• 更新日 : 2023年8月18日

与信管理とは?調査方法やポイントをわかりやすく

与信管理とは?調査方法やポイントをわかりやすく

一般企業の与信取引として代表的なのが、売掛金などによる掛取引です。与信取引のある企業では、与信管理をすることが、自社を連鎖破産から守る防衛策になります。今回は、与信管理の重要性やプロセス、押さえておきたいポイント、与信調査の方法などを解説していきます。

与信とは

与信とは、取引相手に対して信用を与えることをいいます。企業間取引などで生じる売掛金や金融機関の融資、クレジットカードの発行などは、与信があるからこそ成り立つ取引です。

与信管理とは

与信があるからこそ成り立つ取引もあると説明しましたが、一方で、与信が崩れてしまうリスク(信用リスク)も存在します。

与信管理は、取引先の与信を定期的に確認することで、必要に応じて取引額をコントロールしたり、取引をストップしたりして、取引におけるリスクを軽減する取り組みをいいます。

与信管理の重要性

与信管理は、自社の経営を成り立たせるためにも重要です。企業の場合、事業活動を円滑にするために、さまざまな企業と関わりを持ち、取引をすることも多いかと思います。

取引先の中にはさまざまな企業があり、中には経営がうまくいっていないところもあるでしょう。経営状況の悪化で売掛金などの入金が滞ったり、あるいは回収が難しくなったりすることもあります。中には倒産してしまう取引先もあるでしょう。

与信管理をしていれば、このような信用リスクの高い取引先をいち早く洗い出すことができ、自社の損失を最小限に抑えることができます。

一方、与信管理をせずに信用リスクの高い企業と取引を続けた場合、債権を回収できなくなることもあります。債権の回収が遅れたり、回収できなくなったりすれば、資金繰りにも影響が出るでしょう。

資金繰りが悪化すれば、仕入先に対する支払いや金融機関への融資の返済などが遅れたりする可能性もあります。対外的な信用を失ってしまうこともあるでしょう。状況が悪いと連鎖倒産にまで陥ってしまうリスクもあります。

与信管理のプロセス

信用リスクを抑えて取引をするためにも与信管理は重要だと説明しました。それでは、どのような流れで与信管理をするとよいのでしょうか。与信管理のプロセスを紹介します。

与信に必要な情報を集める(与信調査)

与信管理は、判断できる材料がないと適切に行えません。与信管理を徹底するためには、取引先についての情報をさまざまな角度から集める必要があります。与信調査とは、与信のための情報収集のことです。与信調査の方法については後述します。

与信のための分析を行う

与信に必要な情報を集めただけでは、取引先がどの程度のリスクを抱えているか適切に判断できません。集めた情報をもとに与信のための分析を行う必要があります。代表的な分析の方法が、定量分析定性分析商流分析です。

定量分析は、数字を使って分析する方法です。与信管理の対象である取引先の貸借対照表損益計算書に記載されている数値から、取引先の経営状況などを分析します。非上場会社などで決算書が公開されていない場合は、調査会社などを利用することもあります。

定性分析は、数字ではわからないさまざまな要素を分析して取引先の価値を計る方法です。定性分析では、技術力や経営者の手腕などを分析します。

商流分析は、取引先に関連する取引の流れを分析する方法です。例えば、取引先の信用リスクが低かった場合でも、取引先に関連する企業を起点に経営が悪化する可能性もあります。取引先の仕入れルートや顧客、決済条件など、取引全体の流れを把握することも与信管理では重要なプロセスです。

信用力を評価する

取引先の分析を終えたら、分析結果をもとに信用力を評価していきます。信用力はさまざまな要素をもとに判断していくことになるため、判断が難しい部分になるでしょう。

できるだけ客観的に判断できるようにするためにも、支払能力ごとにランクを設ける会社格付け基準を作成し、基準に従って評価を行います。

与信限度額を決める

取引先ごとの評価をもとに、どのくらいを限度に取引を行うか与信限度額を定めていきます。与信限度額の設定は、取引において会社が過度にリスクを負わないために必要です。

与信限度額を決めたら、取引先と契約条件について交渉を進めていきます。例えば、信用力の評価において取引先に担保を提供してもらった方がよいと判断したときは、取引先に担保の差し出しを提案して、承諾を得る必要があるでしょう。

与信のための情報収集から取引先との条件交渉手続きまでを与信承認プロセスともいいます。

定期的に見直しをする

与信限度額設定後も取引先の状況は変化する可能性があります。定期的に見直しを行うことが重要です。ここからは、与信承認プロセス後の、与信事後管理の流れを簡単に説明します。

まず与信事後管理では、期日までに入金が行われているか、与信限度内で取引が行われているか、確認を行います。支払いに問題がある場合は、取引先に問題が生じている可能性がありますので注意が必要です。

債権や限度額の確認で問題が生じている場合は、取引先の情報を集めて経営状況を確認し、早急に与信限度の見直しを行います。

すでに問題が起きている取引先については、今後の対応について検討する必要もあります。問題のある取引先については倒産のリスクもありますので、情報収集を徹底して、変化する状況に応じて対応を変えていくことも重要です。

