• 作成日 : 2018年6月1日

役員報酬ランキング1位の外国人に「破格退職金」 日本で高額退職金が少ないワケ

東京商工リサーチが5月29日、上場企業の役員報酬額のランキングを発表しました。最高額は、ソフトバンクグループのニケシュ・アローラ元副社長で、103億4,600万円。巨額報酬もさることながら、約103億円のうち約88億円が「退任費用」として計上されている点が気になります。アローラ氏のように、役員に多額の退職金が支払われることは一般的なのでしょうか。

上位は外国人が独占 日本人最高は?


2017年の上場企業決算で1億円以上の役員報酬を開示した企業は335社、人数は627人と、どちらも過去最多を記録しました。
ランキング1位のアローラ氏は、前年の役員報酬で64億7,800万円を記録。歴代最高額をたたき出し話題になりましたが、今回は前年を1.6倍上回り、また記録を塗り替えることになりました。
トップ10のランキングは次のとおりです。上位5位までは外国人が独占し、日本人最高額は、6位のセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文元会長で、11億3,200万円(前年2億8,200万円)でした。
9位にはソニーの平井一夫会長が9億1,400万円(前年7億9,400万円)でランクイン。毎年、報酬額が話題になる日産自動車のカルロス・ゴーン会長は、10億9,800万円(前年10億7,100万円)で7位でした。
【1位】ソフトバンクグループ/ニケシュ・アローラ元副社長
103億4,600万円(前年64億7,800万円)
【2位】ソフトバンクグループ/ロナルド・フィッシャー副会長
24億2,700万円(前年20億9,600万円)
【3位】セブン&アイ・ホールディングス/ジョセフ・マイケル・デピント取締役
18億9,500万円(前年21億8,700万円)
【4位】ブリヂストン/エデュアルド・ミナルディ元副社長
12億2,400万円(前年7億5,000万円)
【5位】ソニー/マイケル・リントン元執行役
11億4,000万円(前年開示なし)
【6位】セブン&アイ・ホールディングス/鈴木敏文元会長
11億3,200万円(前年2億8,200万円)
【7位】日産自動車/カルロス・ゴーン会長
10億9,800万円(前年10億7,100万円)
【8位】武田薬品工業/クリストフ・ウェバー社長
10億4,800万円(前年9億500万円)
【9位】ソニー/平井一夫会長
9億1,400万円(前年7億9,400万円)
【10位】ケーズホールディングス/加藤修一相談役
8億9,400万円(前年開示なし)

「破格退職金」が日本で一般的ではない理由


1位のアローラ氏の報酬内訳は、基本報酬が3億300万円、株式報酬が11億9,600万円、退任費用が88億4,700万円となっています。同氏は孫正義社長の後継者含みで2014年に入社、2015年に代表取締役に就任しましたが、2016年6月の株主総会で取締役を退任しています。
約2年の任期に対する“退職金”として約88億円が支払われたことは、当時、多数メディアや株主らからも妥当性を問う声が多数上がりました。
アローラ氏のように、役員に多額の退職金が支払われることは一般的なのでしょうか。税理士の深堀宗敏さんに聞きました。
――アローラ氏のように、役員に多額の退職金が支払うことは、大企業では一般的なことでしょうか?
深堀税理士:日本企業では外国人幹部の登用が増えています。優秀な人材をヘッドハンティングするためにも、世界水準の高額な報酬を用意する企業もあるでしょう。
それでも、アローラ氏ほどの高額な役員退職金は、あまり聞いたことがないです。
多くの大企業では、退職金は「退職金規定」にもとづいて支給されます。退職金規定では、退任時報酬月額・在任年数・役職の係数を考慮して計算されます。また、役員の退職金に関しては、株主総会での決議を必要としている会社が多いです。
ただ、過大な退職金を支払ったとみなされた場合には、支払った退職金について税務上、会社の費用として認められない場合があります。なので、ステークホルダーへの説明責任が出てくるため、退職金を多額に支払うことについては二の足を踏む会社が多いです。
――アローラ氏の役員報酬内訳の特徴は?
深堀税理士:アメリカでは一般的な「株式報酬制度」を採用していることが分かります。先日も、起業家のシバタナオキさんが、ヤフーや楽天など日本企業の株式報酬導入事例を記事(ついに日本でも「株式報酬」が一般化するのか!? ヤフーや楽天が既に導入)にまとめて話題になるなど、注目を集めている報酬制度です。
よく知られているのが「ストックオプション」「譲渡期限付き株式」です。株価は業績などによって上下します。これにより役員の業績拡大へのモチベーションを高めることができるため、日本でも導入する企業が増えています。

固定か業績連動か…経営幹部のモチベーションも変わる


――一般的な役員報酬の種類は?
深堀税理士:交付物の種類は「金銭」「株式」「ストックオプション」の3つが一般的です。
役員報酬の支給方法は、(1)固定報酬か業績連動報酬か(2)報酬の形態を何にするかで分類することができます。
2015年に、上場企業が守るべき企業統治の方針をまとめた「コーポレートガバナンス・コード」が制定されて以降、中長期的な目線で経営を行う企業が増えました。この社会の流れに合わせて、従業員の評価体系や報酬体系も見直す企業が増えてきています。
(1)固定報酬と業績連動報酬のメリットデメリット
固定報酬か業績連動報酬かで、経営幹部の経営スタイルは次のように変わります。

固定報酬:
業績が報酬の増減に影響しないため、経営層が「堅実経営」の姿勢をとる傾向がある。業績が下がった際に報酬を減らす場合は、手続きが煩雑になる
業績連動報酬:
リスクをとった「攻めの経営」、投資家目線の経営姿勢になる。ただ、リスクをとりすぎる可能性も

(2)各報酬形態のメリットデメリット
交付される報酬の種類は、次の3種類が多いです。何を選ぶか、どうバランスを取り配分するかによって、経営幹部による経営へのコミットメントレベルに影響をもたらす可能性があります。

金銭:
最も一般的。ただし、交付後、役員の業績拡大のモチベーションにつながりづらい
株式:
中長期的な業績と連動した付与設計をしやすい。そのため、株価向上によるインセンティブ報酬を期待できる。一方、景気などの外的な影響を受けるため、株価が上下することも
ストックオプション:
株式同様のインセンティブ報酬を期待できる。一方、デメリットは株式の点に加え、株主としての地位がないため配当等の権利がなく、条件次第では行使することなく消滅することもある。また、行使条件が厳しいとインセンティブにならない、または、行使するために短期的な利益を求めるなどの恐れがある

企業は上記の分類を組み合わせて、役員報酬を支払うことが多いです。金銭で固定額を支給し、そのうちいくらかを業績連動型報酬を金銭で支払う。または、株式やストックオプションを固定または業績連動で報酬として支払うなど、内訳は企業の設計次第で決まります。
なお、役員報酬については、損金算入についての制限が多いので、税務リスクについてもあわせて検討することをおすすめします。


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