あの節税テクは嘘だった? 人気漫画家が「法人化の都市伝説」の真相に迫った

レシートさえあれば、なんでも経費で落とせる――「法人化」には、そのような嘘か本当か分からない都市伝説が広く流布しています。

『戦国コミケ』などの作品で知られる人気漫画家の横山了一さんも、その噂の真相に悩めるおひとり。16年超の個人事業主時代を経て、今年4月に晴れて法人化を果たした横山さんは、まさにこれから会社経営を担っていく立場。これまでに聞いたことがある「法人化にまつわる噂」の真偽を確かめたいと言います。

さらに会社設立後に直面している悩み、個人事業主から法人化するメリットなど、横山さんの疑問を、中小企業の会計税務などをサポートする高橋和也税理士に解説してもらいました。

実は、ほとんどコンサルタントに任せきりです(汗)

横山 了一(よこやま りょういち)
漫画家
1978年、北海道釧路市生まれ。『戦国コミケ』『きょうの横山家』など連載中。他の著作に『息子の俺への態度が基本的にヒドイので漫画にしてみました』『北のダンナと西のヨメ』『飯田橋のふたばちゃん』(原作)など。NHK、ワーナー・ブラザース、Y!モバイルなどの企業広告の仕事も手掛けている。妻は漫画家の加藤マユミ

 

横山了一さん(以下、横山):漫画家の横山了一です。今日はよろしくお願いします。

高橋和也さん(以下、高橋):税理士の高橋和也です。「法人成り(個人事業主から法人を設立すること)」ということで、まずはおめでとうございます。どのような流れで法人化されたのですか?

横山:検討し始めたのは昨年ですね。SNSなどのネットを通じた仕事が順調だったこともあり、僕と同じく個人事業主の漫画家だった妻と「そろそろ法人化を考えようか」という話になりまして。思い切ってコンサルタントに相談してみると、「すぐにでも法人化したほうがいい」とすすめられたのです。

それからは、ほとんどコンサルタントと妻に任せきりで、白状すると「法人化」が何たるやをあまり理解できていません(汗)。だから今日は法人化の知識を深め、ちょっと気になっている法人化にまつわる噂も確かめたいと思います!

都市伝説その①「家族経営の場合、会社のお金は自由に使える⁉」

高橋 和也(たかはし かずや)
税理士/高橋和也税理士事務所
1974年、兵庫県加古川市生まれ。大阪市立大学法学部を卒業後、大手機械メーカーに入社し、営業に従事。2009年に会計業界転身。都内税理士事務所に勤務後、2017年に税理士登録。マネーフォワード クラウドを活用し、個人事業主や中小企業の事業活動の資金調達から会計税務まで、幅広くサポートしている。一般社団法人の設立支援や公益法人会計にも精通。共著に『一般法人・公益法人の理事・監事・評議員になったらまず読む本』(忘羊社)

 

横山:法人化してからまだ1カ月程度しか経っていないのですが、戸惑うことが多いです。この前も、会社用の口座から私用のお金を引き出そうとして、コンサルタントの方から「絶対にNG」と注意されたばかりです。僕と妻だけの会社でも、会社のお金を自由に使えないのはなぜですか?

高橋:これまで個人事業主だった方は間違いやすい点かもしれません。法人化することの利点として「社会的信用が高くなる」ことが挙げられますが、そのためには会社としてしっかりと財務管理をしている姿勢を保たなくてはいけないのです。

ですから、たとえご自身が100%株主の社長である場合でも、会社のお金はあくまでも会社のもの。社長と会社は別の人格と考える必要があります。社会的に見れば、社用口座からの引き落としは社長への貸付にあたり、資金調達の際などに信用を損ねてしまう場合があるのです。

ですから、会社のお金を私的に使いたい場合は会社から社長である横山さんに「給与」として支払う必要があります。家族経営であっても、会社は会社。しっかりと私的なお金と分けて管理してくださいね。

都市伝説その②「レシートさえあればなんでも経費に⁉」

横山:今日、一番教えてほしかったことなのですが、経費にできるかどうか悩んでいるものがあります。僕は自分の子供たちの日常を育児漫画として描いています。その場合、子供が鑑賞するDVDを購入した費用は経費になりますか?

