コロナ禍でさらに加速するDX(デジタルトランスフォーメーション)。必要性は認識されているものの、何から取り組むべきか分からない事務所様も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、士業業界でもいち早くデジタル化に取り組むDX会計事務所・セブンセンスグループの取り組みをご紹介します。マネーフォワード クラウドでは、セブンセンスグループで実施されているDX事例を公開した全4回のセミナーを開催しました。
本記事は2回目のセミナー内容となっています。業務インフラの全体像やテレワークの実施に必要なツールや仕組み、コミュニケーションツールやグループウェアの運用、顧問先との便利な利用方法について、セブンセンス株式会社・山口 高志氏にお話いただきました。
- プロフィール
- 山口高志/セブンセンス株式会社 取締役・DX支援部部長
中小企業DX推進研究会 会長 - 2005年アイクスグループ(現 セブンセンスグループ)入社。システムありきではなく「運用すること」を重視し、現場にマッチした仕組みを提案・構築し、高い存在感を示している。シンクライアントシステム、ペーパーレスシステムなどのシステム構築と運用に携わるとともに、会計事務所のシステム導入サポート、コンサルティングも行っている。
本セミナーのアーカイブ動画は下記リンクから視聴できます。ご興味がございましたらお申し込みください。
DXのスタートはどこから?
近年、DXの推進が叫ばれていますが、まずはどこからスタートすればよいのでしょうか。
DXの第一段階は「デジタイゼーション」になります。これは、紙を電子化して業務効率を上げたり、人が行っていた業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することで自動化をしたりと、これまでアナログだった業務をデジタル化することです。
その次の段階として、デジタル技術を活用し、既存の業務フローやビジネスモデルに変革をもたらす「デジタライゼーション」が挙げられます。しかし、まずはデジタル化を進めることがDXを実現するためには最優先です。
会計事務所がDX事務所になるためのステップ
次に、会計事務所がDX化を行うためのステップについて解説していきます。
従来の会計事務所では、お客様から収集したデータを会計ソフトに蓄積し、試算表や決算書を作成することが主な業務でした。しかし、これからの時代は集めたデータを活用して新しい付加価値を提供する業務にシフトすることが求められます。そのため、デジタル化を駆使して、これまで8割の労力を割いていたデータ蓄積の作業を2割に削減し、逆に8割の労力を高付加価値な業務に充てていく必要があるでしょう。
そのためには、以下の5つのステップが必要となります。
今回は、「①DXの準備」「②紙のDX」「③パソコンのDX」の3つに絞って解説します。
①DXの準備
まず、DXの準備として、IT専任担当者を採用・育成して、デジタル化を進められる体制の構築が必要です。
どのようなIT担当者を採用すべきか
会計事務所におけるIT担当者の得意分野は、大きく以下の5つに分けることができます。
すべての分野をこなせる人材を採用するのはなかなか難しいため、いずれかの分野に強い人材を採用したうえで、それ以外の業務は外部に委託するのがよいでしょう。
その中で、DX化を目指す事務所が優先的に採用すべき人材はサポート業務を行うサポーターになります。パソコンが止まってしまったときや、ソフトのちょっとした使い方がわからないときにサポートしてくれるIT担当者がいると、問題をすぐに解決でき、業務が進めやすくなります。また、IT担当者としても、別の業界から採用された場合などは、まず会計業界を知るという意味で、サポート業務に携わることは有効だといえます。
IT担当者の採用・育成方法
IT担当者の採用方法は、社内からの登用と、IT業界からの転職採用の2パターンです。
まず社内からの登用するパターンは、これまで会計業務を行っていた社員の中からパソコンなどのITに明るい方を担当者とするケースです。ここで注意すべきなのは、既存の会計業務とIT担当者の業務を兼務させないことです。兼務となると、どうしても期日のある会計業務ばかり行ってしまい、DXの準備が進まなくってしまうからです。IT担当者として登用する場合は、既存の担当先を一切なくす対応が必要です。
次に、IT業界からの転職については、オンラインの求人媒体で採用するケースが多いです。IT業界は現在売り手市場のため、なかなか条件に合う人材を採用できないこともあります。その場合は、新卒に近い方や副業としてサポートいただける方を採用するのも一つの手です。
