自然災害発生!その時、労務管理上使用者が守るべきこと

自然災害と休業

近年、地震や局地的な豪雨といった自然災害が各地で発生しています。大規模な自然災害発生時には、被災地および被災地に関連する企業の企業活動や労務管理上も大きな影響が考えられます。
大規模自然災害発生時の労務管理としてまず考えなければならないのは、休業に関する問題です。事業の休止などを余儀なくされた場合に労働者を休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力すること、休業を余儀なくされた場合の支援策も活用し、労働者の保護を図ることが大切です。
自然災害が原因で休業する場合、不可抗力によるものであり、会社の休業手当(労働基準法26条)の支払い義務は原則としてありません。ただしこれには、

(1)その休業の原因が事業の外部から発生したものであること
(2)事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお防げなかったものであること

という要件を満たしている必要があります。例えば大口の取引先が災害により操業停止したことで連鎖的に休業とした場合などは、取引先が偏っていたことについて経営上の責任があるとみなされ、休業手当の支払い義務が発生することがあります。
また、事前に就業規則等で「不可抗力による休業の場合でも休業手当等を支払うこと」としている場合には、支払いを止めるのは労働条件の不利益変更に該当します。労働者との合意など適法な変更手続を取る必要があります。

自然災害と賃金支払い

自然災害発生による休業時、同時に考える必要があるのは、賃金支払いの問題です。
自然災害が起こったからといって事業主の賃金支払い義務が当然に免除されるわけではありません。労働基準法には、天災事変などの理由による賃金支払義務の免除に関する規定はなく、事業場の倒壊、資金繰り悪化、金融機関の機能停止などがあったとしても、賃金支払いが免除されるわけではありません(労働基準法24条:賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならない、という原則が適用されます)。仮に事業所が休業に至っても、休業前に働いた分については、当然に支払う必要があります。また、労働者が出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求したときには、使用者は、賃金支払い期日前であっても既に行われた労働に対する賃金は払わなければならず、この規定も自然災害発生時にも当然に適用されます。
なお、事業活動が停止し、再開の見込みがないなど一定の要件を満たす場合には、国が事業主に代わって未払賃金を立替払する「未払賃金立替払制度」を利用することができます。詳しくは、最寄りの労働基準監督署にご相談ください。

自然災害と雇用管理

自然災害発生時の労務管理においては、時間外・休日労働、解雇、派遣労働者の取り扱いについても把握しておく必要があります。

1.時間外・休日労働

自然災害のためやむなく臨時に時間外・休日労働を行う場合、使用者は、原則の36協定によらず労働基準監督署長の許可(事態急迫の場合は事後も可)により必要な限度の範囲内で、労働者に時間外・休日労働をさせることができます。ただし、自然災害後の復旧のために36協定を超えた労働を要する見込みの場合は、36協定締結および所轄労働基準監督署への届出が必要となる(既に有効な36協定を届け出ている場合は不要)ことに注意が必要です。

2.解雇

自然災害が起こった場合でも、解雇は容易には認められません。労働基準法19条1項但書には「天変地異その他やむを得ない事情での事業継続不可能による解雇」として、労働基準監督署の認定を受けて解雇できる定めはあります。しかし、これは実際には相当に高いハードルです。不可抗力、突発的、事業主として雇用継続の努力をし尽してもなおやむを得ないものであり、事業の全部又は大半の継続が不可能、といった場合に限られます。そのため基本的には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」という労働契約法の規定が適用されます。この場合、「整理解雇の4要件」(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履践、被解雇者選定基準の合理性、解雇手続の妥当性)等を考慮し、判断されます。さらに、有期契約労働者の場合、契約期間中の解雇については無期契約労働者よりも、むしろ厳しい要件が課される点にも注意が必要です。

3.派遣労働者の取り扱い

有期労働契約の解雇については、労働契約法において、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定されており、この「やむを得ない事由」の判断は、派遣先ではなく、派遣元に対してなされます。派遣先が自然災害で被災し休業したからといって派遣労働者を即時解雇することはできない、ということです。

自然災害と雇用保険の助成

自然災害発生時には国からの助成が受けられる場合があります。雇用保険からの助成としては、使用者向けの「雇用調整助成金」と労働者向けの「基本手当の特例措置」があります。

雇用調整助成金は、「経済上の理由」により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、その雇用する労働者を対象に一時的に休業等を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に、事業主に対し、休業手当、賃金等の一部を助成するものです。

事故または災害により施設等が被害を受けたことは「経済上の理由」とはならず、雇用調整助成金の支給対象とはなりませんが、自然災害の長期化や復旧までに長時間を要する場合等には、交通手段の途絶等により原材料の入手、製品の出荷が困難であることや、事業所等が損壊し修理業者の手配や修理部品の調達が困難となったこと等を理由とし、事業活動の縮小が行われた場合は、「経済上の理由」に該当し雇用調整助成金の対象となる可能性があります。制度の詳細は、最寄りのハローワークにお問い合わせください。(参考)平成30年7月豪雨の災害に伴う「雇用調整助成金」の特例

基本手当の特例措置としては、失業給付等を受給している方が、ハローワークへの来所が難しい場合に失業認定日を変更してもらえるほか、災害によりその雇用される事業所が休業することとなったため、一時的な離職を余儀なくされた方で一定の要件を満たす場合には、雇用保険失業給付の基本手当を生活費の補填として支給してもらえるものです。

大規模自然災害発生時には、使用者・労働者ともに大変な状態になることが想定されますので、国の制度もうまく活用できるとよいでしょう。

いざ、という時に備えて

自然災害発生時でも労働者を守るための労務管理の法理は極めて厳格に適用されます。地震や局地的な豪雨、突風の被害など、全国各地であらゆる自然災害が起こる昨今、いざという時に労働者を守れるよう、使用者の方には緊急時の対応についても事前に検討いただければと思います。また、災害発生時には、厚生労働省から対応に関する詳細なQ&Aが出されますので、対応に困る場合には、そちらを参照ください。

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【監修】金田朋子(かねだ ともこ) 社会保険労務士

社労士事務所にて給与計算、各種社会保険事務、就業規則の作成・改定、行政機関調査対応等に関する社会保険・労務コンサルティング業務に従事後、現在はベンチャー企業内の社内社労士として勤務。
社労士事務所での外部コンサルタント、ベンチャー企業内での労務担当者としての経験を生かし、ベンチャー・中小企業に強い社労士として社会保険・労務コンサルティングを行っている。
Twitter : @tok0moco

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