7年間の監査法人勤務から独立へ 〜開業後に気づいた税務ならではの面白さとは?〜

公認会計士のキャリアにおいて、「独立」は魅力的な選択肢の一つです。しかし、そこには常に「監査業務の経験を税務実務にどのように繋げていくか?」という課題がつきまといます。

就職氷河期に事業会社で経理を経験し、その後、監査法人で7年というキャリアを積んだモノリス会計事務所の北島 征爾氏。
「新しいことに挑戦したい」と語る先生は、いかにして安定した監査法人のレールから外れ、自らの手でビジネスを切り開く道を選んだのか。

キャリアの変遷、そして会計士としての知識を「実務」に活かし、その面白さに気づくまでのプロセスについて、語っていただきました。

目次

1. 就職氷河期、事業会社経理からのスタート

まず初めに、北島先生のこれまでのご経歴について教えていただけますか?

北島 征爾様(以下、北島):
私のキャリアは少し特殊かもしれません。2010年に公認会計士試験に合格したのですが、当時は就職が非常に難しい時期でした。監査法人になかなか入れない時代で、私もまずは上場企業の経理部に就職しました。

そこで3年ほど、決算業務などの経理・財務の実務を一通り経験しました。その後、やはり「会計士資格を持ったからには、独占業務である監査を経験しないともったいない」と考え、監査法人へ転職。そこで7年ほど監査業務に従事した後、2021年に独立し、現在は4年目になります。

現在は、一般的な税理士業務を行う「モノリス会計事務所」と、公認会計士としての個人事務所を分けて運営しています。前者はスモールビジネスの記帳代行や申告業務、後者はコンサルティング業務といった形で、明確に棲み分けを行っています。

最初から監査法人ではなかったことが、今のキャリアに影響していますか?

北島:
そうですね。事業会社の中にいたことで、「監査を受ける側」の気持ちや、経理現場の動きを肌感覚として持てたことは、今の実務にも活きていると感じます。

2. 業務の習得と、次のステージへの渇望

監査法人には7年いらっしゃったとのことですが、これは平均と比べて長いのでしょうか?

北島:
平均よりは少し長いかもしれません。一般的には4年くらい、つまり修了考査を受けてシニアスタッフに上がり、一通りの業務ができるようになったタイミングで次のステップへ進む人が多い印象です。

なぜ、そのタイミングで次の道を選ぶ方が多いのでしょうか?

北島:
一言で言えば「業務習得の達成感」と「新しい刺激への欲求」だと思います。
4〜5年経験を積むと、監査の一連の流れが見え、自身のスキルとして定着してきます。そうなると、「もっと新しいことを学びたい」「違う環境で自分を試したい」という意欲が湧いてくる方が多いんですね。

また、監査業務は「独立性」を保ち、厳格にチェックを行うことが使命です。その役割上、クライアントとは一定の距離感を保つ必要があります。そうした中で、「もっと経営者に寄り添って、直接的なサポートがしたい」という想いが芽生えることも、転職や独立を考えるきっかけになることが多いようです。

北島先生ご自身はいかがでしたか?

北島:
私の場合、性格的に「同じことを続けるよりも、常に新しい変化の中に身を置きたい」というタイプなんです(笑)。
もちろん、監査法人側もキャリアの幅を広げるために、FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)や税理士法人へ出向できる制度など、新しい選択肢を用意してくれていました。私もその制度を活用させていただき、非常に良い経験を積めました。

ただ、最終的には組織の中でのキャリアチェンジ以上に、「自分の人生を自分でコントロールしたい」という思いが勝り、独立を決意しました。

独立の一番の決め手は何だったのでしょうか?

北島:
「自由」と「裁量」ですね。
ワークライフバランスも、付き合うお客様も、そして収入も自分で決められる。「自分が頑張れば頑張る分だけ返ってくる」という環境に魅力を感じました。これまでは流れに身を任せてきた部分もありましたが、最後は自分の意思で「自分の力で勝負したい」と思って飛び出しました。

とはいえ、収入面での不安はありませんでしたか?

北島:
そこは公認会計士ならではの特権ですが、「非常勤監査」というセーフティーネットがありますから、過度な不安はありませんでした。
ただ、依存しすぎると自分の事務所が回らなくなってしまうのでバランスが重要です。先輩から「年間100日を超えると事務所が回らなくなる」と聞いていたので、私は「年間80日程度」に抑え、「1年以内には非常勤に頼らず食べていけるようにする」と期限を決めていました。この「非常勤との距離感」を間違えないことが、早期に軌道に乗せるコツだと思います。

3. 本格的に取り組んで初めて気づいた「税務」の面白さ

公認会計士の中には「税務は監査とは畑が違う」とハードルを感じる方もいます。北島先生は抵抗はありませんでしたか?

