自分が大切にしたい仲間と働くために。独立4年目を迎えた若手会計士の信頼関係の構築方法とは?

今回お話しを伺ったのは、谷侑治会計事務所の谷先生です。「自分が大切にしたい仲間と、理想の組織を創りたい」という純粋な想いからスタートし、現在はスタッフ6名体制で4年目を迎えられた谷先生。

インフルエンサーとの出会いを契機に、同世代の経営者から信頼を集める独自の集客プロセスや、プロフェッショナルとしての理論を現場の実務へ適応させた方法、そしてこれからの過渡期を見据えた事務所戦略について、等身大の言葉で語っていただきました。


目次

1.監査トレーニー制度をきっかけに切り拓いたキャリアの原点

まず初めに、谷先生が会計業界を志されたきっかけと、これまでのご経歴について教えていただけますか?

生まれ育った環境の影響もあり、高校生の頃までは「安定して稼ぐなら医療の世界だろう」と漠然と医学部を目指して勉強していました。

しかし、高校3年生の夏、それが本当に自分のやりたいことなのか自問自答した時に、どうしても興味が持てなかったんです。そこで他の国家資格を調べる中で公認会計士の存在を知りました。もともと数学や政治経済が好きだったこともあり、「これだ」と思って経済学部に進路を変更したのがすべての始まりです。

大学卒業後は、特定の資格に縛られることなく、企業のネームブランドや規模感に惹かれて一般企業の財務部に就職しました。ただ、実際に働いてみると、本社の管理機能という立場上、現場の営業部隊との役割の違いから生じる視点の摩擦や、組織の縦社会の厳しさに直面することが多くありました。

「自分は何のために経済学部に入ったのだろう」と原点を振り返った時、社内に会計士の資格保持者が一人もいなかったこともあり、「若くしてこの難関資格を取得すれば、一気に経営の中枢(CFO)へ行けるのではないか」と考えたんです。

今思えば若いなと思いますが、一度決めたら「有言実行」で見返してやりたいという反骨心が、働きながら勉強を始める大きな原動力になりましたね。

働きながらの受験勉強は非常にハードだったかと思いますが、どのように乗り越えられたのでしょうか。

働き始めて2年が経った25歳のタイミングで、ちょうど大手監査法人で「監査トレーニー制度」(働きながら会計士試験の合格を目指す制度)が始まったんです。

タイミングの良さを感じてすぐに申し込み、監査法人へ転職しました。試験前の時期は、週5日勤務を週4日に変更してもらったため、当時の東京都内での生活としてはかなり厳しい手取り13万円という時期もありました。

家賃だけで半分以上が消え、貯金を切り崩す生活でしたが、「一刻も早く合格してこの環境を変えなければならない」という危機感が、逆にエネルギーになって苦境を乗り越えられました。

無事合格した後は、そのまま監査法人にて上場企業の監査業務や、IPO(新規株式公開)を目指す企業の業務を担当できました。経理部長へのヒアリングや工場への実査など、監査の基本を徹底的に叩き込まれましたね。

仕事そのものの楽しさというよりは、チームのメンバーと切磋琢磨しながら一緒に働く時間や、クライアントと深く関わって仲良くなれる「人とのつながり」に大きなやりがいを感じていました。

その後、税理士法人へ転職されたのはどのような理由からですか?

監査法人で数年過ごした後、YouTubeなどのメディアでも精力的に発信されている代表が経営する税理士法人へ転職しました。

「若くして独立し、成功を収めているプロフェッショナルが、どのようなプロセスで事務所を経営しているのか」を、間近で見て学びたいという強い知的好奇心があったからです。そこではマネージャーとして、多くのスタッフを率いながら実務を取り仕切る経験を積ませていただきました。

2. 「理想の組織・仲間を自らの手で創る」独立への決断と、理論から実務への適応

そこから、どのような経緯で独立開業へと至ったのでしょうか。

入社して1年半から2年ほど経った頃、事務所の経営戦略の一環として、私たちが担当していた顧問業務(事業)を別の税理士法人へ事業譲渡することになったんです。組織の成長ストーリーにおける戦略的な判断であり、そこに善悪はありません。

ただ、私は残る側として、引き続き業務に携わることになったのですが、これまで現場で一緒に走ってきた仲間が新しい環境へ移っていく様子を目の当たりにして、「自分はどんなチームで、どんな価値観を大切に働きたいのか」を改めて考えるきっかけになりました。

「自分が大切にしたい仲間を集め、理想とする働く環境や組織を、自らの手で創り上げたい」

そう強く感じたことが、独立を決意した決定的なきっかけです。

当時は他にも、既存組織の代表ポストの打診や、新たな税理士法人立ち上げへの参画といった魅力的な選択肢が用意されていましたが、独立を選びました。自分で意思決定をし、進むべき道がクリアになっていたため、不思議と独立に対する不安は一切ありませんでしたね。

公認会計士・税理士にとって、独立後に中小企業の税務顧問や個人事業主のサポートを行う際、実務の壁を感じる方も多いと思います。谷先生はその点をどのようにクリアされましたか?

