「税理士の仕事はAIに代替される」
近年のAIブームの中、このような意見が世間を騒がせたこともありました。しかし、2026年現在、仕事がなくなるどころか複雑化する税制改正により、会計事務所の業務量はむしろ増加したと感じる方も多いのではないでしょうか。
そんな状況で、ぜひ活用したいのがChatGPTやGeminiといった生成AIです。今や生成AIは、敵として怯える存在というより、使いこなすべき頼れる助手という位置付けが正しいでしょう。膨大なデータの整理やドラフト作成といった定型業務を任せれば、業務の効率化が図れます。
そこで本記事では、税理士業界におけるAI活用の現在地を整理した上で、今日から実務で使える具体的な「プロンプト(AIへの指示出し)」の事例をご紹介します。まずは身近な業務からAIを使ってみて、事務所の生産性を高めるきっかけにしていきましょう。
目次
税理士業界におけるAI活用の現在地
税理士業界において、「AI(人工知能)」という言葉はもはや未来の技術ではなく、日々の業務を支える実用的なツールとして定着しつつあります。しかし、一口にAIと言っても、現在普及しているものには大きく分けて2つの種類があり、それぞれ得意とする領域が異なります。
業界におけるAI活用の現在地を正確に把握するためには、この「識別系AI」と「生成系AI」の違いを理解することが出発点となります。
なぜ今、会計事務所にAIが必要なのか
多くの会計事務所がAI導入に興味をもちはじめた背景には、構造的な業務量の増加と人材不足という2つの深刻な課題があります。
インボイス制度や電子帳簿保存法の施行により、確認すべき証憑の種類やルールは複雑化し、実務における作業工数は確実に増加しました。その一方で、業界全体での人材不足は年々深刻化しており、「人を増やして対応する」という従来の手法だけでの解決は難しくなっています。
ここで重要なのは、AI導入の目的を単なる「時間短縮(効率化)」だけに置かないことです。
- 入力・集計などの「作業」:AIに任せる
- 判断・相談などの「付加価値業務」:人間が担う
このように役割分担を明確にし、限られた人的リソースを顧客との対話や経営判断の支援といった人間にしかできない業務へシフトさせることが、AI活用の真の目的と言えます。
「識別系AI」と「生成系AI」の決定的な違い
識別系AI(従来型):正解のある作業を高速化
「識別系AI」は、与えられたデータが何かを判断することに長けています。会計業界ではすでに広く普及しており、多くのクラウド会計ソフトに搭載されています。
- 主な機能: OCR(領収書・請求書の読み取り)、過去の仕訳履歴に基づいた勘定科目の推論。
- 得意領域: 「この画像の数字は何か?」「この取引先なら科目は何か?」といった、正解が存在するルーチンワークを人間よりも圧倒的に速く処理します。
生成系AI(ChatGPT等):正解のない創造を支援
「生成系AI」は、学習したデータを元に、新しい文章やコード、アイデアを作り出すことに長けています。
- 主な機能: 文章作成、要約、翻訳、プログラミングコードの生成、壁打ち(相談相手)。
- 得意領域: クライアントへの挨拶文作成や、複雑な情報の要約など、唯一の正解がなく、文脈に応じた柔軟性が求められるタスクをサポートします。
具体的な活用シーンと導入が進むツール分野
AIの導入は、単に業務を機械に置き換えるだけではありません。AIが得意な処理と、人間が得意な判断を組み合わせることで、業務全体の「精度」と「品質」を底上げする動きが加速しています。具体的に3つの領域でどのような変化が起きているかを見ていきましょう。
①記帳・入力業務:AI×人の協働で「精度」と「品質」を高める
この領域では、AIが下準備を行い、専門家である人間が最終判断を下すという「協働フロー」が標準になりつつあります。最新のOCR技術は、手書き文字や複雑な証憑も高精度で読み取り、自動でデータ化します。
しかし、重要なのは「読み取って終わり」ではない点です。AIが高速でデータ化したものを人間がチェックすることで、手入力による単純なタイプミス(桁間違いなど)のチェックを効率化し、正確な帳簿作成が可能になります。
また、AIは過去のデータを学習し、「この取引は交際費の可能性が高い」と推論・提案します。人間はこの提案に対し、「今回は特例的な処理が必要ではないか?」「税務リスクはないか?」という高度な判断に集中できます。AIが入力作業を担い、税理士が監査・判断に注力することで、計算書類の品質が向上します。
②顧客対応・コンサルティング補助:生成AIが「相棒」になる
対話や文章生成を得意とするChatGPTなどの生成AIは、対クライアント業務の質とスピードをサポートする「相棒」として定着し始めています。
例えば、「クライアントに角を立てずに資料を催促したい」といった心理的な配慮が必要なメール作成や、訪問時のメモを整理して日報化する作業をアシストします。さらに、税制改正情報などを、顧問先向けに噛み砕いて解説する際のたたき台作成にも役立ちます。その際、ハルシネーション(生成AIが事実と異なる内容を出力してしまう現象)には十分注意し、必ずご本人で一次情報を確認するようにしましょう。
③所内業務の効率化:ITスキルへの依存を減らす
バックオフィス業務においても、AIは強力なサポーターとなります。
例えば、「〇〇のような集計を自動化したい」と相談すれば、AIが適切なExcel関数やマクロのコードを生成してくれます。ITが苦手な職員でも、高度な業務効率化を実現できるようになります。さらに、 所内のマニュアルや過去の事例集をAIと連携させることで、「建設業の収益認識について、過去にどう処理した?」と質問するだけで、必要な情報を即座に引き出せるようになります。