採用後の注意点としては、社内からの登用の場合と同じく、手が空いていそうでも会計業務をさせないことが大切になります。
別業界からの採用の場合は、実務が分かっている人とチームを組んで業務を行うとよいでしょう。また、システムの導入時期は他の人が働いていない時間に作業をする場合もあるので、柔軟な勤務体系が整っていると育成が進みやすいです。
IT担当者だけでなく、会社全体で業務改善を
もちろん、IT担当者を採用したからといって、すべてを任せてはいけません。経営者がビジョンや会社の方向性を提示したうえで、事業部門と協力しながら業務改善を進めていくように心がけましょう。
②紙のDX
次に、紙のDXについてです。
ペーパーレスではなく、ペーパーストックレス
ここでいう紙のDXとは、紙の保管を行わないペーパーストックレスを指しています。
よく聞くペーパーレスという言葉は、書類などをデジタル化してすべての業務から紙を排除することを指しますが、いきなり紙をなくすことは難しいでしょう。まずは必要に応じて紙の出力は行い、紙のままで保管はしないペーパーストックレスを目指しましょう。
紙のDXツール「DocuWorks」
ペーパーストックレスを行うためのツールとして、セブンセンスでは富士フイルムのDocuWorksを導入しています。
※DocuWorksは富士フイルムビジネスイノベーション株式会社の登録商標または商標です。
紙の書類をスキャナーでスキャンすると、専用ソフトで一括管理することができ、本人以外でも書類の検索が可能となります。
ツールを導入するときは、操作が煩雑になりそうだと思われがちなので、使う機能をなるべく絞り、以下の4つの操作だけ覚えてもらうようにしています。これにより、紙の書類と同じ感覚で、電子書類を扱うことが可能です。
さらに、以下の3種類の共有フォルダを用意することで、ほぼすべての紙作業のDX化が可能となります。
これらのポイントを押さえれば、紙のDX化は簡単に進めることができます。まだチャレンジできていない会計事務所様は、すぐにでも取り組んでいただきたいです。
③パソコンのDX
最後に、パソコンのDXについてです。
これまでは会社のパソコンを使用して業務を行うことが当たり前でしたが、クラウド技術を活用すると、会社以外でも業務を行うことが可能となります。
このパソコンのDX化には、SaaS型とシンクライアント型の2パターンがあります。
SaaS型は、ブラウザが使えるパソコンがあれば、どこからでもアクセスして作業できるというメリットがあります。一方、デメリットとしては、パソコンにデータが残ってしまう可能性があるため、セキュリティ上のリスクがある点が挙げられます。
シンクライアント型の場合は、会社のパソコンを持ち出さず、普段使っている自宅のパソコンに、遠隔操作で会社のパソコンの画面を表示します。物理的なパソコンは会社にあるため、データが漏洩するリスクを最小限にとどめることができます。また、クラウド化されていないソフトや、会社のパソコンでなければ扱うことができないソフトも操作することが可能です。
このシンクライアント型の業務環境を構築する際には、①テレワーク接続システム、②ワンタイムパスワード認証システム、③総合システム管理ツールの3つが必要です。
テレワーク接続システム
テレワーク接続システムでおすすめなのは、「シン・テレワークシステム」です。
難しいインフラを構築せず、簡易的に会社のパソコンをシンクライアント化できるツールで、コロナ禍においてはNTT東日本とIPAが緊急で無償開放をしています。また、「Wake on LAN」機能を使えば、会社のパソコンの電源を落としていても、使いたいときに遠隔で電源を入れることができるため、とても便利です。
ワンタイムパスワード
このシン・テレワークシステムは、IDとパスワードが分かっていると外部から簡単にアクセスが可能です。そのため、セキュリティを強化するためには、ワンタイムパスワードを設定することが有効です。
総合システム管理ツール
総合システム管理ツールは、「誰が」「いつ」「何を」操作していたかをアクセスログで管理するツールです。
税理士法のもとでテレワークを行うためには、「ログイン・ログオフ確認」と「業務記録確認」が最低限必要です。
これに対応するツールとしては、「みえるクラウドログ」がおすすめです。こちらも複雑なインストールが不要で、各パソコンにセットアップするだけでログを管理することができます。気になる方はホームページをご確認ください。