正直にお話しすると、最初に勤めた会社で税務申告のベース作りに触れた際、複雑な税法の仕組みが理解仕切れませんでした。その経験から、自分は税務に向いていないと思っていたんです。

しかし、独立を生存戦略として現実的に考えた時に「税務」は、すべての企業や個人事業主が事業を営む上で切っても切り離せない絶対的なニーズであり、ビジネスのベースラインになると確信しました。前職の税理士法人でそのビジネスモデルを体感し、確信を持てたことも大きかったです。

公認会計士試験や修了考査を通じて、税務の「基礎知識(理論)」は十分に備わっています。ただ、それを「現場の実務」へ適応させるには、やはり実践を通じたアプローチが必要でした。

私はすべてを網羅的に丸暗記してから仕事を受けるのではなく、実務の現場で直面した具体的な課題や論点が生じるたびに、専門書を紐解いたり、同じ年代の信頼できる税理士仲間に直接電話をしてアドバイスを貰いながら、その都度解決していくスタイルを徹底しました。

現場の課題と理論をピンポイントで結びつけることで、知識を急速に実務レベルへと昇華させ、自分の血肉にしていった感覚です。

3. XのDMから始まった信頼の輪。飾らない「素のコミュニケーション」

令和5年2月の独立開業後、顧客ゼロの状態からどのように最初のクライアントを獲得していかれたのでしょうか。

立ち上げのタイミングでは、過去一緒に働いていた非常に優秀なスタッフが「共にやりたい」とジョインしてくれたため、最初から2名体制でのスタートでした。

肝心の集客ですが、本当にドラマチックな縁に恵まれました。開業してすぐのある夜、寝る前にTwitter(現X)を見ていると、私が以前から動画を熱心に視聴していたビジネス系インフルエンサーの方が、「法人を設立したので、信頼できる税理士を探しています。我こそはという方はDMをください」と投稿されていたんです。

「これは絶対に逃せない」と思い、その場ですぐに熱意を込めてDMを送りました。

著名なインフルエンサーとなると、応募も殺到したのではないですか?

はい、後から聞いた話では何十人もの応募があり、最終的に5〜6名まで絞られた中から面談を経て、ありがたいことに私を選んでいただきました。

「なぜ実績も少ない開業直後の自分を選んでくれたのか」を尋ねたところ、返ってきたのは「圧倒的な話しやすさ」という答えでした。

かしこまった堅苦しい雰囲気ではなく、同じ目線でフランクに、フラットに話ができる関係性を評価していただけたようです。また、経営者の方と年齢層(30代)が近かったことも安心感に繋がったのだと思います。

その後、その方のYouTubeチャンネルのVlogや日常を切り取った動画企画に、数秒〜数十秒ほど、素の表情のまま出演させていただく機会が何度かありました。

すると、それを見た全国の同世代の経営者や個人事業主の方々から、「信頼できる税理士を探していた」「動画を見て人柄が伝わった」と、問い合わせが届くようになったんです。税理士選びに悩む若い経営者にとって、動画を通じて事前に「どんな人が担当してくれるのか」という人柄が見えることは、大きな安心材料になったのだと思います。

そこからさらにご紹介をいただく形で、ありがたいことにクライアントが増えていき、開業初期の集客で行き詰まるということはありませんでした。現在では、お客様の9割が私と同世代の30代の経営者で占められています。

初回の面談やクライアントとの信頼関係の構築において、谷先生が意識されている工夫はありますか?

開業当初は、何を質問すべきか、何を話すべきかを事細かに書き出した「台本」やテンプレートを作成し、面談のロープレのようなことも試していました。しかし、変に作り込んだ準備をすると、かえって自分自身が身構えてしまい、会話が硬くなってしまうことに気づいたんです。

そのため、現在は事前の台本などは一切用意せず、服装もスーツではなくジャケットにTシャツといったスタイルで、ありのままの「素の自分」で接することを何よりも大切にしています

自分の家族や大切な友人に接するのと同じように、経営者のパーソナルな悩みや、孤独に寄り添う温かさを持って向き合う。着飾った自分を見せて契約を結んでも、長期的な関係になれば必ずミスマッチが生じます。「最終的には、価格や条件ではなく、私という『人』を見て選んでください」と言い切って面談を終えるようにしています。