高橋:うーん、これは難しいですね(笑)。

横山:ホテルや温泉旅館はどうでしょうか? 旅先でのエピソードはもちろん漫画に描きます。

高橋:それも難しいですね。確かに横山さんの場合、業務に関係しているかもしれませんが、仮に今の仕事をしていなくても掛かっていた費用は生活費に分類されるでしょう。

横山:そうなのですね……。法人化すれば「全部のレシートが経費で落ちる!」という噂を聞いたことがあったのですが、あれも都市伝説なのですね。

高橋:それは都市伝説です。しっかりと業務に必要であると説明できるものは、基本的には経費として通すことができますが、税務調査は結構厳しいのですよ。例えば、飲食店のレシート。お子様ランチの項目があれば「これは、家族で行った食事でしょう?」と言われてしまったりするのです。

横山:そんな細かなところまで見られているのですね! 正直に生きよう。

高橋:ちなみに、領収書や請求書などの必要書類の保管はどうされていますか?

横山:こう、A4の透明ファイルにざざっと。

高橋:どうぞ無くさないようにしてくださいね(笑)。法人化した場合は、基本的に、必要書類は9年間、紙の状態で保管することをおすすめしています。これは、法人の場合、赤字が9年間繰り越せるためです(個人事業主は青色申告の場合で3年)。

横山:9年間も引き継げるのですね。領収書などは証拠として、経理処理が終わった後も無くさないように注意します。

法人化するとこう変わる①
・赤字が9年間繰り越せる(個人事業主の場合は青色申告の場合で3年)

 

都市伝説その③:「社長には失業手当がでない⁉」

横山:せっかく会社を設立したのに、会社が倒産しても社長は失業手当がもらえないと聞いたのですが、そんな理不尽なことがあるのですか?

高橋:これは本当です。

横山:都市伝説じゃなかった……。

高橋:会社に何かあったら、一身に責任を負うというのが社長という立場ですからね。取締役は「労働者」ではないため、社長や取締役、監査役は、原則として雇用保険の被保険者にはならないのです。

横山:淡い期待をしていただけに地味にショックです。

高橋:すでに手続きをされたと思いますが、個人事業主から法人になると社会保険の種類も次のように変わります。
 

●個人事業主の場合
国民年金と国民健康保険に加入
●法人の場合と、個人事業主で従業員を5名以上雇用している等の場合
健康保険、厚生年金、介護保険(40歳以上)などの社会保険に加入する義務

 

高橋:ちなみに、これら社会保険料は経費にすることができます。しかし、個人事業主であっても会社であっても、社会保険料は会社と個人が費用を折半する決まりがあるので、毎月それなりの負担がかかると思った方がよいでしょう。

横山:法人化って思っていたより、夢がないような気もしてきました。

高橋:落ち込むのはまだ早いですよ。法人化には、もちろんたくさんのメリットもあるのです。次からは少しいい話をしましょう。

法人化するとこう変わる②
・社会保険への加入が義務化(社会保険料は経費にすることが可能)
・取締役などになった場合、労働保険の被保険者から外れる

 

財務面でメリットの多い「法人化」

高橋:面倒で難しいと思われるかもしれませんが、それでも横山さんが「法人化」に踏み切ったのには理由があるからですよね?

