大坂なおみ選手の活躍で知りたい、日本とは全然違う「アメリカ・ファーストな税金事情」

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2018年9月の全米オープンテニスにおいて、日本人初のグランドスラムを達成した大坂なおみ選手。日本への凱旋帰国後のトーナメントでも大活躍ですが、税金はどのようになっているのでしょう。(執筆者:公認会計士・税理士 國井隆)

大坂選手の練習拠点のフロリダは税金が安い?

大坂なおみ選手は米国フロリダ州ボカラトンのエバートテニスアカデミーを拠点としていることで有名ですね。

ここは往年の名女子テニスプレーヤーのクリス・エバートさんが経営しており、全米オープン表彰式で見せたエバートさんから大坂選手への「お辞儀」は、かつてのアイス・ドール(氷の人形ほど冷静沈着)といわれた彼女からは想像もつかないくらいチャーミングでしたね。

錦織圭選手もフロリダ州のブラデントンというIMGアカデミーがあるところを練習拠点としています。ところでプロテニスプレーヤーは、フロリダ州を拠点にしている選手が多いですが、税金上のメリットがあるのでしょうか。

実は、米国にいるプロテニスプレーヤーにとって、米国内の住所地はほとんど税金には関係ありません

米国の所得税は、概ね連邦税、州税、市税に分けられるのですが、州税や市税はすべての州にあるわけではありません。大坂選手が拠点としているフロリダ州は州税(所得税)も市税もありません。そもそも米国では、原則的に賞金を稼いだ州で州税を納めることになっているのです。

税金の安いフロリダに住んでも、全米各地や世界を転戦するプロテニスプレーヤーにとっては、税金のメリットはありません。きっと一年中温暖な気候が一番のメリットなのでしょうね。

全米オープン開催地のニューヨークは高税率

となると、全米オープンの開催地であるニューヨークの税金はどうなっているのでしょう。

ニューヨークは、州税・市税もあるところで税金が高い都市で有名です。米国はスポーツ賞金にかかる源泉所得税も高く、連邦税は最大37%となっています。今回の全米の優勝賞金380万ドル(約4億2千万円)だと、約140万ドル(約1億5,000万円)が源泉所得税として控除される計算になります。

これは、日本ではスポーツの賞金は報酬として区分されるのに対し、米国では給与と報酬の区別がなく源泉所得税も累進税率構造になっているからです。ちなみに、日本開催の東レパンパシフィックオープンテニスでの優勝賞金13万5,125ドル(約1,486万円)の場合、日本における非居住者の源泉所得税は20.42%で約300万円になります。

また、ニューヨークの地方税の税率は、州税最大8.82%(他に市税もあり)となっています。もし、州税のないフロリダで全米オープンが開催されていたら、大坂選手は州税・市税の分33万ドル(約3,600万円)の手取りが増えることになりますね。伝統ある全米オープンがニューヨーク以外でやることはないと思いますが、以前は全米各地で行われた時代もあるようです。

ちなみに、税金上米国を居住者としている場合には、必要な経費等を控除して毎年4月に確定申告をします。連邦税の他に賞金を獲得した州、市ごとに申告することになり、電子申告が普及する前は申告書だけで10cm以上の“書類の山”にもなりました。サインするだけで選手が腱鞘炎になりそうだという時代も過去にあったのです。

外国と比べて日本の税率は「少し高め」

米国での連邦所得税は最高で37%に対し、日本の所得税は最高45%になります。地方税は、米国は各州および市で異なるのに対し、日本は一律10%になっています。

イギリス・フランスなどの欧米諸国の税率も、地方税を合わせて最高45~55%位になっています。税率だけで単純比較はできませんが、平均的な税率だけだと日本が少し高めになっていますね。

ただし、実際には税率だけでは比較できない要素が多くありますし、必要経費などの控除項目も国によって違いがあります。世界中を転戦し、年間億単位を稼ぐプロテニスプレーヤーにとっても、移動経費だけでも数千万円になるケースもあり、他にコーチ費用、ヒッティングパートナー費用、トレーナー費用など経費のかかる大変なスポーツですね。

