• 更新日 : 2023年10月31日

簡易課税は事業区分で決まる!節税対策として知っておきたい基礎知識

簡易課税は事業区分で決まる!節税対策として知っておきたい基礎知識

インボイス制度に登録した事業者は「原則(一般)課税方式」での納税が原則ですが、「簡易課税方式」という税額の計算方法もあります。加えて、当面の間は「2割特例」と呼ばれる経過措置も適用できます。どちらも事務処理の負担を軽減でき、事業区分によっては節税につながる可能性もある方法です。

消費税の納税にかかわる負担を減らすための選択肢を知っておきましょう。

簡易課税方式とは

消費税を計算する基本的な方法は原則(一般)課税方式です。売上にかかる消費税(売上税額)から仕入にかかる消費税(仕入税額)をマイナスして計算します。仕入税額をマイナスするためには、仕入先の発行したインボイスが必要です。

一方、簡易課税方式とは、「みなし仕入率」と売上税額を用いて計算した金額を仕入税額として計算します。実際の仕入税額は計算に使わないため、仕入先が発行したインボイスは不要です。そのため、仕入先がインボイス制度に対応していなくても、仕入税額を売上税額からマイナスできます。加えて、インボイスの保存や実際の仕入税額の計算も不要であるため、事務作業にかかる負担も軽減できるでしょう。

簡易課税方式は、決められた期間の課税売上高が5,000万円を超えない中小事業者のみが対象となります。

インボイス制度や仕入税額控除については、下記記事で詳しく解説しています。

事業区分ごとの「みなし仕入率」を用いて計算する方法

簡易課税方式における消費税の計算式は以下の通りです。

納税額 =(売上にかかる消費税額)ー(売上にかかる消費税額 × みなし仕入率)

たとえば、みなし仕入率が90%であれば、売上にかかった消費税額の10%を消費税として納税することになります。

みなし仕入率とは?

みなし仕入率とは「この業種ではこの程度の費用が必要だろう」といった考えに基づいて定められた控除割合を意味します。

事業区分によって、みなし仕入率は大きく異なります。自社がどの事業区分に該当するかを確認しましょう。

簡易課税方式の事業区分について

簡易課税方式における事業区分は、第1種から第6種までがあります。売上税額に、事業区分に応じたみなし仕入率をかけて仕入税額を計算します。

それぞれの事業の内容とみなし仕入率は以下の通りです。

■第1種事業 みなし仕入率:90%
卸売業(他者から購入した商品をその性質や形状を変更せずに他の事業者に販売する事業)

■第2種事業 みなし仕入率:80%
小売業(他者から購入した商品をその性質や形状を変更せずに消費者に販売する事業(製造小売業を除く)

■第3種事業 みなし仕入率: 70%
農業や林業をはじめ、漁業、建設業、鉱業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業や水道業

■第4種事業 みなし仕入率: 60%
第1種から第3種事業と第5種及び第6種事業のいずれにも当てはまらない事業(例:飲食店業など)

■第5種事業 みなし仕入率: 50%
金融・保険業、運輸・通信業、サービス業(飲食店業は除く)

■第6種事業 みなし仕入率:40%
不動産業

上記のみなし仕入率を適用し、売上税額から売上税額にみなし仕入率をかけた額をマイナスすることで、納付すべき消費税額が算出できます。このように、実際の課税仕入額に関係なく、課税売上高さえわかっていれば納めるべき消費税額の計算が可能です。

事業区分の判定の流れとは?

みなし税率を左右する事業区分は、主に以下のフローチャートを進めることで判定できます。

  • 商品の譲渡か?
  • 他者から購入した商品か?
  • 購入した商品の性質や形状を変更したか?
  • 販売先は事業者か?
  • 事業のために供していた建物や車両などの固定資産の譲渡か?
  • 飲食サービス業に該当するか?
  • 加工賃やこれに分類される料金を対価とする役務を提供する事業に該当するか?
  • 日本標準産業分類の大分類が農業や林業など、指定された業種に該当するか?
  • 日本標準産業分類の大分類が情報通信業や運輸業など、指定された業種に該当するか?