横山:大きな声で言っていいのか分かりませんが、やはり節税が期待できると聞いたので。

高橋:個人事業主から法人化を検討する一番の理由は、やはり税制面だと思います。個人事業主と法人では払わなくてはいけない税金と税率が次のように違います。
 

●個人事業主の場合:所得税、住民税
所得税の税率       :5%~45%
●法人の場合   :法人税、地方税(個人の給与部分に関しては、所得税、住民税)
法人税の税率     :15%、もしくは23.4%

 

高橋:所得税には累進課税制度が適応され、所得に応じて5%~45%の税率が適用されるのに対し、法人税の場合は、所得に応じ15%もしくは、23.4%です。ある程度の所得からは、法人化を考え始める方が多いのはこのためです。ただし、法人税には「均等割」という制度があり、例え会社が赤字であっても年に7万円(東京都の場合)を納める必要があるので、この点はご留意ください。

横山:そういえば、僕の会社は、僕が社長で妻が取締役という立場なのですが、僕たちの給与も経費として申請できると聞きました。

高橋:その通りです。経費として認められる範囲が広くなるのも法人化の利点と言えます。法人化することで新たに経費として認められるものには、例えば次のようなものがあります。
 

法人化すると経費にできるもの(一部)
・自分への給与や退職金(働きに見合った妥当な金額に限り)
・経営者の生命保険料(個人事業主の場合は所得控除)
・社長の社宅家賃の5割~9割(例外あり)

 

全体的に、経費の規制が緩和されるとイメージしてもらえると分かりやすいかもしれませんね。ただし、社長(場合によっては家族社員)の給与を法人税の経費にするには、「毎月同じ金額の給与を支払う」ことや「賞与を事前に税務署に届ける」などの細かいルールがあります。これは、決算前に会社の口座から「賞与」名目で、社長個人の口座にお金を流し、会社の所得を低く見せるような行為に対する脱税対策の1つです。従業員の給与に対してそのような決まりはありません。

横山:このほかにも、法人化により節税が期待できるポイントはありますか?

高橋:法人化すると、個人事業主のときに消費税の納税義務があった場合でも、法人化した最初の2事業年度は一般的に消費税が免税になります。

横山:最初の2年は消費税を納めなくていいということですか?

高橋:ええ、これは経営者にとっては大きなメリットで、現在消費税は8%ですが、2019年に計画されている消費税10%への改定を待って法人化を考えている方もいらっしゃるのですよ。

法人化するとこう変わる③
・支払うべき税金と税率が変わる
・社長の給与など、経費として認められる範囲が広くなる
・法人化して2年間は消費税の支払いが免除される

 

「損益分岐点」を見極めて自分に合った選択を

高橋:「法人化」に関して、少しでもご理解いただけましたか?

横山:はい、とても勉強になりました。ちなみに、高橋さんは個人事業主に法人化をおすすめされますか?

高橋:場合によりますね。事業内容や、規模、所得によってどちらがいいとは一概に言い切れないので。節税対策だけを考えれば、毎年の課税所得が安定的に900万円~1000万円を超える場合には、法人化したほうが低い税率が適用されて納税額が減る可能性が高くなります。

しかし、会社設立の際は登記にお金(約6~25万円)が掛かったり、個人事業主の場合は確定申告でよかったものが決算を行う必要が出たりなど、経理の手間も増えるので、ご自身の「損益分岐点」はどこにあるのかをしっかりと考えた上で、法人化を検討されることをおすすめします。

横山:なるほど、よく分かりました。これからは「法人」という立場もあるので、都市伝説に迷わされることなく、より気を引き締めていかないといけませんね。迷ったときは専門家に相談が一番です!

法人化するとこう変わる④
・設立には、登記が必要(個人事業主の場合は開業届のみ)
・確定申告よりも複雑な、法人決算書の記入と申告を行うことが必要

 

まとめ

法人化には大きなメリットがある一方、社会保険への強制加入や手続きの煩雑化など、経費や手間が増えるということが分かりました。現在、法人化をご検討されている皆さんも、嘘か本当か分からない都市伝説に惑わされることなく、よりよい選択ができることを願っています。
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BIZ KARTE編集部

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