日本とは全然違う「アメリカ・ファーストな税制」

大坂選手は、ハイチ系米国人と日本人のハーフで、現在米国と日本の二重国籍状態になっていると言われています。プロテニスプレーヤーとしては日本籍としてプレーしていますが、税金上は、練習拠点から考えて米国居住者として税金を申告していると思われます。では、国籍と税金の関係はどうなっているのでしょう。

国籍と税金の関係は、実は国家の成り立ちに関係していると思われるのです。

日本の国籍は、日本人(父または母)から生まれた人は日本の国籍を付与する(国籍法第2条)という考え方(血統主義)を採用していますが、税金面では、国籍ではなく住所概念を用いて居住者を判断しているので、日本人であるからといって海外にいても日本の納税義務が必ずしも発生するわけではありません

これに対し、米国の国籍は、米国で生まれたら国籍を付与するという考え方(出生地主義)を採っており、税金面では、米国籍(市民権)の人は、世界中どこにいても米国で納税しなさいという考え方が原則になっています。

<日米で異なる国籍と所得税の考え方>

▼日本の場合
国籍:日本人から生まれた人は日本の国籍を付与するという考え方(血統主義)
税制:日本に居住していない場合は所得税の納税義務が発生しない

▼米国の場合
国籍:米国で生まれたら国籍を付与するという考え方(出生地主義)
税制:米国に居住していなくても、原則として米国に所得税を納税するという考え方

もちろん、租税条約などの規定はありますが、原則的には米国人はどこにいても税金を米国に納め、「アメリカ・ファースト」としてアイデンティティを確立することを国家が要求しているのかもしれません。ほぼ単一民族の日本に対し、多く移民が存在する多民族国家の米国では、様々な場面で「アメリカ・ファースト」を意識させているのでしょう。米国に税金を納めることは、世界中どこにいても助けに行く海兵隊のコストなどと言う人もいるくらいです。

大坂選手の場合、22歳までにどちらの国籍を選んでも、実は、拠点が米国である限り、税金面では米国が居住者になるので税金面では変わらないのです。もっとも、個人的には日本人プレーヤーとして日本国籍でプレーしてほしいと思うのは私だけではないと思いますが。

全米だけでなく、他の全豪、全仏、ウインブルドンも制覇してもらいたいものですね。きっとあの高速サービスで新たな夢を叶えてくれるでしょう!

【参考】
■米国IRS(米内国歳入庁)の源泉所得税の税額表
https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/n1036.pdf
■ニューヨークの税率(2017年)
https://www.tax.ny.gov/pit/file/tax_tables.htm

國井隆会計士の記事一覧

■2018年8月22日掲載:
〇億円超えは当たり前!? すごい収益力「夏の甲子園」の税事情に迫る
■2018年7月23日掲載:
FIFAの商業主義もハンパない? W杯試合で「レッドブル」飲み罰金

執筆:國井隆(公認会計士/税理士/行政書士/公認システム監査人/FP)

税理士法人オフィス921代表社員/一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構理事
1965年生まれ、東京都出身。筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻前期博士課程修了。1988年に早稲田大学卒業後、旅行会社勤務を経て、1991年に公認会計士2次試験合格。同年に青山監査法人/プライスウォーターハウス入所。1996年に公認会計士・税理士國井事務所設立及び株式会社オフィス921設立。
スポーツ関係では、公財)日本オリンピック委員会加盟団体審査委員会調査チームメンバー(平成24年)、 公財)日本スポーツ仲裁機構「スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議」委員(平成26年~平成27年)、新国立競技場整備計画経緯検証委員会(第三者委員会)委員、国会内の超党派のスポーツ議員連盟「スポーツ・インテグリティPT」アドバイザリーボードメンバー、スポーツ庁「スポーツ審議会スポーツ・インテグリティ部会」専門委員などを歴任し、統括競技団体、クラブ、球団、マネジメント会社に対する会計・税務コンサルティングのみならずメジャーリーガー、ブンデスリーガ、国内プロスポーツ選手などはじめ数多くののプロスポーツ選手の税務・ファイナンシャルプランニングを担当している。



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