簡易課税の事業区分について(フローチャート)

参照:簡易課税の事業区分について(フローチャート)|消費税目次一覧|国税庁

上記で自社に当てはまる事業区分を判定し、適用できるみなし仕入率を利用して仕入税額を計算します。

正確な納税額を算出するためには、自社がどの事業区分に該当するのかをしっかりと理解しておくことが重要です。事業区分の判定については、国税庁タックスアンサーも活用できますので、参照してみてください。

具体的な計算方法

簡易課税方式ではどのように消費税額を計算するのか、具体的な例を挙げて見てみましょう。

【例1】

  • 野菜や果物を販売するA商店
  • 課税対象の売上高1000万円、売上税額100万円

A商店は仕入れた野菜や果物を加工せずに消費者へ販売するため、小売業といえます。6つの区分では第2種事業に該当するため、みなし仕入率は80%です。売上税額とみなし仕入率を用いて以下のように納税額を算出します。

100万円 ―(100万円 × 80%)= 20万円

【例2】

  • 物件の売買や賃貸を仲介するB不動産
  • 課税対象の売上高3000万円、売上税額300万円

B不動産は第6種事業に該当するため、みなし仕入率は40%です。売上税額とみなし仕入率を用いて以下のように納税額を算出します。

300万円 ―(300万円 × 40%)= 180万円

事前の手続きが必要

簡易課税方式を選択する場合は、税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません。基本的には簡易課税をしようとする期が始まるまでの提出が必要ですが2023年10月1日~2029年9月30日の間なら経過措置があり、適用する期が始まってからの提出でもよいことになっています。

「2割特例」についても知っておこう

消費税の計算方法には「2割特例」というものもあります。正式には「小規模事業者に係る税額控除に関する軽減措置」といいます。一定の規模までの事業者は、消費税の納税額を売上税額の2割にできる方法です。

簡易課税方式とは異なり、期間の決まっている経過措置の一つです。2023年10月1日から2026年9月30日の間のみ適用できます。小規模事業者の納税や事務処理にかかる負担の軽減につながるでしょう。

課税売上高にかかる消費税の2割で納税額を計算する方法

2割特例も簡易課税と同様に、売上税額から納税額を計算します。そのため、仕入先がインボイスを発行しなくても計算できる方法です。

納税額は以下の計算式で算出できます。

納税額 = 売上税額 - (売上税額 × 80%)

手続きは不要だが適用条件がある

2割特例は事前の手続きは不要であり、確定申告書に2割特例を適用する旨を記載しておけば適用できます。簡易課税のように事業区分がないため、事務処理の負担がさらに軽減されるでしょう。

ただし、主に適用できるのはインボイス制度への登録によって課税事業者となった事業者のうち、特定の期間の売上高が1000万円以下の小規模な事業者です。以下の資料を参考に、自社が2割特例の対象となるか確認しておきましょう。

参照:適格請求書等保存方式の概要ーインボイス制度の理解のためにー

簡易課税方式を選択していても2割特例が使える場合も

原則(一般)課税方式と簡易課税方式のどちらを選択している場合でも、適用条件を満たしていれば2割特例が使えます。主な条件は売上高が1000万円以下であることです。売上高が1000万円を超えた期には簡易課税・原則課税で納税し、超えなかった期は2割特例を使うという風に、売上高に合わせて適用できます。

簡易課税と2割特例どちらがお得?

簡易課税方式と2割特例はそれぞれに適用条件があるため、好きな方を選べる訳ではありません。簡易課税の場合は、事業区分ごとのみなし仕入率の違いが大きく、単純に比べられるものではないことを理解しておきましょう。

自社が利用できる方法を明確にしたうえで、選択肢が複数ある場合は納税額の試算を行うことで節税できる可能性はあります。そのためには、原則(一般)課税方式と簡易課税方式、経過措置である2割特例のそれぞれについて知っておくことが大切です。

簡易課税は事業区分によって納税額が大きく変わる

簡易課税方式を選択する場合は、自社がどの事業区分に該当するかをしっかりと確認しましょう。みなし仕入率は40%から90%と幅広いため、売上高が同じでも事業区分によって納税額が大きく変わります。簡易課税方式と2割特例の両方の対象となる場合も、試算をするうえでみなし仕入率は重要なポイントであるため、自社の事業区分は確実に把握しておきましょう。


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