北島:
私も最初は「税務をメインにしよう」と強く思っていたわけではありませんでした。
転機になったのは、先に独立していた監査法人時代の知人に誘われて、「相続税」の申告業務を手伝ったことです。これが非常に面白かった。

どのあたりに面白さを感じたのでしょうか?

北島:
「貢献の形の違い」だと思います。
監査が資本市場の信頼性を支える「社会インフラとしての貢献」だとすれば、税務は目の前の経営者や個人の悩みを解決する「ダイレクトな貢献」です。お客様との距離が近く、自分の提案が相手の喜びに直結する手触り感がありました。

また、相続税に関しては知識の「奥深さ」も魅力でした。会計士試験や監査実務で基礎知識は持っていましたが、実際に深く入り込んでみると、独特の評価基準や論点があり、知的好奇心を大いに刺激されました。
実際に主体者として取り組んでみると意外なほど奥が深く、お客様の人生に深く関われる仕事だと気づいたんです。

理論は分かっていても、実務の手続きには戸惑う部分もあったかと思います。どのように適応されたのですか?

北島:
おっしゃる通り、試験で「租税法」の理論は勉強していても、実務上の細かい手続きや申告書の書き方は別物です。
私はこのギャップを、「書籍」と「人(相談相手)」の2つを明確に使い分けて埋めていきました。
まず、法律や通達といった「明確なルール」については、書籍を大量に買い込みました。担当する案件に関連する本は手当たり次第に買い、税務通信なども購読してトレンドを追う。ここへの投資は惜しみませんでした。

本だけで解決できない部分は何でしたか?

北島:
そこが一番のポイントですね。「申告ソフトの操作性」や「実務上の判断の塩梅」などは、本には載っていません。
これについては、先に独立した知人や、税理士法人へ転職した元同僚など、5人くらいのネットワークに頼りました。「実務ではどう処理しているの?」とすぐに電話して聞いていましたね。

特に独立初期は、「本に書いていない実務の慣習」で迷うことが多い。
また、大企業のように経理部が整っているわけではない中小企業のお客様の場合、資料を一から整理させていただくところから始まることもあります。そうした環境の違いへの適応も含めて、相談できる先輩や仲間を一人二人作っておくことが、独立を成功させるための必須条件だと思います。

4. あえてオフィスを借り、借金をする。「覚悟」を決めるための初期投資

開業時、「一人事務所」としてどのような運営スタイルを目指していましたか?

北島:
最初から人を雇う余裕はありませんでしたから、徹底的な「効率化」を目指しました。
クラウド会計ソフトはもちろん、記帳代行を自動化するSTREAMED(ストリームド)などのITツールをフル活用し、一人でも多くの案件を回せる体制を整えました。

自宅開業ではなく、オフィスを借りられたそうですね。

北島:
はい。多くの人が自宅開業からスタートする中で、私はあえて事務所を借りました。
理由は2つあります。一つは「仕事に集中するため」。自宅だとどうしても切り替えが難しいタイプなので、物理的に環境を分けました。
もう一つは「お客様を呼べる場所を作るため」です。自分が訪問するだけでなく、来客対応ができる箱があることは、信頼感にも繋がります。

資金面での不安はありませんでしたか?

北島:
日本政策金融公庫から500万円ほど借入を行いました。
初期投資がかからないのがこの仕事の良さではありますが、事務所の敷金やソフト代など、それなりの出費はあります。手元資金に余裕を持たせておくことで、精神的な安定を得たかったというのもありますね。

5. 紹介会社、Web広告…集客の試行錯誤

顧客ゼロからのスタートで、最初の1件はどう獲得したのですか?

北島:
最初はやはり「知人からの紹介」です。前職の繋がりや、独立したことを伝えた知人から数件お仕事をいただきました。
ただ、それが一巡すると、ピタッと仕事がなくなる瞬間が来るんです。「あれ?仕事ないぞ?」と(笑)。そこから最初の1〜2ヶ月は確かに苦労しました。

そこからどうやって案件を増やしていったのでしょうか?

北島:
まず利用したのが「税理士紹介会社」です。マネーフォワードなどの会計ソフトベンダーの紹介制度を使ったり、他士業や生命保険会社の方からの紹介など、当時はあらゆる手段を試しました。
紹介会社を利用されるお客様は、複数の事務所と比較検討されることが多いので、どうしても判断基準の一つとして「価格」が重視されやすい傾向にはあります。
付加価値を提供したいと考えても、最初は条件面での比較になってしまう。ですので、立ち上げ期の「実績を作る時期」には非常にありがたい存在ですが、事務所の強みを活かして単価を上げていきたいフェーズでは、別の戦略が必要になると感じました。

Web広告も出されたと伺いましたが、何か特別なノウハウをお持ちだったのですか?

