やメールでのやりとりを削減できる
  • インターネット環境さえあれば、国内外問わずサービスを提供できる
  • 移動時間の削減や業務効率を向上させることで、財務分析や経営改善など、サービスの質を高めることができる

一方で対面によってサービスを提供しないため、顧客の反応や温度感が読み取りにくく、関係性を醸成しづらいというデメリットもあります。

税理士業務のすべてを「対面」あるいは「オンライン」のどちらかに統一する必要はありません。これらのメリットやデメリットを踏まえ、「対面」と「オンライン」の特性を理解し、業務によって効果的な提供方法を取り入れることが重要です。

たとえば顧問業務は「対面」で行い、スポットでの税務相談やクラウドサービスの導入支援などは「オンライン」で対応するなど、業務内容に合わせた提供方法を心掛けましょう。

Promotion:認知・集客

収益を獲得するためには、単に商品や価格を追求するだけでなく、それらを顧客へ認知してもらわなければなりません。このような販売促進活動は、テレビや新聞、インターネット、SNSなどの媒体を通じて行われることが一般的です。

開業直後の税理士であれば、不特定多数の人へ広く宣伝するよりも、ターゲット層にピンポイントで訴求する方が効率的であるため、そのような観点から最適な広告媒体を選択しましょう。また開業直後だからこそ、PR活動を外部に頼るのではなく、自分で行うことも有用です。

たとえばホームページの開設やブログ運営、SNSの活用を自ら行うことで、コストを削減するだけでなく、試行錯誤を繰り返す中で、ターゲット層へ向けた効果的な情報発信のノウハウを習得することにも繋がるでしょう。

なおPR活動においては、自社の強みや他の税理士事務所との違いを顧客へ訴求し、自らのブランディングや競合他社との差別化を図ることが望ましいです。

また4Pについては各要素を別々に検討するのではなく、一貫性を持たせることが重要です。

たとえば高品質の商品を安売りしたり、シニア層向けの商品をSNSで広告してWeb販売のみで展開したりすると、4Pの各要素がバラバラに分散してしまいます。マーケティング戦略が機能不全に陥ってしまうため注意しましょう。

顧客の行動プロセスを理解する

自社商品やサービスをPRする場合、消費者行動の流れを意識すると、より効果的に販売促進を行うことが可能です。
インターネット時代においては「AISASの法則」が浸透しており、これは「Attention(認知)」「Interest(関心)」「Search(検索)」「Action(行動)」「Share(共有)」の5つの頭文字を意味しています。

AISASの法則

「AISASの法則」を税理士業界に当てはめると、消費者行動は以下のようになります。

  • Attention:税理士事務所の存在や業務内容を認知する
  • Interest:業務内容に関心を持つ
  • Search:インターネットなどで検索する
  • Action:税理士へ依頼する
  • Share:依頼した感想を第三者と共有する

ターゲット層に広告宣伝を行う場合には、チラシやDMなどのPR活動を通じて、まず事務所の存在やサービス内容を認知してもらうことが第一歩となります。

ただし税理士業界の場合には、顧客側が事前に特定の税理士を認知せずに、直接インターネット経由で税理士探しを行うケースも非常に多いです。

そのような場合には「相続」や「資金調達」、「東京都○○区」などのキーワードによる「検索」からスタートし、その後、事務所ホームページなどを通じて「認知」や「関心」へとつながることとなります。
Web集客を行う場合には、「検索」から「認知」へつなげる工夫が非常に重要となるでしょう。

PDCAを回してマーケティングを成功させよう

今回は税理士のマーケティング戦略について解説しました。
市場環境は日々変化するため、マーケティング戦略は一度立案すればよいというものではありません。計画や実行を繰り返し、よりよい戦略へと磨き上げていく必要があります。
試行錯誤を繰り返し、効果的なマーケティング戦略を実践しましょう。

よくある質問

税理士のマーケティングとは?

マーケティングでは、誰に対し、何を、どのように売るのか、について検証します。その際には「4P分析」を活用し、「商品」「価格」「提供方法」「販売促進」の4つの領域から具体的な戦略を立案しましょう。

サービスの価格はどうやって決める?

価格を決定する際には、単に低価格を追求するのではなく、「利益」「需要」「競合」の3つの観点が必要です。内部環境だけでなく、外部の要因も踏まえ、適切な価格設定を行いましょう。

販売促進活動で意識すべきことは?

「AISASの法則」を活用しましょう。これは「認知」「関心」「検索」「行動」「共有」という顧客の行動プロセスを表しており、消費行動を意識することでより効果的な販売促進が可能となります。

【監修】税理士・中小企業診断士 服部 大

2020年2月、30歳のときに名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界の数少ない若手税理士として、顧問先の会計や税務だけでなく、創業融資やクラウド会計導入支援、補助金申請など、若手経営者を幅広く支援できるように奮闘中。
執筆や監修業務も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。

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