「社内交渉が上手い」と言われるようになる!経理担当者のためのアサーティブコミュニケーション

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経理・管理部門にとって、社内コミュニケーションを円滑に行い、効率的に業務を遂行することは大事なミッション。今回は、その一つのコツについて、「アサーティブ」なコミュニケーションという視点を教えてもらいました。言うべきことをきちんと言い、しかも摩擦を起こさないようにする技術です。

アサーティブなコミュニケーションとは

社内でもつらいポジションになりがちな管理部門。中でも経理部のマネジャーである皆さんは、押しの強い営業社員とのやり取り、社長からの“効率化”という名の無理難題、他部門との新システム導入に向けての調整、自分の部署では若手の指導や上司との交渉など、360度の人間関係の中で悩むことも多いのではないでしょうか。とりわけ、経理担当者は真面目な人が多く、意見や価値観の異なる社員との人間関係で、言いづらいことをどう伝えたら良いのかと悩み、一人ストレスを抱えることがあるのではないかと思います。

専門性の高い管理部門の一員として、主張すべきだとわかっていても、言いすぎては角が立つし、反対に気持ちを飲み込んでいてはストレスを抱えることになります。人間関係を良好に保ちながらも、スムーズに業務を進めるために周囲と上手にコミュニケーションを取るには、どのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。

以下にご紹介する「アサーティブ」の考えは、日本語に訳すと「主張的」となります。定義をすれば、「相手の言い分や価値観を尊重しつつも、自分の要望や意見を適切に表現するコミュニケーションの考え方とスキル」となります。日々の業務や対人関係のコミュニケーションでストレスをためないヒントを、具体的なケースを想定しながら解説したいと思います。

【事例1】経費精算でのミスが多発している営業部門

Aさんが管轄する営業部門は、他部門と比べても経費精算における申請ミスが目立ちがちです。毎月、「×日までに提出をお願いします」と声をかける際、ミスしやすい点についての注意を呼びかけるようにしているのですが、ミスの件数は一向に減る気配がありません。以前一度、「Aさん、部門メンバーの申請内容について、しっかりとチェックをしてください!」と伝えたところ、「こっちだって忙しいんだから、そっちでやってくれてもいいだろ!」と反論されてしまいました。その後、Aさんとの関係がギクシャクするようになっています。あなたとすれば、営業部門の申請ミスを減らしてもらいたいのですが、どう伝えればよいのでしょうか。

このような場面で、あなたはどのような対応になりがちでしょうか。

「そもそも、Aさんがチェックを怠っているのが問題です」と、正論で反撃するのは「攻撃型」です。売られたケンカは買う、正論で相手に勝とうとしてしまい、人間関係を悪化させてしまうパターンです。その結果関係がギクシャクし、信頼関係はなかなか築けません。

反対に「仕方がない…Aさんも忙しいんだから、自分がフォローするしかない」と、言葉を飲み込んで我慢するのは「受身型」です。対立を避けようとするあまりに、自分がストレスを抱えてしまうパターンです。結局問題は解決せず、ストレスばかりが溜まります。

もう一つは、嫌みを言って本人に気づかせる「作為型」です。本人に聞こえるように、「特に営業部門はミスが多くて…、ホント困りますよね~」と周囲に文句を言って気づいてもらおうとします。相手は嫌な気持ちになり、結局のところ関係は悪化していきます。

このように、対立する場面で私たちは、相手を攻撃したり、受身になって言葉を飲み込んだり、嫌みを言って溜飲を下げようとしてしまいます。しかし結局は、こちらの本当の要望を正しく理解してもらうことができないままです。

アサーティブであればどうでしょうか。

相手を攻撃することも自分が黙ることもしません。相手の立場や言い分を理解し、尊重しながらも、自分の主張はしっかりと伝え、問題解決につなげていこうという姿勢です。具体的にどのようなことに気をつければよいのか、次に見ていきましょう。

お願いする時は、3点に絞る

アサーティブに自分の要望を伝えるためには、伝えたいことを3つに整理して始めると話しやすくなります。
 ① 起きている状況と、具体的な問題点を説明する
 ② 自分の気持ちを誠実に話す
 ③ 具体的な要望を一つだけお願いする

①起きている状況を客観的に伝え、問題点を説明する

「Aさんが管轄する営業部門は常にミスが多い」と相手を非難するように話を始めると、相手は一方的に責められたと感じて、反撃してきます。話す時には、まず、自分が今の状況をどのように見ているのか、起きている問題は何なのか、落ち着いて具体的、かつ客観的に説明をするところから始めます。

