プロ野球選手の契約金は「税金が安い」 ”契約金1億円選手”の納税額を試算してみた

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10月25日のプロ野球ドラフト会議において、2018年最大の注目だった根尾 昂選手(大阪桐蔭)は4球団が1位指名し、中日が交渉権を獲得しました。

同じく注目の小園 海斗選手(報徳学園)も4球団が競合し、広島が交渉権を獲得。藤原 恭大選手(大阪桐蔭)は千葉ロッテに、吉田 輝星選手(金足農)は日本ハムに指名され、高校球児や大学生選手、社会人選手とも悲喜こもごもの一日でしたね。

指名された選手の契約金がマスコミをにぎわしていますが、税金はどのようになっているのでしょう。(執筆者:公認会計士・税理士 國井隆)

プロ野球選手の契約金は「税金が安い」

日本の税法では、プロ野球選手の契約金を「臨時所得」と考えています。具体的には、所得税法施行令第8条の臨時所得についての項目で、下記のように定められています。

<所得税法施行令第8条 臨時所得の範囲>

職業野球の選手その他一定の者に専属して役務の提供をする者が、三年以上の期間、当該一定の者のために役務を提供し、又はそれ以外の者のために役務を提供しないことを約することにより一時に受ける契約金で、その金額がその契約による役務の提供に対する報酬の年額の二倍に相当する金額以上であるものに係る所得

 

臨時所得は、特別な理由によって一時的に得た所得です。なので通常の累進構造の税率を適用すると高くなってしまいます。そのような税負担を減らすために、平均課税という考え方を用いて配慮がなされており、税金が安くなっているのですね。

注目選手の納税額を試算してみた

根尾選手や吉田選手など、ドラフト会議で注目を浴びた指名選手の契約金は1億円とも報道されていますね。そのような選手にかかる税金は具体的にいくらになるのでしょうか。

臨時所得の平均課税は、ざっくり言ってしまえば、一度にもらう契約金を5年間で分割して受け取ったとみなして税金計算をするものです。具体的な計算は、かなり複雑なので簡略して説明しますが、仮に契約金1億円で年俸が800万円で考えてみましょう。

通常の計算であれば所得税は最高税率(45%)されますので、1億800万円の収入だと、必要経費や控除関係を簡略して考えると、所得税は4,454万円になります。

しかし、契約金1億円は「臨時所得」でしたね。

平均課税を適用して計算すると所得税は3,211万円となり、1,000万円以上税額が安くなっていることになります。どういうカラクリかというと、日本の所得税は累進構造なので、5年間で分割してもらったと考えると適用される税率が下がることになるのです。

ちなみに、契約金は5年間で分割して考えますが、これにかかる納税は一括で行います。今回のドラフトに関する契約金は2019年分ですので、確定申告は2020年3月の確定申告になりますね。

<計算のしくみ>契約金1億円、年俸800万円で計算した場合(※仮定の数字です)

収入の合計108,000,000円から基礎控除380,000円(他の控除項目、必要経費は簡便計算のため省略)を差引したら107,620,000円。そのうちの契約金100,000,000円を5年間で分割し、初年度に27,620,000円をもらったと考えます。

107,620,000-100,000,000×4/5=27,620,000円

この金額の税額を計算すると8,252,000円(イ)になります。
この場合の税率は、8,252,000÷27,620,000円×100=29%(小数点以下切捨)となります。

残りの4年分の80,000,000円についても、この税率(29%)を適用し、23,200,000円(ロ)となります。

(イ)と(ロ)の合計すると、所得税は31,452,000円になります。
復興特別所得税(2.1%)加えると、最終的な所得税額は32,112,400円です。

1年契約なのに、なぜ「3年以上の契約」が要件の臨時所得に当てはまる?

プロ野球選手会のホームページにある統一契約書をみると、概ね1年契約となっています。

新入団選手も通常1年の契約を締結しますが、先ほど説明した通り、所得税法施行令では臨時所得は3年以上の契約に適用されることになっています。このあたりはどのように考えるのでしょうか?