このように、活用シーンは多岐にわたりますが、特に生成AI(ChatGPTやGemini)を使いこなすための鍵となるのが、AIへの「指示の出し方(プロンプト)」です。
「便利そうだが、具体的にどう命令すればいいか分からない」
そこで、明日からすぐに使える具体的な「プロンプト(指示書)」の実例をご紹介します。
【コピーして使える】税理士業務のための生成AIプロンプト実例
生成AI(ChatGPTやGemini)は、指示の出し方(プロンプト)ひとつで回答の精度が大きく変わります。ここでは、税理士業務ですぐに使える具体的なプロンプト実例を紹介します。これらをテンプレートとして保存し、日常業務で活用してみてください。
1. メール・コミュニケーション効率化
対クライアント業務で最も気を使うのが、資料回収の催促や、専門的な内容の解説です。AIを活用することで、失礼にならず、かつ分かりやすい文章を短時間で作成できます。
例えば、「資料を早く出してほしいが、関係性は悪くしたくない」という場面で有効な顧問先への催促メール を作成してみましょう。
# 命令書:
あなたは丁寧で親しみやすい税理士事務所の職員です。
以下の状況を踏まえて、顧問先の社長へ送る「資料提出のお願いメール」を作成してください。
# 状況:
・確定申告の期限が迫っている
・領収書と通帳のコピーがまだ届いていない
・相手は多忙な社長なので、事務的な冷たい印象を与えたくない
・「今週中にいただけないと間に合わない可能性がある」という危機感は伝えたいが、脅すような表現は避ける
# 制約事項:
・相手を気遣う挨拶から始める
・簡潔で読みやすい構成にする
このプロンプトをGeminiで入力してみると、次のような返答が返ってきました
件名:【重要】確定申告資料のご提出につきまして(〇〇税理士事務所)
[会社名]社長[社長のお名前]様
いつも大変お世話になっております。 〇〇税理士事務所の[あなたの名前]でございます。
お仕事、ますますお忙しくされていることと存じます。 寒暖差のある日が続いておりますが、体調など崩されておりませんでしょうか。
さて、本日は確定申告の準備に関しまして、ご連絡を差し上げました。
現在、当事務所にて[社長のお名前]様の申告書作成を進めるにあたり、以下の資料がまだ手元に揃っていない状況でございます。
【不足している資料】
領収書(〇月~〇月分)
通帳のコピー(記帳済みのもので、〇月~〇月分)
私どもといたしましても、社長様の税額を正確に計算し、少しでも有利な形で申告を完了させたいと考えております。
つきましては、大変心苦しいお願いとなりますが、精査・集計の時間を確保するため、**【今週中】**を目処に資料をご送付いただけませんでしょうか。
期限ギリギリになりますと、十分な内容確認ができず、結果として社長様にご不便をおかけしてしまう可能性がございます。 万全の体制で申告を行うためにも、何卒ご協力いただけますと幸いです。
郵送が難しい場合は、先にスマホのカメラで撮影して画像をお送りいただく形でも構いません。
ご多忙の折、事務的な手続きでお手数をおかけし大変恐縮ですが、何卒よろしくお願い申し上げます。
–
〇〇税理士事務所 担当:[あなたの名前] 電話:03-xxxx-xxxx メール:[email protected]
2. 情報整理・要約業務
議事録の要約やタスク抽出も、生成系AIの得意分野です。例えば、次のプロンプトで、クライアントとの面談中に取った雑多なメモから、決定事項とネクストアクションを整理できます。
# 命令書:
以下の「面談メモ」から、重要な決定事項と、今後やるべきタスク(Todo)を抽出して整理してください。
# 面談メモ:
[ここにメモを貼り付け]
(例:社長は節税に興味あり。役員報酬は来期月額50万で検討。資料は来週月曜までに郵送してくれるとのこと。こちらはシミュレーションを作成する必要あり。)
# 出力形式:
【決定事項】
・
【Todoリスト(期限)】
・
事務所通信やブログ記事、重要な提案書などの文章の校正も、数秒で実施してくれます。例えば、次のようなプロンプトで、誤字脱字チェックや、より洗練された表現への修正を依頼してみましょう。
# 命令書:
以下の文章を、プロのライターの視点で校正してください。
# チェック項目:
・誤字脱字の修正
・「てにをは」の修正
・より信頼感のある、プロフェッショナルな言い回しへの改善提案
# 対象の文章:
[ここに文章を貼り付け]
生成AIを使う際の注意点
生成AIは非常に強力なツールですが、会計事務所の実務で使い込際にはセキュリティ対策に十分注意をしましょう。
無料版のAIツールなどでは、入力したデータが学習に使われるリスクがあります。そのため、「A社の売上が〇〇円」「従業員のBさんのマイナンバー」といった顧客の固有情報や機密情報は絶対に入力してはいけません。 そのため、プロンプトに入力する際は、「A社」や「〇〇円」といった伏せ字に書き換えて対応すると良いでしょう。
参考:総務省|生成AIはじめの一歩~生成AIの入門的な使い方と注意点~
AIを助手として使いこなそう
本記事で解説したとおり、AIは競争相手というより、使いこなすべき優秀な助手としての性格が強いです。AIを業務に取り入れることで、本来の専門業務に集中できる環境が整います。
まずは、今回ご紹介したメール作成や文章校正などで利用していて、サービスの質を高めるきっかけにしましょう。紹介したプロンプトも、ぜひ活用してみてください。
また、独立・開業を検討している方は、ぜひこちらの記事も参考にしてみてください。