北島:
いえ、正直に言うと広告のノウハウなんて全くありませんでした(笑)。 多額の予算を投じたわけでもなく、ちょこちょこと試した程度です。Webサイトも作りましたが、これも「集客マシーン」というよりは、「紹介を受けた人が検索した時の名刺代わり」という意味合いが強かったですね。

ただ、立地には助けられました。私の事務所は兵庫県の西宮にあるのですが、大阪や神戸といった激戦区に比べると、このエリアはまだ競合が比較的緩やかでした。近隣の方が「近くの税理士」と検索してWebサイト経由で来てくれるケースもあり、これは地味ながら効果的でした。

様々な施策を通じて集客において大事なポイントはなんだったのでしょうか?

北島:
結局のところ、「仕事は人から来る」ということです。士業の交流会や、保険会社の方、他士業の方など、とにかく「いろんな人に会う」ことを続けました。
そうやって顔を売って人と会っていると、不思議となんだかんだで仕事をいただける機会が増えるんです。 そして、ある程度の規模になると、今度はお客様がそのご家族や知人を紹介してくださるようになります。こちらから必死に売り込まなくても、事務所が「有機的に育っていく」感覚ですね。

既存のお客様からの紹介が増えるのは理想的ですね。

北島:
そうですね。なぜなら、顧問税理士というのは経営者にとって「一番先に相談される相手」だからです。 日々の税務だけでなく、資金繰りの悩みや事業承継の相談など、経営の悩みを一番に打ち明けられる。そこでしっかりと耳を傾け、サポートをすることで信頼が生まれ、自然と次の紹介へと繋がっていくのだと思います。

6. 「公認会計士」の肩書きは集客の武器になるか?

集客の際、「公認会計士」という肩書きは武器になりますか?

北島:
集客の入り口においては、「公認会計士だから」という理由だけで選ばれることは少ないかもしれません。
中小企業の経営者様からすれば、求めているのは「税務のプロ」ですから、まずは税理士としての信頼をお伝えすることが大切です。「公認会計士」という言葉が、逆に「料金が高そう」「専門外では?」といったハードルにならないよう、丁寧な説明を心がけています。

では、会計士としてのスキルはどこで活きるのでしょうか?

北島:
契約した後の「出口戦略」や「企業の成長フェーズ」で大いに活きます。
例えば、顧問先がM&Aで会社を買収したいとなった時の「財務デューデリジェンス(買収監査)」です。これは公認会計士が最も得意とする業務で、お客様にとっても大きな安心材料になります。
また、IPO(新規上場)を目指す企業や、M&Aで拡大したい企業に対しては、会計士ならではの知見が強力な武器になります。

まずは「税務」という入り口から信頼を得て、企業が成長して高度なニーズが出てきた時に、「実はそれも私ができますよ」と提案する。これができると、他との強力な差別化になります。

7. 独立を目指す人へのアドバイス:「横のつながり」を作ること

最後に、これから独立を目指す公認会計士の方へアドバイスをお願いします。

北島:
独立準備として一番やっておくべきことは、「相談できる仲間を作っておくこと」です。
技術的なこと、集客のこと、経営のこと。一人で悩んでいても答えは出ません。

士業の世界は横のつながりが非常に大切です。監査法人にいるうちから、先に独立した先輩や、同じように独立を目指す同僚と積極的に交流を持っておくと将来に繋がります。
私の場合は、監査法人時代の繋がりがそのまま初期の仕事や技術相談の相手になりました。
「プラチナ会計士Village」のようなコミュニティを活用するのも良いでしょう。とにかく、一人にならず、情報を共有できる仲間を見つけてください。挑戦を応援しています。


独立開業前後の方の公認会計士コミュニティ「プラチナ会計士Village」
https://platinum.biz/

取材協力:モノリス会計事務所
代表 公認会計士・税理士 北島 征爾様

2010年公認会計士試験合格。上場企業経理を経て監査法人へ転職し、7年間監査業務や会計アドバイザリー業務に従事。2021年に「新しい挑戦」を求めて独立。
知人会計士と協同受任した相続税申告をきっかけに税務の面白さに開眼。現在は税理士業務を中心に、財務コンサルティングなど会計士ならではのサービスも提供。
「相談できる仲間を作ることが何より大切」と考え、同業者や他士業とのつながりを大事にしている

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