「Aさんが管轄する営業部門の申請ミス件数ですが、ここ数か月で10%ほど増えています。申請ミスのタイプと誤った申請者を出した方の一覧です。特に●さんのミスが非常に多くなってきているいるようです」
「その結果、経理部門でのチェック作業に時間がかかり、月末の残業が増えてしまっているのです」

②自分の感情を誠実に話す

次に、その状況に関しての自分の気持ちをシンプルに言葉にします。感情的になることではなく、自分がどのように感じているのかを誠実に言語化するのです。

「このようなリスクが続いていることは、やはりまずいと思います」
「自分も正直、とても困っています」

相手を説得してやろうというスタンスではなく、自分の状況を適切に説明することでこちらの状況を正しく理解してもらい、問題を共有するために伝えます。感情を言葉にするということは、その意味で、お互いの納得を引き出すための近道となるのです。

③具体的な要望を一つだけお願いする

その上で、相手にお願いしたいことを具体的に伝えます。お願いは、「1回に1つ」だけにしてください。不満をぶつけるのでも、非を認めさせようとするのでもなく、相手に協力をお願いしたいというスタンスで伝えることがポイントです。

「今後は、私も提出しやすい書類にしたり、取りに来るなど工夫をしますので、是非とも期限内に出るようご協力をお願いします」と、率直に要望を伝えます。

「あなたがやるべきだ」と押し通すのでも、「忙しいのに申し訳ありません…」と必要以上に卑屈になるのでもなく、誠実に対等に自分の要求を言葉にします。アサーティブの第一歩はここから始まります。

【事例2】他部門の上司に協力を仰ぎたい

あなたは社長から経費削減を命じられたのですが、セールス部門の部長であるBさんがなかなか協力してくれません。「そんなの、こっちには関係ないよ」というスタンスなので、困っています。どう伝えたら良いのでしょうか。

前述の3つのポイント(事実を説明する、気持ちを話す、要望を伝える)に加えて、アサーティブに主張する際に、気をつけるポイントがあります。

④相手の事情を丁寧に聞いて理解する

自分の主張をする前に、相手の事情を丁寧に聞き出しましょう。相手には相手の理由があるはずです。最初から「やらないあなたが悪い」にならないように。相手の言い分に真摯に耳を傾けます。

「Bさんの部門で経費削減が難しい理由があるのであれば、ぜひお聞かせ願えますか」

例えば「うちの部門では、大口のお客様が複数とれそうなので交際費はかさむが、売り上げにもしっかり貢献しているため、経費削減を行う理由が分からない」であるならば、次の話し合いには業務を行う根拠となる資料を準備することができます。

⑤自分の責任(非)も認める

経費削減に取り組もうとしないB部長だけが悪いのではありません。こちら側にも責任があります。経費削減をおこなう理由について説明が足りなかったかもしれませんし、セールス部門にどのような協力をお願いしたいのか明確にしないまま、「お願いします」としか言ってこなかったのかもしれません。問題の責任は、自分と相手と50%ずつ。そう考えて、自分の側の責任を認めた言葉を話し合いに加えます。

「経費削減の重要性について、B部長に十分お伝えしていなかったかもしれません」
「私の説明も不十分だったかもしれません。申し訳ありませんでした」

コミュニケーション上の自分の責任を認め、誠実に表現すると、双方が対等で率直な話し合いを進めやすくなるのです。

⑥話はさわやかに終了させる

言いづらいことであればあるほど、話は重くなりがちです。しっかり自分の主張をしたら、あとは相手に検討をお願いして、話をさわやかに切り上げてください。いつまでも、「お願いします、お願いします」と粘るのではなく、率直に事情と要望を伝えたら、肯定的に終わらせて話を終了させるのです。

「…と言うことですので、恐れ入りますが一度ご検討をお願いできればと思います」
「一度部内で〇〇についての検討をいただけますでしょうか。来週、もう一度私の方からお話をお伺いしに参ります。ぜひ、よろしくお願いします」

相手と誠実に向き合って、率直に、対等に、自分の要望を伝えること。問題を明確にしたうえで、相手と協力して具体的な方法を探っていくようにしてみると、コミュニケーションで改善できることも見えてくるかもしれません。

相手の立場も理解しながら、丁寧に話し合いを進めていくこと。アサーティブなコミュニケーションのヒントを意識しながら、業務の中でぜひ試してみていただければと思います。

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