以上の3つを導入することで、簡単にパソコンのDX化を進めることができます。
顧客を巻き込んだDX
最後に、お客様との情報共有を、いかにDX化するかについてもご紹介します。
セブンセンスグループでは、情報共有DXツールとして、チャット型、Webデータベース型、グループウェア型の3種類のツールを、それぞれ社外用と社内用に分けています。
当然、利便性やDXの本質を考えれば、社外と社内でツールを分けるよりも、同じツールを使う方がメリットは大きいです。しかし、ライセンスを追加するコストや、セキュリティを考慮した上で、ツールを分けるようにしています。
今回は、チャット型ツールとWEBデータベース型ツールの活用事例についてご紹介します。
チャット型ツール
まずは、チャットツールについてです。
チャットツールには様々な種類がありますが、会社側で管理できるようなツールを導入するのが望ましいです。例えば、セブンセンスグループでは、LINEを使う場合も、LINEWORKSという企業向けのLINEを使用し、会社側で管理ができるようにしています。
チャットツールを運用する上でのポイントは以下の通りです。
このようなポイントを押さえてチャットツールを活用していくことで、どこでも情報共有ができる仕組みを構築できます。
WEBデータベース型ツール
次に、顧客情報や案件などを管理するWEBデータベース型ツールについてです。
セブンセンスグループは、社内でkintoneを使っていますが、お客様がkintoneを使っていない場合は、有料のライセンスを購入する必要があるため、社外ではplesanterの無料版を活用しています。お客様ごとにフォルダを作ったり、設定のカスタマイズが自由にできたりするため、お客様との業務状況の共有がとても便利に行えるプラットフォームとなっています。
社内用のツールと社外用のツールを必ず分ける必要はありませんが、コストやセキュリティを考慮して分ける運用もあるということを覚えておきましょう。
まとめ
以上、会計事務所がDX事務所になるために必要な業務インフラの作り方について解説しました。重要なポイントは以下の通りです。
- DXのスタートは、これまでアナログだった業務をデジタル化する「デジタイゼーション」。
- 会計事務所がDX事務所になるためのステップは、「①DXの準備」「②紙のDX」「③パソコンのDX」「④業務のDX」「⑤顧客先のDX」の5段階。
- DXの準備においては、IT専任担当者を採用・育成して、デジタル化を進める体制を構築することが重要。
- 紙のDXにおいては、「DocuWorks」などのツールを利用して紙の保管を行わないペーパーストックレスを目指す。
- パソコンのDXにおいては、クラウド技術を活用して会社以外でも業務を行えるようなシンクライアント型の環境を構築する必要がある。
- 顧客と情報共有を行うDXツールは、チャット型、Webデータベース型、グループウェア型の3種類を、それぞれ社外用と社内用に分ける運用がおすすめ。
また、本連載セミナーのPart1,3,4のアーカイブ動画は下記から視聴できます。ぜひ、お申し込みください。
よくある質問
DXをどこから始めればいいのか分かりません。
DXを実現するには、まずはデジタル化を進めることが最優先になります。デジタル化とは、紙を電子化して業務効率を上げたり、人が行っていた業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することで自動化をしたりと、これまでアナログだった業務をデジタルに移行することをいいます。
DXを実現するためのステップを教えてください。
会計事務所がDX事務所になるためのステップは、「①DXの準備」「②紙のDX」「③パソコンのDX」「④業務のDX」「⑤顧客先のDX」の5段階に分けられます。
DXを進める上でどのようなクラウドツールを使えばいいですか。
まず、パソコンのDX化には、SaaS型とシンクライアント型の2パターンがあります。
SaaS型は、ブラウザが使えるパソコンがあれば、どこからでもアクセスして作業できるというメリットがありますが、パソコンにデータが残ってしまう可能性があるため、セキュリティ上のリスクがある点というデメリットがあります。
シンクライアント型は、会社のパソコンを持ち出さず、普段使っている自宅のパソコンに、遠隔操作で会社のパソコンの画面を表示するというものです。物理的なパソコンは会社にあるため、データが漏洩するリスクを最小限にとどめることができます。