特に問題が生じていない取引先であっても、業界の動向や取引先の状況は常に変化していますので、1年に1度など見直しを行うスパンを設定して、定期的に情報を集めて与信限度額の見直しを行うようにしましょう。

与信調査の方法

与信管理をするためには、与信調査によって必要な情報を集める必要があると紹介しました。与信調査の方法には、内部調査外部調査依頼調査直接調査、の4つの方法があります。

内部調査

内部調査は、自社内で完結する調査です。自社の営業部門や経理部門などで取得できる過去の資料や取引履歴、当時の担当者が在籍していれば担当者からのヒアリングで社内に蓄積された情報を収集します。

外部調査

取引先以外から情報を集める調査です。例えば、登記簿など官公庁が公開している情報があります。官公庁からの情報では、会社所有の不動産や抵当権設定の有無、過去の滞納などの履歴を把握できます。

インターネット検索からの調査も有効です。取引先企業のホームページから得られる資本金や役員の情報、求人情報のほか、データベースから得られる情報もあります。

無料で得られる情報からは口コミなどの情報も得られるでしょう。有効な情報を取得できる可能性もありますが、非公式なものには正しくない情報が混ざっていることもあります。情報の精査も必要です。

依頼調査

依頼調査は、調査会社に与信調査を依頼する方法です。ノウハウがある専門の調査会社に依頼することから、自社だけでは調べられないような情報を得られる可能性があります。

直接調査

直接調査は、ダイレクトに取引先で調査を実施する方法です。直接訪問して調査する方法や電話やメールで調査する方法、取引先の担当者と直接話をして調査する方法などがあります。

直接調査ではほかでは得られないような取引先内部の情報を集めやすいですが、取引先によっては直接調査を避ける企業もあります。直接調査を進める際は事前の調整やコミュニケーションが重要です。

なお、直接調査で得た情報は信ぴょう性に欠ける情報が混じっている可能性もあります。裏付けのために、取引先と関係のある企業などに確認することでより精度の高い情報を取得できます。

与信管理のポイント

与信管理で失敗しないための3つのポイントを取り上げます。

複数から情報を集める

取引先に関する情報はいくつも組み合わせることで、より精度の高い与信管理につながります。できるだけ複数の情報源からできるだけ多くの情報を取得できるように意識して情報を集めるとよいです。

特に、定性分析で分析するような、数値には現れない情報は取得しにくい部分もあります。必要な情報をより多く収集できるようにするためにも、あらかじめ取引先のチェックリストのようなものを作成しておき、取引先と関わりのある担当者に渡してチェックしてもらうような仕組みを作っておくと情報収集がしやすいです。

合理的に与信限度額を決める

与信管理では信用力をもとに取引先ごとに与信限度額を決めていくことになりますが、限度額が信用力に対して大きすぎるのも小さすぎるのも問題です。限度額が大きすぎると与信管理の意味が薄れてしまいますし、慎重になりすぎるあまり低すぎると取引に影響が出てしまうおそれがあります。必要で安全な範囲内に収めるのが理想です。

与信限度額を決める方法にはいくつかありますが、代表的な方法として純資産を基準にする方法売上債権を基準にする方法仕入債務を基準にする方法などがあります。

純資産を基準にする方法は、自社の純資産の一定範囲でリスク許容度を定め、取引先のランクに応じて与信限度額を決める方法です。売上債権を基準にする方法では未回収でも許容できる範囲内で、仕入債務を基準にする方法では取引先から見た自社の債権割合が一定を超えない範囲で与信限度額を設定します。

このように、純資産や売上債権の額からリスク許容度を検討することで合理的な限度額を設定しやすくなります。与信管理に失敗しないためにも、あいまいな基準で与信限度額を決めず、合理的な値を用いて限度額を設定するようにしましょう。

必要に応じて外部サービスを利用する

与信管理を丁寧に行おうとすると、時間もかかるうえにコストもかかります。規模の大きい会社であれば与信管理専門部署などを作ることもできるかもしれませんが、会社によっては与信管理にあまりリソースを割けないケースもあるでしょう。

また、取引先に中小企業が多い場合、公開されている情報が少ないなどの理由で十分に情報を集められない可能性もあります。

情報取得のしにくさや社内における与信管理業務の大変さなどを考えたら、外部に調査のみ依頼したり、あるいは与信管理を丸ごと依頼したり、外部サービスの利用を検討してもよいかもしれません。社内で無理に与信管理をしようとするよりも、質の高い与信管理で取引先の信用リスクに備えられます。

リスクに備えるには与信管理は重要

商習慣として掛け売りなどの与信取引が行われることも多いですが、与信取引は、取引先の経営破綻などで回収が遅れたり、回収ができなくなったりするリスクも抱えています。企業間取引でリスクに備えるためには、与信管理により取引先のリスクを適切に把握し、取引額などをコントロールできるようにしておくことが重要です。与信管理を適切に実施することで、リスクを抑えて取引ができるようになります。


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