日本のプロ野球はフリーエージェント規約(以下「FA規約」)を定め、例えば高校生からプロ野球選手になった者であれば145日以上登録したシーズンが8シーズンないと、他の球団への移籍の自由は認められないことになっています。このことは、実質的には3年以上の契約と同様と考えられるからだと思います。

職業選択の自由…ドラフト会議は憲法違反という声も

ドラフトの時期になると、そもそもドラフト制度が日本国憲法第22条に定める「職業選択の自由」に違反しているのではないかという議論がおきますね。

確かに、一般学生で置き換えると就職の面接試験さえ受けさせてもらえない状況はかわいそうだと思う方も少なからずいるでしょう。

しかしながら、ドラフト制度自体が憲法違反として争われた裁判はなく、法律の専門家の間でも日本のプロ野球という興行コンテンツを魅力あるものにしておくために、戦力の均衡化を図る目的で行われるドラフト会議は「著しく不合理とまでは言えない」という見解が支配的なようですね。

また、プロ野球選手になるためには、NPB(一般社団法人日本野球機構)が実施するドラフト制度を利用しなければならず、このことが私的独占または不当な権利制限を規定した「独占禁止法」に抵触するのではないかという議論も時々おきますね。

実際に米国では、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の選手が、ドラフト制度が反トラスト法(日本における独占禁止法に相当)に違反するとして裁判になったことがあります。

ドラフト制度も指名入札、ウェイバー方式、逆指名制度、自由獲得枠など、様々な方法を検討しつつ実施されていた経緯があります。一プロ野球ファンとしては、選手の希望とプロ野球全体の発展の両方のバランスをとりながら制度の改革を進めて欲しいと願っています。

指名選手が「正式なプロ野球選手」になる時期

ところで、統一契約書のスタイルをみると、2月1日から11月30日までの期間の契約になっていますから、今回指名された選手は、正式には翌年の2月1日から晴れてプロ野球選手になることになります。2月1日は各球団のキャンプイン初日になっていますので、プロ野球選手によっての正月は2月1日だと言われる所以ですね。

ちなみに、サッカーの場合は翌年1月31日までになっています。これは野球の日本シリーズが11月までには終了するのに対し、サッカーの場合には、元日に天皇杯の決勝が行われるため1月31日までの契約になっているのだと思います。

今回、意中の球団に指名された選手、そうでなかった選手も、厳しい世界ですが是非活躍してほしいと願っています。

【参考】
■日本プロ野球選手会 公式ホームページ 統一契約書
http://jpbpa.net/system/contract.html
■日本サッカー協会選手契約書〔プロA契約書〕
https://www.jfa.jp/documents/pdf/basic/06/01.pdf

國井隆会計士の記事一覧

■2018年9月26日掲載:
大坂なおみ選手の活躍で知りたい、日本とは全然違う「アメリカ・ファーストな税金事情」
■2018年8月22日掲載:
〇億円超えは当たり前!? すごい収益力「夏の甲子園」の税事情に迫る
■2018年7月23日掲載:
FIFAの商業主義もハンパない? W杯試合で「レッドブル」飲み罰金

執筆:國井隆(公認会計士/税理士/行政書士/公認システム監査人/FP)

税理士法人オフィス921代表社員/一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構理事
1965年生まれ、東京都出身。筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻前期博士課程修了。1988年に早稲田大学卒業後、旅行会社勤務を経て、1991年に公認会計士2次試験合格。同年に青山監査法人/プライスウォーターハウス入所。1996年に公認会計士・税理士國井事務所設立及び株式会社オフィス921設立。
スポーツ関係では、公益財団法人日本オリンピック委員会加盟団体審査委員会調査チームメンバー(2012年)、 公益財団法人日本スポーツ仲裁機構「スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議」委員(2014年~2015年)、新国立競技場整備計画経緯検証委員会(第三者委員会)委員などを歴任し、メジャーリーガー、ブンデスリーガなどはじめ数多くのプロスポーツ選手の税務・ファイナンシャルプランニングを担当している。



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