このスタンスを貫いているからこそ、既存のお客様からのご紹介案件の成約率は、ほぼ100%を維持できています。

他の士業の先生方とのネットワーク構築など、リアルな営業活動はどのようにされていましたか。

初期のごく数ヶ月間だけは、認知を広げるために異業種交流会などに参加したこともありました。ただ、広く浅く名刺を交換しても、その後の密なコミュニケーションに繋がらなければ、限られたリソースが分散してしまうと感じたんです。

そこで私は戦略を切り替え、社労士、司法書士、弁護士など、各分野で「この人になら大切なクライアントを任せられる」と思える同世代のキーパーソンを一人ずつに絞り込みました

お互いに顔が見える距離感で、LINE一本ですぐに相談し合えるような濃密な信頼関係を築き上げたんです。結果として、そこからの質の高い相互紹介のルートが確立されたため、無駄な交際費や営業コストをかけることなく、強固なアライアンスを組むことができています。

4.「AI過渡期」における先を見据えた事務所の展望

現在はスタッフ6名体制とのことですが、組織のマネジメントや今後の規模拡大についてはどのようにお考えですか?

業務量の増加に合わせてIndeedなどを活用し、まずはアルバイトやパートという形態を中心に採用を行いました。実際に働きぶりを見て、優秀であるスタッフには正社員のオファーをしましたね。

よく業界内では「100人、200人規模の大規模法人を目指す」という拡大路線が語られますし、周囲の急成長や合併の話を耳にすると、焦る気持ちが全くないと言えば嘘になります。

しかし、私自身の適性を客観的に見つめた時、何百人もの組織を統率し、ガチガチのルールで縛って管理するマネジメントは向いていないと自覚しているんです。

周りの景色に惑わされることなく、全員の顔とキャラクターが完全に把握できるサイズ感で、強固なチームを作る方が私らしく、かつ高品質なサービスを維持できると考えています。

週に2〜3回は必ず私自身が事務所に出社し、スタッフ全員と密に雑談も含めたコミュニケーションを取っています。業務の指示をトップダウンで出すだけでなく、「この論点、どう思う?」とスタッフ自身に考えてもらい、彼らの意見に対して私が最終的な判断を下すボトムアップの体制を意識し、ワンマン組織にならないよう配慮しています。

実務の効率化や、昨今のAI活用について、取り組まれていることはありますか?

今の会計業界は、AIやITツールの進化によってビジネスモデルそのものがドラスティックに変わる「過渡期」の真っ只中にあると実感しています。当事務所でも、毎月のクライアントへの資料回収を自動化する仕組みや、お預かりしたデータをAPI連携させて効率的に仕訳データへ落とし込むフローを、友人のエンジニアの手を借りながら構築し、最新のシステムをシビアに検証している段階です。

将来的には、会計ソフトはマネーフォワードをコアに据えつつ、クライアントごとに一元化された「専用のWebページ(エージェント)」を構築したいという構想を持っています。

そのページにアクセスすれば、チャットのやり取り、資料の進捗状況、月次の財務推移がすべて一目で把握できる。さらに、あらかじめ私の経営思想や過去の回答データを学習させたAIエージェントを裏側に組み込んでおくことで、クライアントからの日常的な質問に対して、AIが「谷ならこう答える」というベースの回答を瞬時に生成し、最後に私が少し着色(修正)して返す。

こうした、クライアントにとっても窓口が一元化され、私たちにとっても劇的に生産性が向上するような次世代の税務顧問のあり方を、遊び心を持って実験的に作り上げていきたいですね。

最後に、これから独立開業を目指す公認会計士や若手税理士の皆様へ、熱いメッセージをお願いいたします。

今、業界の環境はものすごいスピードで変化しています。これまでの先輩たちが成功させてきた「記帳代行と定期面談」という既存のビジネスモデルをそのまま踏襲するだけでは、正直ここからの開業は厳しい戦いになるかもしれません。

だからこそ、これから独立される方には、常に「一歩先の未来」を読み、新しいテクノロジーや環境に適応した事務所のカタチを、最初から戦略的に描いてスタートしてほしいと思います。

そして何より大切なのは、公認会計士・税理士という資格の枠組みだけに自分を閉じ込めないことです。「もし自分にこの資格がなかったとしたら、目の前の経営者にどんな価値を提供できるだろうか」という問いを、常に自分に投げかけ続けてください。

周囲の情報に振り回されず、自分自身の譲れない軸である「自論」をしっかりと持ち、自問自答を繰り返しながら、自分を信じて突き進む力が大事だと思います。

取材協力:谷侑治会計事務所
代表:谷 侑治 様

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